2008年9月アーカイブ

1. 一眼レフって何だろう ?

第1 回目 一眼レフって何だろう ?

似顔絵 "高級タイプ"、あるいは "プロ用のカメラ" という印象が強い一眼レフレックスカメラですが、なぜそうなのか ? はあまり知られていません。
 この理由を、写真の歴史やカメラの仕組みを通して考えてみましょう。

 また、一眼レフを使ってピンホール写真を撮ってみると、現在の写真のシステムがいかに優秀であるかを実感できるはずです。

1. 写真の歴史

1.1. カメラオブスキュラ

 カメラの語源が、「カメラオブスキュラ」だということをご存じの方は多いと思います。カメラは「部屋」、オブスキュラは「暗い」で、つまり「暗い部屋」を意味するラテン語です。

 <写真 0.>に、カメラオブスキュラの原理を示しました。暗い部屋に小さな孔(あな)を通して光が差し込み、反対側の壁に外界の画像が写し出されるわけで、良く知られているピンホール(針孔)カメラの原理と同じです。

写真 0

<写真 0.>カメラオブスキュラの原理
(写真提供:日本カメラ博物館)

 1544年1月24日の日食をカメラオブスキュラで観察したようすを、オランダの数学者 R. ジェンマ・フリシウスが図示したもの。

 原理そのものは、アリストテレス(紀元前384〜322年)が語っていたといわれ、記録に残るものとして最も古いものは、レオナルド・ダ・ビンチ(1452〜1519年)によるものといわれています。

 ピンホールカメラに写る画像は大変暗いものです。しかし、ピンホールの代わりに光学レンズを装着すれば、大変明るい画像が得られるようになります。
 これが発明されたのが16世紀頃。画家がスケッチを描く道具として使っていたようです。この例を<写真 1.>、<写真 2.>に示しました。

写真 1

<写真 1.>光学レンズ付きのカメラオブスキュラ
(写真提供:日本カメラ博物館)

 イギリス製で1770年頃のもの。画面サイズは 6×6センチ ですから、ちょうど現在の 6×6 判カメラを想像すればよいでしょう。

 鏡を内蔵したレフレックスタイプですから、画像の天地を正しく観察できます(左右は逆=正立逆像)。

写真 2

<写真 2.>スケッチ用カメラオブスキュラの仕組み
(写真提供:日本カメラ博物館)

 <写真 1.>に示したようなカメラオブスキュラの仕組みと使い方です。よくよく見れば、現在の一眼レフとほとんど同じ仕組みであることが分かるでしょう。

 光学レンズを使っているため、ピント(=オランダ語の「焦点」 "brandpunt" からきた語で「点」(英語の "point")の意味。ラテン語からの英語 "focus" とも同じ意味)の調整が必要です。このため、本体とレンズの長さを調整できるようになっている点に注意してください。

 さて、レンズ付きのカメラオブスキュラを使えば大変明るい画像を得られます。つまり画像はピントグラス上に「在る」わけですから、これを自動的(機械的 / 物理化学的)に定着できさえすれば、まさに「写真」の発明となるわけですね。画家の手を煩わすことなく、そこに見えている世界をそのまま写すことができますから、これはとてつもない発明になるはずです。

1.2. ヘリオグラフィとダゲレオタイプ

 画像の定着に始めて成功したのは、フランスのジョセフ・ニセフォール・ニエプス(Joseph N. NIEPCE:1765〜1833年)で、1826年頃のこととされています。この技術は「ヘリオグラフィ("太陽の画" の意)」と名付けられますが、感度は大変低く(明るさが F17 のレンズで露出時間は約 8 時間!)、画像もあまり美しくなく、実用には未だ程遠いものでした。

 実用的なレベルでの画像の定着にはじめて成功したのは、ルイ・ジャック・マンデ・ダゲール(Louis Jacques M. DAGUERRE:1787〜1851年)です。これは「ダゲレオタイプ」と呼ばれ、1839年8月19日にフランス化学アカデミーで公開されました。これが、いわゆる銀板写真であり、<写真 3.>にその例を示しました。

 <写真 4.>は、ダゲレオタイプに使用されたカメラです。写真を見て判るよう、画像は十分に美しいものです。ヘリオグラフィに比べれば感度は大変高くなり、露光時間は30分程度に短縮されました。現代のフィルム感度表示で言えば、ISO 0.0002 (!?) といったところですが、その後、明るいレンズが使えるようになったこともあり、人物の撮影も可能になりました。

写真 3

<写真 3.>ダゲレオタイプの写真の例
(写真提供:日本カメラ博物館)

 1850年に ジャン・パチスト・ルイ・グロ男爵によって撮影された『アテネのパンテノン神殿のレリーフ像』です。
 ダゲレオタイプの欠点は、焼き増しができないこと、そして画像を観察する向きによっては非常に見えにくくなることです。

写真 4

<写真 4.>世界最初の市販カメラ
「ジルー」ダゲレオタイプカメラ
(写真提供:日本カメラ博物館)

 1839(天保10)年に、世界ではじめて市販されたカメラです。画面サイズは16.5×21.5センチ。

 側面に貼られた楕円形の品質保証シールには、ダゲールの自筆サインが記されています。
 日本カメラ博物館に実物があります。

 こうして写真が発明されると、不具合なところを改良した新しい技術が次々と開発されるようになり、結果として現代の多種多様な撮影レンズやカメラ、多機能・高性能な一眼レフ、高感度高画質なフィルムに至るわけです。
 しかしながら、光をレンズを通して集め、画像をフィルム上に定着するといった原理そのものは、発明当時から全く変わっていないのです。

2. やってみよう! & やってみました

2.1. ピントグラス(ファインダースクリーン)の映像を観察しよう

 一眼レフのファインダーは、原理的には<写真 2.>に示したカメラオブスキュラと同じですが、ファインダーの光学系(ペンタプリズム、ペンタミラー、ポロミラーなど)によって天地左右を正しく(=正立正像で)観察することが可能になっています。
 ただ、ファインダーを覗いて観察するために「画像がそこに写っている」といった感覚が少し失われます。

 ファインダーを交換できるタイプの一眼レフならば、アイレベルファインダーなどを取り外すだけで、ピントグラス(ニコンではファインダースクリーンと呼びます)に写っている像を直接観察でき、それだけで一つの手品を見ているような感じがします(このようにして観察するファインダーをウェストレベルファインダーといいます)。それは、輝くような映像であって、世界が何倍にも美しく見えます。
 ただし、この映像は、天地(上下)は正しいのですが、左右は逆(=正立逆像)です。ファインダースクリーン上で動く被写体を追いかけてみると、少し戸惑うはずです。

写真 5

<写真 5.>
アイレベルファインダー(ペンタプリズム)を取り外す

ファインダーを脱着できる一眼レフカメラと、できないカメラがあります。ニコンF、F2、F3、F4、F5 等では可能。(写真は Nikon F)

写真 6

<写真 6.>
ファインダースクリーンの映像を観察する

一眼レフの初期には、ピントグラス(ファインダースクリーン)を、このように直接に観察する機種もありました。中判の一眼レフには今でもこうしたタイプが多くあります。

2.2. フィルム面上の画像の観察をやってみました

 カメラの裏蓋を開けた状態で、シャッタースピードを B(バルブ)あるいは T(タイム)にできるカメラ(=シャッター羽根 / 幕を開放したままにできるカメラ)であれば、フィルム面上の画像を観察できます。
 この実験を、みなさんのかわりにやってみました。

警告!:この実験は、カメラの正しい使い方ではありません。
 この実験には、既に壊れたカメラあるいは壊してもかまわないカメラを使います。
 シャッター羽根 / シャッター幕(場所と形状がわからなければ使用説明書をお読みください)には、絶対に触ってはいけません。シャッターなどを壊すことがあります。

 まず、カメラボディを三脚などにしっかりと固定しました。
 次にシャッタースピードを B(バルブ)あるいは T(タイム)に設定してシャッターを開放にして、裏蓋を開けてみました。
 裏蓋を開けて、シャッター羽根 / 幕が開放した状態になっていることを確認できたら、フィルム面(アパーチャーともフィルムゲートともいいます)に半透明なシート(買い物袋の乳白色のポリエチレンやトレーシングペーパーなどのやわらかいものより縦 36 mm、横 4〜5センチ に裁断した乳白色のアクリル板などが好適です)を、注意して当ててみました。
 この際、レンズのピントリングや絞りを調整してみると、ピントや絞りの働きを直(じか)に理解できました(<写真 8.>、<写真 9.>)。
 単純に言えば、ここに写っている画像がそのままフィルム上に記録されるのです。

写真 7

<写真 7.>
レンズ越しに見た画像

ここに見えているのは「実像」です。ここに見えるレンズの大きさ(径)を、「射出ひとみ(径)」といいます。

写真 8

<写真 8.>
フィルム面上の画像

フィルム面に半透明なシートなどをおけば、投影された「実像」が見えました。天地左右は逆に写っていました(=倒立逆像)。

写真 9

<写真 9.>
フィルム面上の画像

レンズのフォーカスリング(距離リング)を回転すると、ピントが合ったり、ピンボケになったりしました。さらにレンズの絞りも調整してみました。

警告!:この実験は、カメラの正しい使い方ではありません。
 この実験には、既に壊れたカメラあるいは壊してもかまわないカメラを使います。
 シャッター羽根 / シャッター幕(場所と形状がわからなければ使用説明書をお読みください)には、絶対に触ってはいけません。シャッターなどを壊すことがあります。

2.3. 一眼レフでピンホール写真を撮る

 一眼レフ用の黒いボディキャップ(写真は、ボディキャップ BF-1A(別売))の中心に、直径 5 mm 程度の孔をまず開け(<写真 10.>)、そこに "ピンホール" を取り付ければ(<写真 11.>)、ピンホールカメラのできあがり(<写真 12.>)です。

写真 10

<写真 10.>
ボディキャップ BF-1A の中心に孔を開けたもの。

写真 11

<写真 11.>
ピンホールを貼り付ける。両面テープや黒色クラフトテープを使えば簡単。

写真 12

<写真 12.>
完成したピンホールを一眼レフレックスカメラに取り付けた状態。

 黒いボディキャップが入手できない場合には、光を通さない黒い厚紙などで代用することもできます。

 光学レンズでは味わえない、ピンホール写真の楽しさを味わってください。
 晴天順光時に ISO 1,600 あるいは 3,200 といった超高感度フィルムを使えば、なんとか手持ち撮影も可能です。いろいろ気軽に試してみてください。

2.3.1. ピンホールの作り方

 薄い(0.1〜0.5ミリ 厚程度)金属板(例:薬ビンの蓋など)を材料に使えば、割合簡単に作製できます。

図 1

<図 1.>ピンホールの作り方
できるだけ小さく、真円に近い孔が理想ですが、気楽に(ケガしないように注意して)やりましょう。

 クギなどで凹み(アタリ)をつけた後(<図 1. A.>)、反対側の出っ張り(カエシ)を、孔が開く一歩手前までヤスリで削り(<図 1. B.>)、最後に縫い針などで小さな孔を開ければ(<図 1. C.>)完成。
 縫い針のかわりに精密工作用のドリル(φ0.3ミリ などの好みの径の刃を選べます。細いドリルほど、高価で折れやすい傾向があります)を使えば、よりきれいなピンホールを作製できます。
 金属板の代わりにアルミホイルを使えば、縫い針で孔を開けるだけで O.K.。ただし、あまり耐久性はありません。

 ピンホールの直径はφ0.3ミリ 程度が理想ですが、いろいろな大きさで試してみるとよいでしょう。

注意!:ピンホールは、絶対にボディキャップの表側(被写体側)に貼り付けてください。
 一眼レフの内部にはレフレックスミラーがあり、ほとんどの機種では撮影時にこのミラーが上下動(クイックリターン)します。
 ボディキャップの裏側(カメラ側)にピンホールを貼り付けてしまうと、ミラーと衝突してカメラが壊れることがあります。

2.3.2. ピンホールの性能

図 2

<図 2.>ピンホールカメラと光学レンズの原理

 ピンホール(A., B.)ではピント合わせの必要がありませんが、孔の直径と焦点距離(f)に比例して画像はボケます。
 光学レンズ(C.)ではピントを合わせる必要がありますが、画像は大変明るくシャープです。

 ピンホールカメラの原理を<図 2.>に示しました。次の 3 項目に注目してください。

1. 焦点距離(f)
 ピンホールの孔からフィルム面までの距離(単位:ミリ)が、光学レンズでいう焦点距離(f)に相当します。
 一眼レフのボディキャップ前面にピンホールをつけた場合、焦点距離は 50ミリ 位になります。つまり、この場合、焦点距離 50ミリ の光学レンズとほぼ同じ画角の写真を得ることができるわけです。ただし、ピンホールは焦点を結びません(<図 4>)参照)。ですから、同じ画角だからといってこの数字を焦点距離というのも変なものですが......。

2. 絞り(F)値
 絞り(F)値は、ピンホールの焦点距離(f)をピンホールの直径(d)で割った値(f÷d)です。
 焦点距離が約 50ミリ でピンホールの直径が約 0.3 mm ならば、F = 50 / 0.3 = 167 となります。F167 とはすなわち F16 よりも約 7 段分暗いレンズというわけです。

3. 画像のボケ
 ピンホールカメラには、ピント合わせの必要がありません。近いものから遠いものまで、ほぼ均一にボケて写ります。
 ボケの大きさはピンホールの径の大きさと焦点距離にほぼ比例します。
 つまり、1.)ピンホールの孔の径が小さいほど、また、2.)焦点距離が短いほど、シャープに写るわけです(<写真15>,<写真16>)参照。

2.3.3. 撮影の注意点

1. フレーミング
 前述したとおり、ピンホールは非常に暗い "レンズ(?)" です。このため、一眼レフのファインダー像は、はっきりとは見えないでしょう。
 接眼部と額(ひたい)の間を手で覆い、余分な光をカットして見れば、なんとかぼんやり見える程度です。厳密には考えずに、なんとなくの感覚でフレーミングします。
 三脚は絶対必要です。

2. 露出
 はじめて撮影するときには、必ず +/- 各 2 段分くらいの段階露光をするよう心掛けてください。何度か撮影するうちに、要領がつかめてきます。

 晴天で順光の条件なら、カメラの露出計でも測定できる(=絞り優先AE機能つきのカメラではAE撮影も可能になる)かもしれません。
 曇天や暗い場所では、カメラの露出計は機能しないでしょう。この場合には、先に計算したピンホールの絞り値(開放F値)を参考に計算します。
 絞り値の系列は下記の通りです。この系列の一段分を絞るごとにシャッタースピードを 2 倍に遅くしていけば O.K. です。厳密である必要はありません。だいたいの値を計算してください。

絞り(F)値 1, 1.4, 2, 2.8, 4, 5.6, 8, 11, 16, 22, 32, 45, 64, 90, 128, 180, 256......
露出の計算例

● ピンホールの焦点距離は約 50ミリ、孔径が約 0.3ミリ であったとします。
 絞り値をF = 167(約)と算出できます。

● 一眼レフカメラに光学レンズ(50mm 標準レンズが好適)を装着し、F 値を f/16 と設定して内蔵露出計で測光したときに、適正なシャッタースピードは、1 / 30 秒であったとします。

● F16 から F167(≒F180)まで、7段の差(上の表を参照)ですから......、
適正なシャッタースピードは、1 / 30 秒に 7 回、2×を乗じていった数値すなわち、1 / 15 秒→1 / 8 秒→1 / 4 秒→1 / 2 秒→1秒→ 2 秒→ 4 秒と計算できます。

● ただし、はじめての撮影では、計算値の 4 秒を中心に、+/- 1 段の 2 秒と 8 秒の計 3 枚、あるいは、+/- 2 段の 1、2、8、16 秒を加えた計 5 枚を、段階露出して撮影しておくとよいでしょう。

3. 露出補正
 撮影条件とフィルムの種類(感度)によっては、長時間の露光を要し、さらに露出補正が必要になることがあります。
 特に、シャッタースピードが 4 秒以上になる場合には注意します(露光時間が長引くにつれてフィルムの実効感度が低下していく=(低照度)相反則不軌という現象がおきます。詳しくは、フィルムの箱か説明書に書いてあることがあります)。
 不安な場合には、+1〜+3 段程度、露出オーバー目の段階露出での撮影もおこなっておくとよいでしょう。

写真13

<写真13.>
AI Nikkor 50mm 標準レンズの絞りを絞りこんで(f/16で)撮影した例
(フィルム感度:ISO 100、f/16、1 / 60 秒)

写真14

<写真14.>
AI Nikkor 50mm 標準レンズの絞りを開いて(f/2で)撮影した例
(ISO 100、f/2、1 / 4000 秒)

写真15

<写真15.>
約 0.3ミリ 径のピンホール(焦点距離:約50ミリ)で撮影した例
(フィルム感度:ISO 100、F 約167、2 秒)

写真16

<写真16.>
約1ミリ 径のピンホール(焦点距離:約50ミリ)で撮影した例
(ISO 100、F 約50、1 / 15 秒)

3. 一眼レフって何だろう ?

 一眼レフのファインダーやフィルム面の画像を観察し、ピンホール写真を撮影してみれば、普通とは少し違った写真の面白さを体験できるとおもいます。
 詳しいことは、おいおい説明していきますが、"一眼レフレックスカメラは高級でプロフェッショナル用" という印象があるのは、大きく次の理由によります。

(1.)写る範囲や写り方が、ファインダーで正確 * に判る

 コンパクトカメラなどの透視ファインダーに比べれば明解です。一眼レフは、レンズを通った光をピントグラス上に投影し、その画像を観察します。このため、写る範囲や写り方を正しく観察し、しかもそれを即座にフィルムに写すことが可能なのです。
 これは、特に、望遠レンズを使用する場合や、近接撮影をする場合には有効です。

注:Nikon F、F2、F3、F4、F5 など、ファインダー視野率が 100 % のカメラでは、写る範囲が隅から隅まで確実にわかります

 写真上達の秘訣の一つは、このファインダー像を自分の目でしっかり観察することです。なんといっても一眼レフの最大のメリットはここにあるのです。

(2.)レンズ交換ができる

 レンズ交換式の一眼レフであれば、超望遠レンズから超広角レンズまで、あるいは接写用のレンズやシフト機構付きのレンズなど、多種多様な交換レンズが使えます。
 一眼レフ用の交換レンズは非常に種類が豊富です。レンズの違いによる写りの違いを楽しむことができます。

(3.)多機能・高性能

(1.)、(2.)を基礎に、コンピュータ技術などを駆使することで、AE(自動露出)やAF(オートフォーカス)はいうに及ばず、さまざまな自動化が可能になりました。
 また、交換レンズ以外のさまざまなアクセサリーを使用することで、あらゆる撮影条件に対応できます。
 最近では、銀塩フィルムの代わりに、撮像素子(CCD=電荷結合素子など)を使ったデジタル(スチル)カメラで一眼レフタイプのものもあります。

2. 光の魔術師「レンズ」の不思議

第2 回目 光の魔術師「レンズ」の不思議

似顔絵 一眼レフ用の交換レンズは、重く、大きく、しかも比較的高価です。しかし、原理そのものは私たちがふだん使っている虫眼鏡やルーペと同じなのです。
 いったい、何が違うのでしょうか ? 虫眼鏡では写真は撮れないのでしょうか ? こうした素朴な視点から、写真レンズの奥の深さを紹介しましょう。
 さらに、一眼レフ用のちょっと変わった交換レンズについても紹介します。きっと、普通じゃない写真に数多く出会えるはずです。

1. やってみよう!

1.1. 虫眼鏡と写真レンズの違い

写真 1.

<写真 1.:右>レンズ豆の水煮の缶詰(イタリア産)

 レンズの語源は、この缶詰の素材であるレンズ豆(Lentil, 和名ヒラマメ)です。両凸レンズの形はこの豆に似ているところから転用されたようです。
 実際に食べてみると、普通の豆の味でした。ちょっと残念。

 虫眼鏡を使って太陽光を一点に集め、黒い紙を焦がした経験は誰にでもあるはずです。この時、太陽光が一点に集まった所を「焦点(=まさに焦げる点ですね !)」と言い、これとレンズとの距離を「焦点距離」と呼ぶことを学んだはずです。
 もし天気が良ければ、手持ちの虫眼鏡やルーペを使って、次の実験をやってみてください。実に単純な実験ですが、考えだすときりがないほど疑問が沸いてきます。

写真 2.a.

Q. 虫眼鏡で太陽光を集めます。これ(<写真 2.a.:右>)は、ピントが合っていない状態です。
 ピントが合っていなくても、太陽の丸は丸のままです。これはなぜでしょう ?

A. 虫眼鏡のレンズが円形だからです。試しにレンズを、黒い紙などで四角や三角に覆ってみてください。どんな形にボケるでしょうか ?

写真 2.b.

Q. 太陽光が一点に集まった所が「焦点」。これと虫眼鏡との距離を「焦点距離」といいます。物差しで測定してみましょう。
 しかし、よくよく見ると、点ではなく小さな円です(<写真 2.b.:左>)。これはなぜでしょう ?

A. 太陽に大きさがあるためです。太陽の大きさは直径約140万キロで、地球から約1億5千万キロにあります。見かけ上の角度は約32分(1 度 = 60分の約半分)です。

写真 2.c.

Q. 虫眼鏡を太陽光に対して斜めにすると、焦点の形が奇妙に歪みます(<写真 2.c.:右>)。これはなぜでしょう?

A. 虫眼鏡が安物だからです。写真レンズや高価なルーペなどでは、こうした歪みがほとんどありません。このような像の歪みの原因を「収差」といいます。

 ここで、少し余談になりますが、ルーペの倍率と、レンズの焦点距離、収差について、少し詳しく説明しておきましょう。

● ルーペの倍率
 ルーペには普通、4 ×とか 8 ×とかいった具合に倍率が表示されています。これは正式には基準拡大率というもので、実物を目の前 25センチ に置いたときに見える大きさを基準にして、ルーペを使えば何倍に見えるかを示したものです。
 基準拡大率を M、ルーペの焦点距離を f(単位:ミリ)とすれば、M = 250 / f という関係があります。つまり、4 ×のルーペならば焦点距離 75 mm の凸レンズだというわけです。

写真 3

<写真 3.:左> 虫眼鏡やルーペの使い方。目をレンズにできるだけ近づけることで、拡大率は最大になります。

 一般的な虫眼鏡は焦点距離がだいたい 150〜200ミリ ですから、基準拡大率は 2 倍以下です。ただし、虫眼鏡の用途は拡大することよりも、遠視や老眼などで近くの物にピントが合わない場合の矯正用ですから、倍率はさほど大きくなくてもよいのです。

 また、目をルーペにできるだけ近づけて観察すれば、倍率は最大になり、(基準拡大率 +1)倍の像を見ることができます。

● 焦点距離
 虫眼鏡やルーペと違い、写真レンズは何枚ものレンズを重ねて作られており、それ自体が長く、焦点距離を計る基準がはっきりしません。この正しい基準を、レンズの「主点」といいます。話が面倒になるのでここでは触れませんが、大雑把にはレンズの中心あたりと考えていいでしょう。
 特に例外的なのは、次の 2 種類のレンズです。

写真 4.

<写真 4.:左> 写真レンズを使って焦点を結んだところ。
 虫眼鏡に比べると、大変きれいです。
 よく観察すると、ビルや電線も写っています。ただ、写真レンズのようにレンズ自体がぶ厚い場合には、焦点距離を正確に知ることは難しいものです。

A. レトロフォーカス(逆望遠)・タイプ

 一眼レフの多くの広角レンズはこのタイプで、レンズ全系の主点を、レンズの最後部よりもさらに後方におくことができる設計です。
 焦点距離の短いレンズであっても、一眼レフのレフレックスミラーなどに衝突しない構成にできます。

B. テレフォト・タイプ
 特に大判カメラ用の望遠レンズに多く、主点がレンズの先端よりもさらに前方にあります。蛇腹の長さを短くできるため、大判写真の望遠撮影には特に便利です。

 ちなみに、35ミリ(135)判カメラの "35センチ" は、フィルムの幅が 35ミリ であることに由来しています。焦点距離とは何の関わりもありません。

● 収差
 レンズを使って、実物を拡大したり画像を投影したりするとき、もっとも理想的な像のあり方を簡単に述べると、次の 3 つになります。

  • 点は点になる。
  • 光軸に垂直な平面には、全てピントが合う。
  • 形が正しく相似形になる。
写真 5.

<写真 5.:右> いい加減な凸レンズを使って、カレンダーの数字を拡大したところ。画像の周辺が歪み、さらに本来見えないはずの色が見えます。
 このような色が見える原因を「色収差」といいます。

 実際には、こうした理想的な像を完全に得ることは不可能です。つまり完全に理想的なレンズはできません。その原因を「収差」といい、数学的に取り扱うことができます。
 良く知られている収差には、球面収差、コマ収差、非点収差、像面の弯曲、像の歪曲(3 次収差と呼ばれます)の 5 種類があります。

 また、これら以外に、光がプリズムで 7 色(日本以外の国では 6 色とも 5 色ともいいます)に分解されるような原因によって起こる収差を「色収差」といいます。


1.2. 虫眼鏡のレンズで写真を撮る !

図 1.

<図 1.> 虫眼鏡のレンズで写真を撮る実験の方法。
 虫眼鏡の光軸(レンズの中心軸)を、できるだけ正しくカメラボディのレフレックスミラー面の中心部に合わせ、虫眼鏡とカメラの距離間隔を調整すれば、どこかでピントが合います。

 まず、てっとり早いところで、簡単な実験をやってみましょう。
 虫眼鏡を右手に持ち、レンズを外した一眼レフを三脚などに固定します。虫眼鏡の光軸を、一眼レフのレフレックスミラーの中心部にできるだけ正しく合わせます。そして、虫眼鏡を前後に動かしてみると、どこかでピントが合うはずです。
 先に測定した、虫眼鏡の焦点距離と比較してみましょう。単純で、しかも大切な事実が分かります。
 つまり、無限遠(≒かなり遠い被写体)にピントを合わせるには、フィルム面と虫眼鏡の距離を、虫眼鏡レンズの焦点距離に等しくすればいいのです。そして、近い被写体にピントを合わせるには、その位置から虫眼鏡を徐々に遠ざけていけばいいわけです。
 ボディ内部に強い光が迷い込んで入っていなければ、そのまま写真撮影もできます。ものの試しに撮影してみるといいでしょう(絞り込み測光ができ、絞り優先AEモードを搭載したカメラならばAE撮影できます)。

 さて、ここまで来ると、後はだいたい想像できるはずです。
 写真レンズのように余分な光を遮る筒(鏡筒とか鏡胴といいます)があれば、虫眼鏡でも写真撮影ができるわけです。

 ボディキャップに大きめの孔を開け、光を通さない厚紙やプラスチックなどで自作してみましょう。虫眼鏡の焦点距離(下の<図 2.>の左図の青い←→で図示)に適合するよう鏡筒の長さを考え、伸縮可能にしてフォーカシングできるようにすれば、さまざまな対象を簡単に撮影することができます。絞り込み測光ができ、絞り優先AE機能を搭載したカメラならばAE撮影もできます。

図 3
写真 6.a.

<写真 6.a.>
ボディキャップ BF-1A の中心に大きな孔を開けたところ。
これが "虫眼鏡レンズ" のマウント部になります。

写真 6.b.

<写真 6.b.>
伸縮可能な鏡筒を作り、前後に虫眼鏡のレンズと<写真 6.a.>のマウント部を取り付けます。
鏡筒の長さに注意して設計します。

写真 6.c.

<写真 6.c.>
完成。
安直なレンズですが、絞り込み測光で絞り優先のオート撮影も可能です。

<写真 7.a.〜c.> 虫眼鏡レンズ(<写真 6.c.>)の撮影例。
収差が大きく残っているレンズですから、全体的にぼんやりした像になりますが、それなりの "味わい" が楽しめます。

写真 7.a.

<写真 7.a.>
無限遠

写真 7.b.

<写真 7.b.>
中距離(約 5メートル)

写真 7.c.

<写真 7.c.>
近距離(約 1メートル)

2. 焦点距離で何が変わる?

 一般的な35ミリ(135)判カメラの写真レンズは、大きく次の 4 種類に分類できます。
 まず焦点距離が一定(固定)のレンズを、その焦点距離の長短で 3 分類し、

  • 標準レンズ:焦点距離が、50ミリ 前後のもの。
  • 望遠レンズ:標準レンズよりも焦点距離の長いもの(より正確には、長焦点レンズで望遠比が 1 以下のものが望遠レンズです)。
  • 広角レンズ:標準レンズよりも焦点距離の短いもの。

そして、焦点距離が可変のレンズ(バリフォーカルレンズ)の代表として、

  • ズームレンズ:焦点距離を連続的に変化でき、変化させても焦点が移動しないレンズ。

があります。
 「どのレンズがよいか ?」という質問には、なかなか上手く答える方法がありません。要は、何を撮りたいか ? と、どう撮りたいか ? の問題ですから。
 というよりも、いろいろな焦点距離のレンズを使うことで、写真はまったくといっていいほど違ってきます。その不思議さを楽しんでいただければいいな.....、というのが私(久門 易)の思いです。

 さて、焦点距離の違いによる写真写りの違いを整理しましょう。

2.1. 焦点距離と画像の大きさ

 レンズの焦点距離が長くなればなる(≒望遠レンズになる)ほど、被写体をフィルム面に大きく写すことができます。どの程度大きくなるかというと、単純に焦点距離に比例すると覚えておけばいいでしょう(接写の場合や魚眼レンズは例外です)。
 例えば、100ミリ 前後の焦点距離の望遠レンズを使う場合、50ミリ 標準レンズの約 2 倍の大きさで写すことができます。200ミリ レンズでは、50ミリ の 4 倍に写すことができます。これで、だいたいの見当がつくはずです。

写真 8.a.

<写真 8.a.>
28mm

写真 8.b.

<写真 8.b.>
55mm

写真 8.c.

<写真 8.c.>
105mm

<写真 8.a.〜c.> 同じ被写体を同じ位置から撮影する例。焦点距離に比例してフィルム面に大きく写ります(写真 8.a.〜c. ではカメラのファインダースクリーンに大きく映ります)。

 ズームレンズでいう「ズーム比」は、焦点距離の大きい値を小さい値で割った数値です。例えば 35〜70mm ズームレンズのズーム比は、70 / 35 = 2 となります。つまり、このズームレンズでは、画像の大きさを最大で 2 倍(逆に考えると 1 / 2 倍)に変化(変倍)できるという意味です。

2.2. 焦点距離と画角

 前述したように、被写体は、焦点距離が長い(≒望遠レンズになる)ほど、大きくフィルム面に写ります。言い方を変えると、"焦点距離が長いほど、狭い範囲しか写せない" のです。
 逆に、焦点距離が短い(=広角レンズになる)ほど広い範囲を写せます。特に、焦点距離が広角レンズになるほど、焦点距離の違いはわずか数ミリであっても、画角はかなり違うということになるので、ちょっと注意が必要です。

 カタログ、使用説明書などに記される写真レンズの画角は、135判フィルムのタテ 24 × ヨコ 36 ミリの対角線上(約 43ミリ)に写る範囲を指しています。

焦点距離(ミリ) 20 24 28 35 50 85 105 135 180 200
対角線方向画角 94度 84度 74度 62度 46度 28度30' 23度20' 18度 13度40' 12度20'
水平方向画角 83度 74度 64度 53度 39度 23度50' 19度30' 15度 11度30' 10度20'
垂直方向画角 61度 53度 45度 37度 26度 16度 13度 10度 7度40' 6度50'

 50ミリ レンズの画角は 46 度ですから、ちょうど直角 90 度の半分くらいです。これが35ミリ(135)判でいう "標準"。
 そして、直角 90 度をちゃんと写せる焦点距離は 22ミリ です。
 焦点距離の数値と画角の数値とに、感覚的なズレを感じるはずです。

<写真 9.a.〜c.> 被写体までの距離は同じまま、レンズの焦点距離を変えて撮影した例。
 焦点距離の違いによって、被写体の大きさだけでなく、写る範囲が変わります。

写真 9.a.

<写真 9.a.>
35mm
広い
小さい

写真 9.b.

<写真 9.b.>
80mm
←→
←→

写真 9.c.

<写真 9.c.>
200mm
狭い
大きい


2.3. 焦点距離と遠近感

 "焦点距離によって画角が変わる" ということは、つまり、"広角レンズになるほど、遠くのものがより小さく写る" ということです。逆に、望遠レンズでは、近くも遠くもあまり大きさが変わらないように写ります。何が違って見えるかというと、次のように整理できるでしょう。

 広角レンズでは遠近感が誇張され、形が少し歪んでいるように写ります。逆に、望遠レンズでは遠近感はあまりありませんが、形が設計図のような理念的な正確さで写ります。カタログ写真撮影などに望遠レンズが用いられる理由はここにあります。
 こうした違いは、通常の使い方とは逆に、広角レンズでは近寄って、望遠レンズでは遠くから撮影すると大変よく分かります。ズームレンズは非常に一般的になりましたが、自分の足を使って被写体に近づいたり遠ざかったりすることで、写真のイメージがずいぶんと変わるのです。
 高価なレンズを使うことよりも、自分の脚を使うほうが、安上がりで、しかもはるかに意外性に富む写真が撮れたりする理由が、ここにあります。

<写真 10.a.〜c.> 広角←→標準←→望遠とレンズを交換し、顔の大きさを同じに揃えるように、フィルム面から被写体までの距離(撮影距離)を変えて撮影した例。
 レンズの焦点距離の違いによって、被写体との距離そして遠近感が変わっています。写真のイメージがずいぶんと変わるのです。

写真 10.a.

<写真 10.a.>
35mm
近い
誇張

写真 10.b.

<写真 10.b.>
80mm
←→
←→

写真 10.c.

<写真 10.c.>
200mm
遠い
正確

3. ちょっと変わった面白レンズ

 あまり一般的ではないかもしれませんが、使ってみると意外な楽しさが見えてくるレンズをいくつか紹介しましょう。
 使い方に少し面倒な点があるものもありますが、基本的にニコンの一眼レフの多くで使用できます。こうした風変わりなレンズを使ってみるだけで、一味違った写真が誰にでも撮影できるようになります(一部、使えないレンズとボディの組み合わせがあります。詳しくは、カタログか使用説明書などで確認してください)。

3.1. テレコンバーター

 ここで紹介するテレコンバーターは、主レンズ(マスターレンズ)とカメラの間に装着するだけで、焦点距離が 1.4 倍ないし 2 倍(=ニコンの現行商品ラインナップの場合)になるタイプのコンバージョンレンズです(マスターレンズのうしろに装着するタイプなので、リアコンバーターと呼ぶ会社もあります)。
 テレコンバーターは、凹の屈折力を持っていて単独では結像しません(このレンズ自体には焦点距離はありません)。カメラのAE機能はそのまま使えます(一部、使えないレンズとボディの組み合わせがあります。詳しくはカタログか使用説明書などで確認してください)。

 特徴は次の通り。

  • 実質的なレンズの明るさ/絞り値(F 値)が暗くなります。1.4 倍モデルで 1 段分。2 倍モデルでは 2 段分。
  • 主レンズの被写界深度目盛りは、そのまま目安として使用できます。
  • 最短撮影距離は変わりません。つまり、主レンズの 1.4 倍ないし 2 倍の拡大撮影ができます。

3.2. レフレックスレンズ

 屈折光学系の大部分を大小 2 枚の凹面鏡に置き換えることで鏡筒を短くし軽量コンパクトに設計できた望遠レンズです。天体望遠鏡では、よく知られていますね。
 色収差の発生しない凹面鏡の反射光学系と、球面収差などの補正に有利な屈折光学系のそれぞれの長所を活かした光学系です。分厚いガラスで構成する屈折光学系のような重さもなく、また、色収差を抑えることができ、非常に小型にできるわけです。慣れれば超高感度フィルムとの組み合わせで晴天下の手持ち撮影も可能でしょう。

 特徴は次の通り。

  • ニコンの現行商品「レフレックスニッコール 500mm F8 <New>」などのほとんどの反射望遠レンズは、絞りを固定しています。このため、被写界深度のコントロールなどはできません。AE 撮影は、絞り優先モードで可能です。
     一眼レフカメラボディのシャッタースピードの連動範囲を超えてしまい露出オーバーの場合には、必要に応じて、NDフィルターをレンズに挿入するか、フィルムをより低い感度のフィルムに交換しなければなりません。
  • 点のボケはドーナツ形に、線のボケは二線状になります。
  • 「レフレックス ニッコール 500mmF8<New>」では、最短撮影距離が 1.5m。そのままで接写のような撮影も可能です。

<写真 11a.〜e.>「レフレックスニッコール 500mm F8<New>」の撮影例

写真 11a

<写真 11.a.>
50mm レンズで撮影。
画面中央にサギがいるのがわかるでしょうか ?

写真 11b

<写真 11.b.>
500mm F8レンズで撮影。
サギがはっきり見えますね。
50mm レンズの約10倍の大きさでフィルム面に写っています。

写真 11c

<写真 11.c.>
500mm F8 に 2×テレコンバーターを付けて撮影。
(実質的には 1000mm F16 のレンズになり、ヤワな三脚ではカメラブレが非常に目立ちます。
さらに "F16固定絞り" で、ピント合わせも困難です。
被写体の明るさやフィルム感度によっては、被写体ブレが大きく写ります。慎重に撮影しなければなりません)

写真 11d

<写真 11.d.>
最短撮影距離は1.5メートル ですから、このような接写も可能です。
驚くべき便利な性能と言っていいでしょう。

写真 11e

<写真 11.e.>
後方にドーナツ状のボケが見えます。
これが反射望遠レンズの大きな特徴です。

3.3. フィッシュアイ(魚眼)レンズ

 フィルム画面内に、おおよそ180度の画角を写すことができるレンズを魚眼レンズといいます。ほとんどの魚の目は、両目で360度(片目で180度)の視界があるところから名付けられたようです。魚の気分が味わえるレンズかどうかは、私は知りません。
 ニコンの現行商品には、フィルムの対角線上に画角180度を写すことができる(=対角線魚眼レンズ)「AI AF フィッシュアイニッコール16mmF2.8D」があります。

 販売が既に終了したフィッシュアイニッコールレンズには、135判フィルムであればその上に約 23ミリの円形に画角 180 度を写しこむことができる(円周魚眼レンズ)「AI フィッシュアイニッコール 8 mmF2.8S」がありました。
 さらには、画角 220 度(=人の両眼の最大視野は約 180 度と言われています。この人間の能力を大きく超えた範囲を一眼レフカメラのファインダーを通して眺め、一枚の平面の写真にできます! ロマンですな〜)を撮影できる「AI フィッシュアイニッコール 6mmF2.8S」もありました。

 デジタルカメラの世界では、ニコン「COOLPIX 995」、ニコン「COOLPIX 990」、ニコン「COOLPIX 950」、「COOLPIX 910」などのレンズの前枠にネジ込んで装着する
(「COOLPIX 700」に装着するときには「ステップアップリング UR-E1」が、
 「COOLPIX 880」に装着するときには「アダプタリング UR-E2」が、
 「COOLPIX 885」に装着するときには「アダプタリング UR-E4」が、
 「COOLPIX 5000」に装着するときには「アダプタリング UR-E6」が、要ります)
専用アクセサリーで、35ミリ(135)判換算で 8 ミリ 相当の円周魚眼レンズにするフロントコンバーターの「フィッシュアイコンバータ FC-E8」が、1998(平成10)年に発売されて以来人気を呼んでいます。

 いずれも、超広角レンズとは異なり、画面中心を通らない直線は歪んで写ります。

写真 10

<写真 10.>
対角線魚眼レンズである「AI AF16mmF2.8D」の撮影例。
画面の周辺は大きく歪んで写ります。

写真 11

<写真 11.>
「AI AF 16mmF2.8D」の撮影例。
両目で見えるほとんど全ての範囲が一枚の写真に写ります。

写真 12

<写真 12.>
「COOLPIX910」に、「FC-E8」を装着した撮影例。
画角約 183 度までの魚眼ズームレンズになります。

3.4. PCレンズ

 "PC" とは、パースペクティブ コントロールの略。つまり、遠近感を調整できるレンズと考えればよいでしょう。
 「PC ニッコール 28mmF3.5」の場合、レンズをフィルムに対して平行に各方向に移動(約11mm)できるような仕組みを備えています。大判カメラでいうアオリ(シフト、ライズ / フォール(ドロップともいいます))* が可能になるわけです。
 建築物の撮影では、垂直の線を全て平行に写したり、障害物を避けて撮影したり、鏡への写り込みを隠したりもでき、写真をつないで作るパノラマ写真も美しく仕上げることができます。

 「PC Nikkor」の絞りの操作はプリセット方式で、一般の完全自動絞り方式のレンズとかなり異なります。少し慣れが必要でしょう。
 また、アオリ操作をすることで多少画像が暗くなりますので、露出調整にも注意が必要です(一部、使えないレンズとボディの組み合わせがあります。詳しくはカタログか使用説明書などで確認してください)。

<写真 13.a.〜c.>「PC ニッコール 28mm F3.5」の撮影例。

写真 13a

<写真 13.a.>

写真 13b

<写真 13.b.>

写真 13c

<写真 13.c.>

図3

フィルム面を垂直にしたまま、レンズを平行移動して(アオって)(ライズ)撮影。
垂直の線を全て平行に写すことができ、まるで設計図のような形で写せます。

レンズをアオらず、そのまま撮影。
通常の28mm広角レンズで撮影するのと同じ写り方です。

レンズを<写真 13.a.>とは逆方向にアオって(フォール)撮影。
遠近感をさらに誇張して写すことができます。

注:「アオる」
 「レンズ光軸が撮影画面の中心部でフィルム面と直交する」という関係を崩すことを総称して「カメラムーブメント」といいます。
 その中には、

  • レンズ光軸とフィルム面の直交という関係は崩さないで、レンズ面(またはフィルム面)を互いに平行移動させる「ディス プレースメント(シフト、ライズ / フォール (ドロップともいいます))」と、
  • レンズ光軸とフィルム面の直交関係を崩す、スイングとティルト
という、2 系統の操作が含まれます。
 厳密には、前者の「ディスプレースメント」のみが「アオリ」なのですが、日本では、両者を混同して「アオリ」と総称することがあります。

 レンズって本当に不思議でしょう。詳しく紹介すると、いつまで経っても終わりませんので、今回はこの辺で終わり。

第3 回目 フィルムは光の記憶装置

第3 回目 フィルムは光の記憶装置

似顔絵 どんなに高性能なカメラでも、フィルムが無ければ写真は撮れません。これは常識のはずです。
 最も一般的に使われている35ミリ(135)判フィルムには、非常に多くの種類があります。撮影目的に適したフィルムを選んだり、特殊なフィルムを使って撮影することで、写真の楽しさは何倍にも膨れ上がります。

 3 回目の今回は、フィルムの選び方の基本を整理すると共に、ちょっと変わった面白フィルムをいくつかご紹介いたしましょう。

1. 35ミリ(135)判フィルムの使い方の基礎

 35ミリ(135)判フィルムは、現在、プロからアマチュアまで、もっとも多く使用されているフィルムフォーマットです。
 もともと映画(ムービー)用に作られたフィルムで、スチル写真の撮影に使用されたのは1913(大正2)年、映画撮影の露光テスト用のカメラが始めてだということです。
 ご存じの方も多いでしょうが、1925年に35ミリ判精密カメラである「ライカ」が発売されたのが大きな契機となって、このフィルムもまた広く普及するようになりました。いまなお日本の年配の方には、135判フィルムのことを「ライカ判」と呼ばれる方がおられますが、こうした歴史の名残(なごり)といっていいでしょう(日本でだけ120判フィルムをコダック社の同名のカメラの名残で「ブローニー判」と呼ぶのと同じ趣きですね)。

 当初は、現在のようなパトローネ(円筒形のケース。カセット、マガジン、カートリッジともいいます)に入った状態では小売りされてはいませんでした。写真を撮る人は、平たい金属缶に入った長尺のフィルムを購入しては、暗室の中で自分で裁断して、カメラごとの専用マガジンに装填していたようです。

 後に、コダック社がパトローネに詰めたフィルムを商品化してからも、長尺フィルムの詰め替えは割安とあって、なかなか衰退しませんでした。
 現在でも、種類は限られますが、100 フィート(約 30.5メートル)巻き(メーカーによっては 30メートル 巻き)の長尺フィルムは発売されており、ご自分でパトローネに装填して使っている方もおられます。二十年以上前に写真を始めた方、活動予算の乏しい写真部におられた方なら、長尺のモノクロフィルムを自分で切ってはパトローネに装填した暗室作業の記憶のある方は少なくないはずです。
 また、長尺フィルムは、「ニコン F」、「F2」、「F3」、「F4」で、250コマ連続撮影をされる方にも愛用されています。
 さて、ちょっと無駄口がすぎましたか.......。

1.1. 35ミリ(135)判フィルムのパトローネを分解してみると......

 フィルムを直接光に当ててしまうと駄目になってしまいます。これは常識中の常識でしょう。ですから、なんとなく「フィルムというのはよく判らない」と思われる方は多いはずです。
 では、ちょっと無謀ですが、35ミリ判フィルムのパトローネを分解してみましょう。中身はどうなっているのでしょうか ?
 もちろん、こんなことをすれば未現像のフィルムは使い物にならなくなってしまいます。どうでもいい、捨ててもかまわないフィルムを使ってください。簡単なつくりですが、漏光防止の工夫など意外に非常に良くできていてびっくりするはずです。

写真

<写真 1.a.>
家庭にある栓抜きでパトローネの蓋を開けます(近年の蓋は、かなり堅くカシメてあります)。

写真

<写真 1.b.>
パトローネから中身を取り出します。

写真

<写真 1.c.>
長いフィルムが "くるくる巻き" になっています。
艶の無い面には感光剤の乳剤が塗布されています。
この "乳剤面" が、カメラの中ではレンズ側になります。

 さて、フィルムの端(リーダー部)を巻き込んでしまい、なんとか引き出したいと困った経験はないでしょうか(使用前や撮影中のフィルムをうっかり巻き取ってしまったりね)?
 こんな時には、「フィルムピッカー」(写真用品店で販売しています。いくつかのタイプがありますが、1,500 円(消費税別) 前後)と呼ばれる道具を使えば、実に簡単に、フィルムの端を引き出すことができます。一個、持っておくと思わぬ時に役に立ちます。
 もっとも、懇意の親切な写真店さんに持ち込めば、タダでやってもらえることも.......。

写真

<写真 2.a.>
フィルムの端を巻き込んでしまっても......。

写真

<写真 2.b.>
「フィルムピッカー」を使ってチョチョイのチョイと.......。

写真

<写真 2.c.>
まるで手品のようにフィルムの端を引き出すことができます。

1.2. 35ミリ判フィルムの装填と感度の設定

 最近の自動巻き上げ(オートワインディング)式の35ミリ判カメラは、フィルム装填や感度の設定も自動的におこなってくれる(前者はオートローディング、後者はDX対応)タイプが多くなりました。ですから、まあ、なんということもなく、「使用説明書」を読み、一度やれば誰にでもできます。フィルム巻き上げがマニュアル式のカメラでも、たいした困難はないはずです。
 ただし、直射日光の下でフィルム装填を行うと、光がフィルムのパトローネの出入口から迷い込んで入ってしまうことがまれにあります。日陰で装填するほうが無難です。
 また、特殊なフィルムの中には、暗室で装填したり、感度設定を自分でセットしなければならないタイプもあります。

写真

<写真 3.a.>
このカメラでは、フィルムの端をマークに合わせて裏蓋を閉め、シャッターボタンを押せば、自動的に装填され、感度も自動的に設定されます。

写真

<写真 3.b.>
フィルム感度を自動設定する DXコード(黒と銀)と、それを読みとるカメラ側の端子(電気接点)。
特殊なフィルム、そして発展途上国製フィルムの一部には、パトローネに DXコードを付していないものがあり、自分で感度を設定しなければなりません。

写真

<写真 3.c.>
フィルム巻き上げが手動のカメラでは、一般にスプール(巻き取り軸)にフィルムの端を差し込み、自分で巻き上げます。

写真

<写真 3.d.>
フィルム感度を自分でマニュアル設定するタイプのカメラ(写真では ISO 100 に設定)。
感度を正しく設定することではじめて、標準的な正しい露出値が得られます。

1.3. フィルムのパッケージをじっくり読む

 フィルムのパッケージにはさまざまな情報が記されています。一般的なカラーネガフィルムでは、かなり省略されているものが多いですが、記載内容を隅から隅まで読むことで意外な発見もあります。特に、はじめて使うフィルムの場合には、しっかりと読むようにしてください。
 はじめのうちはワケが判らない内容も多いでしょうが、一通り目を通しておけば、必ず役に立つ日がきます。

写真

<写真 4.a.>
使用期限と製造(乳剤)番号:
私の経験では、フィルムは適正に保管すれば使用期限を多少過ぎていても写りますが、美しい画像を得るためにはできるだけ早く撮影し、間髪を入れずに現像すべきです。
製造(乳剤)番号の同じフィルム同士の品質・特性は同じはずです。

写真

<写真 4.b.>
露出の目安表:
露出計のないカメラではこれを参考にします。
試しにこのデータでマニュアル撮影してみるといいでしょう。
意外なほど "当たる" ものです。

写真

<写真 4.c.>
取扱上の注意点:
高温な場所に保管することは絶対に避けてください。
使用期限内でも画質の悪化などのトラブルの原因になります。
プロ用および特殊なフィルムは、冷蔵庫か冷凍庫での保管が基本です。

写真

<写真 4.d.>
使用説明:
リバーサルフィルムやプロ用のフィルムでは、かなり詳しいデータが記載されています。
ワケが判らなくても、一通り目を通しておいてください。必ず役に立つ時がきます

2. フィルムの豊富な種類

 日本で現在市販されているフィルムは、非常に多くの品種があり、選ぶだけでも大変です。原則として、35ミリ(135)判の規格であればどのフィルムでも、35ミリ一眼レフカメラで使用できます。APS(IX240判)の規格であればどのフィルムでも、APS(IX240判)一眼レフカメラで使用できます。
 また、大雑把にいうなら、同じ種類で同じ感度のフィルムであれば、信頼できるメーカーのものでさえあれば、そんなに大きな違いはないと達観していいとおもいます。
 もちろん、細かな違いはいろいろあるのですが、同じ被写体を同じ条件で撮影し、条件を揃えたプリントを作成し、直接見比べてやっと判る程度の違いです。
 ですから、気兼ねなくいろいろなフィルムを使ってみてください。その上で、自分の目でフィルムの個性を理解するように心掛けるといいとおもいます。

2.1. APS と35ミリ判フィルム

 1996(平成8)年に新発売の、日米のフィルムメーカー・カメラメーカー 5 社が共同開発した新しい写真のシステムが、昨今話題の APS(アドバンスド・フォト・システム:IX240判)カメラおよび APS フィルムです。
 既存の35ミリ(135)判のシステムと何が違うのかというと、一般ユーザーにとっての使いやすさを追求したシステムが、APSであると言っていいでしょう。

  • フィルム装填がより簡単に、
  • 3 種(標準(タテヨコ比 = 2 : 3)、ハイビジョン(同 9 : 16)、パノラマ(同 1 : 3))のプリントサイズから自由に選べる、
  • 原則としてフィルムに直接手を触れることがないシステムなので、傷やカビなどのトラブルをかなり抑制できる、
  • カメラによっては、フィルム面上の磁気トラックによるデータ管理が可能、(撮影途中の交換(ミッドロールフィルムチェンジ=MRC)も可能)
  • フィルムサイズがやや小型なので、理論的にはカメラやレンズも小型化できる

などなど、さまざまなメリットがあります。

PRONEA S

<写真 5.a.>
「ニコン PRONEA S」
35ミリ判AF一眼レフなみの機能を備えた APS のAF一眼レフです。
1998年の9月に発売されました。
なんと購入者の 4 割近くは女性とのことです。
APS 専用の小型・軽量の「IX ニッコールレンズ」群に加えて、35ミリ判の「AI AFニッコールレンズ」群を装着できます。

 APS のAF一眼レフも、この項を執筆した時点で日本の 5 社から出揃い、今後への期待は大きいものがあります。

 うち、レンズ交換可能な APS(IX240判)AF一眼レフカメラは、日本の 3 社から発売中です。
 ニコン(「 PRONEA S」、「PRONEA 600i」)を含む 2 社の APS(IX240判)AF一眼レフカメラは、各々の会社製の35mmAF一眼レフカメラ用交換レンズをそれぞれ装着できます(残る 1 社のAPS一眼レフカメラも、その会社製の35mmAF一眼レフカメラ用交換レンズを、サービスセンターでのみ対面販売する「コンバーター」を介して装着できるそうです。絞り込みAE撮影 & フォーカシングはマニュアルになるそうです)。

 このように、各社とも、既存の35ミリ判システムとの互換性を、程度の差はあれども考えていますので、遊びを兼ねた実用性をメインにおく場合には、APS カメラボディを使い、趣味的な撮影や仕事上の特殊な要求がある場合には、35ミリ判カメラボディ......といった具合に、使い分けることもできます。
 とはいえ、現在のところ、APS フィルムの品種はかなり限られています。一般ユーザーにとっては充分な種類は揃っていますが、このあと紹介するようなさまざまな特殊なフィルムを使って描写の違いなどを楽しむためには、当面の間はやはり35ミリ判が一番なのでしょう。

写真

<写真 5.a.>APS フィルム
フィルムの使用状況を確認する "窓" が、プラスチック製のカートリッジ上面にあります

写真

<写真 5.b.>APS フィルムと
インデックスプリント
プリントの注文は、専用の用紙でおこないます。

2.2. カラーリバーサル、カラーネガ、モノクロネガ、新しいモノクロフィルム

 現在市販されているフィルムは、この 4 種類に大別できます。それぞれの特徴をざっと整理しておきましょう。

2.2.1. カラーリバーサルフィルム

 "カラースライドフィルム" とか "カラーポジフィルム" などと呼ばれることもあります。一般的にはスライド上映用のフィルムとして知られているはずです。現像を終えたフィルムは陽画(ポジティブ)で、被写体の明るさや色が正しく写っており、透過光にかざして観察します。
 撮影時の露出やフィルター調整などがそのまま反映されますので、写真で表現したいと思うユーザーにはうってつけのフィルムです。また、プリントを作成しないでも陽画で鑑賞でき、カラー印刷の原稿としてフィルムスキャナーに掛けるのにも最適で、特にコマーシャル写真家などに愛用されています。
 しかし、これを逆にいうと、撮影時に露出を適正に、色温度などフィルター補正もしっかり行わなければなりませんし、何よりプリントを作成するとなると、インターネガを起こすにせよダイレクトプリントを選ぶにせよ、高価でかつ時間もかかります。
 このため、一般ユーザーに適したフィルムとはいえないかもしれません。
 しかしながら、ぜひ一度だけでも試しに使っていただきたいフィルムです。なぜかというと、仕上がりの色がとても美しいからです。リバーサルフィルムを使って撮影するだけで、まるでプロが撮影したようなきれいな画像を得ることができます。写真の美しさにきっと目覚めるに違いありません。最近のオートカメラなら、何も考えないで撮影しても O.K. 。ただし、購入の際には基本的に「デーライトタイプ」と表示されているものを選んでください。


写真

<写真 6.a.>
コダクローム以外のリバーサルカラーフィルムは、基本的に「E-6」と呼ばれる現像処理がおこなわれます。


写真

<写真 6.b.>
仕上がりの例。

写真

<写真 6.c.>
リバーサルカラーフィルムからプリントを作成することもできますが、やや高価で時間もかかります。

写真

<写真 6.d.>
デーライトタイプのリバーサルフィルムの例。
ほとんどのフィルムはこのタイプで、太陽光やスピードライトで撮影した時に正しい色が再現されます。

写真

<写真 6.e.>
タングステンタイプのリバーサルフィルムの例。
品種は少ないですが、太陽光と比較して色温度の低い(=赤い)写真用電球(電極がタングステンのランプ)で撮影するためのものです。

2.2.2. カラーネガフィルム

 最も一般的に使われているフィルムです。
 現像したフィルムのベース上には、被写体の白黒が逆に、色は補色に、つまり陰画(ネガティブ)で記録されています。
 これを陽画にプリントすることで、はじめて被写体の明るさや色が正しくなります。
 プリントとは、ネガフィルムの画像を印画紙に撮影しなおす作業です。つまり、プリントする過程で、写真の明るさや色を自在に調整できるのが大きな特徴です。このため、撮影時の露出やフィルター調整が間違っていても、プリントで補正することができます。最近では、いわゆるサービス判、そしてサービスキャビネ判などのプリントは極めて安価になりましたから、一般ユーザーには特に便利なフィルムと言えます。

 しかし、これを逆に考えると、自分の考えで露出補正やフィルター調整をしても、その意図が反映できずにプリントされれば、元の木阿弥(もくあみ)になります。満足できるプリントは、なかなか得られません。

 詳細は7月の第9回目「プリントの基礎知識」でご紹介しますが、カラーネガフィルムからのプリントの明るさや色の仕上がりに満足できない理由のほとんどは、フィルムの性能のせいでも、皆さんの腕のせいでも、カメラやレンズのせいでもありません。多くはプリント作成時の調整の問題なのです。


写真

<写真 7.a.>
現行のカラーネガフィルムは「C-41」プロセスと呼ばれる現像処理がなされます。


写真

<写真 7.b.>
被写体の白黒が逆に、色は補色に記録されています。
フィルムベースが橙色をしているのは、色再現をよくするためのマスキングと呼ばれる技法によるものです。

写真

<写真 7.c.>
プリント。非常に安価なものから、高価なものまで各種あります。
高価なプリントは人件費、要するにプリント技術者の腕とセンスに支払っていると考えてください。

2.2.3. モノクロフィルム

 一昔前までは「写真の基礎はモノクロ」などと言われていましたが、昨今では非常に影が薄い存在になりました。なにしろ、日本の新聞社の殆どでも、掲載紙面はモノクロであっても取材撮影にはカラーネガフィルムを常用しています。
 使う人がもはや多くありませんから、"カラーネガフィルムの「C-41」処理を速く・廉価に" と、進化しつづける現行の DPE システムの枠外に置かれてしまい、モノクロフィルムの DPE 処理を頼むと費用と時間が驚くほどかさみます。
 いまや、少し贅沢なフィルムになってしまったといっていいかもしれません。

 しかし、画像の耐久性・安定性(保存性)はカラーフィルムよりも格段に高く、またモノクロならではの味わいもあります。
 特に、自分で現像したりプリントを作成したりすることはカラーよりも簡単ですから、写真を本格的に趣味でやりたい方は、やはりモノクロから入門するのが一番でしょう。


写真

<写真 8.a.>
モノクロフィルムのパッケージには基本的な現像処理の方法が記されています。
自分で処理することも割合簡単です。


写真

<写真 8.b.>
モノクロネガの例。
被写体の白黒が反対に写った陰画です。
被写体の色は、人の目で見た濃淡に近く再現されるように工夫されています。

写真

<写真 8.c.>
モノクロプリントの例。
色彩がないので、かえって想像の余地が広がり、独特の世界が開けます。

2.2.4. 新しいモノクロ調(カラー)フィルム

 日本で数年前に大ブームになった「セピア調」プリントの火付け役になったフィルムです。実をいうとこれは、カラーネガフィルムのバリエーションで、色が写らないというか単色のカラーネガフィルムといえば判りやすいでしょうか。
 現像処理もカラーネガフィルムと共通の「C-41」処理プロセスなので、カラーネガフィルムとほぼ同じ処理時間と料金を設定できるのです。
 前述したように、モノクロ写真がカラー写真よりも珍しい存在になり、D.P.E. 処理を頼むと高価につくようになった現在、より手軽にモノクロ調写真を楽しむのに便利です。このネガフィルムから通常のモノクロプリントを作成することもできます。

 しかしもちろん、このネガフィルムから天然色(フルカラー)のカラープリントを作成することはできません。どうなるかというと、単一色(モノトーン)のカラープリントができるわけです。この単一色を黒でなくセピア調にしたのが、いわゆる「セピア調」プリントで、これはカラープリントのバリエーションの一つです。原理的には、どのような単一色(赤や緑や青など)のカラープリントでも作成できます(詳細は7月の第9回目に紹介します)。


写真

<写真 9.a.>
新しいモノクロ調フィルム(セピア調フィルム)の例。


写真

<写真 9.b.>
ベースの色が通常のモノクロフィルムのようなタイプもあります。

写真

<写真 9.c.>
セピア調プリントの例。現像所や時期によって、セピア調といってもいろいろな色があることを発見できます。

2.3. ISO 感度って何?

 フィルムには感度があるということはご存じでしょう。フィルムのパッケージに大きな数字で「100」とか「400」とか「1600」などと記されているのが、フィルムの感度です。
 よくみると「ISO 100 / 21°」などと表示されています。これは、国際標準化機構 ISO の定める規格に準拠しているという記載であって、メーカーによる違いなどは一切ありません。
 「ISO 100 / 21°」のスラッシュの前の数値の「100」(もとは ASA と表示されていました。これはアメリカが起源の規格)と、後者の「21°」(こちらは昔のドイツ工業規格で、もとは DIN と表示)とは、表示の仕方が異なるだけで、意味は同じですから、スラッシュの前の方の数値にだけ注目してください。単純に、数値が大きいものほど感度が高い、つまり弱い光にも感じる性能をもっています。

 この数値にも実は深い意味があります。おおざっぱに言えば、アメリカ本土のように四季がはっきりした緯度帯の国・地域(西欧の大部分と日本も含まれます)において、盛夏と厳冬でない季節(春 or 秋など)の晴天・順光の条件で撮影するときに、

  1. レンズの絞りを "f/16" にセットし、
  2. "感度の数値分の 1 秒" のシャッタースピードで撮影すれば、
  3. おおむね適正な露出になるようなフィルム......

という考え方で、フィルムの感度の数値を各々設定したのが、前述の ASA 規格の基本理論だといわれています。

 つまりこの理論を覚えておけば、晴天・順光の条件で露出計もフィルムパッケージあるいはその使用説明書もないときには、

  1. レンズの絞りを "f/16" にセットし、
  2. ISO 100 のフィルムならば 1 / 100 秒、ISO 400 のフィルムなら 1 / 400 秒のシャッタースピードを選んで撮影すれば、
  3. かなりの確率で適正露出になる......。

わけです(「ニコン F5」と「 F100」のようなシャッタースピードを 1 / 3 段刻みでも設定できるカメラをお使いではない場合には、ISO 100 のポジフィルム(リバーサルフィルム)なら 1 / 125 秒、ISO 400 のポジフィルムなら 1 / 500 秒で撮ってみてください)。

 では、「フィルムの感度は高ければいい」のかというと、いちがいにそういう話でもありません。
 一般にフィルム感度は、フィルムの乳剤の粒子(光を捉えます)の径を大きくすることで高くしていくため、フィルム感度を上げるほど粒状性は落ち、写真の仕上がりはコントラストが高く、ざらざらした感じになります。反対に、感度が低いフィルムほど、より微粒子の乳剤を使うことができ、なめらかできめ細かな仕上がりの写真になります。
 また、晴れた屋外で撮影する際に感度の高すぎるフィルムは、シャッタースピードの連動範囲をオーバーしてしまったり、選択できる絞り値が限られたりと作画にも不向きなことが多いものです。
 以上を総合して、撮影目的に適した感度のフィルムを選ぶ必要があります。

 どんな撮影にも、ほぼオールマイティに使えるフィルム感度は、ISO 400〜800 です(ちなみにフィルムメーカー純正のレンズ付きフィルムでは、 いまや ISO 800 のカラーネガフィルムを装填した商品が主流です)。
 少し慎重に撮影し、よりきれいな仕上がりを求めるならば、ISO 50〜200。
 室内など暗い場所でスピードライトを使わずに撮影する時、屋内スポーツやコンサートなどでは ISO 1600〜3200 といった感度を選ぶといいでしょう。
 とはいえ、最近の高感度フィルムの改良は著しく、サービスサイズやサービスキャビネサイズでは、その差異はまず判りません。
 また、フィルムの粒状性をあれこれ悩むよりも、高感度フィルムで高速シャッターを切った方が、手ブレも被写体ブレも少ない、結果としてよりシャープに見える写真を撮ることができることだってあります。

 最近では、適当に感度を選んで 1 本丸ごと撮影し、現像時に感度を指定して調整するタイプのフィルムも何種類かあります。目的に合わせて、あるいは興味本位で(!?)いろいろな感度のフィルムを使い比べてみてください。

写真

<写真 10.a.>
ISO 50 のフィルムで撮影した例。

写真

<写真 10.b.>
部分拡大したところ。非常に滑らかでキメ細やかです。

写真3200

<写真 11.a.>
ISO 3200 のフィルムで撮影した例。
小さなサイズにプリントして見る場合には、違いはほとんど分かりません。

写真3200

<写真 11.b.>
部分拡大。
さすがにここまで拡大するとザラザラした感じが目立ちます。

フィルム感度と撮影条件

標準的な露出が得られる条件をおおまかに示しました。
白□ - 個人差はありますがカメラを手持ちで撮影できる範囲です。
---カメラとレンズの組み合わせによっては露出オーバーになりやすい範囲です。
---望遠レンズや接写ではブレなどの注意が必要です。
---ブレやピンボケになりやすい範囲。

ISO 感度 快晴 晴天 明るい曇り 日陰・曇り 室内(日昼) 室内(夜)
50 F11
1 / 125 秒
F8
1 / 125 秒
F5.6
1 / 125 秒
F4
1 / 125 秒
F2.8〜4
1 / 8 秒
F2.8〜4
1 / 2 秒
100 F16
1 / 125 秒
F11
1 / 125 秒
F8
1 / 125 秒
F5.6
1 / 125 秒
F2.8〜4
1 / 15 秒
F2.8〜4
1 / 4 秒
200 F16
1 / 250 秒
F11
1 / 250 秒
F8
1 / 250 秒
F5.6
1 / 250 秒
F2.8〜4
1 / 30 秒
F2.8〜4
1 / 8 秒
400 F16
1 / 500 秒
F11
1 / 500 秒
F8
1 / 500 秒
F5.6
1 / 500 秒
F4〜5.6
1 / 30 秒
F2.8〜4
1 / 15 秒
800 F16
1 / 1000 秒
F16
1 / 500 秒
F11
1 / 500 秒
F8
1 / 500 秒
F4〜5.6
1 / 60 秒
F2.8〜4
1 / 30 秒
3200 F22
1 / 2000 秒
F22
1 / 2000 秒
F16
1 / 1000 秒
F16
1 / 500 秒
F5.6〜8
1 / 125 秒
F2.8〜4
1 / 125 秒

3. 使ってみよう、面白フィルム

 あまり知られておらず、大型量販店あるいはプロショップでしか入手は困難かもしれませんが、35ミリ判一眼レフで使える面白フィルム(特殊フィルム)をいくつか紹介しましょう。
 それぞれに使い方に注意すべき点が多いので、使用説明書をしっかり読み、正しく使ってください。それぞれを上手く使えば、35ミリ判一眼レフの楽しさは何倍にもなります。
 実際に使わなくても、「こんなフィルムもあるのだ」ということを知っておけば、何かの役に立つはずです。

3.1. 赤外フィルム(モノクロ)

写真 .

<写真 12.> コニカ赤外750(コニカ)
 商品名の数値 "750" はフィルム感度ではなく、このフィルムの赤外線に対してもっとも感度の高い波長域である750 nm(ナノメータ)を示しています。

 人の眼では見ることのできない赤外線に感光する性質をもったフィルムです。
 青〜緑の光にも感光しますので、必ず指定の赤フィルターをレンズに装着して撮影します。
 露出は、赤外線の量に左右されますので、カメラの露出計はあまり頼りになりません。また、ピント合わせの補正も必要です。カメラへの装填も暗室でおこなうべきであるなど非常に慎重に取り扱う必要があります。

1.)青空は黒く、2.)新緑は明るく、3.)遠景はシャープに、4.)人物の肌は透き通ったような写りになります。

3.2. 赤外フィルム(カラーリバーサル)

写真 .

<写真 14.> エクタクローム プロフェッショナル・インフラレッド EIR(コダック)

 1.)青は黒に、2.)緑は青に、3.)赤は緑に、4.)赤外線に感光した部分は赤になるという、まことにもって奇々怪々なフィルムです。
 モノクロの赤外フィルムとは異なり、指定の濃い黄色フィルターを使って撮影します。
 カメラへの装填は暗室で、また、保管時はマイナス18 度以下で冷凍保存しなければならないなど、非常に取り扱いがデリケートなフィルムです。

3.3. モノクロリバーサルフィルム

写真 .

<写真 15.> スカーラ 200X プロフェッショナル(アグファ)

 モノクロのリバーサルフィルムです。最近では、コンピュータへのモノクロ画像入力にも(=たとえば、フィルムスキャナーにかけて、デジタル・プリプレスの原稿に)活用されているのだそうです。
 感度は ISO 200。指定現像所でしか処理できないため、納期はいくぶんみておく必要があります。

3.4. 35ミリ(135)判ポラロイド(R)フィルム

写真 .

<写真 16.> ポラクロームCS(ポラロイド(R)

 マニュアル露出で撮影が可能な35ミリ(135)判一眼レフで撮影することができます。
 撮影後数分でカラースライド(ポラクロームCS)、モノクロスライド(ポラパンCT)などを得ることができます。
 専用のプロセッサを購入し、自分で処理しますが、操作は簡単です。
 撮影講習会や緊急のスライド作成には威力を発揮します。

 フィルムもなかなか面白いでしょう。詳しくご紹介すると、いつまで経っても終わりませんので、今回はこの辺で終わり。

4. 「ピント」って何だろう ?

第4 回目 「ピント」って何だろう ?

似顔絵 写真でいうピントは「焦点」のことで、通常、画像がシャープに写るかどうかを意味します。しかし、ピントの合っていない写真に感動してしまったり、あるいは "話のピントがズレている" などという具合に日常会話で使うこともあって、ピントの意味を深く考え出すとどんどんとりとめが無くなってきます。
 今回は、カメラでピントを合わせるとはどういうことなのか、そしてどのようにすればピントばっちりの写真が撮れるのかを整理します。

1. ピントとは何か ?

 ピントを漢字で書くと、焦点ですね。2 回目に実験したように、虫眼鏡のレンズで太陽光を一点に集め黒い紙などを焦がすことからすれば、まさに "焦げる点" であって、本当に見事な命名だと思えます。
 ではピントは何語かというと、これは 1 回目に少し紹介したようにオランダ語の "brandpunt" が語源のようです。"燃える" とか "火" を意味する "brand" と、"点" を意味する "punt" が合体した単語で、要するに "焦点" なわけです。ですから、江戸時代の蘭学者がこの単語を意訳すれば "焦点" になり、簡略に音訳すれば "ピント" となるような気配を感じます。
 翻って、英語はどうかというと "focus" で、こちらも実は "火" や "カマド" を意味するラテン語の "focus" が語源のようです......。

 ここでは、まずピントの基礎的な意味を理解し、ピントを合わせるためにカメラは何をしているのか ?、撮影者は何をすればよいのか ? を整理します。

1.1. ピント面と被写界深度

図 1.

 まずは、右のイラスト「ピント面と被写界深度」を見てください。
 写真レンズの距離リングの目盛りを 1メートル に合わせた場合のピントの合い方を簡単に示したものです。
 この場合、最良のピントが合う場所はカメラ(厳密にはフィルム面)から 1メートル 離れた平面です。これをピント面(焦点面)といいます。つまり、この平面にある被写体には全て最良のピントが合います。
 レンズの距離リングを操作・調整することで、この平面が遠くなったり近くなったりしますが、基本的には斜めになったり曲がったりするようなことはありません。

 さて、このピント面からズレた位置にある被写体はピンボケで写ります。大きくズレればズレるほどボケの大きさも大きくなりますが、ピント面から少ししかズレていない位置ではボケの大きさは極めて小さく、人の眼ではピントが合っているように見えます。このピントが合っていると見倣(みな)せる範囲を「被写界深度」といいます。
 被写体の前後の「被写界深度」の深さ(範囲)は、1)レンズの焦点距離、2)絞り、3)被写体との距離(撮影距離)の三要素とその組み合わせによっても変わります(詳しくは第 6 回目に紹介します)。


1.2. ピント合わせの仕組み

 無限遠(∞)→、1.5 m →、0.45 m と、被写体に近づいて動いてきてもらいながら撮影した写真です。レンズの長さの変化(繰り出し)に注目してください。
 また、上のイラスト「ピント面と被写界深度」とも見比べながら、背景のボケの変化を観察してください。

写真1.a.
写真1.b.
写真1.c.
写真1.d.

無限遠(∞)

写真1.e.

1.5 m

写真1.f.

0.45 m

 前述したように、ピントを合わせたい被写体までの距離を実際に計って、レンズの距離リングの目盛り(=ただし正確であることが前提)をその計測値に合わせることで、被写体に最良のピントが合うはずです。
 では、レンズの距離リングを調整すると、レンズの何が変わるのでしょうか ? 手元にレンズがあったら、レンズの距離リングをぐるぐる回してみてください。何が変わっていますか ?

 ほとんどのレンズの場合には、単純にレンズ(あるいは鏡筒)の長さが変化していくことが判るはずです。基本の基本は、2 回目で紹介した虫眼鏡のレンズで写真を撮るのと全く同じなのです。
 無限遠(∞)の被写体を撮る場合にはレンズ(厳密にはレンズの主点)とフィルム面との距離を焦点距離に等しくすればよく、被写体が近くなるごとにレンズ全体を繰り出してフィルム面との距離を長くすればよいのです。
 カメラのピント合わせには、さまざまな仕組みのものがありますが、最終的にはレンズとフィルム面との距離を変えるのが基本です。そうすることで、ピント面の位置を変化しているわけです。

 ただし、ズームレンズや望遠レンズの中には、レンズの距離リングを回転しても、一見レンズ(あるいは鏡筒)の長さが変わらないタイプが多くあります。これらはインナーフォーカス(ニッコールレンズの型式名称では <IF> の文字が付されています)方式と呼ばれるもので、レンズの前部(前群)はそのままにして、後方の比較的小さなレンズ(群)だけを動かしてピント位置を調整するものです(メーカーによって、そして移動するレンズ群の位置によっては、インターナルフォーカスとか、リアフォーカスとも呼びます)。

 レンズを構成する全群を繰り出すことでピントを調整するオーソドックスなレンズと比較すると、<IF>レンズの光学設計は大変困難ですが、ピントを調整してもレンズの長さが変わらず重心位置もあまり移動しませんし、さらに距離リングを操作しやすい手元に配置できるうえに、ピント合わせに要する力も少なくて済みます。このため、口径の大きなズームレンズや望遠レンズ、特にAFレンズに競って採用されています。

2. ピントを合わせる方法

 一般的な一眼レフでは、フィルムに写る画像と同じ映像をレフレックスミラーで反射して直接的にファインダースクリーン上で観察できます。ですから、被写体との距離をいちいち計らなくても、被写体のファインダー像がもっともシャープに見えるように、レンズの距離リングを操作してやればいいわけです。
 これが、マニュアルフォーカス(MF)一眼レフカメラでのピント合わせです。

 そして、ファインダー像に写る画像と同じ画像をレフレックスミラーから分光し、電気的に検出して最もシャープに見える位置にレンズの距離リングを自動的に回転するのが、一般的なAF一眼レフのAF機構です(もちろん距離リングが回転しないレンズもあります)。検出方法などにはさまざまなハイテクが駆使されています。
 しかしながら、いかなるハイテクが駆使されていても、最良のピントはピント面にしか合いません。そして、画面の中のどこにピントを合わせるかは、結局のところ写真を撮る人が決めなければならないのです。写真が "名作" になるように、ピントを合わせる被写体まで自動的に決定してくれるような便利なカメラは存在しません。

 ここでは、一眼レフカメラを使う上での基本的なピント合わせの方法を簡単に整理します。

2.1. AF一眼レフの場合

 AF一眼レフは、ファインダーの中心部などに見えるフォーカスエリアにある被写体がシャープに写るように自動的に作動します。これが基本です。
 ただし、フォーカスモードの選択によって、その機能の仕方が異なります。撮影目的にあわせて、選択してください。

2.1.1 [S] シングルAFサーボ(名称はメーカーによって異なります)

 被写体をフォーカスエリアに捉えて、シャッターボタンを半押しにするだけでカメラがピントを合わせて、その位置でフォーカスロックします。
 フォーカスがロックできるまでシャッターは切れませんが、シャッターボタンを半押しにした状態で構図を変化することができます。
 静止した被写体などを自由な構図で撮影するのに便利です。

2.1.2. [C] コンティニュアスAFサーボ(名称はメーカーによって異なります)

 シャッターボタンを半押しにしている間は、継続的・連続的にフォーカスエリアにある被写体にピントを合わせ続けます。
 そして、フォーカスエリアにピントが合っていようがなかろうが、シャッターボタンを全押しにすれば、いつでもシャッターが切れます。
 動いている被写体の撮影やシャッターチャンスを優先したい場合には便利です。

 ちなみに、「ニコン F60D パノラマ」、「ニコン U」、「ニコン Us」、そして、「ニコン プロネア S」には、[S] と [C] の特長を組み合わせた「オートAFサーボ」を搭載しています。
 これは、被写体が静止しているか動いているかをカメラが判断し、静止した被写体には [S] でピントを合わせるのでフォーカスロックが使えます。静止した被写体が動き出すと [C] に切り換えて、ピントが合ったらシャッターを切ることができます。

2.1.3. [M] マニュアルモード

 ファインダースクリーン像を観察しながら、自分でレンズの距離リングを操作します。
 フォーカスエリアにある被写体と、距離リングの調整のズレが三角マークなどで、合焦が●マークで表示される機種では、それらを参考にしてピント合わせをすること(フォーカスエイド、FA)も可能です。

 ちなみに、ニコンの超音波モーター (SWM) 内蔵のニッコールレンズ(AF-S Nikkor)群は、リング形状の超音波モーター内蔵レンズなのに、"MF" のためにボディから供給する電力を消費することはないという、アタリマエのようで当たり前ではない特長があるそうです。

2.1.4. その他の機能

 「ニコン F5」、「Nikon F100」、「Nikon F80」シリーズ、そしてデジタル一眼レフカメラ 「Nikon D1」シリーズ、「Nikon D100」などでは、フォーカスエリアが画面中心部とその周囲に 5 か所配置してあり、それらのどれにピントを合わせるかを、撮影者がフォーカスエリアセレクターで選択すること(シングルエリアAFモード)が可能です。
 また、5 か所のフォーカスエリアで検出した情報を活用することで、ピントを合わせたい被写体が突然動いた場合にも対応できる機能(ダイナミックAFモード)なども備えています。


写真2.

<写真 2.>
F100 の
フォーカスモード
セレクトダイヤル

写真3.

<写真 3.>
F5 の
AFセンサー配置
(イメージイラスト)

写真3a.

<写真 3.a.>
F5 の
フォーカスエリアセレクター

写真4.

<写真 4.>
F100 の
AF-L(AFロック)ボタン

使い方のコツ その1:AF がうまく作動しないケース

被写体が暗い場合、あるいは青空や白壁のようにノッペリした被写体の場合には、画像をうまく検出できず、AFが正常に機能しません。
 こうしたケースでは、MF でピントを合わせるか、フォーカスロック機能を使います。

使い方のコツ その2:フォーカスロック機能を使う

オートフォーカスでは、ピントを合わせたい被写体をフォーカスエリア(=ほとんどのAF一眼レフでは画面中心部にあります)に位置させるのが基本です。
 画面の端の部分にピントを合わせたい場合には、フォーカスロック機能を使います。
 [S] シングルAFサーボでは、シャッターボタンを半押しにするだけです。
 [C] コンティニュアスAFサーボでは、AF-L(AFロック)ボタンを操作します。

 これらが基本的なところでしょう。機種によっては、さまざまな機能がついていますので、撮影目的などに合わせてセッティングして上手く活用してください。

2.2. マニュアルフォーカス一眼レフの場合

 基本的には、前述したAF一眼レフのマニュアルフォーカシングと同様で、ファインダースクリーン像を自分の目でしっかり見て、被写体がシャープに見えるようにレンズの距離リングを調整するだけです。
 しかし、なかなかこれが難しいもので、慣れも必要ですし、あるいは忍耐も必要だったりします。

 MF一眼レフの一般的なファインダースクリーンは、マット面の中心部に更にスプリットイメージ and / or マイクロプリズムがついていますから、それらを観察することでピント合わせが比較的簡単にできます。
 これらは、オートフォーカスでいうフォーカスエリアのようなものですので、構図を工夫したい場合などでは、まずこの部分でピントを合わせてから構図を変化するようにします。
 ある程度慣れれば、画面周辺のすりガラス状のマット面と呼ばれる部分でも、ピント合わせをすることができますが、特に広角レンズ(焦点距離が短いので被写界深度が深い)の場合にはピント合わせは難しいものです。

写真5.a.

<写真 5.a>
New FM2 のファインダー内


図2

<図 2.>
New FM2 の交換可能なファインダースクリーン
左:スプリットマイクロ式(K2型:標準装備)、
中央:マット式(B2型:別売)、
右:方眼マット式(E2型:別売)

 ピントが良く判らないような場合には、レンズの距離リングをはじめは大きく交互に左右に回転し、ピント面の位置を大きく前後にズラしながらファインダースクリーンを注視し、すこしづつその範囲を狭めていくのがよい方法です。

2.3. ピント合わせに便利なアクセサリー

2.3.1. 接眼補助レンズ

写真6.

 一眼レフには接眼補助レンズ(<写真 6.>:右)と呼ばれるアクセサリーがあり、自分の眼の視度にあったレンズを接眼部に装着・使用することでファインダー像がよりはっきりシャープに見えるようになります。
 近視の人はマイナス表示のレンズを、老眼(遠視)の人はプラス表示のレンズを使います。数字が大きいものほど、視度が強いことを意味しています。単位はディオプターで眼鏡の度数と同じですが、これらはボディの光学系と合成した値です。

 自分の眼に合わせるためには、店頭などでカメラに実際に付けて選ぶ必要があります。そんなに高価なものではありませんから、視度の異なる数種類を揃えておいてもいいように思います。そうすれば自分の眼のコンディションにも合わせられるのではないでしょうか ?


写真7.

 一方、ニコン F5、F100、F60Dパノラマ、F80シリーズ、U、Us、プロネア S などは、視度調節機構を予めファインダーに内蔵しています。
 ファインダー内の表示がもっともよく見える状態まで操作ノブ(<写真 7.>:左)または、スライド式の操作レバーを動かして調整しておくことで、ピントなども楽に観察することができます。
 強度の近視ないし遠視で、ファインダー内蔵の視度調節機構ではカバーしきれないときには、前述の接眼補助レンズを併用します。

 残念なことに、乱視は補正できません(乱視の強さに応じたカマボコ状のシリンドリカルレンズを、クリックストップつきの回転枠にはめ込んだ "乱視補正レンズ" はできないものでしょうか ?)

2.3.2. アングルファインダー

写真8.

 地面に近い花の接写や複写などでは、カメラの位置の制約のためにファインダー像がうまく観察できません。

 ニコン F5、F3シリーズのような、ファインダーが交換できる機種ではこうした場合には、ウェストレベルファインダー、高倍率ファインダーに交換すると便利です。

 ファインダーが交換できない機種では、ファインダー接眼部にアングルファインダー(<写真 8.>は、アングルファインダー DR-4 (DK-12付き))を装着すれば、カメラの上方などからファインダー像を観察できます。

2.3.3. マグニファイヤー

写真9.

 超望遠レンズを使用したり、接写などでより厳密なピント合わせをおこないたい場合には、ファインダーが交換できる機種では、高倍率ファインダーに交換します。

 ファインダーが交換できない機種では、マグニファイヤー(<写真 9.>は、マグニファイヤー DG-2)
を接眼部に装着して使用します。これは画面の中心部だけを拡大して観察できるルーペのようなものです。蝶番が付いている商品であれば、画面全体を見る時は簡単にハネノケできます。

3. もっと近づきたい ! 接写の方法

 全ての写真レンズには、ある程度近づくと、ピントが合わなくなる限界があります。この距離(=フィルム面から被写体までの距離)のことを最短撮影距離といい、レンズの基本性能の一つとしてカタログなどにも記されています。
 余談ですが、デジタル(スチル)カメラでは、レンズ前端からの被写体までの距離を最短撮影距離として公表しているケースが多いようです。

 もともと接写用に設計されたマイクロレンズ(ニコン以外ではマクロレンズと呼びます)を使用すれば、一般的なレンズよりもさらに近づいて撮影することができ、至近距離でも良い画質の写真を得ることができます。
 しかし、それだけでなく、一般的なレンズでもっと近寄って撮影することも可能です。そうした方法を簡単に紹介します。レンズとアクセサリーとの組み合わせによっては、多少画質が低下したりすることもありますが、実用的にはそんなに問題になることはありません。画質の低下を最小限に抑えたい場合には、組み合わせと組み合わせ順などに注意してください。

写真10.a.

<写真 10.>AI AF 50mm F1.8S レンズの最短撮影距離(45センチ)で撮影
(以下の作例写真では全て同レンズをアクセサリーと組み合わせて使用)

写真10.b.

3.1. クローズアップレンズ

写真16.

 単純に言ってしまえば凸レンズで、いわばカメラのレンズにかける老眼鏡のようなものです。
 一般に、カメラメーカーの純正のタイプは、画質の低下を最小限にするような設計を施しているとされています。
 合成焦点距離やアタッチメントサイズ径(ニコン以外ではフィルター径とも呼びます)の異なるタイプがありますので、必要に応じて選択します。
 ニコンのクローズアップレンズでは、番号(No.)の大きな商品ほど、より接写ができます。

 クローズアップレンズのメリットとして、自動絞り機構、オートフォーカスなどの機能はそのまま使えることが挙げられます。なお、焦点距離の長い望遠レンズの方が大きな効果を得られます。


写真11.a.

<写真 11.>クローズアップレンズ(No.1)+ AI AF 50mm F1.8S

写真11.b.

 クローズアップレンズがなくとも、手直なところでは、虫眼鏡をレンズの前にぴったりくっつけて撮影するだけでも、ずいぶんな接写が可能になります(この場合には、MFで試してください)。

3.2. 接写リング(中間リング / エクステンションリング)

写真17a.

 前述したように、レンズ全体をフィルム面から遠ざければ遠ざけるほどに、近い被写体にピントを合わせることができます。
 そこで、レンズとボディの間に中空のリング(接写リング)を挟み込むことで、レンズの繰り出し量をより大きくして接写を可能にするわけです。

 長さの異なるタイプが幾つかあり、組み合わせて使うこともできます。


写真12.a.

<写真 12.>オート接写リング PK-13 + AI AF 50mm F1.8S

写真12.b.

 接写では、接写の度合いが大きくなる(=撮影倍率が高くなる)と画像が暗くなっていきますから、ピント合わせとブレなどには十二分な注意が要ります。

3.3. ベローズアタッチメント

 カメラボディとレンズの間を、伸縮自在の蛇腹を使ってつないで、レンズを連続的により大きく繰り出すことができるアクセサリーです。
 自在な接写が可能になるのはもちろん、スライド複写装置(ex. ニコン スライド複写装置 PS-6)などと組み合わせることでポジフィルムの複製(デュプリケート、デュープ)を作成することもできます。

写真13.a.

<写真 13.>ベローズアタッチメント PB-6 + AI AF 50mm F1.8S

写真13.b.

 後述のリバースアダプターと組み合わせて使用することで、画質の良い拡大撮影も可能になります(<写真 14.b.>参照)。使い方は少し厄介ですが、そんなに面倒というものではありません。

3.4. リバースアダプター

写真17b.

 一眼レフ用の標準〜広角レンズを、ボディに逆向き(=リバース)に付けるだけで、驚くような接写が可能になります。試しに広角レンズを手で持って、ボディに逆向きにそっと押し当てて、ファインダー像を観察してみてください......。
 これは、これらのレンズの主点がレンズ後方にある光学系(=レトロフォーカスタイプ)であるために、レンズを逆にすることで、レンズを余分に繰り出したような効果が生じるからです。

 リバースアダプターは、レンズの前枠のアタッチメント(フィルターなど)取付用のネジ溝を利用して、マウント部を取り付けるアクセサリーで、ニコンの商品では「BR-2A リング」がそれです。

 ただし、レンズを逆につけるとピント合わせができなくなりますから、カメラの位置を動かしてピントを合わせなければなりません。さらにほとんど全てのオート機能は使えなくなります。
 前述したベローズアタッチメントと併用すればピント合わせが容易になり、さらに大きく拡大して撮影できるようになります(<写真 14.b.>参照)。


写真14.a.

<写真 14.a.>
リバースアダプター(BR-2A リング)
+ AI AF 50mm F1.8S

写真14.b.

<写真 14.b.>
ベローズアタッチメント PB-6
+ BR-2A リング + Ai AF 50mm F1.8S

 この場合には、レンズを逆向きにセットすることで、レンズの先端と被写体との間の距離(ワーキングディスタンス)を長く取ることができたり、また良い画質の拡大画像を得られる効果もあります。

 さて、今回はこのへんで終わりにします。「ピントはAFカメラが自動的に合わせてくれるもの」と信じている人は多いかもしれませんが、結局は人が合わせるものなんです。特に接写の場合は、いろいろなやり方があり、それぞれにさまざまな個性があります。小さな物を大きく写すだけでも、相当楽しいものですよ。ぜひ試してもらいたいところです。
 そして、最後に付け加えておきたいのは、ピントが合っていない写真にも、妙な味わいというのがあるということ。ピンボケの写真だから駄作だというわけではありません。もっと自由に写真を楽しんでもらいたいとおもいます。

5. 時間を制御する「シャッター」

第5 回目 時間を制御する「シャッター」

似顔絵 写真を撮る時に「シャッター(レリーズ)ボタン」を押すのは常識ですよね。シャッター(Shutter)とは、商店やガレージのシャッターと同じ意味の英語ですから、カメラのシャッターもなんとなくイメージできるはずです。
 では、シャッターをレリーズする(=解放 or 開放する)ボタンを押すことで、いったいカメラの中では何が起こるのでしょうか ?
 さらに、一般的な一眼レフカメラでは「シャッター速度」を調速・選択することができますが、そうすることで写真写りの何が変わってくるのでしょうか ?

1. シャッターって何 ?

写真 0.

 カメラのシャッターとは、フィルムに当たる光をふだんは遮り、一定時間だけ通過させるための開け閉めできるフタのようなものです。
 大昔のカメラ(写真提供:日本カメラ博物館)では、レンズの前にフタを付けておき、撮影する瞬間にフタを取って、「ヒー、フー、ミー......」と時間を数え、適切な時間が過ぎたらフタを閉めて覆うようなことをやっていました。もっとも、こんな呑気なことができたのは、フィルムの感度がとてつもなく低く、昼間でも数十秒もの露光時間が必要だったからです(手作業による開閉時間の誤差など、数十秒もの露光時間の中ではとるに足らないのです)。
 余談ですが、現在でも天体写真を長時間露光で撮影するときなどでは、こうした方法をとることも。

 しかし、フィルムの感度がとても高くなった現在では、こんな悠長なことはできません。最近のカメラでは、数秒から数千分の 1 秒以上といった非常に短い時間だけ、シャッターが正確に開いて閉じるという、ほとんど神業のようなことがおこなわれています。

 現在のカメラに使われているシャッターは大別して、「レンズシャッター」と「フォーカルプレーンシャッター」という二つの種類があります。

 「レンズシャッター」は、レンズの近くにシャッター機構を置くもので(絞り機構を兼用しているものもあります)大判カメラや中判カメラ、コンパクトカメラのほとんどに採用されているシャッターです。
 一般には、レンズの内部、前方あるいは後方にシャッター羽根などの遮光機構を備えつけ、この羽根などの開閉で露光時間を調整します(レンズ付きフィルムに使われているのもレンズシャッターですが、それらはシャッター速度を 1/100 秒程度の単速に固定しており露光時間の選択・調整はできません)。
 なお、レンズにシャッターを組み込む / 組みつけるため、レンズ交換を可能にするためには別の遮光板などが必要になります。このためレンズ交換可能な35mm(135)判カメラには、現在ではほとんど使われていません。

 一方、現在の35mm(135)判とIX240判一眼レフに主に使われているシャッターは、「フォーカルプレーンシャッター」と呼ばれるものです。少し詳しく説明しましょう。

1.1. フォーカルプレーンシャッターの仕組み

 「フォーカルプレーン(focal-plane)」とは焦点面の意味で、つまりフィルムの直前にシャッターを置くタイプです。フィルムのすぐ前にシャッターがあり、レンズを交換するときに基本的には遮光の心配はありません。
 一般的なフォーカルプレーンシャッターは、光を通さない 2 枚(あるいは 2 組の羽根)の幕でできています。そしてこれら 2 枚 / 組の幕を、時間をずらして順に走らせることで露光時間を調速します。先に走る方を「先幕」(あるいは「前幕」)といい、後から走る方を「後幕」といいます。
 一眼レフの裏蓋を開けた時に見えるのが、このシャッター幕です(決して触ってはいけません)。

 シャッター幕が横方向に走るタイプを「横走り(左右走行式)フォーカルプレーンシャッター」と言います。
 横走り式のフォーカルプレーンシャッターでは典型的な「ドラム型シャッター」では、これら 2 枚の幕はゴム引きの布(羽二重の絹布など)あるいは金属(ステンレス、チタンなど)の薄膜でできています。

 シャッター幕が縦方向に走るタイプを「縦走り(上下走行式)フォーカルプレーンシャッター」と言います。
 まれに前述の 2 枚の幕の「ドラム型シャッター」もありますが、細長い金属(あるいは炭素繊維複合材やプラスチックなど)製のシャッター羽根を数枚づつ綴って、先幕と後幕の 2 組としたタイプ(「スクエア型シャッター」といいます)が最近の一眼レフカメラでは主流です。
 「ニコレックス F」に搭載された「コパル スクエヤ (I 型)」シャッターユニットがその名の由来である「スクエア型シャッター」は、先幕と後幕それぞれに、細長い羽根を何枚も少しづつズラして重ねたような作りになっていて、ちょうどエレベーターのドアを寝せたような状態で縦方向に開閉するようになっています。

 いずれにしても、非常にデリケートな部分ですから、くれぐれも絶対に触らないようにしてください。

写真1.a.

<写真 1.>
横走りフォーカルプレーンシャッターの例(ニコン F2)
先幕と後幕の 計 2 枚の幕は、チタン製

写真1.b.

<写真 2.>
巻き上げの途中に、先幕と後幕の境目が見えます

写真1.c.

<写真 3.>
縦走りフォーカルプレーンシャッターの例(ニコン F4)
(先幕と後幕の 2 組の幕は、各々アルミ合金製の羽根 2 枚と炭素繊維複合材料製の羽根 2 枚の計 4 枚で構成)

1.2. シャッターレリーズボタンとシャッター

 シャッターレリーズボタンを押すことで、シャッターが開き、そして閉じます。その間、フィルムに光が当たります。フィルムが露光される。つまり写真が撮れるわけです。
 一眼レフのファインダーを覗きながら、「今、この瞬間だ !」といった決定的瞬間を撮影したいとは、誰でもが思うはずです。しかし、これがなかなか難しいですね。まあ、基本的には「今、この瞬間か、あるいはもうちょっと先か ? 」と迷う心が一番の問題なのですが、"決定的瞬間" を捉えるために、一眼レフ特有のデメリットの存在も念頭においてもらいたいと思います。
 一つには、一眼レフカメラは内部のレフレックスミラーによってファインダー像を観察するというややこしいシステムを採っていることがあります。つまり、シャッターボタンを押すと、まずミラーを跳ね上げて、それからやっとシャッターの先幕が走りはじめるのです。機種によっても異なりますが、この間、約 1 / 20 秒(=50ミリ秒)程度は必要です(「半透明のハーフミラーを固定した一眼レフカメラならば(測距・測光を終えたあとの)シャッターレリーズボタンを押してからシャッター幕が走るまでの時間差(タイムラグ)が短い」といわれるのは、ここに理由があります)。
 もっと言えば、人がシャッターボタンを押そうと頭で決めて、指先が動きだすまでの時間だって、速い人でも数十分の一秒程度は必要らしいですから、とにかくは一呼吸早めのシャッター操作は必要です。

 そしてもう一つ肝心なこと。それは、一般的な一眼レフカメラでは、シャッターが開いている瞬間、つまり撮影されている瞬間の画像がファインダーでは確認できません。シャッターが開いている瞬間は、ファインダー像を得るためのレフレックスミラーが跳ね上がっていて、もとに復帰(クイックリターン)するまで時間がかかるからです。
 一眼レフカメラで撮影していて、ファインダーがまばたき(ウインク)をするように感じるのは、このためです。
 もっとも、一般的な撮影で、これらが問題になることはほとんどありませんが、頭の片隅にでも覚えておくと、本当の「決定的瞬間(by アンリ・カルティエ・ブレッソン)」が撮れることが多くなるかも......。

<写真 4.a.〜h.>シャッターレリーズボタンを押してから、シャッターが開くまで......。

写真 4.a.

<写真 4.a.〜b.>シャッターレリーズボタンを押した瞬間。
レフレックスミラーによってファインダー像を観察できます。

写真 4.b.
写真 4.a.

<写真 4.c.〜d.>レフレックスミラーが跳ね上がっていく瞬間。
この時、ファインダー像は暗転し見えなくなります。

写真 4.b.
写真 4.a.

<写真 4.e〜f.>ミラーが跳ね上がり終わった瞬間。シャッターの先幕の羽根が見えます。
この時も、ファインダー像は見えません。

写真 4.b.
写真 4.a.

<写真 4.g〜h.>シャッターの先幕が走行して、フィルムに露光している瞬間。
この時も、ファインダー像は見えません。
この後、後幕が走行しシャッターは閉じ、レフレックスミラーは元の位置に自動復元します。

写真 4.b.

2. シャッター速度で何が変わるのか ?

 シャッター速度(スピード)が、写真写りに大きく影響することは、ご存じのはずです。ここでは、まずシャッター速度とは何か ? そしてそれを変えることで、写真写りの何が変わるのか ? を簡単に整理します。

 [P] プログラムモードなど多くの人々が使う全自動モードでは、カメラが自動的にシャッター速度を設定します。自分でシャッター速度を選択するには、シャッター速度優先モード([S]モード(メーカーによっては[Tv]モード)か、[M]マニュアルモードで撮影します。

2.1. シャッター速度って何 ?

 カメラのシャッター(速度)ダイヤルや液晶ディスプレイに表示されている(機種によって異なります)数値がシャッター速度です。つまり、1 秒より速いシャッター速度では、(1 / 表示されている数値)秒だけシャッターが開き、フィルムに光が当たります。「500」の表示なら、1 / 500 秒だけシャッターが開いているわけです。
 シャッター速度が1秒以上の場合は、ダイヤル式なら一般に別色で表示され、液晶表示なら S(second =秒)の文字が出ます。
 一般的なカメラでは、シャッター速度は次のように設定できます(機種によって、これらの中間速度を設定できるものや、無段階に自動調整するものも)。

....4 - 2 - 1 -1/2 - 1/4 - 1/8 - 1/15 - 1/30 - 1/60 - 1/125 - 1/250 - 1/500 - 1/1000 - 1/2000 - 1/4000 - 1/8000(秒)......

 基本的に、半分に、そのまた半分に(逆に見れば倍々の "倍数系列" に)なっていることにお気づきでしょう。この半分半分(あるいは倍々)の一つのステップを「1 段」、二つ分なら「2 段」などといいます。写真の露出を考える上で大切なことなので、覚えておいてください(詳細は、6 月の 8 回目「「露出」の基礎知識」で紹介します)。

 シャッター速度表示(指標)には、こうした数字以外に T、B、X といった表示(指標)もあります。

  • T(タイム)
     シャッターレリーズボタンを押すと先幕が開きます(シャッターボタンを戻してもそのままの状態が続きます)。そして、もう一度ボタンを押すことで(機種によってはシャッターダイヤルを回転することでも)後幕が走って閉まります。
     数分といった長時間露光に便利です。
  • B(バルブ)
     シャッターレリーズボタンを押し込んでいる間だけ、シャッターが開きます。シャッターボタンを戻すとシャッターが閉まります。数秒といった長時間露光に便利です。
  • X あるいは "イナズマ" マーク(シンクロ同調シャッター速度 / X 接点)
     スピードライト(エレクトロニックフラッシュとも呼びます)で撮影する際に選択できる最も速いシャッター速度です。
     シャッターの構造によって同調(シンクロナイズ)できるシャッター速度の上限が異なります。スピードライト撮影は、この X 速度以下の遅いシャッター速度でおこないます。なぜ、これよりも速いシャッター速度ではスピードライト撮影が上手くできないのか ? 少し詳しく説明しましょう。

     フォーカルプレーンシャッターでは、先幕と後幕の2 枚 / 組の幕を時間をずらして走らせてシャッター速度を調整します。誤解しやすいのですが、現代のカメラではシャッター幕の走行速度(=幕速といいます)を変えて露出時間を調整することはまずやりません。幕は画面を千分の数秒(=数ミリセコンド)の、ほぼ均一な速度で横切ります。
     では何を変えるのか ? というと、先幕と後幕のスタートの時間差です。つまり、先幕が走りだしてから、設定したシャッター速度の時間だけ遅らして後幕を走らせるわけです。
     シャッター速度をより速く設定すると、前幕(先幕)の後端と後幕の先頭の間の空隙は24×36ミリ(=135判での数値)から徐々に狭まり、ついには細長いスリット状を形成してフィルムの前を走ることになります(イラスト1. 参照)。

     このような速すぎるシャッター速度でスピードライトを同調・発光して撮影するとどうなるでしょう ? スピードライト光は一瞬だけ光る閃光ですから、135判の場合だとその画面(24×36ミリ)の一部分(スリットの部分)しか露光できないのですね。ですから、シャッターが全開になっている瞬間に合わせてスピードライトを同調・発光しなければならないわけです。
     このようにシャッターが全開になる瞬間があるシャッター速度のなかで最も速い速度設定が X(シンクロ同調シャッター)速なのです。

     ここ二十年来のカメラと専用スピードライトの組み合わせでは、充電完了の電気信号をスピードライトから受け取ったカメラは、X 速を超えない範囲でシャッター速度を自動設定する機能が普及しています(機種によって異なります)。
     ですので、シャッター速度を撮影者が自分で決めてスピードライト撮影する場合には特に注意を要します。

図 1.

<イラスト1.> シャッター速度が「遅い」場合と「速い」場合の
シャッター幕の動き(図は横走りタイプ)。
「赤」が先幕、「青」が後幕の動き。
「赤」と「青」のあいだのスキマというか、空「白」に注目 !

2.2. シャッター速度と写真の明るさ

 シャッター速度を遅くすればするほど、光がフィルムに当たる時間(露光時間)は長くなります。つまり、フィルムに当たる光量が多くなり、明るい写真が仕上がるようになります。これが基本です。
 よく、「暗い場所では写真は撮れない」と思い込んでいる人がいますが、これはあまり正しくありません。いくら暗い場所でも(もっとも人の眼で見えるくらいの明るさは必要ですが)、シャッター速度を極端に遅くできれば、いくらでも明るい写真を撮ることができます。淡い月の光でもきれいな風景写真を撮ることができます。懐中電灯の光でも写真を撮ることができます。

 もちろんのことですが、このような場合には、被写体は動かないものでなければなりません。
 また、カメラは三脚などでしっかり固定し、リモートレリーズあるいはセルフタイマーなどでシャッターを操作しなければなりません。しかし、たったこれだけで、夜景など暗い被写体を非常に美しく撮影できます。一度試してみてください。
 街の明かりなどの人工光が画面の中に入っている場合には、カメラの露出機構の指示よりも露出をかなりオーバー目に(=シャッター速度を長く)して撮影するのがコツ。というよりも、見た目よりも明るく(=露出オーバーに)写った夜景は、意外なほど美しく見えます。
 余談ですが、フィルムは、長時間の露出をかければかけるほど、かけた時間の割合に応じては写らなくなってしまう(=実効感度が徐々に低下していく「相反則不軌」現象)ので、かなりオーバー目の露出時間をかけるのは、理にかなった "コツ" なのです。

<写真 5.a.〜c.> シャッター速度を遅く設定すれば、暗い夜景も明るく写せます。

写真 5.a.

オートで撮影

写真 5.b.

絞りは変えずに、シャッター速度を 2 倍(1段分)遅く

写真 5.c.

絞りは変えずに、シャッター速度を 4 倍(2段分)遅く

2.3. シャッター速度とブレ

 シャッター速度を遅くしていっても写真は写ります......。でもブレますね。
 被写体が動いていれば、被写体がブレて写ります。
 カメラが動いた場合には、画面全体がブレて写ります。
 これらのブレが見えない写真を撮影するには、被写体の動きを固定したり、カメラもしっかり固定する必要があります。
 特に撮影倍率が大きい撮影(ex. 望遠レンズを用いた撮影、接写撮影など)ほど、ブレが大きく目立ちます。カメラの保持にも注意し、一脚や三脚などを使うなど工夫したいところです。
 手持ち撮影でブレが目立たないとされるシャッター速度設定の一つの目安として、「(1 / 焦点距離mm)秒以上で撮る」というのがあります。例えば「200mm 望遠レンズでは、1 / 200 秒以上で撮影すれば、まあ大丈夫かな」というわけです。正直なところを言えば、私(久門 易)はこれよりも数段速いシャッター速度で撮らないとダメなようなのですが......。
 とにかく、できるだけ速いシャッター速度で撮影すれば、ブレのない、一瞬を止めたような写真を撮ることができます。

<写真 6.> シャッター速度によって、被写体の動きの描写は変わります。

写真 6.a.

1 /1000 秒

写真 6.b.

1 / 60 秒

写真 6.c.

1 / 4 秒

3. シャッター速度設定の応用技

 シャッター速度を調整することで撮影できる、ちょっとおかしな写真を紹介します。きっと「なんだコレ !」と思うでしょうが、ホンモノ(!?)ではありません。どのようにして撮ったのか考えてみてください.....。

 こうした写真を撮るには、露出を正しく合わせるにはフィルム感度や絞り値などにも注意する必要がありますが、まずはカメラを、[S] シャッター速度優先モード(メーカーによっては、Tv モードとも呼びます)にセットして、チャレンジしてみてください。はじめは上手く撮影できないことも多いでしょうが、失敗しても諦めないでほしいと思います。

3.1. 長時間露光

 2.2. で述べたように、夜景や暗い場所での撮影では、シャッター速度を遅くすればかなりのところまで明るい写真を撮ることができます。
 ただし、ある程度以上暗い場合には、露出計が機能しないことがあります。この場合には、露出(シャッター速度)を極端に変えてテスト撮影をしてください。前述したように、シャッター速度は倍々に変えるのが基本です。2 分の次は 4 分、その次は 8 分という具合です。もちろん、三脚とリモートレリーズ(あるいはセルフタイマー)の使用が基本です。

 被写体の動き(動感)の表現には、被写体の動きの速さに合わせてシャッター速度を遅くします。条件によってさまざまですが、車のスピードなら 1 / 125 秒、人が歩くスピードなら 1 /15 秒を一つの目安にしていいと思います。
 このような場合、ファインダーの中で被写体を追いかけるように撮影すれば、背景は流れて被写体だけは止まって写ります。この技法を「流し撮り」などといいます。

 川の流れなどを表現したい場合には、1 / 4 秒以下でいいでしょう。

 明るい場所で長時間露光をおこなう場合には、低感度のフィルムを用いたり、NDフィルターを用いるなどしないと露出オーバーになることがあります。注意を(APS(IX240)判カメラで、MRC機能搭載の機種ならば、撮影途中でもフィルムを交換できて便利です)。

写真 7.

<写真 7.> "ろくろ首"

写真 8.

<写真 8.> "エクトプラズム"

3.2. 多重露出(露光)

 多重露出(露光)機能搭載のカメラなら、簡単に画像を重ねて撮影することができます。こうした機能がついていないカメラでも、少し面倒ですが、多重露出をする方法がある場合もあります(詳しくは「使用説明書」で確認してください)。

 多重露出とはつまり、同じフィルムのコマ上に 2 回以上露出を与えるものです。いい方を変えれば、同じフィルムのコマ上でシャッターを 2 回以上開けるということです。操作自体はそんなに難しいものではありません。
 基本的に自動露出だけでは上手くいきませんが、単純にシャッター速度を足し算するような考え方で O.K.です。例えば、「1 / 250 秒で 2 回の多重露出」は、1 / 250 秒+ 1 / 250 秒=「1 / 125 秒の露出」(1 回)分と同じことになります。
 ネガフィルムを使うなら 1〜 2 段の露出オーバーはさして大きな問題ではありませんから、割と気軽におこなえます。自動露出で 2 回撮影する場合は1段の露出オーバー、4 回撮影して 2 段の露出オーバーになります。

 花火の撮影でも多重露出は極めて有効です。ISO 感度 100 のフィルムなら、絞りをf/8 程度にし(=絞りで花火の明るさが決まります)、シャッター速度は 1 秒程度(=シャッター速度で花火の流れの長さが決まります)で撮影します。これで多重露出すれば、いくつもの花火が同時に上がったような写真になります。背景はほぼ真っ黒の空ですから、B(バルブ)で長時間露光をしても O.K. です。
 多重露出で良い結果を得るには、構図のどの部分に何を写したのかをしっかり把握・記憶しておく必要があります。でも、まあ、いろいろ試しにやってみると意外な発見があるものです。
 気軽にチャレンジしてください。

写真 7.

<写真 9.> "千手観音"

写真 8.

<写真10.> "背後霊"

 ちょっと駆け足になってしまいましたが、今回はこれで終わり。とりあえず [S] シャッタースピード優先モード(あるいは [M] マニュアル露出)でいろいろ試してみてください。
 何にしても、いい結果を得るには「運」か「慣れ」が必要です。失敗しても諦めないで、何度でもチャレンジするのが一番の早道でしょう。というよりも、失敗から学ぶ経験によってのみ、自分でしか撮れない写真が撮れるようになるのです。
 「失敗せずに撮れる写真は、基本的に誰にでも撮れる写真だ」というような気もします。

6. ボケが変わる「絞り」

第6 回目 ボケが変わる「絞り」

似顔絵 一眼レフのレンズには「絞り」があって、これを開けたり絞ったりすることでフィルムに当たる光の量を調整しています。また、「絞り」を調整するとピントの合っていると見倣(みな)せる範囲(被写界深度)も変わります。「絞り」を絞るほどにピントの合う範囲が広くなり、逆に「絞り」を開ければピントは狭い範囲にしか合わなくなります。これらは写真撮影の基本ですが、よくよく考えると不思議なことばかりです。

 今回は、こうした「絞り」の不思議に迫ります。

1. 絞りって何 ?

 人や動物の眼の中には「虹彩(iris)」と呼ばれる絞りがあり、虹彩で形づくられる孔(貫通している "穴" を特に "孔" といいます)を「瞳孔(どうこう)」と呼ぶことはご存じですね。
 瞳孔は、明るい場所では径は小さく、暗い場所では径は大きくなって、網膜に当たる光の量を調整しています。
 人の眼の色はひとそれぞれですが、これは虹彩の色の違いによるものです。虹彩の表面にあるメラニン色素の密度が低いと青く、密度が高いと茶色や黒になるそうです。
 人の眼の虹彩は径の大小が同心円状に変化するため、瞳孔はいつも円形です。しかし、猫の眼は垂直方向に長いスリット状に変化し、馬では水平方向に長い楕円形になります。また、ハート形、ひし形、ひょうたん形の瞳孔の動物もいるそうです。これらは、それぞれの動物の生活に役立つように進化したものだといえるでしょう。

1.1. 絞りのつくり

 一眼レフのレンズの絞りは、数枚から10数枚程度の黒い絞り羽根を動かし、人の眼と同じように口径を同心円状に変化するつくりです。このような絞りを虹彩絞り or アイリス絞りと言います(映画やビデオ撮影では絞り(広義には露出)のことをアイリスと呼ぶことが多いようです)。

いきなり余談ですが、

絞りの開口のかたちは真円に近い方が、
絞り羽根の枚数は偶数枚より奇数枚のほうが(=正奇数角形の開口のほうが)、

ボケはきれいに写るそうです。

 本題に戻って、英語ではカメラのレンズの絞りを "diaphragm" といいますが、障害物とか詰め物の意味をもつ "stop"、あるいは孔を意味する "aperture" も絞りを意味する単語として使われています。
 絞り優先AEモードを [A] モード(メーカーによっては [Av] モード)というのは、この "aperture" の頭文字から取ったものです。

 現在の一眼レフのレンズの絞りは、ファインダーを観察している間は常に開放になっています。このため明るい像を観察でき、さらにピント合わせも容易です。
   シャッター(レリーズ)ボタンを押すと瞬時に、設定した絞り値になるまで絞り羽根が動き、同時にボディではレフレックスミラーが上がり、シャッターが開きます。シャッターが閉じると、ミラーが元の位置に復元し、レンズの絞り込まれた絞り羽根も元の開放状態に戻ります。あっという間の出来事ですが、結構ややこしい作動です。

 「ファインダー像と実際の写真写りが違う」印象を持つことがあるはずですが、原因の一つがこの絞りの作動の仕方にあります。ファインダーの像は開放絞りで観察し、実際の写真は絞りを絞った状態で撮影しているときなどはとくに印象の食い違いが生じるわけです。

 一眼レフカメラによっては、絞り込み(プレビュー)機構搭載の機種もあり、この機能を使えば、事前に絞りを絞った状態のファインダースクリーン上の像を観察できます。
 実際に絞り込むと像は暗くなりますが、被写界深度などを正しく確認できます。
 ただし、厳密にはファインダースクリーンのマット面の性質によって、ファインダー像は、実際の写真写りよりも少しピントが良く(=被写界深度が深く)見えるようです。

<写真 1.a.〜1.c.>レンズの絞り羽根(Ai AF Nikkor 50mm F1.8)

photo1.a.

<写真 1.a.>
このレンズには絞りリングがあり、一眼レフカメラに装着しない状態で絞りリングを操作すると、絞り羽根が動きます(メーカーによって異なります)。
絞りリングを操作して f 2 に設定。

photo1.b.

<写真 1.b. >
絞りリングを操作して f 8 に設定

photo1.c.

<写真 1.c.>
絞りリングを操作して f 22 に設定

1.2. F 値とは何か ?

 絞りの大きさを示す数値に F 値(f - number)があり、多くのカメラやレンズでは次のような数値の系列になっています。

...1, 1.4, 2, 2.8, 4, 5.6, 8, 11, 16, 22, 32, 45, 64, 90......

 一見、妙な数値の羅列に見えますが、一つ飛ばしに見ていくと倍々になっていることに気づくはずです。つまり、これは、√2 ≒1.41421356......の倍数の系列なんですね。では、この数値が何を意味しているかというと、レンズの焦点距離(f)を絞りの直径(d)で割った値です。つまり、F = f / d というわけ。本連載の初回に、ピンホールカメラを紹介しましたが、この時の F 値と同じような考え方です。
 少しややこしい話ですが、レンズを通過する光量(像の明るさ)は、絞りの面積に比例します。つまり、F 値の 2 乗に反比例します。つまり、上の系列で F 値が一段大きくなるごとに光量は半分々々になっていくのです。

 ちょっと余談ですが、像の明るさが正確に F 値の 2 乗に反比例するのは、被写体が光軸上にあり、しかも被写体との距離が十分に長い時(=撮影倍率が十分に小さい時)だけです。撮影倍率を m とすると、正確な像の明るさは F(1 + m)の 2 乗に反比例します。このため中間リングやベローズなどを用いた接写などでマニュアル撮影をする場合には、+ 側(オーバー)の補正が必要になります。このように補正した実質的な F 値を「有効 F 値」と呼びます。もっとも、カメラの TTL 露出計で測光する場合には、こうした補正を考慮する必要はまったくありません。

 また、コンパクトカメラなどに使われる安価な広角レンズと距離計連動式カメラ用の高価な広角レンズの一部には、画面周辺部の光量が目立って低下する(=画面の四隅が暗く写る)ものがあります。

 なお、F 値には、レンズのガラスに実際に吸収される光は考慮されていません。実用上の問題はまずありませんが、同じ F 値のレンズだからといって、必ずしも像の明るさは厳密に同じではありません。

 レンズの絞りを開放にした時の F 値を、開放絞り値(開放 F 値)といい、レンズの重要な属性として名称にも記されています(例えば、1 : 1.4, F 1.4, f / 1.4 など異なる表記の仕方があります)。逆に、最も絞った F 値を最小絞り値といいます。これはカタログなどに表示されています。
 開放 F 値の小さいレンズを使えば、明るい像を得ることができます。このため暗い場所での撮影に有利な他、背景などを大きくボカした写真を撮影するのに適しています。ただ、開放 F 値を小さくするには口径を焦点距離に比例して大きくする必要がありますから、レンズは大きく重くなり、設計も困難で、価格も高くなるのが普通です。こうしたレンズを、「明るいレンズ」と呼ぶことがありますが、レンズ自体の透過率が高いわけではありません。
 英語では「ハイスピードレンズ」ともいいます。

 これまた余談ですが、写真レンズの理論的な最大の明るさは F = 0.5 です。口径の大きなレンズを作ればよさそうですが、そういうわけにはいかないようです。

2. 絞りで何が変わる ?

 前述したとおり、絞り(値)を変えると像の明るさが変わります。と同時に、ピント面の前後のピントが合っていると見倣(みな)なせる範囲(被写界深度)も変わります。これは、一眼レフカメラの使用説明書にも必ず記載されており、まあ、常識といっていいでしょう。
 レンズあるいはカメラを操作して絞り(値)を変えるのは簡単ですが、それで撮影目的や被写体のあり方とマッチしたいい写真に仕上がるかどうかは、意外に難しいものです。とりあえずは、マニュアルモードか [A] 絞り優先AEモードにして、絞り(値)をご自分で調整することを覚え、なおかつできるだけ大きな幅で絞り(値)を変えて撮影してみることから始めてください。1 段や 2 段の絞り(値)の変化では、思ったほどの効果の変化が得られない場合が多いでしょう。
 まずは試しに、1.)開放絞り(値)、2.)最小絞り(値)、3.)それらの真ん中あたりの F 値の計 3 枚を撮影してみると、はっきりした違いを実感できるはずです。

2.1. 絞りと明るさ

 [M] マニュアル露出モードで、シャッタースピードは変えずに絞り(値)だけを変えて撮影し、<写真 2.a.〜c.>に示しました。

 f 5.6 の<写真 2.b.>が標準的な露出で、f 2 の<写真 2.a.>は + 3 段の露出オーバー、f 16の<写真 2.c.>が - 3 段の露出アンダーです。

 +/- 3 EV の総計 6 EV 変えた両極端でも、画像は確認できます。写っていないというわけではありません。というよりも、ポートレートとして見た時、+ 3 段もオーバーの<写真 2.a.>が一番いいように見えたりもすることも......。

 といった次第で、「絞り(値)は思い切って変えて、仕上がりを見比べるところからスタートするのが一番」というわけです。

<写真 2.a.〜c.> 絞りによる露出の変化(Ai AF DC Nikkor 135mmF2)

photo2.a.

<写真 2.a.>
f 2 で撮影(+ 3 段露出オーバー)

photo2.b.

<写真 2.b. >
f 5.6 で撮影

photo2.c.

<写真 2.c.>
f 16 で撮影(- 3 段露出アンダー)

2.2. ボケと被写界深度

 <写真 3.a.〜c.>は、<写真 2.a.〜c.>と同じ条件で撮影したものですが、[A] 絞り優先AEモードにしてシャッタースピードも同時に変えて露出を適正に揃えたものです。
 背景のボケ方に大きな違いがあります。絞りを開けた<写真 3.a.>では背景が大きくボケ、絞りを絞った<写真 3.c.>では背景のボケが小さくなっています。このように、絞り(値)の調整で、ピントを合わせた被写体の前後のボケの大きさを変化できます。
 このボケの大きさは、基本的に絞りの直径(d)に比例します。つまり、F 値に反比例し、レンズの焦点距離(f)に比例するわけです。
 また、ピント面と被写体とのズレが大きくなればなるほど、ボケも大きくなります。

 被写界深度とは、このボケが小さくて、あたかもピントが合っているように見倣せる範囲のことです(第 4 回の 1.1. ピント面と被写界深度 の図 1 参照)。つまり、絞りを絞り込むほどに被写界深度は深くなります。
 このように、絞り(値)に応じて被写界深度が変わるのは、被写体の前後のボケの大きさの変化の裏返しなのです。
 このため、被写界深度は 1)絞り値の他に、2)レンズの焦点距離や 3)撮影距離によっても変わります。
 基本的には下表のとおりですが、特に望遠レンズ(=焦点距離が長い)や接写(=撮影距離が短い)の場合には、被写界深度は大変浅くなり、ピント合わせに慎重を要します。
 また、被写体より手前の方が、奥よりも大きくボケるため、被写界深度は近くに短く(浅く)、遠くに長い(深い)性質もあります。しっかり覚えておくとよいでしょう。

被写界深度

<写真 3.a.〜c.> 絞りによる被写界深度の変化(DC Nikkor 135mmF2D)

photo3.a.

<写真 3.a.>
f 2 で撮影(背景に注目)

photo3.b.

<写真 3.b.>
f 5.6 で撮影

photo3.c.

<写真 3.c.>
f 16 で撮影

2.3. ボケを制御する、面白レンズ

 本題とは直接は関係ありませんが、非常に興味深いレンズを紹介しておきます。
 「AI AF DC Nikkor 105mm F2D」および「AI AF DC Nikkor 135mm F2D」は、「DC(デフォーカス・コントロール)機能」を備えています。デフォーカスというのは要するにボケのことで、要するにボケをコントロールする機能付きレンズなのです。
 このレンズは、「好ましいボケ味」とは、「点光源がきれいな円形にぼけ、ボケの中心に芯があって充分な解像力を持ち、その中心をハロ(=軟らかい光の滲み)が取り囲む、そしてその輪郭がソフトに減衰し、エッジをはっきり出さない」と仮定したうえで、各人各様の好みが異なるボケ味を可変としています。
 鏡筒にはおなじみの絞りリングの他に「DC リング」があり、これを F(Front)側にセットすると被写体の手前が大きくボケ、逆に R(Rear)側にセットすると被写体の奥が大きくボケます。レンズの球面収差を変えることで、被写体の前後、あるいは被写体そのもののボケを微妙に調整する仕組みです。
 この「DC リング」には F 値のような数値が記されていて、撮影絞り値よりも大きな数値にすれば、被写体そのものもソフトフォーカスのような描写になります。
 「DC リング」は調整する度にピントを合わせなおす必要があります。
 「DC リング」を操作しても、ファインダースクリーン上での観察では、ほとんど違いは見えませんが、実際の撮影結果にはかなりの違いが出ます。
 特にポートレート撮影には、使い手のある面白いレンズといえるでしょう。

<写真 4.a.〜c.> デフォーカス機能(AI AF DC Nikkor 135mmF2D)

photo 4.a.
photo 4.b.

<写真 4.a.>
前ボケ優先モード:「DCリング」を「F」側にセット(絞り値は、開放のf 2 で撮影)

「正」の球面収差を発生させると、前景からの光は像の中心に核を持ち、その周囲をハロが取り巻いて、全体として軟らかなボケ像に(=光のエネルギーの集中する「火面」が 1 つになり、ピント面より前方ではエネルギーが芯近傍に集中、周辺部はなだらかに減衰するため)。一方、後景からの光は円環状のエッジのボケ像になる。

photo 4.a.
photo 4.b.

<写真 4.b.>
通常モード:「DCリング」を「0」にセット(絞り値は、f 2 )

球面収差をほぼ完全に補正しているので、光のエネルギーの集中度を示す「火面」は 2 つでき、前景と背景が比較的似かよったボケ味に。

photo 4.c.
photo 4.d.

<写真 4.c.>
後ボケ優先モード:「DCリング」を「R」側にセット(絞り値は、f 2)

「負」の球面収差を発生させると、背景からの光は中心に核を持った柔らかなボケ像に(=「火面」が 1 つになり、ピント面より後方ではエネルギーが芯近傍に集中して、周辺部はなだらかに減衰するため)。一方、前景からの光は円環状のエッジのボケ像になる。

3. 絞り設定の応用ワザ

 一般的なレンズの絞りは、だいたい 7 段分くらいの範囲で変えることができます。
 上述の 2.2.の<写真 3.a.〜c.>の場合で、6 段分の変化で、かなりの描写の違いがあることは確かですが、だからといって冷静な眼で見ると「だから何なんだ ?」といった気分になることも......。
 こうした次第ですから、絞りによる写りの変化というのは、ある意味では些細(ささい)なことなのです。こだわりだしたらキリがありませんが「だからどうした !?」といわれれば答えに窮します。
 というわけで、絞りの性質を有効に使うための常套手段を二つ、それからちょっと難しいけれど意外な効果を得られる「手作り絞り」をご紹介しましょう。

3.1. 望遠レンズを開放絞りで使う

photo 6.

 ポートレート撮影では大変よく使われるテクニックです。焦点距離が長い望遠レンズはそれだけでも被写界深度が浅いのですが、開放絞りを選ぶことで被写界深度をさらに浅くし、背景や前景を大きくボカし、被写体だけにピントを合わせて撮影するものです。
 <写真 6.>は、300mm F2.8 レンズにて、その開放絞り値 f 2.8 で撮影しました。
 とはいえ、被写体と背景または前景がほぼ同じ距離にある場合(=壁にもたれかかった人物を真正面から撮影するときなど)には、思ったような効果は得られません。ピントを合わせたい被写体とボカしたい背景や前景との距離をできるだけ大きく離すのがコツです。この距離さえ十分にとれるなら、35mm(135)判で焦点距離 50mm 内外のいわゆる標準レンズでも、かなり大きな効果が得られます。

3.2. 広角レンズを最小絞りで使う

 焦点距離が短い広角レンズは、被写界深度が大変深いのが特徴です。レンズ付きフィルムやコンパクトカメラには主に広角レンズが使われる理由のひとつは、被写界深度の深さを活かし、ピント合わせ機構の簡略化あるいは省略が可能だからでは(!?)。
 こうしたわけで、必ずしも最小絞り(値)でなくてもいいですが、できるだけ絞り込んで撮影することで、手前から奥までおしなべてにピントの合った写真を撮影することができます。

 コツは、ピントを合わせたい手前と奥の間にレンズの距離を合わせることです。手前から 1 / 3、奥から 2 / 3 くらいがもっとも効率的です。
 そのようなポイントに AF でピントを上手く合わせることは難しいとき(例えば、フォーカスロックに適したよい目標が見当たらないとき)には、レンズの鏡筒の被写界深度表示(目盛り:残念なことにこの表示を省略した AF レンズが最近どんどん増えています)を参考にして、マニュアルでピントを合わせる方が具合がいいでしょう。

 ちなみに、レンズ鏡筒の被写界深度表示の省略に先鞭をつけたあるメーカーには、"ピントを合わせたい範囲の一番手前で 1 回、そして一番奥で 1 回、シャッターボタンを半押しして入力、改めて構図を決めてからシャッターをレリーズするだけで、あとはカメラが適切なピントと絞り値(とシャッタースピード)を選んでくれる"=「深度優先AE(DEP)モード」という、なかなか便利な機能を搭載しているAF一眼レフカメラがあります(基本的にかんたんに上手く撮れるモードなのですが、スローシャッターにはご注意 !)。
fig.1

<図 1.>
被写界深度を有効に使うには、レンズの距離目盛り(昨今のAFレンズでは省略されているものも)を、ピントを合わせたい手前から 1 / 3、奥から 2 / 3 くらいに合わせます。


photo 7

<写真 7.>
18mmF2.8 レンズにて、その最小絞り値(f 22)で撮影

 無限遠が被写界深度の遠い方にぎりぎり入る距離を「過焦点距離」といいます。撮影する F 値に合わせて、この距離にレンズの距離目盛り(昨今のAFレンズでは省略されているものも......)を合わせておけば、無限遠からかなり手前までかなり広範囲にピントが合います。これは、マニュアル・フォーカスでのスナップ撮影には大変有効な手法です(くれぐれもスローシャッターによる手ブレにはご注意 !)。

3.3. 「手作り絞り」で、ボケの形を変える

 レンズの前枠に手作りの絞りを付けることで、ボケの形を変えることができます。
 手作り絞りの形や向きが、そのままボケになって写ります。作例のようにイルミネーションなどの点光源などのボケを、さまざまに演出することができます。
 「手作り絞り」の大きさやレンズの焦点距離などによっては、画面がケラれる場合もありますから、ファインダーで確認しながらいろいろ試してみてください(=焦点距離の長い望遠レンズを使用し、「手作り絞り」の孔は小さめにしたほうが具合がいいようです)。
 なお、レンズ本体の絞りはできるだけ開け、[A] 絞り優先AEモードで撮影してください。

<写真 8.a.〜c.>「手作り絞り」でボケの形を変えた例

photo 8.a.
photo 8.b.

<写真 8.a.>85mm F1.4 レンズを使って開放絞り(f 1.4)で撮影

photo 8.a.
photo 8.b.

<写真 8.b.>同レンズに「猫の目」のような「手作り絞り」を装着(絞り値は f1.4)

photo 8.e.
photo 8.f.

<写真 8.c.>同レンズに「星」型の「手作り絞り」を装着(絞り値は f1.4)

 さて、今回はここまで。「手作り絞り」には意外な面白さがありますので、望遠レンズをお持ちの方は、ぜひ楽しんでもらいたいとおもいます。

第7 回目 「オート(自動露出)」モードを使いこなせ !

似顔絵 「十年一昔」とよく言いますけれど、"二昔" くらい前までは、露出の決定は写真撮影でもっとも難しい技術のひとつとされていました。でも現在のAF一眼レフカメラ(そしてMF一眼レフカメラの多く)は、自動的に露出を調整する機能を搭載しています。自動(Automatic)露出(Exposure)ですから「AE(Auto exposure)」と略します。
 しかしながら今も昔も露出のコントロールは、1.)レンズの絞り(値)と、2.)シャッター速度の二要素を変化させることに違いはありません。オート(自動露出)モードには、さまざまな種類がありますが、それぞれの特徴(長)をよく理解し、写真写りの広がりを探究して欲しいとおもいます。
 また、これらを理解すれば、「Nikon FM3A」、(「New FM2」)、「FM10」のようなマニュアル露出専用のMF一眼レフも、よりよく使いこなせる筈です。

1. 失敗を減らす「マルチプログラム」モード

Auto Multi-Program  レンズの絞りを絞り込めば、被写界深度は深くなり(第 6 回参照)、ピンボケの失敗が少なくなります。また、シャッター速度を速くすれば、被写体ブレやカメラブレの失敗が少なくなります(第 5 回参照)。しかし、これらを両立するには、被写体がある程度明るく(=後述の EV 値が大きく)ないと無理です。
 あるいは、より高感度のフィルムを使用する必要があります。
 しかし、いつも明るい被写体ばかりを撮るというわけにも、一眼レフに高感度のフィルムを装填しているわけにもいきません(ちなみに、「PRONEA S」を代表とするアドバンストフォトシステム(IX240判)AF一眼レフならば、撮影途中のフィルムカートリッジを交換できるMRC機能を搭載しています)。

 そこで、できるだけピンボケでなく、ブレも少ない、つまり失敗のより少ない撮影が可能になるよう、絞り(値)and/or シャッター速度を自動調整するのが、「マルチプログラム」モードです。もちろん、スピードライトを使用した撮影も可能です。
 こうしたわけで、カメラの操作に不慣れな時や、とにかく写す必要がある場合には、このモードで撮影するといいでしょう。「マルチプログラム」モードは、「必ず写す(写さねばならない)」というプロの要求にも応えうるものなので、最近では最高級機種にも搭載されています。
 もちろん、被写体の明るさがある程度暗い場合には、ピンボケになったり、ブレたりする可能性が増しますから、注意してください。

1.1. プログラム線図の読み方

 ここでは、ニコン「F70Dパノラマ」のマルチプログラムオートのプログラム線図を題材に、プログラム線図の読み方を簡単に紹介します。
 後に紹介する「イメージプログラム」にも、それぞれこうしたダイヤグラムがあり、これに従ってカメラは作動します。

fig.1.

プログラム線図

 まず、グラフの各部の説明を簡単に......。

  • 縦軸:レンズの絞り値を指します。
  • 横軸:シャッター速度を指します。
  • 斜線:EV 値を指します。単純に被写体の明るさと考えてください。EV 値が小さいほど暗く、大きいほど明るいことを意味します。つまり、この図の左上が最も暗い被写体で、右下に行くに従って明るい被写体を意味します。
     EV とは、Exposure Value の略で、"露出値" といった意味です。
     EV 0 が、絞り値=f 1、シャッター速度= 1 秒で適正露出になる被写体の明るさを意味します。
     絞り or シャッター速度が一段上下するごとに、EV 値は 1 づつ増減します。
     例えば、絞り値=f 1 をf 1.4 に、シャッター速度= 1 秒を1 / 2 秒にすれば(=絞りとシャッター速度をそれぞれ1段づつ増)、0 + 1 + 1 = EV 2 となるわけです。
     ISO100 のフィルムの場合の EV 値は、晴天順光時で EV 15、曇天で EV 12、日光の入る室内で EV 7、人工照明の室内で EV 5 程度です。

 さて、図の赤線は、AI AF Nikkor 50mm F1.4D レンズ装着時のプログラム線図です。左上からみていきましょう。
 EV -1 (かなり暗い被写体)では、絞りは F1.4 開放、シャッター速度は 4 秒に設定されます(図の(1))。
 被写体の明るさ(EV 値)が増すのに応じて、専らシャッター速度を速めて対応します(図の(2)の辺り)。
 しかし、EV 4(=シャッター速度 1 / 8 秒)を超えると、シャッター速度を速めるだけでなく、絞りも絞り込んでいく設定です(図の(3))。
 被写体が EV 4 より明るくなるのに応じて、絞りとシャッター速度の両方を均等に調整して適正露出として行きます(図の(4)の辺り)。
 さて、被写体が大変明るくなり、レンズを固有の最小絞りまで絞り込むと、それ以上の絞り値での露出調整は無理ですから、あとはシャッター速度で調整します(図の(5))。

 マルチプログラムオートで大切なのは、図の(4)の領域です。EV 4 というかなり暗いシーンから、EV 19(=屋外の相当明るいシーン)まで、できるだけ失敗を避けるように、絞りとシャッター速度の組み合わせを調整・設定しています。

 では、次に、より焦点距離の長い望遠レンズを使う場合(AI AF Nikkor 180mm F2.8D =青線、AI AF Nikkor 300mm F4D IF-ED =緑線)に目を移してみましょう。「F70Dパノラマ」のような現行AF一眼レフの殆どでは、レンズが CPU(メーカーによって呼称も実体も異なります)を内蔵していれば、レンズ固有の焦点距離などのデータは、電気的にレンズからAF一眼レフに伝達されます。

fig.2.

プログラム線図

 青線(180ミリ)、緑線(300ミリ)も先の 50ミリ レンズの領域(=赤線)から右にずれて(=右にシフトして)いますね。これは、焦点距離が長い(=撮影距離が同じでも撮影倍率がより大きくなる)望遠レンズではブレがより目立ち易くなりますから、できるだけ速いシャッター速度を使うようにとプログラム線図を設計しているからです。
 さらに、スピードライトを使う場合(=黄線)には、シャッタースピードがシンクロ同調速度(「F70Dパノラマ」は、1 / 125 秒)を超えないように、絞りによって調整していることも理解できるはずです。

 このように、プログラム線図とは、被写体の明るさに対応して、絞りとシャッター速度の組み合わせを設計(デザイン)したものです。マルチプログラムオートは失敗のない撮影ができるように設計し、次に紹介する「イメージプログラム」は、イメージどおりの写真が撮れるように設計したものです。
 線図を読むと、プログラムがどのような設計思想で作られ、どのように使うのがもっとも効果的かが一目瞭然です。

2. イメージどおりに仕上げる「イメージプログラム」モード

 最近のカメラ ---AF一眼レフだけでなく、コンパクトカメラにも---、モード設定をおこなうだけで、イメージどおりの写真が撮れる(!?)「イメージプログラム」が搭載されている機種があります。
 「イメージプログラム」とは、ボタンやダイヤルを操作して(メーカーによっては、プログラムカードを挿入したり、バーコードリーダーで設定をいちいち読み込まなければならないものがあります)、撮りたい写真の「イメージ」を選択するだけで、絞りやシャッター速度、スピードライトの発光の有無(および発光量)などを、必要に応じて自動的に調整する機能です。
 カメラの仕組みを全く知らなくても、これらから正しく選択するだけで、誰にでもイメージどおりの(!?)写真撮影ができます。

 しかし、だからといってどのようなシーンでも、どのようなケースでも上手く撮れるとは限らないのが、ちょっと困ったところです。
 なぜなら、「イメージプログラム」が調整するのは、結局のところ絞りとシャッター速度、そしてスピードライトの発光の有無と調光だけだからです。これらだけで、写真のイメージの全てをコントロールすることは不可能です。
 大切なのは、1)それぞれの「イメージプログラム」の特徴を知り、2)レンズの焦点距離やフィルムの感度などを正しく選び、3)対象に適した「イメージプログラム」を選ぶ / 「イメージプログラム」に適した対象を撮影すること、です。これらを良く理解して上手く使いこなして欲しいとおもいます。

 さて、「一眼レフの上位機種には『イメージプログラム』機能を搭載しない」というメーカーが多いようです。「絞り / シャッター速度の関連、絞り値 / レンズの焦点距離 / 撮影距離による被写界深度の変化......といった最低限の写真の知識があれば、こうした機能を使わずとも、イメージどおりの写真を撮影できる筈だ」という設計思想からでしょう。
 でも、操作をいちいち自分で考えるのも面倒な時もあります。こうした場合にも、「イメージプログラム」は大変便利な機能です。

2.1. 「風景」・「記念写真」・「クローズアップ」

 これらは、基本的に、レンズの絞りを絞り込んで行って、手前から奥までの広い範囲にピントを合わせうるようにプログラムしたものです。
 このため、被写体がある程度暗い場合には、シャッター速度はかなり遅くなりますから、ブレに注意(=被写体ブレにも手ブレにも注意!)する必要があります。
 それぞれの特徴と使い方のポイントを整理します。


photo.

landscape「風景」モード
 風景のみ、一般的に撮影距離が遠い被写体だけを撮影する場合に、画面全体をシャープに写すことができます。
 広角から望遠まで、どんなレンズでもO.K.ですが、近すぎる被写体が画面の中に入っていると、それはボケて写ることがあります。

★三脚を使用し、低感度≒微粒子のフィルムで撮影すると、細部まで美しい風景写真を撮影できるでしょう。


photo.

hyperforcal「記念写真」モード
 風景と、その手前に配した人物などの両方にピントを合わせた撮影を行いたい時に使うモードです。
 「風景」モードよりも更に絞り込んで被写界深度を稼がねばなりませんから、望遠レンズではピントの合う範囲に限界があり(=被写界深度が浅い)、標準〜広角レンズを用いるのが原則です。
 ただし、あまり人物などに近寄り過ぎると、背景の風景はボケて写ります。せいぜいバストアップまでにするのがコツでしょうか。

★ISO 400クラス以上の高感度フィルムを使えば、ブレも少なく被写界深度もかなり確保した記念写真を撮れます。


photo.

closeup「クローズアップ」モード
 花や小物などに「近接して拡大して」撮影する時に使います。
 もちろん、レンズはマイクロレンズ(ニコン以外ではマクロレンズといいます)、マクロ機能付きのズームレンズなどを使用するか、クローズアップレンズをレンズ前枠に装着して撮影します。
 一般に接写は、ピンボケやブレの失敗が多いものです。こうした失敗をあるていど防止すべく、ある程度のシャッタースピードは確保しつつ、レンズをできるだけ絞り込むプログラム線図になっています。
 屋外でも晴天でない場合には、必ず三脚を使うことをおすすめします。

★ ISO 400クラス以上の高感度フィルムを使えば、失敗はより少なくなります。


photo.

motion「動感」モード
 遅めのシャッター速度で(=絞りは絞って)撮影することで、被写体や背景などを大きくブラした撮影ができます。
 水の流れなどを表現する場合には、三脚を使います。レースやスポーツなどを撮影する場合には、被写体をファインダー内に追いながら(流し撮り)撮影します。いずれも標準〜望遠レンズがいいでしょう。

★ フィルムは低感度フィルムが比較的おすすめです(明るすぎる場所での撮影には不向きですが)。


2.2. ポートレート・スポーツ

 レンズの絞りをできるだけ開けることで、背景や前景を大きくボカす(「ポートレート」)、ないし速いシャッター速度にして一瞬を写し止める(「スポーツ」)モードです。
 2.1. の「風景」や「記念写真」、「クローズアップ」、「動感」モードとは、裏返しの考え方です。


photo.

 

「ポートレート」モード
 絞りをほぼ開放近辺で撮影するようにプログラムしています。
 ただ、被写体と背景や前景との距離差が小さい場合には、背景や前景はほとんどボケませんから、これらの距離差をできるだけ大きくし、被写体にできるだけ近づくのがコツです。被写界深度が浅い焦点距離の長い望遠レンズがおすすめです。

★ 低感度フィルムで、直射日光の当たっていない場所で撮影するときれいに写ります。


photo.

「スポーツ」モード
 できるだけ速いシャッター速度で撮影するモードです。
 スポーツは動きが速いものが殆どですから、その動きをファインダーで追えるように練習しておくといいでしょう。開放 F 値の小さな(明るい)レンズを使えば、より速いシャッタースピードで撮影できます。
 焦点距離のより長い望遠レンズを使えば、より遠くから被写体を大きく撮影でき、よりダイナミックな写真になります。

★ できるだけ高感度なフィルムを使います。室内スポーツなどでは ISO 1600 ないし3200 などがおすすめです。

2.3. 「夜景」・「シルエット」

 夕暮れや夜間の撮影は、昼間の撮影とは全く感覚が異なりますが、基本的には絞りとシャッタースピードを調整するだけで、十分美しい写真を撮影できます。これを自動的に調整してくれるモードが「夜景」モードです。
 「夜景」モードでは、さらにスピードライトの光量も自動調整します。
 「シルエット」モードは、ふつうの撮影であれば補正の対象になる逆光の状態を活かすモードです。


photo.

 

「夜景」モード
 基本的には「風景」モードと同じような考え方です。
 夜間の撮影ですから、シャッター速度は大変遅くなっていきます。このため、三脚は必ず使用します。

★ 中庸な感度ないし低感度フィルムを用いると細部まできれいに写ります。


photo.

 さらに、「夜景」モードを選択してのスピードライトを使った夜景を背景にした人物撮影では、

  1. 手前の人物は、スピードライトの閃光で写し止め、
  2. 背景の夜景は、スローシャッターで露出する

=いわゆる「スローシンクロ撮影」で、人物も背景の夜景の雰囲気も美しく撮影できます。

 カメラ内蔵のスピードライトでスローシンクロ撮影をするときには、一般に光量に限りがあるので、人物までの距離を 1 〜 3 メートル程度(=フィルムの感度が ISO 100 の場合の撮影距離)と控えめに取ることがコツでしょう。
 広角〜標準レンズを使い、三脚を必ず使用します。

★ ISO 400 クラス以上の高感度フィルムがおすすめです。

 ちなみに、一眼レフではありませんが、あるメーカーのコンパクトカメラには、

  1. 手前の主要被写体は、オートフォーカスで測距 & スピードライト撮影、
  2. 背景の夜景をシャープに写すために、強制的にピントを無限遠に設定 & スローシンクロ撮影、と、カメラが 2 回シャッターを切って(=多重露出して)1 コマに写し込む(="スーパー夜景モード")という機能が搭載されています。
     手前の主要被写体はもちろん背景の夜景にもピントがより確実に合っている、という面白い仕組みです。

photo.

silhouette「シルエット」モード
 明るい景色を背に被写体が存在する場合に、被写体を暗く「シルエット」にして撮影するモードです。
 他のモードとは違い、被写体の暗さを無視して(=逆光を補正しないで)、明るい背景に露出を合わせるように作動します。このため被写体が暗くても、スピードライトを発光させません。

★ もともとシルエットに見える被写体を選ぶのがコツ(!?)でしょうか。


3. 意図的な操作ができる「自動露出」モード

 以上のプログラムモードでは、絞りとシャッター速度の両方を、カメラが自動的に調整します。しかし、絞りを自分で設定して被写界深度をコントロールしたい時、あるいはシャッター速度を自分で設定してブレをコントロールしたい時には、プログラムモードは少し不具合です。
 こうした場合に使うのが、絞り優先 [A] モードやシャッター速度優先 [S] (メーカーによっては [Tv] と呼称)モードです。
 露出決定は、プログラムモードと同じ精度ですから、安心して使ってください。
 これらのモードの使い分けに慣れると、写真表現の世界がグンと広がります。

3.1. 絞り優先 [A] モード

photo.

絞りを開けて撮影

photo.

絞りを絞って撮影

 絞りを自分で決めれば、シャッター速度はカメラが自動的に調整します。
 被写界深度を浅くして背景などをボカしたい場合には、できるだけ開放絞りにします。
 逆に、被写界深度を深くして手前から奥まで全てにピントを合わせたい時には、絞り込みます。  プレビューといわれるレンズの絞り込み機構のある一眼レフなら、ファインダーでおおよその被写界深度を確認できます。

 ただし、最近の各社のAF一眼レフには、ファインダーの見掛けの明るさを最優先するあまりファインダースクリーンのマット面をあたかも素通しにしたかのようなカメラがあるようです。
 これでは、仮にプレビュー機構がついていたとしても、確認が困難なことがあります。

3.2. シャッター速度優先 [S] モード

photo.12

速いシャッター速度で撮影

photo.13

遅いシャッター速度で撮影

 シャッター速度を自分で決めれば、絞りはカメラが自動的に調整してくれます。
 動きの速い被写体を止めて写したいなら、できるだけ速いシャッター速度を選びます。
 逆に、ブレを活かした撮影や、動感を表現する場合には、遅いシャッター速度を選びます。

 シャッター速度優先 [S] モードを搭載したニコンAF一眼レフに、絞りリング(=絞りの操作環をこう呼びます)を有するレンズを装着したときには、絞りリングを最小絞り値に設定すること(=絞りリングを有するAF Nikkor レンズは、絞りリングを最小絞り値にロックする機構がついています)を忘れると、自動絞り機構は正しく作動しません。
 この「レンズ側の最小絞り値の設定」は、メーカーを問わず、一眼レフに絞りリング(=絞りの操作環)を有する交換レンズを装着して、シャッター速度優先 [S] モードを使うときに、基本的に注意すべきポイントです。
 そして、プログラム [P] モード全般で撮るときにも同様の注意が必要です(詳しくは各社の「使用説明書」をお確かめください)。

 また、現在市販のAF一眼レフはメーカーを問わず、CPU(メーカーによって呼称も中身も異なります)を内蔵したレンズを装着しないと [S] モードも [P] モードを選べないカメラがほとんどになってきたようです(詳しくは各社の「使用説明書」をお確かめください)。

 「[A] モードも、 [S] モードも面倒だ」と思われる方がいるかもしれませんが、写真写りを自分なりにコントロールしたい向きには、これらがやはり便利なのです。

 さて、今回はここまで。露出決定は難しいものです。ですが、一つずつ自分で決めて、自分で操作することを覚えていって欲しいと思います。はじめは「マルチプログラム」、次に「イメージプログラム」、そして、絞り優先 [A] か、シャッター速度優先 [S] というステップアップでいいと思います。

8. 「露出」の基礎知識

第8 回目 「露出」の基礎知識

似顔絵 写真の技術の中で、もっともわかりにくいのが「露出」でしょう。
 なぜかというと「露出」には、1.)被写体の明るさ、2.)フィルム感度、3.)絞り(値)、4.)シャッタースピード、という全く異なる 4 つの要素が関係してくるからです。
 また、人によって「適正露出」という言葉の使い方が違うことすら稀ではありません。
 しかし、「『露出』によって写真の全体的な "白さ黒さ" が変わる」と考えれば、後の話は意外に簡単です。今回は、「露出」を理解しまくりましょう。

1. 被写体の明るさに対応する

 レンズ付フィルムは、カメラ自体で露出を調整することができません。でも、意外なほどきれいに写りますね。なぜでしょうか ?
 第一に言えるのは、明るい場所で撮るのが基本で、暗い場所ではフラッシュを光らせる(一般的なレンズ付フィルムでフラッシュ撮影可能な範囲は 1〜4 メートル 程度です)という簡単な約束事があり、これをみなさんが守っているからです。
 第二に、レンズ付フィルムに使われているのはカラーネガフィルムだからです。カラーネガフィルムでは、撮影時のプラス(オーバー)・マイナス(アンダー)2 段程度の露出の違い、とりわけ露出オーバーはプリント時に軽く補正できます(詳細は次回に説明します)。
 これら二つの理由から、レンズ付フィルムでは露出に失敗したプリントができあがることがほとんどないわけです。

 一眼レフカメラも、国産の現行機種のすべてが TTL 露出計を内蔵し、さらにAF一眼レフであればそのすべてが自動露出(AE)機構を搭載していますから、多くの場合、問題なく撮影ができます。
 しかし、失敗したり、思ったように撮れないことをよく経験するはずです。なぜでしょうか ?
 それは、一眼レフカメラの側で調整できる自由度が大きいからです。自由度が大きい分、レンズ付フィルムでは撮れない対象を撮影することができます。しかし、その分だけ約束事が煩雑になりますから、失敗したり、思いどおりに写らなかったりすることも多くなるわけなのです。

 ここで、露出の何たるかを知り、その妙を楽しむためには、第一にカメラのオート(自動露出)機能だけに頼らず自分の意思で調整すること、第二にフィルムはリバーサルフィルムを使うのが基本であること、を確認しておきます。
 なぜならば、自分の意思で写真の "白さ黒さ" を変えるのが露出調整の楽しさであり、その結果をより正しく反映するフィルムがリバーサルフィルムだからです。

1.1. 昔の露出の合わせ方

 大昔の人々はどのようにして露出を合わせていたのでしょうか ? それについて少し見てみましょう。意外なほど素朴な方法ですが、目的が被写体の明るさを正しく知ることであることは、現代の露出計内蔵カメラや単体露出計にも通じています。被写体の正しい明るささえ判れば、後はフィルム感度に合わせて、絞りとシャッタースピードを調整すればよいからです。

1.1.1. 感光紙光量計(アクチノメーター)

Photo

 これはイギリス製のワトキンス・ビーメーター(1902年頃)です。
 懐中時計のようですが、時計のような複雑な装置ではありません。中には、POP(Printing Out Paper=光に当てるだけで黒くなる(印画)紙)と呼ばれる印画紙が入っています。
 印画紙を少しづつ回転して、まだ感光させていない部分を使っていくことで十数回分の測定ができます。使い切った印画紙は新しいものに交換します。
 時計でいうとちょうど 6 時にあたる部分に小さな円形の窓があり、左右二つに分割されています。右側のグレーの部分が標準濃度で、左側の窓から POP 印画紙を感光させ、その濃さがこの標準濃度の灰色になるまでの時間を計って、その場所の明るさを割り出す仕組みです。

1.1.2. 視覚式露出計

Photo

 ドイツ製のディアフォト(1924年頃)です。下の部分に濃淡のグラデーションのついた窓があり、その中にさらに黒い小さな円形の窓が見えます。この窓から被写体を覗きながら、グラデーションを回転し、被写体が黒く見えなくなるところで止めます。そうすると左上の目盛りに適当な露出値が得られる仕組みです。
 普通に考えても判るように、人の目には「順応」というすぐれた機能がありますから、なかなか安定した測定ができません。あまり深く考えずにやっているうちはいいのですが、いざじっくり見つめてしまうとわけが判らなくなってしまいます。

1.1.3. 露出計算尺

Photo

 日本製の関式サロン露出計(1940年頃)です。
 フィルム感度、季節、時刻、天候、あるいは電球のワット数などをダイヤルで合わせると、適正な露出値が得られる計算尺です。
 カメラのアクセサリーシューに取り付けられるモデルなどさまざまなタイプがあり、1980年頃まで製造されていました。現在でもフィルムの紙箱あるいは使用説明書にも、お天気マークごとに露出値の一例を示した表が載っているものがありますが、これを高度に発達させた回転式早見表といえるでしょう。
 現代の単体露出計にも、こうしたダイヤルがついた機種があります。意外なことに、デジタル表示のタイプよりも、こうしたアナログ形式のほうが、露出値の意味、そしてシャッタースピードと絞り(値)の組み合わせの関係が直観的によく判ります。

1.2. フィルム感度、絞り、シャッタースピード

 一般に、昼間の直射日光の明るさ(照度)は10万ルクス(lx)といわれます。これが闇夜になると、0.0003 ルクス程度になるそうです。
 私たちの眼は、10万ルクスと0.0003 ルクスのいずれにも「順応」し、モノを見ることができます。この照度差を単純に計算すると、約 3 億倍以上です。しかしこれを写真でいう段数(対数)に置き換えると、約28段分(約3億≒2の28乗)もの差となります。
 ここで、1.)フィルムの感度をISO 25〜3,200とすれば、この差は 7 段。また、2.)多くのレンズの絞りの調整範囲は、約 7 段分です。これら1.),2.)を合わせると計14段となって、目の順応の幅の約半分に相当します。
 更に、3.)シャッタースピードを 4〜1/4,000 秒の範囲で変化できるとすれば、この調整範囲は14段です。
 ですから、1.)フィルムの感度と、2.)絞り、3.)シャッタースピードの全てを端から端まで変化することで、やっと人の眼の「順応」のワイドレンジに対応できるわけです。
 もちろんの事ですが、4 秒などという長時間露光をした場合、動いている被写体は上手く写りません。ここに人の眼の凄さを感じます。しかし、これを逆に言えば、静止した被写体ならば、何分とか何時間といった長時間露光をおこなうことで、原理的にはいくらでも暗い被写体を撮影できるのが写真の凄さでもあるわけです。

 さて、フィルム感度(第3回目)、絞り(第4回目)、シャッタースピード(第5回目)のそれぞれについては、既に述べましたが、ここで今一度確認していただきたいのは、1)フィルム感度の一段分、2)絞り(値)の一段分、3)シャッタースピードの一段分、の変化は、基本的に露出に対して同じ効果をもつことです。
 例えば、
1. フィルム感度を一段高くする(ex. ISO100 を200 にする)ことと、
2. 絞りを一段開ける(ex. f16 を f11 にする)ことと、
3. シャッタースピードを一段遅くする(ex.1 / 125 秒を 1 / 60 秒にする)こと、
は、仕上がりの写真の濃さ("白さ黒さ")においては、同じ効果を持ちます。
 これを「相反則」といい、露出値を決める上での基本となっています。

相反則不規

 前回までにも時折出た用語ですが、フィルムに当たる光が非常に明るい場合や、逆にかなり暗い場合には、相反則が成立しないことがあります。
 これを「相反則不規」といいます。これは、明るさや暗さに対するフィルム固有の使用限界での特性です。
 一般的な撮影では、まず問題になることはありませんが、夜景の撮影や、厳密な色や階調再現を求める場合には、時折問題になります。露出や色フィルターによる補正によって、あるていど改善します。
 詳細は、フィルムのデータシートなどをご覧になってください。

2. 光を計る

 現在のカメラの内蔵露出計、単体露出計は、光の強さに比例して電気的な性質が変化する「受光素子」を使って被写体の明るさを測定しています。
 受光素子にはいくつかのタイプがありますが、現在の主流は SPD(シリコン・フォト・ダイオード)と呼ばれる半導体です。応答速度が速く、また光量に正しく比例した特性を示す、非常に優秀な素子です(人間の眼には見えない赤外線を感じやすいのが弱点といえば弱点でしょうか)。
 ここでは、カメラの露出計の基本的なつくりと、一眼レフの測光モードについて簡単に整理します。それぞれの特徴を理解することで、写真の露出を思いどおりに楽しめるようになるはずです。

2.1. 一眼レフカメラは反射式露出計

 光源から放射される光を、物体の表面が反射した、その光によって、私たちは物体を見ることができます(光源を見る場合には、放射された光を直接見ることになります)。
 これは、写真も同じです。物体が反射(放射)している光によって、写真は写るのです。ですから、物体が反射している光の強さ(量)を測定すれば、露出値が判ります。これが、反射式露出計の原理です。そして、カメラに内蔵された露出計は全てがこのタイプです。

入射式露出計

 反射式露出計以外に、物体に当たる光を直接測定する露出計があります。これを入射式露出計といいます。プロやハイアマチュアが、カメラとは別の単体の露出計を用いて光を測定するものとして、皆さんもご存じかもしれません。ただ、これはとりあえず必要ありませんので、説明を省きます。

 反射式露出計で測定した値を基に、絞りやシャッタースピードを自動的に調整するのがカメラの自動露出(AE)です。面白いことにこれは、人の眼が光に反応して瞳孔を大きくしたり小さくしたりしているのと同じです。人の眼は、物体が反射(放射)している光を見ることによってはじめて、条件反射的に、眼の絞りである瞳孔を調整して、網膜に適当な明るさの光を導入するようなシステムです。極端に眩しい時には、瞳孔を小さくするだけでは間に合いませんから、瞼を閉じて網膜を保護します。
 ただ、人の視覚のすごいというか、ややこしいのは、見ている物が本当に白い物体なのか、それとも物体に当たる光が強いせいで白っぽくみえるのかを、経験的に、無意識の内に瞬時に判断できること(=脳内過程)にあります。機械の露出計には、これがなかなかできません。
 つまり、カメラの自動露出に任せっきりでは、上手くないケースが必ず生じるわけです。
 では、どういう場面では上手くいき、どういう場面では上手くいかないのかを簡単に整理してみましょう。

Photo

<写真 4.A.>
自動露出(AE)で
適正露出が得られるケース

1. 被写体が標準的なグレーの濃さの場合。
2. さまざまな濃さの被写体が混在している場合。

Photo

<写真 5.A.>
AEでは露出アンダー
になるケース

1. 被写体が全体的に白い場合。
2. 被写体の背景が全体的に白い場合(画面に光源が入り込んでいる)場合。

Photo

<写真 6.A.>
AEでは露出オーバー
になるケース

1. 被写体が全体的に黒い場合。
2. 被写体の背景が全体的に黒い場合。

 反射式露出計は、被写体の反射率を18 %(標準反射率といい、この反射率をもつ物体を標準反射体といいます)と仮定した時の露出値を示すように作られています。

Photo

 左の写真は、市販されている標準反射体の標準反射板のセットです(購入する際には、1.)無彩色であり、2.)無光沢であり、3.)光の反射率が18 %であるという要素を満たした標準反射板を選びましょう)。

 反射率18 %の濃さとは、白と黒のちょうど中間のグレー(具体的には、少し日焼けした平均的日本人の肌、新緑、濃いめのコンクリート、古いアスファルト道路、土、などを想像してください)です。つまり、白でもない黒でもない、そこそこの濃さの被写体なら、自動露出が上手く働き、適正露出で撮影できるわけです。
 なぜでしょうか ?
 白い被写体は反射率が高く(100 % 弱)、多くの光を反射します。しかし反射式露出計は、被写体の反射率を一律に 18 % と仮定していますから、被写体が本当に白いせいなのにも関わらず、「強い光が当たっている」と見倣します。このため、絞りを絞ったり、シャッタースピードを速くしてしまい、結果として露出アンダーに見える写真が仕上がるわけです。
 被写体が黒い場合は、これとはまったく逆の考え方で「弱い光しか当たっていない」と見倣し、結果として露出オーバーになる露出値を示します。
 いずれにしても、機械の都合と人の都合に食い違いから生じる問題です。こうした食い違いは、機械が優秀になるか(=ひとは愚かでもよいか)、ひとが優秀になるか(=機械は愚かでもよいか)すれば、解決します。前者は、カメラメーカーなどの血の滲む(にじむ)ような開発努力に相当し、後者は、カメラを使う私たちの問題です。

2.2. 標準反射率 18 % の意味

 ここで "標準反射率が18 % である" 根拠を簡単に説明しておきましょう。

 白黒プリントの真っ白の部分の反射率は約 96 % 、真っ黒の部分の反射率は約 3 %です。これを、絞りやシャッタースピードの考え方になぞらえて、半分半分または倍々にしてみます。さらに、その中間値(対数)を求めると、次のようになります。

<図1.>

白黒プリントの濃さ≒被写体の濃さ
Photo
グラデーション
Black == == == == == == == == == White

白黒プリントの反射率(%)≒ 被写体の反射率(%)
3%
6%
12%
24%
48%
96%

4.5%
9%
18%
36%
72%

絞りやシャッタースピードの段数(EV)

-2EV
-1EV
0
+1EV
+2EV
-2.5EV
-1.5EV
-0.5EV
+0.5EV
+1.5EV
+2.5EV


 反射率18 % が、白と黒のちょうど中間に位置していることに注目してください。
 白黒プリントの白から黒までの幅は、全部で 5 段。そして、真っ白は +2.5 段、真っ黒は -2.5 段に相当します。これらは、露出補正を考える上でとても大切なことなので、覚えておいてください(カラープリントやリバーサルフィルムでも、部分部分の濃さを考えれば同じです)。

2.3. 中央部重点平均測光、スポット測光、マルチパターン測光

 最近の一眼レフカメラには、さまざまな測光機能がついています。いずれも、基本的に反射式露出計であることに違いはありませんが、先に話した欠点をカバーするために、さまざまな機能が付加されているわけです。
 それぞれの特徴を簡単に整理しておきましょう。

2.3.1. 中央部重点平均測光(メーカーによって名称も内容も異なります)

Photo

 古いカメラから、最新機種まで、ほとんどの一眼レフの内蔵露出計の基本となるものです。
 基本的に画面全体の明るさを測定しますが、特に中央部に比重をおいて(中央部:周辺部=3:1 程度)います。一般的な撮影では、撮りたい対象を画面の中央部にフレーミングしますから、ほとんどの場合、これで適正露出になります。また、露出補正を考える時にも、使いやすい特徴があります。

2.3.2. スポット測光

Photo

 高級一眼レフなどに多く採用されている機能です。測光モードセレクトダイヤルで設定したり、スポット測光ボタンなどを押すことで、この機能を使えます。
 画面の周辺部の明るさを無視して、一般的には画面中央部(仮に36×24ミリ画面中の測光範囲が直径約 4 ミリの点(スポット)であれば、画面の面積比は約 1 パーセント相当)だけを測光するものです。
 ちなみに、ニコン F5、F100では、画面中央部とその周囲の 4 点の計 5 点のフォーカスエリアの選択とスポット測光の測光エリアの選択を連動することができます。
 スポット測光は、撮影対象が明確な場合、あるいはファインダー視野内にある標準反射率のモノを測光して適正露出を求める場合に大変有効な測光方式です。
 また、撮りたい被写体そのものの露出を、自分なりに調整したい場合にも、とても有効な機能です。

 その一方でスポット測光は、ファインダー視野内の何のどこを測光すれば適正露出を求めることができるのかが咄嗟(とっさ)にはわからない人には、使いこなすまでが難しい測光方式ともいえます。

 余談ですが、1992年にある国産メーカーから、"測光機能はスポット測光機能のみを搭載" という思い切った仕様のMF一眼レフが発売されました。
 で、はやくもその翌年には、「速写性に優れ、一般撮影に適した中央重点平均測光(=そのメーカーでの呼称)採用......」の姉妹モデルが後を追って発売されました(カギカッコ内の説明文は、そのMF一眼レフを紹介した当時の「カメラ総合カタログ」(日本写真機工業会発行:カメラショー(カメラエキスポ)会場でも販売されている冊子です)からの引用です)。
 そのメーカーの表現を裏返すと、スポット測光は「速写性に劣り、一般撮影に適さない」測光方式となってしまいますが、それくらい使いこなしが難しいのかも......)。

2.3.3. マルチパターン測光(メーカーによって名称も内容も異なります)

Photo

 画面を中央部と上下左右など、いくつかに分割し、それぞれの測光データを基にして、一般的に最も適正と考えられる露出値を演算するものです。
 この基盤になっているのは、数万カットの写真を分析したデータベースで、これにより反射式露出計の欠点をかなりカバーできます。逆光撮影や画面の中に光源が入っている撮影など、従来では難しかったシーンでも、適正露出が得られるのが大きな特徴です。
 ただ、この測光モードで更に露出補正をおこなおうとなると、何を基準にしているのかが判りづらいのが、欠点といえば欠点です。
 カメラ任せで撮る場合に、特に威力を発揮する測光モードだと考えます。

3. 「適正露出」とは何か ?

 最後に、写真の露出の根本的な問題について触れておきましょう。
 単純に言えば、「『適正露出』とは何ぞや ?」ということです。これは、考え方を、大きく二つに分けると非常に判りやすくなります。
 一つは、記録や複写を目的とする場合です。この場合には、被写体の明るさや "白さ黒さ"、そして色調・階調などをできるだけ忠実に再現した写真が「適正露出」ということになります。
 そしてもう一つは、表現や創作を目的とする場合です。この場合には、一枚の写真として見た時に、「いいな!」とか「素敵!」とか思える気持ちになれるかどうかが問題になります。こちらでは、被写体を忠実に再現している必要は決してありません。

3.1. 基本的な露出補正の考え方

 記録や複写を目的とする場合の考え方です。これにより、被写体の "白さ黒さ" を正しく再現した結果が得られます。また、表現や創作でも、この基本を押さえておくことが、望み通りの結果を得るための近道です。
 単純にいうと、被写体の "白さ黒さ" を判断し、白い被写体なら + 方向、黒い被写体なら - 方向の露出補正をすればよいのです。どのていどの補正をするかは、<図 1.>を参考にしてください。


Photo

<写真 5.b.> 白い被写体の場合には、+ 側に補正

Photo

<写真 5.c.> 白いものが白く写る


Photo

<写真 5.d.> 黒い被写体の場合には、- 側に補正

Photo

<写真 5.e.> 黒いものが黒く写る

3.2. 意図的な露出補正の考え方

 表現や創作を目的とする場合の考え方ですが、まず、3.1.の基本を押さえておくことが先決です。被写体の "白さ黒さ" を忠実に再現するだけでなく、意図的に画面を "白く" したり、"黒く" したりすることで、写真の印象を大きく変えることができます。
 単純にいうと、写真の仕上がりの "白さ黒さ" を想定し、画面を "白っぽく" したいなら + 方向(オーバー)、"黒っぽく" したいなら - 方向(アンダー)の露出補正をおこないます。
 この補正幅も、<図 1.>を参考にしてください。


Photo

<写真 7.a.> + 側に補正すると、

Photo

<写真 7.b.> 明るい写真に


Photo

<写真 7.c.> 補正しないと、

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<写真 7.d.> 普通の写真に


Photo

<写真 7.e.>- 側に補正すると、

Photo

<写真 7.f.>暗い写真に

 適正露出を得るための早道があります。それは、露出を違(たが)えた何枚かを撮影(段階露出=ブラケティング)をして、後で選ぶのです。
 これを自動的におこなえる機能を「オートブラケット」といいます。

ブラケティング

 余談ですが、ブラケティングとはもともと軍事用語で、夾叉射撃あるいは夾射と訳される、目標に正確に当てるための技術です。
 たとえば、高速航行する艦船を射撃すると仮定しましょう。まず、目標の未来位置を算出し、あえて直接には狙わずに、未来位置の手前と先を狙って交互にズラして射撃します。"近弾" と"遠弾" が目標をうまく挟み込んだら(=夾叉したら)、しめたもの。夾射した "近弾" と"遠弾" それぞれの誤差を観測しては修正射を繰り返すことで射撃解析値の精度を高めていき、最終的には連続的に目標に命中させてしまえる......のです。

 一方、写真の世界の一般的な「ブラケティング」は、適正と思える露出(値)がまずあって、その露出(値)を中心に、プラス(オーバー)またはマイナス(アンダー)の露出も念のために複数撮っておけばどれかは上手く撮れるでしょ=軍事用語でいえば散布界の広がり(バラつき)を見込んだ公算射撃(=「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」)に近い考え方といえます。

 さて、撮った結果をすぐその場で確認でき、次の撮影カットの露出に反映できるポラロイド(R)フィルムやデジタル(スチル)カメラを使えば、本来の意味でのブラケティング撮影、すなわち撮影者が望む適正露出を追い込んでいく撮影も可能です。

 手動でも自動でも構いません。一度だけでいいです。リバーサルフィルムを使って、+2、+1、プラスマイナス 0、-1、-2 段の 5 枚を段階露出で撮影して、ご自分の目で仕上がりを見比べて欲しいと思います。ちょっとした無駄ですが、得るものは大きいはずです。

 さて、今回はここまで。

9. 「プリント」の基礎知識

第9 回目「プリント」の基礎知識

似顔絵 「写真」と言えば、普通はまずプリント(紙焼)を指しますよね。モノクロプリントやカラープリント、それから日本では最近、セピア調(カラー)プリントも一般的になりました。
 こうしたプリントはいずれも、現像所で作成(現像〜焼き付け)して貰えますが、「何がどうなってフィルムからプリントができるのかよく判らない」が多くの人の印象ではないでしょうか。
 今回は、こうしたプリントについて整理します。
 ご近所の現像所(ラボラトリー)に D.P.E. (現像・プリント・引き伸ばし)をお願いする時に、是非参考にして頂ければと思います。

1. 現像所(ラボ)のいろいろ

 「現像」を単純にいうと、「化学薬品による処理」となります。つまり、露光済みのフィルムや印画紙を、温度を一定に保った現像液や漂白定着液などに、必要な時間だけ浸していくような作業です。ごく単純に言えば、「カップラーメンに熱湯(100°C)を注ぎ、3 分待つ......」といった作業を数回繰り返すような作業です。もちろん、液温や時間は正確でなければなりませんが、最近の自動現像機ではこれらを全てコンピュータで制御していますから、間違うことはありません。ですから現像所(ラボラトリー)や担当者による手順の違いは、まずないといっていいでしょう。
 ところが実際には、現像所や担当者によって、仕上がりに違いがあることをよく経験します。これはなぜでしょう ?

 現像、特にプリント作業には、もう一つ大切な要素があります。プリント作業は、印画紙を現像するだけではありません。フィルムに写った像を、印画紙に露光する作業が含まれています。これは、私たちがカメラを使ってやっている撮影と同じです。つまり、撮影と同じような難しさが、プリント作業にはあるわけです。
 いかに優れた写真家でも、あらゆる対象を上手く写すことはできません。これと同じように、現像所の担当者がいかに優れていたとしても、あらゆるネガから最良のプリントを仕上げることは不可能といっていいでしょう。ですから、こうした問題があることを理解して、上手く現像所と付き合っていくことが、よりよい写真を得る秘訣になるわけです。

 まずは、現像所の種類と特徴を簡単に整理し、次に自分で現像をおこなうことのメリットとデメリットについて考えます。

1.1. プロラボ、センターラボ、ミニラボ

 現在、一般的な現像所は、1)プロラボ、2)センターラボ、3)ミニラボに大別できます。各々の特徴を簡単に整理しますので、上手く活用して欲しいと思います。

1.1.1. プロラボ

 プロ専用の現像所で、首都圏や地方都市などにはあります。プロフォトグラファーの要求に応えうるさまざまなサービスを迅速に受けることができます。
 最近の日本国内でも、ネガそしてポジフィルムに指定メモを添えて郵便や宅急便で送れば、指定通りの現像 / 焼き付け等の処理をして送り返してくれるメールサービスをおこなう現像所も増えてきました(メールサービスに関しては、カメラ雑誌などに掲載の広告を参考にしてください)。

★特徴(長):
 ポジフィルムの現像は、特にサービスが良いです。処理自体に違いはありませんが、1.5 時間程度で仕上がり、また 1 / 2 段および1 / 3 段きざみの増減感現像も依頼できます。
 プリントも、知識の豊富な人が受付をおこなっており、非常に安心できます。
 その他、細かな要求や、突飛な要求にも応えて貰うことも可能です。

1.1.2. センターラボ

 受付け業務を、写真店、写真館、クリーニング店、コンビニエンスストア、文具店などに委託、フィルムを集荷し、大きな現像所(センターラボラトリー)で一括処理するシステムです。
 実は、ミニラボ(後述 1.1.3.)では対応できない注文は、センターラボが受託処理しています。
 集荷→ DPE 処理→配送という手間が必要なため、納期が余分にかかるのが欠点といえば欠点です。
 また、受け付ける人に写真の知識が欠けていると、撮影者の要望がセンターラボに正確に伝わらず、サービスが上手く受けられないこともありえます。

★特徴(長):
 機械で大量処理する強みで、現像も焼き付けも安価にできるのが大きなメリット。
 また、サービス内容も、ほぼプロラボ並みに豊富。特別な指定をする場合には、センターラボの担当者にまで確実に指定が伝わるよう、見本や文書を添付するといいでしょう。

1.1.3. ミニラボ

 小型の自動現像機を有する現像所で、主に、カラーネガフィルムの現像と焼き付けをおこなっています。「45分」とか「1 時間」といった短時間で処理できるのが最大のメリットです。
 日本ではカラー写真の約 6 割以上がミニラボで処理されているそうです。
 ただ、35mm(135)判(と、APS(IX240)判*)カラーネガ以外のフィルムの処理やプリントはできないミニラボも多く、センターラボ(上述 1.1.2.)に回して処理してもらっているようです。

注*:APS(IX240)判を扱えるミニラボは着実に増えています。

★特徴(長):
 オペレータと直接話ができるミニラボでなら、カラーネガのプリントは細かな指定も簡単にできます。プリントサイズも6ツ切り(ほぼA4判サイズ)くらいまでなら、いろいろなサイズを指定できます。
 写真の知識の豊富なオペレータと懇意になれたならば、多大な恩恵があるはずです。

1.2. 自家処理のメリット、デメリット

 モノクロフィルムやカラーネガフィルムの現像や焼き付けは、機材と薬品を揃えるだけで比較的簡単におこなえます。現像所ではなかなかできない特殊な処理をしたり、自分の思い通りのプリントを作成できます。単純に言えば、化学の実験のようなものです。
 とはいえ、時間と費用を考えると、現像所にお願いする方がはるかに安価で確実です。ですから、「自家処理は趣味として写真の深みを楽しむ」が、基本だと思います。

 自家処理の詳細は、拙著「暗室完全マスターハンドブック(学研刊)」を参考にして頂ければ幸いです。実際に自家処理しなくとも、処理のプロセスを知識とすることで、より上手に現像所を活用できるようになれるはずです。
 カラーポジフィルムの現像も自家処理可能ですが、仕上がりの安定性やコストを考えると、自家処理のメリットはあまりないように思います。

 さて、どのような処理にしても、使用後の廃液を正しく処分することは、一般の人には非常に困難なのが現状です。「処理量自体が少なければ、廃液を大量の水で薄めて廃棄して特に問題は起きない」と思っている人がいますが、感心できません。

 近所の現像所(ミニラボを含む)さんなどに相談して、産業廃棄物の処理依頼先を教えていただくなどして、廃液の廃棄処理はちゃんとおこなうようにしましょう。現像所さんの御協力が得られない場合には、電話帳(NTT「タウンページ」など)で処理業者さんを探すこともできます。
 詳細は、「写真工業」誌(株式会社写真工業出版社刊)1998年8月号(通巻592号74頁)にレポートした「自家処理ユーザーの廃液処理」をお読みください。
 現像液と定着液(停止・漂白液)は分別しなければいけません。
 レポート執筆時の一般的な現像液類の廃液処理費は、50〜100 円 / 1 リットル程度でした。

2. プリント時に可能な調整

 プリントの全体的な濃度("白さ黒さ"=第 8 回参照)や色は、自動現像機のボタン操作で至って簡単に調整できます。問題は 「どの程度の濃さやどんな色にすれば良いか」にかかっているわけですが、これは、結局、現像〜焼き付けをお願いする私たちが決めることです。
 「写真なんてこんなものさ」とお思いなら、それで別に問題はないのですが、「なんか満足できない、こんなはずではない」と思ったならば、ぜひ、濃度と色を再度調整してプリントを作りなおして頂きたいと思います。たったそれだけで、目を見張るような美しいプリントになったり、意外な写真の楽しさを体験できるはずです。

 こうした調整は、カラーネガプリントだけでなく、詳細の説明は割愛しますが、ポジフィルムからのプリントや、デュープ(デュプリケート=複製のこと)作成時にも可能です。モノクロプリントの場合には、濃度とコントラストを変えることができます。

2.1. 濃度を変える

 カメラで絞りやシャッタースピードを調整することで、露出が変わります。プリントもこれと同じように、フィルムの像を引き伸ばしレンズを通して印画紙に露光していますから、この時の引き伸ばしレンズの絞りや露光時間を調整することで、プリントの露出(濃度)を変えることができます。このため、真っ白から真っ黒まで調整することが可能です。

<写真 2.a.〜g.>
 同じネガから、プリント時に濃度を調整してみると.....。

photo

真っ白の print
(-3ステップ)

photo

少しだけ像が出た print
(-2ステップ)

photo

やや白っぽい print
(-1ステップ)

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標準的の濃さの print
(+/-0)

photo

やや黒っぽい print
(+1ステップ)

photo

かなり黒い print
(+2ステップ)

photo

真っ黒の print
(+3ステップ)

 ステップというのは、カメラで撮影する際の露出補正の段数と同じです。プリントの濃さの変化は、ポジフィルムを使って露出補正する際の変化の幅にだいたい似ていますが、カラーネガプリントの場合には少しだけ変化の幅が大きいようです。
 また、<写真 2.a.〜g.>はカラーネガプリントですので、撮影時の露出補正とはプラスとマイナスが逆になっていることに注意してください。+/-0 が露出補正なしのオート露出です。

 さて、実際にプリントを作成してもらった時に、「思っていたよりも黒く仕上がった」とか、逆に「白っぽい」といった場合には、このような露出補正を行って再プリントすれば、プリントの濃度は自在に調整できます。その例を二つ挙げましょう。

<写真 3.a.〜b.>
 全体的に黒っぽく仕上がった場合には、「明るめに仕上げるよう」指示すればOK。

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黒っぽい print

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明るく補正した print

<写真 4..a.〜b.>
 全体的に白っぽく仕上がった場合には、「暗めに仕上げるよう」指示すれば O.K.。

photo

白っぽい print

photo

暗く補正した print

2.2. 色を変える

 撮影時に色フィルターをレンズの前にセットして撮影すれば、色のついた写真ができることはご存じのはずです。
 これと同じように、プリントを焼く際にも色フィルターを引き伸ばしレンズの手前にセットして使うことで、さまざまな色のプリントを作成することができます。
 カラープリントの場合には、ネガフィルムのベースの色(オレンジ色がほとんど)や印画紙との相性を合わせるために、必ずある程度の補正が色フィルターでおこなわれています。こうした補正は、自動現像機のオート機能でおこなわれ、ほとんどの場合、それで標準的な色調のプリントになります。
 しかし、それで満足がいかない場合には、どのような色補正をして欲しいかを伝えて再プリントを依頼すればいいのです。
 この場合、見本となるプリントを添え、どんな色を強くしたいとか、補正したいと伝えるといいでしょう。
 色補正の詳細については、第11回目の「写真の「色」を楽しむ」で詳しく紹介しますが、例を二つだけ挙げておきます。。

<写真 5..a.〜b.>
 蛍光灯照明では、「緑」が強いプリントになりがちですが、プリント時にフィルター補正をおこなうことで、正しい色再現になります。

photo

「緑」が強い print

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「緑」を補正した print

<写真 6.a.〜b.>
 白熱電球照明では、「橙(だいだい)」が強いプリントになりがちですが、プリント時にフィルター補正をおこなうことで、正しい色再現になります。

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「橙」が強い print

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「橙」を補正した print

3. さまざまなプリント

 「プリント」と一口にいってもさまざまな種類があります。まあ、普通の人が考えるようなことなら、手間暇とお金さえ惜しまなければ大抵のことはできると考えていいでしょう。
 ここでは、一般的な現像所のサービスについて簡単に整理します。現像所の受け付けで相談して、さまざまなサービスを上手く利用して頂きたいと思います。

3.1. 「手焼き」と「機械焼き」

 写真のプリントに「手焼き」と「機械焼き」という分類があることをご存じの方もおられるでしょう。単純に、「手焼き」は丁寧に人の手で処理したもので、「機械焼き」は機械任せというニュアンスがあります。
 ところが前述したように、現在の写真プリントは基本的に全てが機械で処理されています。ですから、語義的にいうと、「手焼き」はちょっと不自然な感じがするかもしれません。これは、昔、現像処理を人の手でやるのが普通だった頃の名残(なごり)と考えていいでしょう。

 「手焼き」と「機械焼き」何が違うか、というと、「手焼き」は優れた担当者がその仕上がりをチェックし、必要ならば濃度や色を補正しているという意味です。「機械焼き」は、このチェックが甘い、ないしは原則として補正はしないプリントだというわけです。
 つまり、「手焼き」はセンスと能力のある担当者の手間がかかりますから、「機械焼き」よりも随分高価になるわけです。

 ただ、いかに優れた担当者といえども、センスや能力には個人差がありますから、「手焼き」ならば必ず満足のいくプリントができるというわけでは決してありません。運次第では、「機械焼き」の方が良かったりすることもあります。このため、「「手焼き」=いいプリント」ではなくて、「色や濃度の指定を細かくできるプリントだ」と考えたほうがいいでしょう。

 あくまで私見ですが、ミニラボで担当者と話しながらプリントしてもらうことも可能な現在にあって、「手焼き」と「機械焼き」という名称も、さらにはこうした分け方も、あまり現実的ではないような気がします。それよりも、担当者の名前を掲げて勝負する「○○ ○○ 作のプリント」みたいなのがあればいいなぁと、常々考えているわけです。どうでしょうか ?

3.2. カラーネガフィルムからのプリント

 カラーネガフィルムから、普通のカラープリントができることは常識といっていいでしょう。しかし、それだけでなく、モノクロプリントやセピア調(カラー)プリントなどを作成することも可能です。プロラボやセンターラボなどで、こうしたサービスを受けられます。

3.2.1.モノクロプリントを作る

 カラーネガフィルムからモノクロプリントを作成するためのモノクロ印画紙(パンクロタイプ)にプリントすることで、美しい階調のモノクロプリントを作れます。
 カラーネガフィルムから一般的なモノクロ印画紙(レギュラータイプ)にプリントしても、モノクロプリントはできますが、赤い部分は若干黒っぽく再現されます。

<写真 7.a.〜b. >
 カラーネガフィルムからのモノクロプリント

photo

パンクロタイプ印画紙を使用

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レギュラータイプ印画紙を使用

(同じネガフィルムからのカラープリントを、3 回目「フィルム」の 2.2.2. 項に掲載しています。赤い服の再現性を参照してください)

3.2.2.セピア調プリントを作る

 カラーネガフィルムからセピア調一色だけを発色するカラー印画紙にプリントすることで、カラーネガフィルムからセピア調プリントを作成できます。一部のミニラボなどで、このサービスを受けられます。

3.2.3. スライドを作る

 カラー印画紙のような性質を持つフィルムにプリントすることで、カラーネガフィルムからでもポジ(スライド)フィルムを作成できます。
 プロラボやセンターラボで、こうしたサービス(通称「ラッシュ」)を受けられます。

3.3. ポジフィルムからのプリント

 ポジフィルムからのプリントは一般に「ダイレクトプリント」と呼ばれますが、これ以外の方法もあります。簡単に整理します。

3.3.1. ダイレクトプリントを作る

 ポジフィルムと同じような性質を持つ印画紙にプリントするものです。感材メーカーなどによってさまざまな特徴を持つものがあります。
 一般に、カラーネガからのプリントに比べると、少しコントラストが高い傾向があり、価格も高いようです。

3.3.2. インターネガを作る

 ポジ(スライド、リバーサル)フィルムから、反転したネガフィルムを作成することができ、これを「インターネガ」といいます。
 サイズの変更も可能で、大きめのインターネガを作成することで、画質の低下を最小限に抑えることができます。例えば、35mm(135)判スライドからだと、6×9cm判のインターネガを作成するといいでしょう。「インターネガ」からなら通常のネガカラープリントのプロセスでプリントを作成できます。
 大量のプリントが必要な場合には、高価な「ダイレクトプリント」よりも、「インターネガ」を介してカラープリントを焼くほうが安価になることがあります。

3.3.3. デュープを作る

 ポジフィルムは、オリジナルが一点しかない場合が多いものです。これを、複写専用のポジフィルムに撮影しなおすことで、予備を作成できます。これをデュープ(デュプリケート)といいます。大きさや濃度、色調を変化させたデュープも可能です。

3.4.モノクロフィルムからのプリント

 通常のモノクロフィルムやセピア調(カラー)フィルムからも、いろいろなプリントを作成できます。

3.4.1. モノクロプリントを作る

 モノクロ印画紙にプリントするもので、画像は銀でできています。このため、一般にカラープリントよりも長期保存に耐えることが最大の特徴です。  印画紙は、カラープリントと同じくRC(樹脂コーティング)タイプが主流です。バライタ紙(=階調が豊富な美しいモノクロプリントが得られる)へのプリントは、プロラボなど一部の現像所でしか扱っていないようです。
 いずれも、割合簡単に自家処理することができます。

3.4.2. 単色のカラープリントを作る

 通常のカラー印画紙にプリントしても、さまざまな色調の単色のカラープリントを作成できます。
 代表的なものがセピア調プリントですが、色フィルターを調整することで、あらゆる色のモノトーンプリントを作れます。

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セピア調プリントの例

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ブルー調にした例

(<写真 8.a.〜b. >と同じモノクロネガフィルムからのモノクロプリントを、3 回目「フィルム」の 2.2.3. 項に掲載しています。参照してください)

 さて、今回はここまで。現像はほとんどが機械的な作業ですが、実はそこに写真家と同じ「撮影」の要素があることをぜひ理解して欲しいと思います。
 そして、写真を愛する現像担当者氏との出会いこそが、皆さんの写真生活をより豊かにしてくれるのです。

10. 「スピードライト撮影」は難しい ?

第10回目「スピードライト撮影」は難しい ?

似顔絵 現在のスピードライト(ストロボ(R) 、エレクトロニックフラッシュ)は、小型ながら大光量を発する多機能な写真用照明装置です。多くの一眼レフカメラにまで内蔵されるようになり、一般的な撮影にも多用されています。
 しかし、スピードライトの仕組みやその光の性質を正しく理解している人は、決して多くはないのではありませんか ? このスピードライトを上手く使うか否かで、写真写りは全く変わります。
 今回は、現在のスピードライトが持つさまざまな機能を理解すべく、基本中の基本をできるだけ簡単に整理していきたいとおもいます。

1. スピードライトの基本知識

 ニコンでは「スピードライト」と呼称しますが、一般的には「ストロボ(R)」とか「フラッシュ」のほうがお馴染みかも。
「エレクトロニック・フラッシュ」という言い方もあります。
 「ストロボ(R)」はもともと、ストロボリサーチ社が発売していたスピードライトの登録商標だそうです。「フラッシュ」は英語で閃光の意。「スピードライト」は高速度照明とでもいったところで、「エレクトロニック・フラッシュ」は電気による閃光の意でしょう。
 少し年配の方なら「フラッシュ」と言えば、閃光電球=フラッシュバルブを思い出す方もいらっしゃる筈。これは電球の中で金属(アルミニウムやジルコニウム)を一瞬の内に燃焼して発する光を利用したもので、現在のスピードライトが電気による閃光なら、フラッシュバルブは熱による閃光で原理が全く異なります。発光部が小型な割に大光量が得られる特徴がありますが、現在の写真撮影には殆ど使われなくなりました(理想科学の孔版印刷機の『プリントゴッコ』の電球は、このフラッシュバルブを応用したものです)。

 写真撮影用にスピードライトが使われたのは、1939年のニューヨーク万国博覧会で、イーストマン・コダック社が高速度撮影を実演したのが最初といいます。もちろん現在のものに比べると、光量の割には非常に大きな装置です。
 1970年代の始め頃になると、かなり小型のスピードライトが登場します。しかし、それほど一般的ではなく、フラッシュバルブが主流だったのです。
 70年代の中頃には、日本でもスピードライト内蔵のコンパクトカメラが登場、この頃を境にフラッシュバルブは衰退し、スピードライトが主流の座を奪ったのです。
 現在のスピードライトは多くの機種があり、かつまた新しい機能を兼ね備えたものが次々と登場しています。ですが、その本質は、多くの人が思うほどには変わっていません。

1.1. スピードライトの仕組み

 スピードライトの発光部は、放電管のキセノンランプです。名前の通りキセノン(Xe)ガスを充填した管の中に雷のように放電することで、1. 太陽光に似た色温度の白色の、2. 強い光を、3. 一瞬だけ、発光するランプです。
 キセノンランプの特徴を簡単に整理します。

  1. 太陽光に似た白色の光を発する
     キセノンという特殊なガスの発光を利用し、太陽光に非常に似た白色の光を発します。このため、被写体の正しい色の写真をフィルター補正なしで撮影できます。また、屋外での撮影も非常に手軽です。
  2. 強い光を発する
     キセノンランプ内で放電を起こすには、電気をコンデンサーに溜めて、一気に電極に流します。このため、主にコンデンサーの容量によって、光量の上限が決まります。つまり、概してコンパクトではない機種の方が、大きな光量を得られます。
     一般的なスピードライトの光量は、ガイドナンバー(G. No. あるいは G.N.)という数値で表示します。
  3. 一瞬だけ発光する
     スピードライトの種類によって異なりますが、一般的なもので数百分の一秒〜数万分の一秒といった非常な短時間だけ発光します(閃光時間といいます)。
     オート(自動調光)機能付きのスピードライトの多くは、この閃光時間を変えることで、発光する光量を調整(調光といいます)しています。つまり、光量を小さく抑える場合には、放電を途中で停止し、閃光時間を短くして調光します。とはいえ、短くするのにも限界があります。
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<写真 0.>スピードライトは
X 速以下のシャッタースピードでの使用が原則

 一瞬だけ発光するので、一瞬を凍結して止めたようなブレのない写真を撮れるメリットがある反面、光の反射や影の落ち方を事前に人の眼では正しく観察できないというデメリットがあります。スピードライトを使って撮影した時、まるで予想していなかった反射や影が写っていたりするのは、このためです。
 また、フォーカルプレーンシャッターのカメラの場合は、シャッター速度をシンクロ同調シャッター速度(X 速)以下で撮影しなければ、画面全体を露光できません(詳細は、5 回目の 2.1. 参照)。

 余談ですが、近年、少し事情が違うものが登場してきました。例えばニコンスピードライト「SB-28DX / 28」は、F5 や F100、F90シリーズ 等のカメラとの組み合わせで、1 / 250〜1 / 4,000 秒といった高速のシャッタースピードでも同調する「FPモード」を使用することができます。
 「FPモード」では、先幕と後幕のシャッター幕の隙間が画面を走る間、何回もの発光を繰り返し、あたかも閃光時間が長いFP級のフラッシュバルブを使用したのと同じような写真が撮れるのです。
 現状としては、ガイドナンバーから被写体までの距離とレンズの絞り値を計算するマニュアル操作で使用しますが、近い将来、もっと簡便な機能になる可能性は十分あります。

1.2.ガイドナンバー(G.N.)って何 ?

 スピードライトが発光する光量の大きさを示す数値をガイドナンバーといいます。この数値によって、マニュアル撮影時に適正露出を得られるレンズの f 値を簡単に計算できます。また、スピードライトの最大光量を比較する物差しになります。
 35mm [135] 判カメラでは一般的に、感度が ISO100 のフィルムを使用し*、焦点距離35mmレンズの画角をカバーする照射角での数値を表示します。

*注:APS [IX240判] カメラでは一般的に、感度が ISO200 のフィルムを使用した場合の数値を表示します。

 フィルムのISO感度の数字が 2 倍になれば(ex. ISO100 から ISO200 になれば)、G.N.はルート 2 倍(1.4142.....倍)になります。4 倍になれば(ex. ISO100 から ISO400 になれば)、G.N.は 2 倍になります。
 また、光量切替えや照射角によっても、値が変わってきます。つまり同じスピードライトでも、使用条件によってガイドナンバーは変わります。

 ガイドナンバーの意味は、次の数式によって表せます。

ガイドナンバー(G.N.)=被写体までの距離(メートル)×適正露出になるレンズ f 値

 これから判るように、G.N. が大きいスピードライトほど、大光量です。
 一般的な商品でいえば、カメラ内蔵では G.N.10〜18 クラス、カメラのホットシューにセットするクリップオンタイプでは G.N.18〜36 クラス、グリップタイプでは G.N.32〜56 クラスといったところ(全て ISO100・メートル 表示で、照射角 35mm カバー時の数値)。

 近年、オートパワーズーム機構を搭載したフラッシュで、照射角を思いきり狭めたときの G.N. をセールストークに掲げる商品があります。
 「ガイドナンバー54の大光量」の謳い文句に「クリップオンタイプでこの大光量とは素晴らしい !?」と驚いてスペック表をよ〜く読むと、「G.N. 54」は105mmレンズ装着時の数値で、35mmレンズ装着時にはやっぱり 30 台なのでがっかり......という類です。
 照射角の条件には注意してください。
 アメリカ人は、国際間で定められた度量衡の単位系(SI単位系)の長さの単位=メートルのかわりに、フィートを愛用しています。
 1 フィートは約 0.305メートル ですから、アメリカで売られているスピードライトの G.N. の数値は約 3.3 倍に膨れ上がった表示(ISO100・ft. 表示)になります。
 アメリカの雑誌の広告を読んでいて、「G.N.178」の謳い文句に「Oh ! ワンダフル !」と驚いてスペック表をよ〜く読むと...... "ISO100・ft. 表示" でがっかりという類です。

 では、ここで練習問題を(フィルム感度は全て ISO 100 とします)......。

Q.1. 被写体までの距離が 4メートル の場合に、G.N.36 のスピードライトをフル発光して、適正露出になるレンズの絞り値は ?

A.1. 36(G.N.)÷4(メートル)=9(f値) で、f 9 あたりにすればよい。

Q.2. 開放絞り値が F2 のレンズを使って、12メートル 離れた被写体を適正露出にするために必要なスピードライトのG.N.は最小限いくつ ?

A.2. 2(f 値)×12(メートル)=24(G.N.)で、G.N.24 以上のスピードライトが必要。

Q.3. 開放絞り値が F4 のズームレンズを用い、G.N.12 のカメラ内蔵スピードライトを使って、適正露出を得られる被写体の距離の限界は ?

A.3. 12(G.N.)÷4(f値)=3(メートル)で、3メートル が限界。

 意外に使いでのある式でしょ ?
 特に、Q.3 の A.3. から興味深い事実が判ります。一般的な一眼レフの内蔵スピードライトとズームレンズを使用しフィルム感度が ISO100だと、わずか数m 以上離れた被写体は露出アンダーになってしまうのです。これには、十分注意を要します。
 もちろんですが、ISO400 のフィルムを使えば、この限界の距離は 2 倍になります!
 ISO1600 のフィルムで 4 倍です。G.N. が大きくないカメラ内蔵スピードライトと明るくないズームレンズの組み合わせは、高感度フィルムを使ってフォローするのが基本です。

注意:より高感度のフィルムを装填すると、レンズの絞り値をより絞り込んでいくプログラムを搭載したカメラもあります。
 高価な高感度フィルムを使っても、スピードライト光の到達距離というか調光可能な距離が意外に伸びないこともあるわけです。

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<写真 1.>調光可能な距離の範囲を、
必ず撮影前に確認します。
この場合には、被写体までの距離が
0.8〜6メートル の範囲で調光可能。

 また、後述するさまざまなオート(自動調光)機能を使う場合にも、調光可能な距離の範囲を必ずチェックしましょう。被写体が遠すぎる場合には露出アンダーに、被写体が近すぎる場合には露出オーバーになりがち。オート機能は万能ではありません。

 ところで、スピードライトに、発光部にフレネルレンズを設け、このレンズ(または発光管)を前後させて照射角を可変する(ズーム機能)モデルがあります。
 望遠側では、光を狭い範囲に集光して無駄なく被写体を照明します。このため G.N. も大きくなります。
 反対に広角側では、画面の端までもムラなく照明すべく光を拡散します。このため、 G.N. は小さくなります。
 使用するレンズの焦点距離(画角)をカバーするように合わせるのが基本です。レンズの焦点距離の情報を、カメラボディ経由で受け取って、スピードライトの照射角をズーミングするオートパワーズーム機構も1980年代初頭から存在します。


1.3. 撮影モードの選び方

 最近のスピードライトは、恐ろしいまでの多機能高性能を誇っていますから、基本的にカメラやスピードライトに任せっきりで撮影できます。でも、このオート機能にもいろいろあって、何が何だか区別が付かないような気がする筈。
 1.3. 項では、ニコンのスピードライトに使われている基本的な用語について簡単に整理します。
 ただし、スピードライトやカメラボディ、レンズとの組み合わせによっては使えないことがあったり、制約がありますから、詳細は使用説明書にて確認ください。

1.3.1. マニュアルモード(M)

 被写体の明るさやカメラ側の設定に関わらず、常に一定の光量を発光します。機種によって異なりますが、最大光量を発光する「フル発光」の他に、ガイドナンバーが半分にする「1/2 発光」、そのまた半分にする「1/4 発光」など、光量を少なく調整可能。光量を少なく設定すれば、発光間隔も小さくでき、連写向き。
 前述した G.N. で計算するか、単体のフラッシュメーターなどで測光します。

1.3.2. 外部自動調光モード(A)

 被写体が反射したスピードライトの光をスピードライト自体が持つ受光部で感知し、自動調光します。1.3.3.の「TTL調光」が主流となった今、古典的な方式ですが、意外に応用し易い特徴があります。
 スピードライトに表示された f 値をレンズの f 値と揃えるだけで適正露出が得られるようになっています。

1.3.3. TTL 調光 TTL

 TTL とは、スルー・ザ・レンズの略で、要するにフィルム上の像の明るさを直接測定すること。TTL 調光では、スピードライトを発した出た光が被写体で反射し、それがレンズを通してフィルム面上に結んだ像の明るさを測定して、スピードライトの光量などを制御します。すごいでしょう! 
 要するに、スピードライトの発光の最中に測光および調光をおこなうので、適正露出を得られる確率は極めて高くなります。

1.3.4. BL 調光 BL

 BL はバランスを意味します。つまり、スピードライトの影響を大きく受けやすい近い主要被写体と、スピードライトの影響をほとんど受けない背景とを区別し、それぞれの明るさをバランス良く写すようにする機能です。
 日中(日昼)シンクロや夜景ポートレートなどで威力を発揮します。

1.3.5. マルチエリア調光 Multi

 TTL 調光をより高度にした BL 調光で、カメラやスピードライトに完全にお任せして撮影するモードと考えていいでしょう。スピードライトで照明された画面を、いくつかの部分に分割して測定したデータや、D タイプニッコールレンズからカメラに伝達される被写体までの距離のデータなどを基に、もっとも写真写りが良くなるように調光します。
 日本の結婚式で金屏風をバックに人物を撮影するケース(=金屏風は反射率が大きいので、金屏風の前の人物の露出はTTL調光でも外部自動調光でもアンダーになりがち)などに、マルチエリア調光は失敗を防ぐ効果が大きいそうです。

1.3.6. プログラムフラッシュ

 ニッコールレンズの絞りを最小絞り(最大の f 値)にセットしておけば、カメラが自動的に絞り値を適切に選択する機能です。

1.3.7. モニター発光

 スピードライトの本発光の一瞬手前に、小さな光量で発光して(プリ発光して)テストデータを得、より確実な調光をおこなおうとするもの。
 現在、ニコンのスピードライトでは、SB-28DX / 28 / 27 にこの機能が搭載されています。

1.3.8. アクティブ補助光

 被写体がかなり暗い場合には、カメラの AF 機能が上手く働かないことがあります。こうした時に、スピードライト(またはカメラボディ)から弱い光を被写体に事前に投射することで、本発光前に AF 機能を働かせるようにするもの。
 ニコンでは合焦しやすいようなパターンを投射します。

1.3.9. 赤目現象軽減機能 Redeye

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<写真 2.>赤目現象の例

 赤目現象とは、スピードライトの光が眼の網膜(眼底には毛細血管が露出しています)の上に結像し反射することで、それが逆に光源のようになって赤く照り返し、眼の瞳孔が赤く写る現象を指します。

 コンパクトカメラの内蔵スピードライトを用いた時など、レンズの光軸とスピードライトの発光部が近接している場合によく生じます。

 また、被写体の眼の性質によって、起きやすい人と起きにくい人がいるようです。イヌやネコなどは、網膜の後ろにさらに光を反射する膜状のものがあり、人よりもしばしばこの現象が生じます(人と違って、"緑目" や "青目" になるケースが多い)。

 この現象を完全に防ぐには、基本的にはレンズの光軸とスピードライトの発光部を離すしか方法はありません。しかし、スピードライトの本発光の直前に、少し眩しい程度に発光して、被写体の瞳孔を収縮させる(=小さくする)ことで、この現象をある程度軽減できます。この機能を「赤眼軽減機能」と言います(ニコンのコンパクトカメラが草分けではないでしょうか)。上手く活用してください。

2. スピードライト撮影のコツ

 一般的なスピードライト撮影でよくみかける失敗を、できるだけ少なくするためのコツを二つ紹介します。

2.1. 影の出方に注意しよう!

 スピードライトは点光源に近い光源です。このため、被写体の後ろ側にかなりきつい影が落ちることがあります。特に、クリップオンタイプのスピードライトを使用した場合に、カメラを縦位置で撮影すると、この影が大きくでることがあります。よくよく考えてみれば当たり前のことなのですが、実際に撮影している時には、決してこの影は見えませんから、写真の仕上がりを見てはじめて愕然とするわけです。
 スピードライトの光は発光部から出ていますから、影がどこに落ちるのかを、ファインダーを覗きながら、頭の中で想像するように心掛けてください。
 影の出方を事前に確認するための「モデリング発光」ができるスピードライトも存在します。

<写真 8.a.〜c.>
 カメラの構え方とスピードライトの影の出方

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Fig.1.a
Fig.1.b
Fig.1.c

2.2. シャッタースピードの設定で写りが変わる !

 スピードライトを使用する時は、原則としてシンクロ同調シャッター速度(X 速)以下で撮影します。では、この速度以下で撮影した時には、いったい写真写りの何が変わるのでしょうか ?
 少し考えてみれば判りますが、シャッタースピードを遅くすればするほど、スピードライト光以外の光=定常光(自然光、電球や蛍光灯など、人の眼でちゃんと見える光)による露光量が増えていきます。
 つまり、シャッター速度を変えることで、露出に占める定常光の明るさの割合を変化できるのです。
 この仕組みを利用したオート機能に、夜景モードがあります(7 回目、2.3.参照)。

<写真 9.a.〜d.>
 定常光の描写のシンクロ同調シャッタースピードによる変化

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1/8 秒、f5.6、スピードライト非使用

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1/250 秒、f5.6、スピードライト使用(Aモード)

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1/60秒、f5.6、スピードライト使用(Aモード)

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1/15秒、f5.6、スピードライト使用(Aモード)

3. 高度な使い方にチャレンジ!

 スピードライトの高度な使い方のいくつかを簡単に整理します。最近のスピードライトは本当に多機能高性能ですから、こうした使い方もオートでできたりします。詳しいことを述べるスペースがありませんので、カタログや使用説明書でしっかり確認してください。
 こうした使い方は面倒だと思われる方も、とりあえず、スピードライトの使い方を工夫することで写真写りの何が変わるのかを知っておいて欲しいとおもいます。

3.1. バウンス撮影

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<写真 10.>バウンス機能付きのスピードライト

 "首を振る" ことができるスピードライトで、この使い方ができます。これは、スピードライトの発光部を上や横方向に向け、光を天井や壁などに一旦反射させて(バウンスさせて)から、その散乱した反射光を被写体に当てることで、影の出方を柔らかく写すものです。
 もちろん、バウンス先の天井や壁などが白でなければ、その色が照り返して加わったような写りになります。

 基本的に、TTL 調光や外部調光モードでオート撮影が可能です。ただし、反射光を使用するため、バウンス先の反射率と経由の距離に応じて、被写体に届く光量はかなり低下します。

 光量の低下を見越して、できるだけ高感度のフィルムを使うか、レンズの絞りを開放絞りに近い値にして撮影するのがコツです。

<写真 11.a.〜d.>
 バウンスによる描写の変化

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通常撮影

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バウンス撮影


Fig.2

<図 2.>バウンス撮影のようす。

3.2. カメラから外して使う

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<写真 12.>
スピードライトを
延長コードSC-17を介して
カメラから離して使う

 専用の接続コードを介して使うことで、TTL 調光を機能させたまま、スピードライトをカメラから離した位置で発光できます。少し経験を積まないと失敗することが多いでしょうが、ある程度慣れれば、さまざまなライティングを楽しむことができます。

 こうした一灯ライティングを基礎として、複数(多灯)のスピードライトを使えば、かなり高度なライティングも可能。こうした撮影に便利なアクセサリーもさまざま発売されています。まずは、アクセサリーカタログを入手してください。見ているだけでも、非常に興味深いですよ。

<写真 13.a.〜d.>
 スピードライトの照射位置による描写の違い

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(A.) レンズの光軸上
から発光

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(B.) 被写体の斜め45度の位置
から発光

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(C.) 被写体の真横の位置
から発光

fig.3

<図 3.>撮影のようす

3.3. 後幕シンクロ

 通常の一眼レフは、シャッターの先幕が開ききった直後にスピードライトを同調発光するようになっています(「先幕シンクロ」)。こうしたカメラで、動いている被写体を撮影すると、ブレが被写体の動きとマッチしない写りになることがあります。
 これを解消するのが、「後幕」シンクロで、後幕が動きはじめる一瞬手前でスピードライトが同調発光します。このため、被写体の動きにマッチしたブレで写すことができます。
 もちろん、後幕シンクロ機能の付いたカメラと、後幕シンクロ機能のあるスピードライトの組み合わせでしか撮影できません。

<写真 14.a.〜b.>
 先幕シンクロと後幕シンクロの描写の違い(被写体は、写真右から左方向へ前進)

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先幕シンクロ
(後ずさりしているかに見えます)

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後幕シンクロ
(前に進んでいるかに見えます)

3.4. マルチ発光

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<写真 15.> マルチ発光

 連続的に何回もの発光を繰り返し、1 コマの写真の中に被写体の動きを連続的に写すことができます。発光量や発光間隔、発光回数などをある程度自在に調整できます。もちろん、発光間隔や回数にあわせて、シャッタースピードを長くしなければなりません。
 基本的にマニュアル撮影になりますので、露出はガイドナンバーで計算して決めるのが基本です。しかも、画像が重なって写るためにかなり難しいです。できるだけ f 値を変えて、段階露光を幅広く試みる方がいいでしょう。

 定常光の影響を受けないよう真っ暗な場所で撮影するのが基本です。

 スピードライトだけで、一年を通して紹介したいくらいの内容が数多くあることを、この記事を書きながら深く感じました。それほどまでに、現在のスピードライトは多機能・高性能です。
 しかしながら、最新のスピードライトをちゃんと使いこなすには、基本の基本をしっかり押さえておく必要があるのは確かです。

11. 写真の「色」を楽しもう!

第11回目 写真の「色」を楽しもう!

似顔絵 英語でいう "photograph(=直訳すると光画)" にあたるオランダ語に「写真」の意訳を蘭学者があてたからでしょうか、「写真はありのまま(=真)を写すもの」という意識が強いせいか、なんとはなしに、被写体そのものの「色」と写真に写っている「色」が違っていると不自然に思えることが多いはずです。

 その反面で、決して現実的とは思えない「色」で写っている写真に、不思議な魅力を感じたりもします。「色」とは、本当に不思議な対象です。

 今回は、人が見る「色」と写真に写る「色」の関係の謎に迫ります。この謎を理解すればするだけ、写真の「色」を自在に操れると同時に、「色」をより深く楽しめるようになるはずです。

1. 光と色

 太陽光をプリズムで分光すると、7 色の光(国と地域によっては 5 色ないし 6 色)に分けることができることをご存じですね。これは光の屈折率が、波長によって異なるためです。
 波長の長い光、つまり赤い光は屈折率が小さく、プリズムを通った後、最も外側に出てきます。
 逆に、波長の短い光、つまり青い光は屈折率が大きいため、最も内側に出てきます。
 こうして分光した色の帯をスペクトルといいます。
 "太陽光のスペクトルは 7 色に分けうる" という概念は、「光学」を1704年に著したアイザック・ニュートンによるもの。「音階の 1 オクターブは 7 音でできていて美しく調和している。光もきっとそうに違いない(!?)」という錬金術的な強引な発想から、「赤、オレンジ、黄、緑、青、インディゴ(=ジーンズの染料)、菫(すみれ)」と定義しました。日本語では、「赤橙黄緑青藍紫(セキトウオウリョクセイランシ)」と覚えたりもします。
 つまり、光の色の違いは、光の波長の違いによるものです。

 しかし、実際には、一つの色にはさまざまな波長の光が混在しているのが普通です。さまざまな波長の光の組合せやそれぞれの強さを眼が感じ、脳が全体的に把握し、その結果として一つの色を私たちは認識しています。
 すなわち、実際に見える一つの色には、1.)光の波長と色の関係、2.)波長の組合せや強さと色の関係、3.)脳による認識の仕方、が関わってきます。このため、光の色を隙なく論理的に理解するのは、たいへん難しいことです。

 ここでは、写真を撮影する上で知っておけば役立つ「色」の知識を簡単に整理していきます。

1.1. 物の色

 私たちが普通に「色」という場合、それは物(対象物)の色を指します。物そのものに色があると私たちは単純に信じているわけです。もちろん、これでも不都合はありません。
 しかし、少し考えれば判るように、物は光によって眼に見えているわけですから、物の色とは、実は、物が反射している光の色なのです。
 つまり、赤い物は、その表面で赤い光を反射しているからこそ、赤く見えるのです。もし仮に、これを青い光で照明したとすると、赤い物は、黒く見えます。また、濃い青フィルターを装着して撮影した場合も、黒く写ります。なぜならば、濃い青フィルターは、赤い光を吸収してしまうからです。

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<写真 1. >
フィルターなしで撮影

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<写真 2. >
濃い青フィルターを使って撮影

 このように考えると、色というのは単純そうに見えて、意外に面倒な対象だということがわかると思います。実際に眼に見えているさまざまな色を全て写真上に正しく再現することは、ほとんど不可能に近いことなのです。

1.2. 光源の色

 冒頭に、「太陽のスペクトルには 7 色が見える」と述べました。もともとの太陽光は、白色光ですが、それを分光すると 7 色が現れるのです。大変、興味深いことに、このスペクトルを逆向きのプリズムに通せば、元の白色光が蘇(よみがえ)ります。つまり、光の色は、単波長(単色)の光に分解したり、逆に単波長の光を組み合わせることで別の色をつくり出すことができます。

Photo 3.

<写真 3.>
電球の光で撮影
(デーライトタイプフィルム使用)

 さて、電球照明や夕焼けの光で撮影した写真は、全体的に橙(だいだい)色の強い写真に仕上がる(<写真 3. >)ことをご存知のはずです。

 昼間に電球を点灯した時にその光が橙色を帯びていること、あるいは夕焼けの光がそもそも橙色をしていることから、こうした写真はそれほどは不自然には見えませんが、ただ「実際に見た時よりも濃い橙色になる」傾向があるように感じたことはないでしょうか ? これは、感光材料の特性も少しは関係していると思いますが、それ以上に眼の慣れ(思い込み、記憶)が大きく影響しているようです。
 こうしたスライドフィルムを部屋を真っ暗にして映写すると、そのまま現場にいるような臨場感をおぼえたりもします。不思議なものです。


Photo 4.

<写真 4.>
蛍光灯照明で撮影
(デーライトタイプ
 フィルム使用)

 もう一つ。一般的な蛍光灯照明で撮影した写真は、全体的に緑色が強く仕上がる傾向があります(<写真 4. >)。

 特にリバーサル(ポジ)フィルムでは緑色がかなり強く写ります。これは、蛍光灯から発せられる特定波長の強い光(輝線スペクトルと呼びます)の影響と言われています。

 ただ、それがなぜ人の眼には見えず、感光材料には感じるのか ? この疑問に答える十分な理論を私は寡聞にして知りません。
 ある人の説によれば、「人の眼にも実際には緑色に見えているはずだ」と言いますが、それにしては、太陽光と蛍光灯照明を同時に比較したときに、蛍光灯の光がいっこうに緑色に見えません。
 「人の眼は輝線スペクトルを無視しているのだ」という説もありますが、なぜそんな具合に無視できるのか? そこが判りません。どなたかご存知の方は教えてください。

 ともあれ、こうした具合で、光源の色によって、実物の見え方や写真の仕上がりが大きく変わってきます。ですから、見たままのきれいな色(記憶色)に写したい場合には、光源の色にも充分注意する必要があるわけです。

1.3. 色温度とは何か ?

 光源の色の性質を簡単に表示するモノサシのひとつに「色(いろ)温度」という考え方があることをご存知の方は多いでしょう。写真にも非常に馴染み深いものです。
 金属(理想的には "完全黒体" と見倣(みな)します)を熱していくと、次第に赤味を帯びた光を発するようになり、温度を上げていくと赤味が取れて黄色くなり、次第に白っぽい光を発するようになります。さらに加熱すると、青味がかった光を発するのだそうです。

 こうした具合に、温度と色とには一定の関係があることから、色温度がモノサシによく使われるようになりました。色温度の単位には「K(ケルビン)」が用いられ、数値と色のおおまかな関係は次の表のようになっています。

自然光と人工光の色温度(K)とフィルムの種類

<自然光> ▼昼光(晴天)(約5,500K)

日の出・日の入り
▼(約2,500K)
日陰・曇天
(約7,000K)


<人工光>  家庭用電球
 ▼(約2,800K)
▼スピードライト(約5,500K)
ろうそく
▼(約1,900K)
写真用電球
▼(3,200K)

--2,000-- --3,000-- --4,000-- --5,000-- --6,000-- --7,000-- --8,000K--
赤味の強い光 青味の強い光

<フィルム> ▲タングステンタイプ
(3,200K)
▲デーライトタイプ
(5,500K)


 フィルムにも色温度の指定がある(第3回目の 2.2 参照)ことに注意してください。
 これはフィルムが正しい色(昼光(晴天)で観察した時と同じ色)を発色するための光源の色温度の指定という意味です。たとえば、デーライトタイプのカラーフィルムは、色温度 5,500 K の光源の光で撮影した時にはじめて被写体の色を正しく再現します。
 もしも、これより色温度の低い光源(=屋内の家庭用白熱電球など)で撮影した場合には、赤み(橙色)が強く写り、逆に色温度の高い光源(屋外の日陰など)で撮影した場合には、やや青みがかって写ります。
 タングステンタイプのカラーポジフィルムは、色温度 3,200 K の写真用電球(通称タングステンランプ)の光で撮影した時にはじめて被写体の色を正しく再現します。

 フィルム指定の色温度以外の光源で、被写体の色を正しく再現したい場合には、「色温度変換(CC)フィルター」を使用します。日陰用フィルターや電球用フィルターなど、さまざまなタイプが発売されていますので、必要に応じて使用してください。
 厳密さを求める場合には、同じ光源と同じフィルター(と同じフィルム)を用いて、テスト撮影をおこなうのが基本です。

 蛇足になりますが、電球や蛍光灯などの照明器具のカタログにも色温度が明示されています。これは、これらの照明器具の光を人の眼で見た場合の色の感じ方を基準に表示したものです。電球などのスペクトルが連続している照明器具ではよいのですが、蛍光灯や水銀灯などの輝線スペクトルを発する(つまりスペクトルが連続していない)照明器具の場合には、これらのカタログに記載の色温度を写真撮影にそのまま使うことはできません。覚えておいてください。

2. 「3 原色」とは何か ?

 写真はいうに及ばずテレビや印刷など、色を再現するためのさまざまな技術のほとんど全てには 3 原色の考え方が使われています。ですから、3 原色の仕組みを理解すれば、これらの色を自在に調整できるようになります。

 「それでは、3 原色とは何色と何色と何色でしょうか ?」と、日本人に尋ねると、たいてい、「赤、黄、青」という答えが返ってきます。これは信号機の 3 色ですね。いえ、信号機の 3 色は、最近では、「赤、黄、緑」と教えられているそうですが、私が子供だった頃には、「赤、黄、青」と教わりました。
 ともあれ、3 原色です。実は、これには 2 通りあります。一つは「加色法の 3 原色」で、赤(R)、緑(G)、青(B)。もう一つは「減色法の 3 原色」で、シアン(C)、マゼンタ(M)、黄(Y)です(シアンとマゼンタは、あまり聞かない色の名称かもしれませんが、これを機にそれぞれの色の印象と共に覚えてください)。

2.1. 加色法と減色法

Photo 5.

<写真 5.>
モニタをルーペで拡大視すると......
赤・緑・青のカラーフィルターが見えます

 まず「加色法の 3 原色」、赤(R)、緑(G)、青(B)ですが、これはカラーテレビ、液晶ディスプレイなどに応用されています。モニタをルーペなどで拡大して見ると、規則的に並んだ赤(R)、緑(G)、青(B)の粒々(画素(ピクセル)といいますか、カラーフィルターの配列)が見えます(<写真 5.>:右)。
 つまり、「加色法の 3 原色」の光の強さを、さまざまに変えて組み合わせることで、あらゆる色がつくり出せるわけです。
 野球場や盛り場の巨大テレビ画面("○○ビジョン")も同じ仕組みです。


Photo 6.

<写真 6.>
カラー印刷物を
ルーペで拡大視すると......
C、M、Y(とK)の
網点が見えます

 次に「減色法の 3 原色」、シアン(C)、マゼンタ(M)、黄(Y)ですが、こちらはカラー印刷に応用されています。
 カラー写真の印刷物をルーペで拡大して注視すると、これも規則的に並んだ、シアン、マゼンタ、黄などのインク(インキ)の粒々(網点(あみてん)といいます)が見えます(<写真 6.>:左)。
 つまり、「減色法の 3 原色」のインクの濃さ(=色の粒である網点の大きさ)をさまざまに変えて(= 0 〜100 % の範囲でパーセンテージ表示します)掛け合わせることで、あらゆる色がつくり出せるわけです。

 ちなみに、C、M、Y の 3 色のインクを掛け合わせると理論上では真っ黒になるはずですが、実際にはどんなにインクの濃度を上げても、黒に近い灰色にしかなりません。
 そこで印刷の現場では、黒を黒としてきちんと表現するために、減色法の 3 原色のインクに黒("B" とも、墨(スミ)ともいいます)を加えた計 4 色のインクが使われています。


Fig.1.

<図 1.>
「カラーフィルムと乳剤層」

 それでは写真ではどうかというと、これら「加色法」と「減色法」両方の 3 原色を使っています。

 <図 1. >に、カラーフィルムの仕組みを図示しました。
 カラーフィルムの感色層は、下から順に赤光、緑光、青光に感じる乳剤がフィルムベース上に塗布されています。
 面白いことに、フィルムを現像すると、それぞれ、下層からシアン(C)、マゼンタ(M)、黄(Y)に発色します。
 カラーネガフィルムでは、それぞれの光が当たっている部分が発色し、カラーリバーサル(ポジ)フィルムではそれぞれの光が当たっていない部分が発色する点が、ネガとポジで異なります。

2.2. 色の足し算、引き算

Fig.2.

<図 2.>
「光の波長と、3 原色の関係」

 さて、「加色法」、「減色法」それぞれの 3 原色を、光の波長との関係で簡略化して図示したものが左の<図 2. >です。
 スペクトルの色とは異なり、ある範囲の波長の光が均等にある場合に、人の眼にそれが何色に見えるかを示しています。

 波長 400〜500 nm(ナノメートル)の光がほぼ均一にあれば、私たちはそれを青(B)色と認識します。緑(G)は、500〜600 nm。赤(R)は、 600〜700 nm です。これが「加色法の 3 原色」です。

 「減色法の 3 原色」ではどうかというと、波長域が広く、500〜700 nmまでの光がほぼ均一にある場合に黄(Y)色に見えます。マゼンタ(M)がちょっと面白くて、400〜500 と 600〜700 nm と別れています。400〜600 nmの光があれば、シアン(C)に見えます。

 この<図 2.>の「光の波長と、3 原色の関係」の見方がわかると、興味深い事実に気付くはずです。
 つまり、青(B)と緑(G)を足せば、シアン(C)と同じ波長域の光が揃うことになります。同様に、緑(G)と赤(R)を足せば黄(Y)になり、青(B)と赤(R)を足せばマゼンタ(M)になります。
 それぞれの色を記号で数式化して書いてみましょう。

B + G = C   G + R = Y   B + R = M

 また、青(B)と黄(Y)を加えると、全ての波長域が揃うことになります。これはつまり色が無くなって無彩色(白やグレー)になることを意味します。
 色が無いので、これを仮に「0」と表示することにしますと、次の式で表せます。

B + Y =0   G + M = 0   R + C = 0

 これを算術的に変形すると、次のようになります。

B = - Y    G = - M    R= - C

 これが、いわゆる補色の関係です。
 つまり、青(B)の補色は黄(Y)、緑(G)の補色はマゼンタ(M)、赤(R)の補色はシアン(C)で、それぞれの色を等量だけ混ぜることで、無彩色になります。
 ですからたとえば、蛍光灯照明による緑(G)カブリを補正したい場合には、その補色であるマゼンタ(M)のフィルターを用いればよいわけです。
 どうですか !? 慣れるまでは少し分かりにくいかもしれませんが、色はこのように算術的に計算できるのです。一度理解してしまえば、色を自在に調整できるような気分になるはずです。

Fig.3.

<図 3.>
「原色・補色のリング」

 さて、こうした色の足し算、引き算を覚えやすくした「原色・補色のリング」(<図 3. >)を描いてみました。
 このリングでは向かい合う色がそれぞれ補色になっています。また、一つ飛ばしの色を混ぜることで、その中間の色ができます。
 つまり、このリングを覚えておけば、「色の調整」が直観的に判ります。

2.3. 色フィルターの使い方

 ここまでに述べた色の仕組みを理解していなくても、「青いフィルターをレンズの前にセットすれば青い写真になる」ことは、誰もが知っているはずです。色メガネを掛けるのと同じですね。
 ただ、色の仕組みを理解すると、青(B)フィルターを用いることで、その補色である黄色(Y)の被写体は無彩色に近くなることや、緑色(G)の被写体がシアン(C)に近く写ることが判ります。色の仕組みを知っていることで、色フィルター使用時の写真の仕上がりの予想が立てやすくなるわけです。

 色フィルターは、その補色の色の光を吸収することで、画面全体の色を調整するものです。ですから、濃いフィルターを用いると、透過する光量自体が少なくなります。この点にのみ注意して、まずはいろいろ遊んでみることから始めてみましょう。

2.3.1. 色調整(CC)フィルター

photo 7

 

 コダックや富士写真フイルムから、3 原色(R、G、B と C、M、Y の計 6 色)のシート状の色調整(色補正、CC)フィルターが販売されています(<写真 7. >:右)。

 色調整(補正)の基本的な考え方は、「偏った色の補色のフィルターを加える(すなわち補色をカットする)」ですが、これらのフィルターには、その濃さが数値で示されており、色の足し算・引き算を、より正確におこなえるようになっています。
 CCフィルターをひと揃い揃えるにはかなりお金がかかりますが、色の調整をより自在かつより確実におこなえます。

 実は、ラボでカラープリントを作成する際にも、これと同様の色フィルター調整(補正)がおこなわれています。なお、カラーネガフィルムからのプリントは「減色法の 3 原色」で調整(補正)がおこなわれています。

2.3.2. 色温度調整(変換)フィルター

Fig.4

<図 4.>
曇りの自然光デーライト光電球光
(色温度高い)5,500K(色温度低い)

 色(いろ)温度については前述しましたが、これを 3 原色で考えるとどうなるか ? を少し考えておきましょう。
 <図 4. >は、「色温度と RGB 3 原色の光の成分の光量の関係」を描いた棒グラフです。

 中央のイラストは、R、G、B 3 原色の光の成分の光量のバランスがとれている晴天の太陽光やスピードライト光などのいわゆるデーライト光を表しています。この棒グラフを基準に考えてみましょう。
 「色温度が高い」というのは、青の成分の光量が多く、赤の成分の光量が少ないことを意味しています(<図 4. >の左図)。
 逆に「色温度が低い」というのは、青の成分の光量が少なく、赤の成分が光量が多いのです(<図 4. >の右図)。
 つまり、色温度とは、この棒グラフの傾きを数値化したものだと考えればいいのです。

 色温度を調整(変換)するには、3 原色の色調整(色補正、CC)フィルターを 2 枚使えばいいのです。しかし、かなりやっかいな調整になることは確かです。
 色温度調整(変換)フィルター(富士写真フイルムでは「LBA」(橙色系です)、「LBB」(青系です)。コダックでは「80」、「85」など)は、このような光の色の傾きを 1 枚で調整できるように設計したフィルターだといえます。

3. 写真の「色」とは何か ?

 色の仕組みを簡単に整理してきました。「色温度」を理解すれば、光源とフィルムの組合せによる色の調整をおこなえます。なぜならば、光源やフィルムは、色温度を一つのモノサシとして設計されているからです。
 また、「 3 原色」を理解すれば、写真における色調整(補正)のほとんどを自在におこなえます。なぜならば、写真は 3 原色でできているからです。

 それでは、なぜ色は 3 原色でできているのでしょうか ?
 答えは、意外な理由からです。人の眼の網膜の色を感じる視細胞(錐体(すいたい)細胞)には 3 種類あって、それぞれが赤、緑、青の光を感じとっているのです。
 つまり、これら 3 種類の錐体細胞がそれぞれ RGB の各成分の光をどれくらいづつ感じたかに応じて、脳の中で 3 原色から全ての色をつくり出して認識しているわけです。

 しかし、そうは言っても、現実の世界にはさまざまな色があります。輝くような色、透明感のある色、鈍い色、などなど......。色の様子とか、色の表情とでもいえば理解できるでしょうか。これらの全てが、3 原色の組合せで表現できるというものでは決してありません。
 現在のカラー写真は非常に一般的なものです。人によっては、「写真に写る色は、現実そのものの色だ」と信じていたりしますが、実際には、現実に見える色のほうが遥かに表情が豊かです。

 一方で、「写真に写した色のほうがきれいに見える」ということも実際にはあります。なぜかというと、そういう具合に見えるようにフィルムやカラー印画紙などは設計されているからです。特に、一般向けの感光材料は、どちらかというと 3 原色を派手に見せるように設計されています。その方が、技術的にも簡単で、しかも中間色が省略される傾向がありますから、色がはっきりきれいに見えるのです。
 「プロフェッショナル用」とか「高品位用」と銘打たれた高価な感光材料は、3 原色だけでなくそれらの中間色も忠実に再現するように設計・製造したものですが、それが故に、プリント作成などはより難しくなります。

 こうしたわけですから、まずは「実物の色をしっかり観察すること」から始めたいものです。意外なことに、実物をよく観察できるようになればなるほど、写真の腕もあがっていきます。とにかくは、「自分の眼で見ること」が基本です。

3.1. 正しい色

 先にも少し触れましたが、写真でいう「正しい色」とは、「太陽光(昼光)で実物を観察した時の色を、写真の上に再現していること」を指します。なぜかというと、太陽光は、地球上のどこでも簡単に得られますから、これを基準にすることで、世界中のどこの地域の人にでも、写真を通して実物の色を正しく伝えることができるからです。

 正しい色の写真を写すには、1)光源(色温度)の選択、2)フィルムの選択、3)撮影時やプリント時の色調整、を正しくおこなう必要があります。
 一般的には、太陽光かスピードライトの照明で、デーライトタイプのカラーフィルムを使えば、それだけで正しい色が再現されます。あるいは、写真用電球による照明でタングステンタイプのカラーフィルムを使う方法もあります。
 これら以外の場合には、フィルムなどが指定しているフィルターを使用して、補正しなければなりません。

Photo 8.

<写真 8.>
「正しい色」ではありませんが、
電球照明の温かい雰囲気を感じませんか ?

 ここで写真の色を少し別の角度から考えてみましょう。例えば、白熱電球で照明された部屋を撮るとします(<写真 8.>)。電球の光は橙色をしていますが、それがゆえに、なんとなく温かい穏やかな感じがするはずです。これを、色温度変換(CC)フィルターを使用して「正しく」補正して撮影したとすると、確かに「正しい色」にはなりますが、電球の光の雰囲気が失われます。どうしたものでしょう?
 写真に写る色は正しいことが望ましいことは確かですが、ただそれだけで十分かというと、決してそうではありません。

3.2. 表現する色

 テレビドラマを視たり、雑誌などに掲載の写真を見ていると、現実とはかなりかけ離れた色が画面を支配している......、そんなイメージを眼にすることがあります。画面(紙/誌面)全体が真っ青であったり、真っ赤であったりします。でも、それらが変に見えるかというと、決してそういうわけではなく、それがそこで伝えるべき内容を「色」がより効果的に演出していることに気が付きます。
 現代の私たちは、数え切れないくらいのイメージをテレビや写真を通して受容しています。ですから、それらのイメージの見方を無意識の内に熟知しています。ところが、これとは逆に、ビデオや写真を撮る側に立った時、「イメージをどう見せるか」といった方法論をまるで知らないことに気がつきます。だからこそ、まずは「正しい」方法で撮ることから始めます。しかし、決してそれだけでは表現できないものがあるのですね......。面白いことにこれは、「正しくない」方法を選択することではじめて表現できるものだったりするのです。間違った「色」、現実的ではない「色」で写すことで、はじめて表現できる何かもあるのです。
 こうしたわけですから、「正しくない色の写真はよくない」というのではなくて、「写真の色は写真の色として、それを楽しむ」ことからはじめてみましょう。そうしてみると、今までに撮った写真の中からも、意外な豊かさを発見できるに違いありません。


photo

<写真 9.>
スピードライトで照明し、
タングステンタイプフィルムを使って
撮影した「色」

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<写真10.>
濃い黄色のフィルターを使って
撮影した「色」

photo

<写真11.>
複写用フィルム(フジ CDU II)を使用し、
タングステン照明で
撮影した「色」

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<写真12.>
スピードライトに赤フィルターを付けて
撮影した「色」

 色についてもっと詳しく知りたい人には、次の新書をお勧めします。『色彩の心理学』、『色彩の科学』の 2 冊。共に金子 隆芳 著(岩波新書)です。

12. 摩訶不思議な写真の世界

第12回目 摩訶不思議な写真の世界

似顔絵 いよいよ全12回(当初の予定)の最終回です。これまでに紹介できなかったいくつかを簡単にまとめてみます。
 一つは、「フィルター」。色を調整するだけではない、さまざまなフィルターの特徴を整理します。
 次に、「ステレオ写真(stereograph)」。立体写真とか 3D 写真として知られる技術(stereography)の一つですが、一眼レフ 1 台だけでも撮影できる方法を紹介します。
 最後に、「写真撮影スタジオ」。スタジオで使われている照明機材とその役目を簡単にまとめます。
 それぞれ特殊と思われがちな分野ですが、応用範囲は極めて広いものです。

1. さまざまなフィルターによる表現効果

 前回(第11回目)、色温度調整フィルターと色調整フィルターについて簡単に紹介しました。これらは、光の中の必要な色だけを透過し、その補色成分を吸収(カット)するものです(レギュラーコーヒーを抽出する時に使う紙フィルターみたい)。

 写真用フィルターには、こうした色フィルター以外にもさまざまなものがあります。全てを紹介できませんが、フィルターの「仕組み」と「作り」で大きく分類してみます。
 一眼レフカメラでは、こうしたさまざまなフィルターの効果をファインダー像でかなり正確に把握できます。手作りフィルターも簡単に楽しめますので、気軽にチャレンジしてもらいたいとおもいます。

1.1.フィルターの仕組み

 写真用フィルターをその仕組み(原理)で分類すると、

  1. 光を吸収するもの、
  2. 光を拡散するもの、
  3. 光を屈折するもの、

に大別できます。品種別の分類を、<表 1.>に示しました。
 もちろん、ここに紹介する以外にもさまざまな効果を得られるフィルターがありますが、原理的には、光の吸収・拡散・屈折といった物理的性質を応用したものです。つまり光の物理的な性質を理解すれば、オリジナルのフィルターの自作も割合簡単です。
 カメラメーカーやアクセサリーメーカーから販売されているフィルターは、精度的にも優れたものですが、大雑把(おおざっぱ)にこしらえた自作フィルターでも味わいある表現効果は得られます。アイデアを活かして、いろいろ遊んで頂きたいとおもいます。

<表 1.>フィルターの仕組みによる分類

Table 1.

1.1.1. 偏光(PL)、円偏光(C-PL)フィルター

 ガラスや水面などの反射光(写り込み)をカットしたり、青空を暗く落としたり、風景撮影などで色彩をより鮮やかに写すために用いられます。
 フィルター前枠を回転すると効果が変わります。一眼レフカメラであればファインダーを覗きながら微妙な調整ができます。
 反射光の除去には、反射面との角度が 30 から 40 度の位置が最も効果的。青空を暗く落とす場合には、太陽から 90 度の方向が最も効果的。
 濃いフィルターですから、露出やピント合わせには要注意です。

 偏光を正しく理解するのはかなり困難ですが、簡単にいうと、光は波の性質を持っており、その振動方向に偏りのある光が偏光です。ガラスや水面での反射光や、青空の光にはこうした偏光成分が含まれています。
 偏光フィルターは、こうした偏光成分をカットするもの。ですから、反射光を除去したり、青空を暗く落としたりできるわけです。
 風景撮影などで色彩を鮮やかに写せるのは、空気中の水蒸気やゴミなどによる反射光を除去するからです。

 AFカメラ、そしてMFカメラでも偏光性のハーフミラーをレフレックスミラーあるいはサブミラーに使用しているカメラに通常の偏光フィルターを装着すると、AF機能やAE機能が上手く作動しないことがあります。このようなカメラには、より高価な円偏光フィルターを使用します。
 円偏光を正しく理解するのもこれまた厄介ですが、光の振動方向が回転するようなイメージを思い浮かべていただければ。使用方法は、通常の偏光フィルターと同じです。

<写真 1.>偏光フィルターでガラスの反射を除去した作例

photo

<写真 1.a. >
偏光フィルターを使用しているが、
あえて効果が出ない向き(角度)にて撮影

photo

<写真 1.b.>
偏光フィルターの効果が
最大になる向き(角度)にて撮影

1.1.2. ND フィルター

 ND とは "ニュートラル・デンシティ" の略で、無彩色の濃いフィルター。色には影響を与えずに光量を減少します。
 晴天下、高感度フィルムを装填していて露出計の連動範囲をオーバーしてしまったときなどは勿論ですが、「より遅いシャッタースピードを」(第 5 回目参照)、「より開放値に近づけた絞り値を」(第 6 回目参照)と、思い通りの描写を追究するには不可欠なフィルターです。
 濃い ND フィルターほど大きな数値が付されています。この数値は、シャッタースピードが何倍遅くなるかを指したもので、ND 2 なら 2 倍(-1 EV)、ND 4 なら 4 倍(-2 EV)、ND 8 は 8 倍(-3 EV)になります。
 非常に濃いタイプには、ND 400(約 -9 EV)があり、これを使用すれば太陽を撮影することもできます(太陽を直視してはいけません)。

<写真 2. > ND フィルターの効果

photo

<写真 2.a. >
ND フィルターなしで撮影

photo

<写真 2.b.>
ND 8 を装着、
シャッター速度を 3 段分遅くして撮影

1.1.3. UV フィルター

 UV は "ウルトラ・バイオレット" の略で紫外線の意。紫外線は肉眼には見えませんが、写真フィルムにはよく感光し、色彩の鮮やかさを低下させたりします。こうした紫外線の悪影響を抑えるために使用します。ほとんど透明に近いフィルターですから、レンズ表面の保護を目的として常用することもできます。
 紫外線のみをシャープにカットし可視光にはまったく影響を与えないタイプや、紫外線だけでなく青緑光も少しカットするタイプ(L1BC)など、細かな種類があります。

1.1.4. 白黒用フィルター

Photo 3.

<写真 3.>
クロスフィルターの効果

 モノクロフィルムと併用する色フィルターです。モノクロフィルムには色は写りませんが、さまざまな色を適度な濃さに写すように、全ての可視光(色)に感光するように作られています。このため、白黒用の色フィルターを使うことで、モノクロ写真に写る色の濃さやコントラストを調整することができます。

黄:紫外線や青光を除去し、自然なコントラストで写すためのフィルター。

橙:橙は、黄フィルターよりも強い効果を得られます。風景撮影では青空を暗く落とし、コントラストを強調するために使います。
赤:赤は、橙フィルターよりも強い効果を得られます。赤外フィルム撮影にも使います。

緑:人の眼の見え方に近い描写のモノクロ撮影ができます。ポートレート撮影には特に有効。

1.1.5. クロスフィルター

 透明フィルターの表面に、平行線状の傷を付けた(溝を刻んだ)ような作りで、光源などから光の筋(光条)が放射しているような描写が得られます。光条の角度や本数を違えて効果を変えたさまざまなタイプがあります。
 また、光条が虹のように分光されるタイプもあります。

1.1.6. フォグフィルター

 淡い曇りガラスのようなものと考えてよいでしょう。画面全体がぼんやり霧(fog)がかかったように写ります。ガラス(あるいはアクリル)の表面の加工には各社さまざま工夫を施し、ピントのシャープさは失われないものが主流です。
 手軽に楽しむには、透明フィルター(例:UV フィルターなど)に息を吹きつけて、少し曇らせて撮影してみるといいでしょう。できるだけ早く撮影しないと、すぐに曇りがとれてしまいますが......。

1.1.7. ソフトフィルター

 フィルター表面に特殊な加工をほどこし、ピントをソフトに写すものです。効果の強いもの弱いもの、ピントのシャープさをできるだけ残す(よく「ピントの芯を残す」といいます)ものなど、さまざまなタイプがあります。
 手軽なところでは、透明フィルターにワセリンなどの透明油を塗ったり、台所用のラップ、女性用ナイロンストッキングなどをフィルター替わりにしても楽しめます。

<写真 4.> フォグフィルターとソフトフィルターの効果

photo 4.a.

<写真 4.a. >
フィルターなしで撮影

photo 4.b.

<写真 4.b.>
フォグフィルターをつけて撮影。
光が滲(にじ)んだような写りに

photo 4.c.

<写真 4.c.>
ソフトフィルターをつけて撮影。
ややピントがソフトな写りに

 

1.1.8. 多重効果フィルター

Photo 5.

<写真 5.>
多重効果フィルターの作例

 ガラスをプリズム状にカットしたような作りで、画像をダブらせて撮影することができます。カットの仕方などで多重画像の出方に違いを出し、いろいろなタイプが市販されています。
 さらに、フィルターを回転したり、絞りを調整することで、写りの変化を楽しめます。

1.1.9. 特殊効果フィルター

Photo 6.

<写真 6.>
特殊フィルターのひとつの作例

 画面中央部だけにピントを合わせ、周辺部をボカして写すもの。画面を縦方向や横方向に縮めて写すものなど、ありとあらゆるタイプがあります。

 アクセサリーメーカーのカタログをご覧になるだけで楽しいですよ。

1.2.フィルターの作り

 「フィルター」と一口に言っても、本当にさまざまな効果を得られる種類があることを述べました。
 つぎに、フィルターの作りの違いによって分類してみます。それぞれに一長一短がありますので、必要に応じて選択してください。

1.2.1. ガラスタイプ(枠つきタイプ)

Photo 7.

<写真 7.>
シートタイプフィルターの装着例。
専用のホルダーに挟んで使用します

 レンズの前枠にネジ込む方式で、もっとも一般的なフィルターです。ガラス(多くは光学ガラス)かアクリルでできているため耐久性にも優れています。ただ、やや高価なことと、レンズ口径の異なるものにはすぐにはセットできないのが難点です。
 特殊な効果を得られるフィルターなど、種類も豊富です。

 フィルターをより小さなアタッチメント径のレンズにセットする際には、アダプターリング(ステップアップリング)を使用します。
 小径のフィルターをより大アタッチメント径のレンズにセットするアダプターリング(ステップダウンリング)もありますが、画面周辺部がケラれることが多いものです。

1.2.2. シートタイプ

Photo 8.

<写真 8.>
プラスチックタイプの例。
このホルダーはレンズフードを兼ねた一体型で、
システム化されたタイプ

 光学特性のよいゼラチン(でも食べてはいけません)やアセテートなどに染料を混ぜて着色した薄いフィルム(シート)を、一般的には方形にカットしたタイプです。
 3 インチ(約75mm)角、あるいは 4 インチ(約100mm)角サイズが主流で、それぞれ専用のフィルターホルダーにセットし、アダプターリングを介してより小径のレンズに装着して使います。
 色温度調整フィルターや色調整フィルター(第11回目参照)、UVフィルター、NDフィルターなどが豊富にラインナップされています。

 基本的にレンズの異なるアタッチメント径に対して融通が利き、単価も安いのですが、素材の性質上、耐久性に欠けるのが欠点です。

 シートタイプには、特殊な効果を得られるフィルターはほとんどありません。

1.2.3. プラスチックタイプ

 フィルターは数 mm 厚のプラスチック製で四角い形状をしており、専用のフィルターホルダーにセットするシステムです。
 フィルターホルダーはアダプターリングを介することで、さまざまなレンズ口径に対応できます。ただし、システム化されているため、他のホルダーやフィルターとの組合せでは使えないこともあります。最初に購入する際に十分注意してください。

 素材を活かしてさまざまな効果を得られるものが揃っています。

2. ステレオ写真の愉しみ

 写真そのものは平面なのに、なぜかそこに立体が浮かび上がってみえる不思議な写真。「立体写真」とか「 3D(スリーディメンジョン)写真」を見たり聞いたことがあるはずです。
 この技術(stereography)にはさまざまな種類があり、それぞれ奥が深いものですが、その一つが「ステレオ写真(stereograph)」と呼ばれるものです。
 ステレオ写真の仕組みは、オーディオでいうステレオと同じです。つまり、右耳と左耳で聴こえる音の違いによって立体的な音場が脳の中に再現されるように、右眼で見る像と左眼で見る像の違いによって立体的なイメージを再現するのがステレオ写真です......。
 ちょっと難しそうですが、じつは一台の一眼レフと普通のフィルムで、簡単に楽しむことができます。まずは、ステレオ写真の原理の理解から始めましょう。

2.1. ステレオ写真の原理

 人の左右の眼は、個人差はありますがだいたい 6〜7cm ほど離れています(この巾というか長さを、眼基線幅=眼幅(がんぷく)といいます)。
 このため、立体物を両眼で観察するとき、左右の眼はそれぞれ、右からそして左からと少しづつズレた像を観察しています(両眼を交互に閉じて、対象物を観察してみると一目瞭然)。
 しかし、私たちは普通、こうした両眼のズレ(視差=パララックスといいます)をズレとして意識するのではなくて、この両眼視差を脳内で総合して「この対象物は立体である」と認識しているのです(<図 1.>参照)。不思議ですよね。

 ですから、両眼に代えて 6〜7cm ほど離した位置からカメラで撮影して焼いた 2 枚一組の写真(以下、ステレオペア (stereo pair) とよびます)を、左右両眼で同時に観察すれば、立体感を得ることができます(<図 2.>、<図 3.>参照)。
 これがつまり、ステレオ写真の原理です。

Fig. 1.

<図 1.>
自然な立体視

Fig.2.

<図 2.>
ステレオ写真撮影のしくみ

Fig.3.

<図 3.>
ステレオペアを立体視(平行法)

Fig. 4.

<図 4.>
ステレオペアの裸眼立体視を
補助するためのマスク

 ただ、ステレオ写真を撮影することは簡単なのですが、ステレオペアをそれぞれ左右の眼で観察して立体視すること(両眼立体視)は、すぐできる人と、そうでない人に分かれます。
 裸眼では立体視ができない(=結構慣れが必要です)人は、<図 4.>のようなマスクを作成して、左右の写真の境界が交じらないようにして視るとよいでしょう。
 それでも上手くいかない人で眼鏡の装用者は、眼鏡を変えてみることをお勧めします。近視の人は、眼鏡を外して観察してみてください。遠視の人は、少し度の強い眼鏡に変えてみるといいでしょう。

 さらに、<図 4.>のマスクの覗き孔に焦点距離 100 mm 程度のルーペ(=凸レンズ)を貼りつけて本格的なビュアーを作れば、より容易に立体視ができるはずです。

2.2.ステレオ写真の撮影と観察の実際

Fig. 5.

<図 5.>
ステレオペア撮影時の
基線(ステレオベース)長

 立体視の原理はいたって簡単ですね。
 実際問題、かなりいい加減に撮影したステレオ写真でも、立体視に慣れてさえいれば、大抵のものに立体感を得ることができます。
 例えば、左右を反対にしても割と大丈夫(!?)ですし(凸面が凹面に、凹面が凸面になるんですけど.....これをスードゥー ステレオ (psudu stereo) といいます)、似ている二人の人の写真を並べてもなんとなく立体に見えたりもします(!?)から、おかしなものです。

 とにかくは気軽にチャレンジしてもらいたいと思います。
 とはいえ、とりあえずは、ちゃんとした撮影法 & 観察法を理解しておくに越したことはありません。簡単に整理します。

2.2.1. 「基線長」の役目

 人の両眼はだいたい 6 〜 7 cm 程度離れていると先に述べました。しかし、個人差がありますね。ですから、厳密に 何 mm でなければならないというものではありません。
 しかし、この長さ(基線長あるいはステレオベース(長)といいます)が長くなればなるほど、左右の像のズレ(視差)が大きくなります。
 つまり、立体視した時の立体感がより強調されていくわけです。

 さて、「ステレオ写真は、基線長の50(〜100)倍前後の長さを撮影距離に設定したときに、もっとも自然な感じで立体視できる」と古来より言い伝えられています。

「基線長」のめやす
  1. 近接撮影の場合には 3 〜 4 cm
  2. 一般撮影の場合には 5 〜 8 cm
  3. 風景撮影の場合には 10 cm 以上
  4. 遠景だけを撮影する場合には 数 m 以上
Fig.6..

<図 6.>
一台のカメラでステレオ写真を撮影

 確かに撮影距離に対して基線長が短すぎては、自然な立体視は困難になります。
 とはいえ、遠景、たとえば遠方の山々などといった、日常は「山って立体だなぁ」とは認識しないでいる対象物は、上記有力説でいう「基線長として撮影距離の 1 / 50(〜 1 / 100)の長さを確保」していなくても、それなりに立体視できることも確かです。

 「基線長として、撮影距離の 1 / 50(〜 1 / 100)の長さを確保すべし」という上記有力説に従えば、東京から約 100 キロ 先の富士山を撮るには、まず 1 コマ目を写して、横方向に約 1〜2 キロ ほど平行移動して(下の<図 6.>参照)、残る 1 コマを撮るのがよいことになります(実際には、前述したように日頃富士山を遠望しても「富士山って円錐状の山だなぁ」とは認識していないため、これほど基線長を確保して撮らなくても、かなりの立体感があるステレオペアが得られます)......。

 ここで、ステレオ写真界ではかなり有名な応用問題をひとつ。

Q. 月(撮影距離は約38万キロ)のステレオペアを撮るには、1 コマ撮ってからどれだけ移動したらよいでしょうか ?。

A. まず 1 コマ写して、約 7,700〜3,800 キロ ほど移動して、残り 1 コマを撮るのもひとつの方法です.......。
 実は、 1 コマ目を撮ったその場所を動かずとも、約 2 〜 6 時間後にもう 1 コマ撮るだけで、立体感あるステレオペアが得られるそうです。地球の自転を活かすそうです。

2.2.2. ステレオ写真撮影の実際

 カメラ店、どちらかというと中古に強いカメラ店などには、ステレオ写真撮影専用のステレオカメラや、アクセサリー類が販売されています。それらを利用すると、手軽にステレオ写真を楽しめます。機種も豊富で、さまざまに工夫されたものがあり、奥の深さを感じるはずです。
 しかし、わざわざ購入しなくても、手元にある一眼レフカメラ一台で、十分に楽しむことができます。要するに、適切な基線長分だけカメラをずらして 2 枚一組のステレオペア写真を撮影すればよいのです。詳細は次項に述べます。

Fig.7

<図 7.>
左右の写真の見分け方。
緑の四角が手前、赤い丸が奥にあります

2.2.3. ステレオペアの左右の見分け方

 何枚ものステレオペアを撮影した後で、ポジやプリントを見てもどれとどれがペアか判らなくなることがあります。こうした際には、プリントの像をじっくり観察してみると、写真の左右の写真を判別できます。<図 7.>を参照してください。

2.2.4. 立体視の二つの方法

 先に紹介した立体視の方法は、左側の位置で撮影した写真を左眼で、右側の位置で撮影した写真を右眼で観察するものでした。視線を平行にしますので、「平行法」といいます。ステレオ写真の多くはこの方法で観察します。

 「平行法」以外にも、ステレオペアを左右反対に並べて観察する方法もあります。寄り目にして視線を交差させるため、「交差法」と呼ばれます。
 一枚の写真の幅が 6〜7cm 以上あるステレオペアの観察には有益です。

2.3.一眼レフカメラでステレオ写真を楽しむ方法

 一眼レフカメラを 1 台だけ使ってステレオ写真を撮影するには、被写体までの撮影距離から計算した基線長分だけ離した位置で 2 枚一組撮影すればよいことは、もうお判りですよね。
 撮ったステレオペアを手軽に観察するには、普通のカラーネガフィルムで撮影し、処理が早くて安いサービスサイズプリントにて仕上げます。
 左右の 2 枚のプリントを重ね、ライトボックスやランプに透かして像の位置を揃えて、セロハンテープなどで軽く固定します。次に、プリントの横幅がだいたい 6 センチ程度になるように、ハサミやカッターナイフでカットします。
 なぜ 6 センチにするかというと、「平行法」で観察しやすいからです(日本人の眼幅の平均は 62mm 程度だそうです)。
 後は、ステレオペアの左右を間違えないように並べて、台紙などに貼りつければ完成です。糊付けする前に、仮止めして裸眼立体視できるかどうか確認しておきましょう。

<写真 9. >ステレオ写真のお手軽作成法

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<写真 9.a. >
左右にズラして撮影した 2 枚一組の
サービスサイズプリントを準備します

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<写真 9.b.>
像をだいたい重ねて固定し、
約 6 cm 幅にカットします

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<写真 9.c. >
左右に並べて、台紙に貼ります

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<写真 9.d.>
完成 ! 立体視してみてください

 ただ、この方法では、動く被写体は上手く撮影できません。
 でも、少し考えてもられば判るように、動く被写体を撮影するには、同じ焦点距離のレンズをつけた一眼レフカメラを 2 台並べて撮影すればいいですね。知人などにカメラを借りて、試してみてください。
 二股に分かれたケーブルレリーズを使えば、より確実。専用のステレオカメラには、このようにカメラを 2 台並べたような作りをしたものがあります。それにしても大がかりですよね。

Photo 10.

<写真 10.>
ペンタックス・ステレオアダプターセット
(ペンタックス株式会社)
希望小売価格 33,000 円(消費税別)
(1992年頃までは 8,000 円 でした)。
なにはともあれ、AF一眼レフ全盛の時代にも、MF用の楽しいアクセサリーセットが販売され続けてきたことは賞賛に値します !

 一方、一眼レフカメラに装着するのに適した、ミラー方式(ビームスプリッター方式)のステレオアダプター」も昔から市販されています。
 写真の「ステレオアダプター」は、お手持ちの一眼レフカメラ一台で簡単にステレオ写真が楽しめる、実にすばらしいアクセサリーです。

 35mm(135)判フィルムのフルサイズ(36×24mm)画面内に、縦長の約17×24mm(いわゆるハーフサイズないしはシネサイズ)のステレオペアを同時に写しこむ方式です。だから、動く被写体であってもばっちり撮影できます。
 平行に配置したミラーを左右一組づつ内蔵し、基線長を 7 cm 近くまで稼いでおり、主要被写体との撮影距離は 1.5 〜 4 m を推奨しています。

 このアダプターは、基本的に標準レンズ(焦点距離 50〜55mmクラス)の前枠にネジ込んで使用します。
 ピント合わせはマニュアルで、フォーカシングスクリーンのマット面を利用しておこないます。
 フォーカシング(そしてズーミング)に伴ってレンズ前枠が回転しないレンズに装着したほうが使いやすいことは勿論です。

 ミラー方式のステレオアダプターの欠点のひとつは、ミラーが光量をかなりロスすることです。さらに、絞り値を f / 5.6 から f / 8 に絞り込んで使うこともあって、測光にはファインダーからの逆入射光がかなり影響しがちです。
 スピードライト撮影時には、TTL 調光でないとおそろしく露出アンダーになります。

 写真の「ステレオアダプターセット」には、ポジ(スライド)フィルム用の専用ステレオビュアー(やはり平行に配置したミラーを二組内蔵)がセットされています。
 ステレオ写真は、プリントが手軽ですが、ポジフィルムを透過光で観察すると素晴らしい臨場感があります。
 このセットのビュアーは、人によって異なる眼幅(がんぷく)を調整できるたいへん凝ったつくりになっていて見易いものです。

写真の「ステレオアダプターセット」には、「49mmセット」と「52mmセット」があります。
Nikkor レンズ群のユーザーのみなさんには一般的に後者のアタッチメントサイズが52mm(径)のセットの方をお勧めします。

 ニコンにも、かつてステレオ撮影専用レンズ「Stereo-Nikkor f=3.5cm 1:3.5」、その基線長を 80mm に拡張するためのプリズムを 2 組内蔵したステレオプリズム、ステレオビュアーなどのセットがあった(1956(昭和31)年:当時は日本光学工業株式会社)といいます。
 とはいえ、それらは一眼レフ用ではなく、距離計連動方式の透視ファインダーカメラ "S" シリーズ用の専用アクセサリーであり、ごく少数しか市場に出なかったためにコレクターズアイテムと化しています。

3. 写真撮影スタジオって何だ ?

 写真館やコマーシャルスタジオなどと聞くと、ただそれだけで、なんだか特殊な場所だとお思いになるはずです。確かに、決して一般的ではありませんが、しかし、写真を撮るための空間であることに違いはありません。
 では、「普通の部屋とスタジオでは何が違うのか ?」というと、その大きさ広さ、そして調度品などを別にすれば、「写真撮影用の照明器具が揃っていること」に尽きると思います。
 写真を趣味で楽しむ多くの人は、「カメラが良ければいい写真が撮れる」と信じていたりしますが、それ以外にも実は、良い照明器具も必要なのです。
 屋外で潤沢な太陽光の下で撮影する場合ですら、レフ板やディフューザー(拡散板)などの補助的な照明器具を併用するのとしないのとでは、写真写りは全くといっていいほど変わるものです。
 こうした意味で、「写真撮影スタジオとは、光を自在に操ることができる場所である」といっていいでしょう。
 それでは写真撮影スタジオでは、いったいどんな照明器具が使われているのでしょう ?


3.1. 照明器具のいろいろ

 <写真 11.>に写真用照明器具の基本的なものを並べてみました。それぞれ、簡単に紹介します。

 中でもスタジオ用としては、D.、E.、F.、I.、J. が多く使われます。それぞれ見比べてもらえば判るように、光源の面積が大きいのが特徴です。なぜかというと、光源の面積を大きくし拡散することで、"柔らか" な光、影のきつくない光を得られるからです。
 スピードライトの回に、バウンスライティングを紹介しました(第10回目の 3.1. 参照)が、これと同じような効果を得られるわけです。

 「スタジオで撮影した写真は普通と違ってきれいに撮れている」と感じることが多いのは、こうした照明器具の違いによるのです。逆にいえば、これらの照明器具を使いこなせば、誰にでも、まるでプロのような写真が撮影できるようになります。ただ、いずれも非常に高価なのが難点ではありますが......。

Photo 11.

<写真 11.>


Photo 11a.
  1. カメラにとりつけるクリップオンタイプのスピードライトです。お馴染みですね
  2. グリップタイプタイプのスピードライト。これもお馴染みのはず。一般的にクリップオンタイプよりも大容量のコンデンサーを内蔵し、光量が大きい特徴あり
  3. グリップタイプのスピードライトの電源部です。積層電池や乾電池を使います
  4. 家庭用電源を使う大型ストロボの電源部
  5. 大型ストロボの発光部にアンブレラをセットしたもの。テレビドラマなどではスタジオ撮影のシーンで登場
  6. 大型ストロボの発光部にライトボックス(バンクとかウィンドウライトなどということもあります)を取りつけたもの。現在の主流です
  7. デーライトタイプの写真用電球(通称:青玉)
  8. タングステンタイプの写真用電球
  9. ハロゲン電球を用いたライトボックス
  10. 同じくハロゲン電球を用いたライトボックス

3.2. 光を操る

 さて、照明器具といえば、"ライティング" という言葉を思い浮かべるはずです。"ライティング" などというと、なんだかそれだけで難しそうな感じがしますが、日本語に直せば "照明" であって、何の事はない「光の当て方」の違いです。難しくも何ともありません。
 とはいえ、「やはり写真の照明は難しい」と考える人は多いはずです。なぜかというと、光の当たり方で、写真写りの善し悪しが変わるからですね。
 しかし、これは屋外での自然光の下の撮影においても同じはずです。屋外の風景は、基本的に太陽によってのみ照明されています。ですから、写真写りは「太陽の光がどのように当たっているか」に応じて大きく変わります。

 つまるところ、「写真に撮りたい対象を見るだけではなく、対象に当たっている光を観察すること」が大切なのです。
 スタジオだろうが、屋外だろうが、これは写真撮影の基本中の基本だと思って間違いはありません。

 スタジオが便利なのは、先に紹介した人工の光で照明するために、時刻や天候などに関係なく自在に光を調整できる点にあります。

 <写真 12.>は、石膏でできた胸像に、さまざまな角度から光を当てたものです。
 これをもし太陽の光で撮影するとなると、大変にやっかいですよね......。こういう具合に、光を自在に操れるのがスタジオ最大のメリットです。

 ともあれ、ここに紹介したような高価な機材などを使わなくても、窓から射し込む光を使ったり、クリップオンタイプのスピードライトや、卓上ランプや蛍光灯(適当な色補正をしてください)を使うだけでも、意外にきれいな写真が撮れます。

 コツはただ一つ。「物をただ見るだけでなく、光の当たり方や影の出方に注意すること」です。

 まずは、机の上で小さな静物を撮影することから始めるといいでしょう。少し慣れると、屋外の撮影にも大いに役立つ眼を養うことができると思います。

Photo 12.

<写真 12.>
光源の向きによる写真写りの違い

 かなり駆け足になってしまいましたが、第12回目はこれで終わり。フィルターについてはアクセサリーカタログなどを、ステレオ写真やスタジオ撮影については、それぞれの専門書を参考にしていただければ嬉しいです。

似顔絵
 全12回の予定で一年を通して、一眼レフカメラの使い方の基本から、その周辺の知識を整理してきましたが、いかがでしたか ? 少しはお役に立ったでしょうか ?
   一眼レフカメラは、その機能や性能はいうに及ばず、さまざまなアクセサリー類がシステム化されている点で、ほとんど万能カメラといっていいものです。ですから、カメラ本体の使い方だけでなく、カメラの周辺をよりよく理解して活用すれば、写真の楽しさは何倍にも膨れ上がります。カメラは一台でもいろいろな使い方ができるのが、一眼レフカメラ最大の魅力なのです。

 こうした一眼レフカメラを最大限活かして、私たちの生活をより豊かにできればいいですね。では、またどこかでお会いしましょう。
久門 易(くもん やすし)

13. 写真を見て、見せて楽しむ

番外篇 1. 写真を見て、見せて楽しむ

似顔絵 先月(10月)で全12回完結の筈だったのですが、日本語版も英語版も御好評をいただいているそうで、番外編 1., 2. を執筆する運びとなりました。これも毎月々々アクセスして視てくださったみなさまのおかげです。

 さて、写真は「撮る」だけでなく、「見る・見せる」楽しみがあってこそのもの。もちろん自分で見るだけではなく、知人、さらには赤の他人に見せた時にいい印象を持ってもらえるのとそうでないのとでは、楽しさがずいぶん違います。
 では、どうすれば「いい印象」を持ってもらえるのでしょうか ?
 とどのつまり、まずは自分自身で満足できるよう工夫を重ねるしかないのですが、これが本当に難しいのですね......。
 ここではまず、標準的な「見せる」技術や考え方を紹介します。これをとりあえずのスタート地点とし、後は、みなさんがそれぞれアレンジして、自分の理想に近づいていって欲しいとおもいます。

1.写真を飾る

 美術館や写真ギャラリーなどで観る作品は、どれもこれも素晴らしく感じてしまうもの。もちろん写真そのものが良いのは当然でしょうが、同時に写真の見せ方が優れていることにも注目しましょう。
 実際、どのような写真でも、飾る場所を選び、それなりの額装を施すことで、そのイメージは良い方向にかなり違って見えます。
 少し大げさな例えになりますが、こうしたイメージの違いは、一枚の写真をひとりの人物と考えれば理解しやすいでしょう。どのような人でも出掛ける時と場所と目的(T.P.O.)に合致した衣装を着る(着せる)ことで、その人の印象はずいぶん変わるのです。素敵な人でも衣装が悪くては艶消しです。逆に、そうでない人でも、衣装によっては見違えるようにもなります。
 せっかく一所懸命撮影し、自分自身では気に入った写真ですから、できるだけ "いい衣装を着せて" やりたいもの。ここでは、最も基本的な額装方法として知られる、「ブックマット」の作り方とその目的を整理し、次いでいくつかの応用を示します。

1.1. 額装の基本

Fig.1.

<イラスト 1.>「ブックマット」方式の額装

  1. ガラスやアクリル(光の反射を抑える "無反射" タイプもあります)、
  2. オーバーマット(窓の縁のエッジは45度にカット)、
  3. 作品(余白を大きく作成した方が良いです)、
  4. バックマット(省略も可能)、
  5. 裏板(ベニア板や厚紙、プラスチック製 etc.)

 写真を自分なりに額装して楽しんでいる方は多いはず。もちろん、写真は自分なりに楽しむのが一番です。
 ただ、こうした自己流のやり方では問題が生じることが......。代表的なトラブルは、1.)額のガラスに写真が貼りつく、2.)写真が退色したり劣化する、3.)写真がきれいに見えない、等々です。
 こうしたトラブルをできるだけ防ぎ、写真を長期保存し、より美しくみせる方法の一つが<イラスト 1.>の「ブックマット」方式の額装です。
 写真ギャラリーや美術館などでも採用の標準的なマウント法ですから、知識として覚えておくと損はないでしょう。絵やイラストや版画の額装にも応用できます。

 また、ここでは紹介しませんが、プリントを無酸性(=酸性紙ではない)のボード紙やアルミ板、プラスチック板で裏打ちする方法などもあります。

 もちろん、ブックマット方式が唯一の解ではありません。この方式が使えない額も多くあります。ですから、これを基本にバリエーションを楽しめば良いのです。

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<写真 1.>写真用のテープや接着剤
大手文具店、写真用品店、画材店、写真ギャラリーなどで入手できます

 注意しておきたいのは、「写真の画像は化学物質」ということ。プリント保存に適しない物質を含んだ素材を使用した場合、プリント画像の退色や劣化が著しく早く生じることがあります。デジタルカメラのプリントアウトも同様です。
 プリントに直接テープを貼ったり、接着剤を使用する際は、是非とも「写真用」と銘打たれたものを使用しましょう。数年ないし十年後にがっかりすることが格段に少なくなるはずです。

1.2. ブックマットとは何か ?

Fig.2.

<イラスト 2.>ブックマットの構造

  1. オーバーマット、
  2. バックマット、
  3. 作品、
  4. コーナーとテープ
    (市販のものを使用するか、短冊状の紙で自作)

 「ブックマット」とは<イラスト 2.>に示すように、写真を 2 枚のマットの間に挟んでマウントする技法で、写真の額装そして保存に大変便利です。表の窓を開けたマットを「オーバーマット」、裏側に接するマットを「バックマット」と呼びます。
 マットは、一般に単なる約 1 〜 3 mm 厚の白色ボード紙(厚紙)製ですが、写真の保存性を最優先する場合には、高価でも中性紙などの無酸性タイプ(基本的に酸性紙である洋紙は、経年変化に脆いものです。和紙とは大違い)を選びます。
 マットは写真ギャラリーの他、画材店や大型写真用品店などで入手できます。特に画材店では、さまざまな色をしたボードが販売されていますから、写真に合った色のマットを選ぶのもいいでしょう。

 オーバーマットの窓の縁(ふち)は45度の角度に斜めにカットするのが基本です。こうすれば額装した時に写真が直接ガラスに触れません。また、額を壁などに飾った時に、オーバーマットの窓の縁の厚みが写真イメージの上に影を落とさない利点も。さらに、そこはかとない高級感を演出できることも見逃せません。
 なお、「窓でつくる余白部分は、下部をほんの少し長めした方が落ち着いた感じに見える」と言われています。

Table 1.

<イラスト 3.>ブックマットの作成方法

  1. オーバーマットの裏側に窓の大きさ、位置を鉛筆で記す、
  2. マットカッターで裏側からカット(窓の縁のエッジは 45 度にカット)、
  3. オーバーマットとバックマットをテープで貼り合わせる

 こうしたブックマットの加工は、画材店や写真ギャラリーなどで代行して貰えます。額や写真の実物を持ち込むか、額の大きさ(ガラスの寸法)と写真の大きさを指定すれば、満足できるものを仕上げてもらえるはずです。

 また、少し慣れが必要ですが、専用のマットカッターを使って割合簡単に自作できます。マットカッターには 1,000 円程度の安価なものから高級品まで、さまざまなタイプがあります。刃物ですから使用説明書に従って正しく使用してください。

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<写真 2.>
マットカッター

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<写真 3.>
より高機能なマットカッター

 ブックマットは、写真を 2 枚のマットにはさむのが基本ですが、簡易的にはバックマットを省略してもいいでしょう。この場合には、オーバーマットの裏側や、額の裏板に写真を固定するなどします。

1.3. 額装の応用

 額装のアイデアをいくつか示します。短期的に楽しむだけなら、かなりいい加減なことをやっても大丈夫(!?)。いろいろ試してみてください。

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<写真 4.>
余白を十分にとったプリントをそのまま額装した例。
艶消しの印画紙を使うのも効果的

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<写真 5.>
色付きのオーバーマット
の額装例

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<写真 6.>
もとは白いオーバーマットに、
マーブリング(墨流しの技法の一種)にて色と模様を付けた例

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<写真 7.>
窓を 6 つ開けたオーバーマットに
写真を 6 点収めた例

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<写真 8.>
オーバーマットを二重にし、小さな写真を少し浮かしてマウントした例。
自作した鶏卵紙(塩化物を卵白と混合して紙に塗布した印画紙。1850〜20世紀はじめまで実用)に焼いたので、これにちなんでトリの絵なぞ描いてみました......

2. 写真をまとめる

 写真を撮り続けると、写真の量が増えてきます。あたりまえですね。
 特に意識して作品づくりをしていなくても、サービスサイズのプリントが山のようにたまっている方も少なくないはず。
 写真の面白さの一つに、長い年月(=数年から数十年)を経ることで、そのイメージの見え方が変わることがあります。退色などの像の経年劣化といった話ではありませんで、イメージを見る人の意識が変わるから生じるものです。写真は長持ちさせることによって、その意味や価値が変わってきます。風景や街角と街角を行き交う人々などの "定点観測" 写真だけの話ではありません。

 写真を "長持ち" させる方法のひとつに、「写真をまとめる」があります。アルバムに貼ったり、写真集にすれば、写真の散逸は防げます。また、手間をかけて写真をまとめることで、写真への思いが増すことも......。さらにいえば、数多くの写真をまとめることで、一枚一枚の写真がそれまでとは別の意味を持つようにもなります。
 「写真をまとめる」とは、対象やテーマや方法論などを一つに決め、それにそったものだけを選び抜き、余分なものを捨て、見やすい形に整えることを指します。
 面倒ですし余分なお金もかかりますが、撮り続けた写真をまとめて、一つの作品集を作ってみてください。写真の楽しさをここにも発見できるはずです。

2.1. 「写真集」を作る

Photo17.

ニコンオリジナルアルバム「イア マリエ」

結婚式のオリジナル写真集をデジタル技術を用いてつくるサービス

 現在、日本の印刷会社の多くでは、3〜40点ほどの作品を一冊の「写真集」にまとめてくれる小部数出版を受けつけています。判型(サイズ)とページ数、レイアウトやデザインなどに制約はありますが、かなり安価にオリジナルの写真集を作成できます。写真関係の雑誌などに掲載の広告を参考に、印刷会社に相談してみてください。

 いきなり「写真集」を作る、というのも肩の荷が重いでしょうから、始めはポストカードの印刷などから始めるのもいいでしょう。印刷会社によっては、数十枚といった数量からできるポストカード印刷もあるようです。
 また、より小部数でよいのであれば、カラーコピーを駆使するのもひとつの作戦です。現在のカラーコピーは大変に優秀ですから、色を変えたり、デザインに変化をもたせたりなど、さまざまな工夫ができます。数十枚のカラーコピーを製本するだけで、立派な「写真集」の完成です。製本のための道具類は大型文具店などで販売されています。

Fig.2.

<写真 9.>
クリアファイルに写真を挿入しただけの簡単な写真集

 そこまで凝る自信のない方なら、普通のアルバムに写真をまとめるだけでも構いません。アルバムさえ高価だ面倒だと思われるなら、クリアファイルに写真を整理するのでも十分です。というよりも、これは多くのプロ写真家も実践しています。プロ写真家が営業活動をする際に携行する作品集= "ポートフォリオ" といえば特別なものに聞こえますが、要は大判のクリアファイルに写真や掲載誌の切り抜きをまとめただけ(投げ込んだだけ)だったりします。

 かっこいい「写真集」、見栄えの良い「写真集」を作るコツはいろいろあるでしょうが、基本的には工夫とアイデア、センスですね。「このようにしなければならない」ことは原則としてありませんから、自由に遊ぶつもりで作成すれば良いでしょう。
私見としていくつかのコツを整理しておきます。

  1. 「写真集」のテーマを明確に決める
     対象を統一するのでもいいし、気分のいいものだけといったテーマでも構いませんが、全ての写真を通して、一つのイメージが浮かび上がるようにします。
  2. 写真を入念に選ぶ
    「あれもこれも捨てられない」のが、写真を撮った人の気持ちです。が、心を鬼にして、重複を避け、テーマ外の写真を落とします。本当にいい写真だけを残すつもりで。
  3. 写真を編集する
     写真集は基本的に 1 ページ目から見ていくもの。写真の順番はよく考えます。並び方が変わるだけで、印象ががらりと変わることもよく経験します。また、キャプションの付け方も工夫します。
  4. デザインする
     写真の大きさを変えたり、余白のとり方を変えたり、色地に載せたりなどして、写真がより楽しく見えるようにします。ただ、あまりやりすぎても、写真よりもデザインの方がよく見えるようになることも......。

 とりあえずは、あまり気負わずに、小さなものから始めるといいでしょう。「写真集は印刷でないとね」といった思い込みさえ捨てれば、かなり自由に楽しめるはずです。いくつかの例を示します。基本は自分自身で満足できることですが、他人に見せることも目的なら、多少のサービス精神は必要かと思います。

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<写真10.>
薄手の印画紙へのプリントを製本した写真集(表紙 / 開いたところ)

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<写真11.>
オーバーマットを施した
アルバム

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<写真12.>
台紙に貼った写真を、
まとめて箱に収めたもの

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<写真13.>
1 〜 3 枚だけなら、
市販の台紙に収めるのもきれい

2.2. 写真展を開く

 「写真展」もまた、先に述べた「写真集」のように、写真をまとめるのが基本です。ですから、「写真集」の作り方が上手な人は「写真展」もいい感じに構成することができます。
 写真ギャラリーなどの公募に応募する際にも、写真集のように写真をまとめたものが必要です。
 「写真展」と一口にいっても、いろいろあります。しかし基本の基本は、ある程度まとまった数の写真を展示し、多くの人に見せることです。ですから、場所は公園や路上(無許可は違法です)でも、自宅でも、近所の喫茶店やうどん店でもいいわけです。そうした場所で、個展を開催した経験を経てプロになった方も多くいます。
 ちゃんとした写真ギャラリーは、次のように大きく分類できます。それぞれの特徴を理解して、上手く活用してください。

  1. メーカー系写真ギャラリー
     「ニコンサロン」など、カメラそして感材メーカーなどが運営しているスペース。
     プロ、アマチュアを問わず、誰にでも門戸が開かれていますが、審査を通る必要があります。それぞれのギャラリーに問い合わせて、必要な書類、作品(たいてい30〜40点)を揃えて応募してください。
     運営の目的に、「写真文化の向上」、「写真文化への支援」などを掲げているところが多く、私には基本的に "お行儀の良い" 作品が望まれているようにもおもえます。
  2. 写真を販売する写真ギャラリー
     作品としての写真を展示、販売するためのギャラリーです。プロ、アマチュアを問いませんが、売れる写真であることが前提です。
     写真が売れる要素には、作品の善し悪しだけでなく、作家としての活動(生き方)までも問われることも。写真作家として身を立てたい方は、ここを経由する必要があります。
     しかし、どのような有名作家でも、最初は普通の人だったわけですから、こうしたギャラリーの方に「売れる作品」について相談するだけでも実りは多いはずです。何度も何度も、作品を持ち込んで見せ続けている内に「光が見えてくる」かもしれません。
  3. 貸し画廊
     1. と 2. では、基本的に会場の費用などは徴収されません。しかし、これらのギャラリーを使わして貰えないとなると、自分で会場を借りて写真展を開催します。この会場の一つが、貸し画廊です。
     会場の費用を借り手が負担しますので、かなり自由に作品発表ができるメリットもあります。意外に料金が高価な所が多いですから、グループ展などを開催して費用を分担することから始めるといいでしょう。
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<写真14.>
路上でおこなった写真展(1983(昭和58)年)。
違法です(時効です)

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<写真15-1.>
ちゃんとした会場での写真展 -1.
(渋谷ドイフォトプラザ:1996(平成8)年)

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<写真15-2.>
ちゃんとした会場での写真展 -2.
(銀座ニコンサロン:1999(平成11)年)

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 また、近年急速に発展しているいわゆる "ホームページ" もまた、「写真展」であり「写真集」でありうるといえます。

3. 写真を通じたコミュニケーション

 「写真撮影の醍醐味は、見知らぬ人との出会いにあり」と思っている方も少なくないはずです。被写体との出会い、同じ写真趣味の人との出会い。写真の出来の善し悪しよりも、こうした出会いは何より愉快です。もちろん、まれには不愉快になることもありますが、それらを含めた上で、やはり人との出会いはいいものです。
こうした出会いを、「写真を見せる」ことによって広げてみませんか。

3.1. 「写真コンテスト」に応募する

 写真を本格的に始めた人のほとんど全てが、「写真コンテストに入賞したい」と夢見るはずです。私自身、十数年前は随分応募しました。入賞回数は 2、3 回止まりでしたが。
 そして今、私自身は審査員をしていませんが、何人かの先輩が審査員をしていたりします。こうした審査員の肉声を参考に、コンテスト入賞のコツを紹介しましょう。

3.1.1. コンテストの傾向と対策を考える

 「写真コンテスト」といっても、さまざま。写真雑誌の月例コンテスト、観光地の写真コンテスト、若手作家発掘のための公募などなど、ほんとうにいろいろあります。こうしたコンテストが何を目的におこなわれているかを理解すれば、「どのようなイメージの写真が入賞しやすいか」が判ります。例えば、観光地のコンテストにそれ以外の場所で撮影した写真はまず入賞できませんし、観光地のイメージを悪くするようなものも絶対的にダメでしょう。あたりまえですよね。
 また、メーカー系のコンテストでは、そのメーカーさんの機材や感光材料を使うのが礼儀です(私が思うに、度量の広いメーカーさんばかりではありません......)。

 また、審査員がどなたかによって、選ばれる写真の傾向がある程度決まってきます。審査員名が公表されているなら、まずは審査員が撮影した作品集を見るなどして、作品の傾向を理解しておきます。というよりも、「これもまた写真の勉強だ」と思えばいいのです。
 もちろん、審査員そっくりの作品を撮影しても、入賞するとは限りません。逆に入賞しにくいのが現実かと思います。むしろ審査員に意外性を感じさせるようなイメージの方が入賞の確率は高いでしょう。

3.1.2. 丁寧に応募する

 同じレベルの 2 枚の写真が並んだときにどちらを審査員が選ぶかというと、より丁寧に応募された方の作品です。これが人情というものでしょう。
 応募規程を守っていないのは論外としても、写真表面に指紋がべたべたついていたり、応募票の字が読めなかったり、必要記載事項に漏れがあったりときては、やはり印象がよくありません。
 「そんなことはあたりまえでしょう」とお思いになる方は多いでしょうが、こうした応募作が意外に多いそうです。
 また、誤解を恐れずにいえば「撮影データなどの記憶が多少不確かであっても、応募書類の記入欄はとにかく埋めたほうが......」と私は思うこともあります(夏休みの宿題の絵日記や作文もそうですが、記入すべき欄が空白のままの不備な書類を提出するよりはなにかしら書き込んでおいた方が......)。もちろん公的性格の強いコンテストほど別です。虚偽があっては主催者にたいへんな迷惑をかけることになります。

3.1.3. 堅苦しく考えない

 「写真コンテスト」は基本的に、ルールの枠組みの中で競いあうゲームのようなもの。入賞するかしないかで、応募者の人格が計られるようなものではありません。また、長く数多く入賞し続けたからといってプロになれる保証が得られるわけでもないのです。
 さらにいうなら、特賞などの優秀作を除けば、入賞するかしないかは半ば運次第(もちろん、運だけではありません)。ですから、気軽に楽しむ感覚で応募するのが一番です。
 そして、他の応募者の作品をよく見て、自分のアイデアをさらに練るようにすると、いつかは入賞できるはずです。自分の考え、思い込みだけに固執すると、なかなか入賞はできません。

3.2. 写真を売る

 "由緒正しい" 写真ギャラリーを通して写真を売ったり、あるいは広告や雑誌などの媒体(メディア)に写真の使用を許諾することでお金を稼いだりするのは、プロの仕事です。
 だからなのか、「写真を売ることはアマチュアには関係ない」と思われる方も多いでしょう。
 でも、いい作品ができたらそれを「お金に換えてみたい」と思う気持ちは、おそらく誰にでもあるはずです。なぜかというと、言葉でただ褒められるだけよりも、実際に身銭を切ってくれた方が、「作品の価値を本当に認めてもらった」という感動が大きいからではないでしょうか ?
 自分の作品を売るコミュニケーションは、かなり緊張度の高いものです。誰にでもおすすめというのではありませんが、最近、フリーマーケット(蚤の市)や、路上あるいは公園などで、自分で撮った写真(ポストカードや拡大カラーコピーなども)を売る行為が、日本の若い人たちの一部で広がっています。これを少し紹介します。

 まず、一番たいせつなこと。フリーマーケットに参加してであれば問題はありませんが、路上や公園などを占有し、その所有者や監督官庁などの許認可なしにこうした商売をおこなうのは違法行為(公道の場合、道路交通法違反)です。
 ではなぜ、公益に反して法を犯してまで、彼らは写真を売るのでしょうか ? 「生活のため」だけではなさそうです。結局は「楽しい」からです。お客さんとの出会いがあり、同業者との出会いがあるからだとおもいます。
 しかも、そこにお金が絡むことで、この出会いには普通の何倍もの緊張感が強いられます。これは快感です。一度やったらやめられないほどの快感です。
 一方で、写真が一枚も売れないとしたら絶望の淵に立たされることにもなるでしょう。また、法令や地方自治体の条例違反で警察などの御厄介になったり、最悪の場合とんでもないトラブルに巻き込まれることもあるかもしれません。だからこそ、快感がほどよく増幅されて感じられるのです。

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<写真16.>渋谷区表参道などで白黒写真(オリジナルプリント)を販売している K., T. さん。
なんとか生活できる程度に売れているそうです。

 逆にこう問いかけることもできます「人はなぜ、こうした写真を買うのでしょう ?」。写真のイメージがよいから ? 売っている人がかっこいいから ? 口上(セールストーク)が巧みだから ? こうした商売自体が洒落ているから ? いろいろあるでしょうが、結局は皆、写真に託された夢を買っているのではないでしょうか ? 写真を買うことで、路上で繰り広げられている最先端のアートに自分も参加しているような気分を味わっているのかもしれません。
 しかしよくよく考えてみれば、画廊で有名作家の作品を購入したり、アイドルの生写真を手に入れたり、掲載写真に惹かれてカレンダーを買ったりするのと根本は同じなのですが。

 路上などで写真を売るというのは、誰にでもできそうでいて、その実、大変な度胸や根気が必要です。でもこうした度胸や根気は、プロとして(人としても)生きていくのに絶対必要なものだともおもいます。フリーマーケットや路上などで、こうした人を見かけたら声をかけたり、作品を購入してみてはいかがですか ?

14. 「写真表現」を考える

番外篇 2. 「写真表現」を考える

似顔絵 「写真を使って「私」を表現することができる」、あるいは、「写真家とは表現者である」といった謂(いい)が、最近ではごく一般的に理解されるようになりました。
 しかし、少し深く考えてみると、これらは少々奇妙なことだとも言えます。なぜなら、写真に写っているのは風景やスポーツや料理や赤の他人だったりの "被写体" であるのに、「そこに写真家(撮影者)の「気持ち」も写っている」というのは、どことはなしに釈然としない話でもあるからです。
 でも、事実、一枚の写真にその写真家の「気持ち」を感じとれることがあります。そうなると「写真表現」とはいったい何なのでしょうか ?
 これを考えるには、撮影者自身が写真に込めた「気持ち」ではなくして、写真を見る人の「気持ち」のあり方を探ってみるのが、早道かと思います。

1. はじめに --- 3 点の作例写真を題材に......

 「写真表現」を広く捉えようとすると、例えば写真の 160 年余りの歴史があり、カメラやフィルムなどの感材の歴史から現代の技術水準といったものまで考えなければなりません。
 加うるに、国や地域などによって異なる写真に対する意識の問題をも含むことになります。
 いくらなんでも、これらの全てについて考えることは私には無理です。

 ですから、ここでは、写真を撮影した私たちが自分自身でそのイメージに「いいな」を感じる気持ちはどこに起点があるのか ? そしてその写真を見た人も同じように「いいな」を共有するには何が必要か ? といったことを考えてみたいと思います。
 この目的のために、とりあえず 3 点の作例写真を準備しました。

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<作例写真 A.>


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<作例写真 C.>

 「とりあえず」と書いたのは、これらの 3 点でなくても構わないということです。風景写真でも、スポーツ写真でも、報道写真などでもいいのです。つまり、ここで考えているのは、写真の具体的な内容ではなくして、「写真の見方の形式」といったものなのです。


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<作例写真 B.>

 できうるならば、今回の記事を参考にして、皆さん自身が皆さん自身の「気になる写真」について考えてみて欲しいと思います。そうすることで、皆さん自身の写真表現の幅がより広く深くなっていくに違いありませんから。

2. 「写真」のイメージ

 「写真」と聞いて、皆さんはまず何をイメージするでしょう。ある人はカメラやフィルムを思い、ある人は芸術的名作を思い、そしてある人は有名な写真家を思うかもしれません。

 私たちが写真に期待するものは、人それぞれでかなり異なります。しかし、まったくてんでんばらばらなことを思っているかというと、決してそんなことはありません。写真というと、どこの国のどのような人でも、同じようなイメージを思い浮かべるはずです。
 「写真」の定義は、例えば「広辞苑」(岩波書店)には次のように記載されています。

  1. ありのままを写しとること。また、その写しとった像。写生。写実。
  2. 物体の像、または電磁波・粒子線のパターンを、物理科学的手段により、フィルム・紙などの上に目に見える形として記録すること。また、その記録されたもの。普通は、カメラを用いて、物体の像をフィルム上に作り、それを感光させ、現像処理をしてネガを得、これを印画紙に焼き付けて印画を得る......。

 すばらしい説明ですね。ただ、1.と2.は同じ意味をもっているように見えて実はここにこそ、決して等号(=イコール)では結ぶことのできない深い溝があります。そして、この溝にこそ、写真が「気持ち」の表現として成立するか否かの境目が隠されています。

2.1. 写真の対象 ---<作例写真 A.>を題材に......

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<作例写真 A.>

 写真は、目に見える対象(被写体)なら、まずたいていのものが、ほぼ見た目通りに写ります。
 極端な話、全自動カメラのシャッターボタンを押すだけでそれが可能です。ここに、多くの人が写真に魅かれる動機があるでしょう。絵を描くような手間もなく、絵よりもより科学的に忠実な像を、簡単に手に入れることができるのが写真の大きな魅力です。
 つまり、写真に写っている像から、私たちは実物をより正確かつ具体的に把握することができます。しかし、いくら科学的に忠実な像だからといって、私たちが頭の中で描いているイメージに近いとは限りません。

 例えば、子供はかわいいものです。特に、自身の子供であればなおさらでしょう。しかし、写真に写った子供はぜんぜんかわいくない.......。そう思うことが少なくからずあります(自分自身の運転免許証、パスポートの写真なんかはいつだってそうですね)......「気持ち」は、科学に忠実ではありません。


Fig.1.

<左図:<作例写真 A.>の撮影状況>

比較的シンプルな照明(ライティング)。
C.) 一眼レフカメラ + 135 mmレンズ、
L.) ライトボックスによる照明(曇りガラスの窓からの
日昼の太陽光とほぼ同じ)、
R.) レフ板、
W.) 白バック(壁)

 だからこそ、私たちは写真の技術を学び応用し、子供の写真を撮るときであれば子供の御機嫌をとったり、光を(ライティングを)工夫したりして、子供の写真のイメージを、私たちの理念に近づけようとするのです。

 これらは写真表現の技法の基本といっていいでしょう。

 しかし、これらだけが写真表現ではありません。たとえば次の<作例 B.>、<作例 C.>は、私たちがふだん抱く理念としての対象のイメージを写そうとした写真ではありません。


2.2. 写真の技術 --- <作例写真 B.>を題材に......

 写真の技術を少し広義に考えると、それは一つの画像処理ないし画像加工の技術といえます。
 画像処理や画像加工などというと、コンピュータによる作業を思う方は多いでしょうが、光学レンズを通して、現実を平面の像として投影し、それをフィルム上に定着する銀塩写真の過程こそが、既に一つの画像処理であり画像加工であることは忘れてはなりません。

・レンズの焦点距離(第 2 回目の「2.2. 焦点距離で何が変わる」参照)、
・絞り(値)(第 6 回目の「2. 絞りで何が変わる」参照)、そして
・シャッタースピード(第 5 回目の「2. シャッタースピードで何が変わる」参照)
を変えるだけで、写真写りは大きく変わります。
 さらに、フィルター調整(第12回目の「1.フィルターの表現効果」参照)、そして光の当て方を変える(第12回目の「3.2. 光を操る」参照)と、見た目とはまったく異なる写真を撮影することも可能です。

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<作例写真 B.>

 <作例写真 B.>は、「スリットカメラ」と呼ばれる種類のカメラを自作(改造)して撮影したものです。レンズの前を横切る動体だけが形あるものとして写り、静止している対象は流れたように写っています。
 見た目とは全く違う写真のイメージになっていることに、興味を覚える方は少なくないと思います。このような写真には、もはや対象を忠実に再現することは求めなくてよいところにこそ、面白さがあります。
 そして、こうした技術(下記参照)を自分なりに使いこなしてみたいと思ったとするなら、それこそが写真に感動した証といえるのではないでしょうか ?

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<作例写真 B.>の撮影手順

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  • 注意:これはカメラの正しい使い方ではありません。
  •  カメラが壊れることを覚悟して、あるいはすでに壊れたカメラを改造して楽しむ実験。
     手動巻き上げ・巻き戻しでシャッタースピードにバルブ(B)があるカメラを用意(機構的にこれらの条件を満たさないタイプが現代のカメラには多い)。
  •  カメラのアパーチャー部に、スリットを設ける。薄くて遮光性のある黒い紙などの部材を 1 mm 間隔(幅)程度のスリット(切れ目)を形成するように貼り付ける(写真:左)。
    注意:シャッター幕あるいはシャッター羽根は、触ると壊れます。
    注意:フィルムのガイドレールの高さ(段差)よりも、スリットを形成する黒い紙などの部材が低くないと(薄くないと)、フィルムの膜面に傷がつくばかりでなく、カメラの巻き上げ・巻き戻しなどに支障が出て壊れます。
  •  撮影はいったんフィルムを全て送った状態(=レンズキャップをはめて高速シャッターを切るなどして、そのコマが未露光のままで巻き上げた状態)からスタート。
     シャッタースピードをバルブ(B)に設定して、フィルム巻き戻しレバー(クランク、ノブ)を回転して(すなわち巻き戻しながら)露光(写真:右)。
     できるだけ等速で巻き戻すのがコツ。
  •  今回の実験で使ったカメラの場合、スリットの幅を 1 mm とし、巻き戻しレバー(クランク、ノブ)を 1 秒間につき 1 回転すれば、だいたい 1 / 30 秒程度相当のシャッタースピードに。

2.3. 写真の論理 ---<作例写真 C.>を題材に......

 <作例写真 C.>は、かの銀座ニコンサロンにて先日開催した写真展:

「もう一つのスナップショット」

に出品した作品のうちの一点です(番外篇 1. の「2.2. 写真展を開く」の<写真15-2.>参照)。

 パッと見た目には、普通のスナップ写真のように見えるはずです。

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<図 3.>
「原色・補色のリング」

 しかし、写真(=オリジナルはモノクロプリント)のイメージの周囲の黒い縁取りに眼を転じると、これは 4×5 判カメラ(大判カメラ)で撮影した写真だということが、判る人には判ります。
 この独特の切り欠きは、 4×5 判(10.2×12.7cmサイズ)フィルムのカットシートフィルムホルダに特有のものだからです。

 この事実に気が付いてしまった "違いの判る" 来場者のみなさんは、次の瞬間、「あの大きくて、重くて、被写界深度が(アオらない限りは)とても浅くて、ピント合わせも難しい大判カメラを使って、いったいどうやったら街頭スナップ写真が撮れるんだろう ? この写真家は、さぞや凄い撮影テクニック(と腕力)の持ち主であるに相違ない」と、考えを巡らされたようすで、異口同音に「これってシノゴの作品ですよねェ。いや〜、凄いですね〜」と感嘆なさる方々が少なくなかったのです。

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<作例写真 C.>の撮影機材:
4×5 判カメラセット

・4×5 判(フィールドタイプ)カメラと
レンズ(Nikkor W105mmF5.6 と
W135mmF5.6 を装着し撮影) ・ピントを確認するルーペ、
・カットシートフィルムホルダ(10枚入り)、
・右奥の黒い布が冠布(「かぶり」)。
もちろん、これらに加えて単体露出計や堅牢な三脚なども必要。

 すぐに種を明かしますと、実は、あらかじめ被写体になるべき人々の了解を得てから、4×5 判カメラを三脚に据え、冠布(かぶり)を頭から引っ被ってスクリーン(磨りガラス)上をルーペで覗いてピントを合わせ、それぞれの人にポーズを指定して撮影した=いわゆるひとつの「ヤラセ写真」です。
 だからこそ「もう一つのスナップショット」というタイトルなのです....。と聞けば、疑問がいっせいに晴れますでしょ。

 しかしそれでも、本職のモデルを雇ったりしているわけではありませんで、旅先の街角で普通に出会った人達ばかりなんです。こういうことができるのも、写真の面白さだと私は思っているわけです。

 そしてまた、「スナップのように見えて実は純然たるスナップではないといった、詐術的な写真の性質も、またたいへん愉快である」とまあ私は考えるわけです。

3. 写真を見る人の頭の中

 さて、一枚の写真を見るのに際して、そこには写っていないさまざまな情報をも併せて得ることで、そこに見える内容といったものが大きく変わってくることがお判りになったと思います。

 写真は基本的に、四角く囲まれた平面の画像でしかありません(もちろん立体視できる「ステレオ写真」もあります=第12回目の「2. ステレオ写真の愉しみ」参照)。
 そこには写真を撮影したときの気持ちや空気感、温度や湿度は原則として写っていません。だからこそ、写真を見る人に、それらまでをも感じさせることができるかどうかが、大きな課題になります。
 「いい写真さえ撮ればいいんだ」と思う方は少なくないはずですが、「いい写真とは何か ? 」が人によって(時代や国などによっても)全くといっていいほど違うから、写真表現は広さとそして深さを持ちえているのです。

 それでは次に、日本人の写真家としての私をサンプルとして、写真を見る時にアタマの中では何が起こっているのかを考えてみたいと思います。

3.1. 見る気持ち

 さきほどの 3 点の作例をパッと見たときの印象は、<A.>なら「まあ、可愛い」、<B.>なら「なんだコレ ? 」、<C.>なら「おおっ、カッコイイ」といったものが最大公約数でしょう。
 写真を表現として成立させるためには、「まず、目を引くイメージかどうか ?」が最も肝心でしょう。「かわいい」、「なんじゃコリャ〜」、「凄い」だけで、他の写真に目を転じられてしまったのでは、何にもなりません。
 どのくらいの時間、見る人の目を釘付けにできるかどうか !? 課題はここにあります。

 しかし、簡単そうに見えて、これほど難しい問題もないですね。
 男性の一人である私が街を歩いていて、非常に美しい女性を見かけたとします。眼は釘付けになります。しかし、私以外の男性にとっては、どうということのない普通の女性に見えるかもしれません。難しい......。
 ここでもし、その美しい女性が有名な人であったとします。そうすると、私も私以外の多くの男性も同じように眼が釘付けになるかもしれません。無名 or 有名かでも反応が違ってきます。これまた難しい......。
 あるいは、その美しい女性が、よくよく見ると知人とか肉親だったとしたらどうでしょう ? 我が眼を疑うか、幻滅するか ? 実に難しい......。
 いろいろ考え出すととにかく厄介ですが、とにかくも、「目を引く」、「目を釘付けにする」かどうか ?、「可愛い」とか、「何だコレ」とか、「カッコイイ」とかいった、そんな素朴な理屈抜きの印象をどれだけ深く長く、写真を見る人に刻み込むことができるか ? いわば、見る人の思考を捕捉・拘束する深さと長さこそが、表現者の求める唯一なのです。

3.2. 見る技術

 それぞれの作例の撮り方は先に紹介した通りです。ここで、撮影技術についての知識の多寡によって、写真の見方が変わってくることを経験したはずです。
 とりわけ、この連載をお読みになっている方の多くは、写真の技術により関心を抱いている方々でしょうから、撮影技術がどれだけ判るか否かによっても、写真の持つ意味が違ってくることがわかるはずです。つまり、どのようにして撮影されたのかが簡単に判ってしまうような写真は、私たちの興味をあまり引かないのです。なぜならば、そうした写真は自分でも撮影可能だからです。

 しかし、逆に、写真撮影には関心はないものの、写真を見るのは好きといった奇特な方が世の中では多数派なのです。多くの人たちは、その写真がどのような条件でどのような機材を使って撮影されたのかといったことよりも、写真のパッと見た目の印象や、写真のイメージそのものの謎解きの方に楽しさを覚えています。

 これは、芸としてのマジック(奇術)に例えれば理解が容易でしょう。
 多くのマジックは、種が判ってしまえばどうということはありません。だから、どんどん複雑怪奇、大掛かりな仕掛けへと進むというのが一つのあり方。
 逆に、タネは簡単なのに、手練の技や話芸などの芸で見せる(魅せる)マジシャンというのも根強い人気があります。
 どちらにしても、お客の側からすれば「いいように騙(だま)して欲しい」わけです。お客を騙すのに失敗するマジシャンというのは、原則として失格ですね。これは「芸の術」としての写真でも同じはずです。

3.3. 見る論理

 同じ一枚の写真でも、指紋がべたべたついたサービスサイズのプリントで見せられるのと、大きく引き伸ばしてきれいに額装して見せられるのとでは、まったく印象が違いますね(番外篇 1.の「1. 写真を飾る」参照)。
 あるいは、家の中に飾ってあるのと、美術館などに展示されているのとでも、見た目の印象は異なりますね。
 
 さらにいうなら、写真にどのようなタイトルやキャプションが付されているかや、写真の評論家が何を語るかによっても、写真への印象は変わってきます。
 私たちは普通、「写真は写真」と考えていますが、写真には常に言葉がまとわりついていることには注意しておくべきです。
 言葉がなければ写真を見ることさえ不可能だといっていいほど、写真と言葉の関係は大切かつ不可解な問題ですね。

 話かわって、私の家には猫が一匹いるのですが、"彼女" に彼女自身が写った写真を見せても、クンクン鼻を鳴らすだけで、写真に写っているのが自分自身であることを全く認識していないようすです。先日、テレビで見たところによると、言葉を少し認識できるオランウータンくらいになって、写真のイメージが何を表徴しているのかが判るようになるそうです。

 南の島に1960年代に行った写真家の話によりますと、未だ自分の写真を一度も見たことのないお年寄りがおられ(本当でしょうか ?)、自分自身が写った写真を手渡された時、彼はその写真を天地逆さまにして見ながら大喜びしたのだそうです。
 あるいは、数年前、ロシアの奥地に出掛けたテレビ局のクルーの話によると、当地のお年寄りをインスタント写真に撮ってそれを見せた途端、彼は恐れおののき、決して写真を手にすることがなかったといいます。

 2 つの逸話のお年寄りの方々が感じられたであろうような素朴な強い感動あるいは衝撃は、もしかすると私たちにはもはや得られないものかもしれません。ただ、写真を見ることには、言語的素質だけでなく、経験などによる教育も不可欠な要素であろうことは確かなようです。つまり、「どのような写真に出会い、何を考えてきたか」といった履歴が、どのような写真に感動するかを将来にわたって規定していく傾向があるようなのです。

4. おわりに

 「写真は何を表現するものか ?」と正面切って問われたときに、「それは「被写体」の表現である」と答えたくなる私は "弱い" 写真家の一人です。一方、世の中には、「写真は「写真家」を表現しているのだ !」と豪語できる、"強い" 写真家も数多くいます。
 どちらが正しいというのではなく、両方とも正しいのです。同じ正しさの中で、立場が少し違っているだけのようにおもいます。
  "弱い" 写真家と "強い" 写真家、いずれの立場をとるにしても、写真で何かを表現しようとした瞬間、写真家は表現者である以前に、人から見られる客体になることもまた確かな事実でしょう。つまり、写真表現の要(かなめ)とは、「どう見せるか ?」ではなくて、「どう見られるのか ?」にこそあるのです。写真を人に見せようとした時、どことはなしに照れ臭さを感じてしまう理由は、ここにあるものと私は考察しています。

 ともあれ、こうした写真による表現を通して、私たちの生活がより豊かになれば最高ですね。"豊かさ" というのもまあ、いろいろ考え方はありましょうが、「一人でも多くの人が写真を通して喜びを感じてくれるようになれば素敵だなぁ」と、私は思い続けているのです。それでは。

番外篇 3. 写真の悩み相談室

似顔絵 第12回目の掲載時に「写真に関する質問」を公募したところ、日本国内のみならず、英語版をご覧の世界中の多くの方々からもご質問をいただきました。本当にありがとうございます。
 「さすがにインターネットはすごい」と改めて驚いた私は、遅ればせながらパソコンを購入しました(まだ、ワープロソフトしか使っていません)。パソコンの世界では、わたしはまだまだ初心者で、カメラと違って私のほうから皆さんに質問したいようなことが多くあって困っています......。

 何はともあれ、数多く寄せられたご質問を私なりに分類し、E-mail で質問を寄せるには至らなかった多くの読者のみなさんもきっと抱かれている筈であろう疑問に、最大公約数的にお答えできるよう考えを巡らせ、3 章に再構成しました。

1. 「ハードウェア」に関する質問

 ここではカメラやレンズ本体に関する質問をまとめました。
 実は、ニコン商品の仕様に関する質問がいくつもあり、それらはニコンのお客様相談室の方々にお願いして、そちらからお答えいただくようにいたしました。
 いくら 35mm(135)判での仕事にはニコンの一眼レフを使うことが多い私でも、あまりにも広範かつ細部を掘り下げた御質問には、答える能力も知識も追いつかない次第で面目もありません。

 さて、「職業:実験写真家」である私は、ミノックス判(8×11mm)から大判まであらゆるフォーマットのカメラとレンズにあまねく愛情を注いでいます。それでいて、カメラやレンズに深く拘泥わる(こだわる)よりも、「もし性能が悪かったとしても、その悪さは悪さとして楽しめればいいや」と割り切るタイプです。
 悪い性能を楽しむ境地にまで使いこなすには、ユーザーとしての能力と知識を身につける必要がありますから、これはこれで楽しいのです。
 とはいえ、「悪ければ悪い程よい」というわけにもいきません。このあたりが実に難しいところかとも....。

1.1. カメラやレンズの清掃と保管はどうすれば ?

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カメラやレンズのクリーニング、保管用品の例

 機材の清掃と保管に関する質問はもっとも多かったです。レベック・ドミニクさん(スペイン)、ビカス・K・Kさん(インド)、西村 淳さん(ラオス在住)、横井一也さんなど多くの方々からいただきました。

 大前提は、カメラやレンズを清掃しなくてもよいように汚損しないことです。
 次に、カメラ等の「使用説明書」を良く読みましょう。清掃や保管についての注意が書いてあります。
 カメラについたホコリや汚れは、まずはブロアー(=ブラシ類は取り外して使わないほうがいいでしょう)、エアゾール式のダストクリーナーなどで吹き飛ばして、柔らかい布(洗い晒しの木綿など)などで取り除くことです。
 ソフトあるいはハードケース、そしてストラップの清掃もお忘れなく。

 レンズ表面は、サービスセンターに清掃を依頼し、さわらないのが一番です。
 レフレックスミラーもファインダースクリーンも、ブロアーでホコリを吹き払う程度にとどめてさわらないでください。
 自己リスクで清掃するときには、レンズクリーナー液などをごく少量、シルボン紙製クリーニングペーパー(=写真用品として市販されています)に含ませて慎重に掃除します。
 あるカメラメーカーでは、レンズクリーナー液にアルコール(エチルアルコール)を使っています。二十年以上前までは、このエチルアルコールに少量のエーテル(=毒性が極めて高く、日本では個人が薬局で購入できません。揮発ガスを吸引しただけでも昏睡します)を混合していましたが、人体の健康に悪影響を及ぼすので全廃したそうです。
 アルコール類は、プラスチック製のレンズ、鏡筒などにつけてはいけません。ボディでは液晶ディスプレイの表示パネル、フィルム(存否)確認窓などの透明なアクリルなども変形・白濁させることがあります。
 市販の写真用品のレンズクリーニング液は、界面活性剤主体の台所用中性洗剤の仲間あるいは石鹸水と組成が似ている水溶液が主流のようです。どちらもたいへん乾きにくいため、シルボン紙製クリーニングペーパーに染み込ませすぎると、かえって拭き跡が残ります。
 クリーニング液をレンズに直接たらしたりするのは論外です。

 また、シルボン紙製クリーニングペーパーのかわりに、ティッシュペーパーのような繊維がすぐにばらばらになりやすい紙を使うのもよくありません。
 トイレットペーパーのような水溶性の紙はもっとよくありません。
 外装の清掃に使った布類を、レンズの拭き取り用に転用してはいけません。

 特に警戒したいのは、木製家具のツヤ出しなどに使われるシリコンクロス(一昔前まではカメラを買うと、おまけに店名入りのシリコンクロスをくれたりしたものです)。木製大判カメラの外枠を別として、写真用品とりわけ写真レンズには絶対使用しないこと。光学性能を低下させます。


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ミクロクロス手袋
写真は三年前に買った「ハンザ」
(近江屋写真用品株式会社)商品ですが、
最新のカタログからは落ちているようです。
同じような手袋は株式会社エツミにもあります。

 メガネの汚れを拭い取る目的で普及した新素材の超極細繊維(東レの「トレシー(R)」など)のレンズ拭きクロス(ワイピングクロス)はかなり使えます。特に、ファインダーアイピースの汚れの清掃などには便利です。
 また、この種の新素材でつくった手袋というのがあって、これを両手にはめてカメラを操作すると、いじればいじるほどにカメラ表面がきれいになっていく(!?)ので、カメラ愛玩家(!?)にもお勧めです。

 こういったクロス類はこまめに洗濯しましょうね。

 現在のカメラは、耐久性にも十分配慮された設計になっていますが、潮風や砂塵にまみれたら放置してはおけません。塩分も塵埃も砂鉄もすぐ払拭しないと。
 まずはブロアー類で吹き飛ばせるものは吹き飛ばして、真水(=化学に詳しい人に聞くと、H2O は、実はかなり強力な溶剤です)をごく少量含ませて固く絞った布でボディを軽く拭きましょう。すぐに乾いた布で、から拭き(乾拭き)することを忘れないで。
 もちろん、有機溶剤は基本的に御法度(ごはっと)です。アルコールですら液晶ディスプレイの表示パネル、フィルム(存否)確認窓などの透明なアクリルを変形・白濁させることがあります。

 また、「なんだか AF 一眼レフカメラがうまく作動しない」時には、ボディやレンズの間にある金色(または銀色)の電気接点を、アルコールを綿棒などに浸して軽く掃除しておくと、接触不良に起因するトラブルをかなり取り除くことができます。
 電気接点の汚れを紙ヤスリや水ペーパーで磨いている人がいますが、これも良くありません。金属表面の酸化を防ぐためのメッキまでも剥がしてしまい、かえって導電性が悪くなります。消しゴムやトレーシングペーパーでこすってもとれない汚れは、サービスセンターなどに持ち込んで清掃を依頼しましょう。

 なお、「現代のカメラには、ユーザーが注油してよい部分はない」と言っても過言でありません。さらに、エアゾールタイプの防錆剤、潤滑剤、電気接点の導通回復剤などには塩素系の溶剤が使われているものがいまなお多くあって、うっかり噴霧すると合成樹脂を侵す(おかす)ので注意しましょう。

1.1.1 カビ対策

 メンテナンスで次に多かったのが、カビ対策への質問。私自身、昔はずいぶん泣かされました。なにせ高温多湿の日本の、そのまた木造二階建ての一階に住んでいましたから......。
 レンズなどに生じる代表的なカビは、ガラス菌(わかりやすくもおそろしげな名前ですね)と呼ばれ、普通のカビよりも比較的乾燥した環境(=湿度60%以上)を好み、しかも比較的低温の摂氏10度から40度くらいというかなり低い温度帯でも発芽するという嫌らしさです。
 そして、人の脂や空気中のホコリなどを栄養分にしては、有機酸を放出するのだそうです。この有機酸とガラスの間でイオン交換が生じ、ガラス表面をも電気化学的に破壊・浸食して条痕を残すのです。怖いですねェ。レンズにつけた指紋はガラス菌の絶好の栄養分になるわけです。
 カビの生育を一番効果的に防ぐには、太陽の下、適度な頻度でカメラやレンズを動かしてやることです。そうすることで、まず、カメラやレンズの内部の空気が新しく入れ代わり、カビの成育をかなり抑えます。
 一眼レフカメラの「使用説明書」にも「長時間使用しないときには、ときどきシャッターをきるよう心掛けてください」とありますよね。
 また、直射日光の強力な紫外線は、カビの成育を妨げるらしいですし。

 機材を長期間使わない時には、まず、カメラやレンズをケースなどから外しましょう。ケース類は湿気を帯びやすく、雑多なカビの発生源になります。ストラップも乾燥しているかチェックしましょう。
 カメラやレンズだけでなく、レンズキャップやボディキャップの汚れもきれいに落とし、風通しがよくてそれでいてホコリ(=カビの栄養分)が付着しない、しかも高温多湿にならない場所(高温環境下あるいは多湿環境下では、フィルムもカメラも劣化します)に保管するといいでしょう。

 市販の防湿庫、防湿ラックなども保管場所としておすすめです。
 ただ、カビを恐れるあまりに、むやみに乾燥させるのも別の危険を伴います。「カメラを乾燥させすぎて、張り革がボロボロに剥落した」といった悲しい話を耳にします。

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「フジカラー カビ防止剤(BCAゲル)」
(発売元:フジカラー販売株式会社)

 手軽で効果的な方法として、台所用品の半透明の密閉ケースに、「フジカラー カビ防止剤(BCAゲル)」と一緒に収納している人もいます。これは社団法人北里研究所が発明したアルファ ブロム シンナムアルデヒドという薬剤です。
 「カビ防止剤」は、有効期限(開封から一年が目安)が過ぎる前にこまめに交換しましょう。
 また、吸湿用に「シリカゲル」を併用するとさらに効果的らしいです。
 チャック付きのビニール袋や同じくチャック付きの冷凍食品保存用ポリ袋も、「カビ防止剤」と組み合わせて機材保管におおいに活用できます。
 ただし、ソフトケースやハードケース類はビニール袋には入れないほうがよいでしょう。ビニールに接したケース表面が変質することがあるそうです。

1.1.2. ホルマリンとナフタリンなどにはご注意

 カビとは直接関係ありませんが、写真機材は木製タンスの類(たぐい)にはしまいこまないに限ります。
 木材を薫蒸したり液浸して殺虫したあとの残留ガス、木材の接着剤から発生するガスには、ホルムアルデヒト系のガスが多く、フィルムにたいへん悪い影響を与えます。また、カメラのグリスなどの油分を変質・硬化させ、メカニズムを固着させる厄介な化学変化を起こします。
 革製品の接着剤からもホルムアルデヒト系のガスが出ることがあります。とりあえず、ホルマリン臭がする新築家屋、家具やカバンには機材を近づけないに限ります。

 そして、衣料の防虫剤(ナフタリンや樟脳)が発するガスもまた同様の悪影響をフィルムと機材に与えます。
 「防虫剤でカビも防ごう(???)」などと思っているひとがいたら、それはとんでもない間違いです。

1.1.3. 電池の話

 最後に、電池の性能・品質、特に日本製電池のそれらは着実に向上しており、昔ほどは電解液の漏れ(=マンガン乾電池でよりも、カメラで常用されているアルカリ乾電池でよく起きます)はなくなりつつありますが、長期保管のときには、外せる電池は外したほうが安心です。

 でも、月に一度は電池を装填して、一通りの動作チェックをしましょう。スピードライト、そしてスピードライト内蔵のカメラは、充電してやりましょう。「月に一度、スピードライトを充電するのとしないのでは、コンデンサの寿命がかなり違う」らしいです。

1.2. 構成枚数が少ないレンズほど画質が良いレンズ ?

 「「構成枚数が少ないレンズの方が、多いものよりも画質はよい」と一般的にいうことができますか ?」 (チェンギィ・ディンさん:アメリカ ?)
 「ええっ ?  本当なの ?」って思いました。こんな難しい問題、考えたこともありませんでしたから。
 一般的には、構成枚数が少ないほど、被写体からの光は光量ロスなしにフィルムまで届くわけですから、素晴らしい発色のカラー写真が撮れそうですよね......。

 でも待ってください。さまざまな収差(色収差、コマ収差、非点収差、ディストーション(昔でいう歪曲収差)、像面歪曲、そして色収差)を取り除くために、そして開放 F 値を明るくするために、といった設計目的があって、お金(コスト)をかけてでも凸レンズだの凹レンズだのの構成枚数を増やしていくわけです。

Fig

AI AF-S Zoom NikkorAI AF Zoom NikkorAI AF Zoom Nikkor
ED 80〜200mm F2.8D(IF)ED 80〜200mm F2.8D<New>80〜200mm F4〜5.6D
14群18枚(うち 5 枚は ED レンズ)11群16枚(うち 3 枚は ED レンズ)8 群10枚

 聞くところによれば、数十年前、レンズ表面にコーティング(増透膜)が施されていなかったり、現在のマルチコーティングのように優れたものではなかった頃は、レンズの構成枚数を増やしていくと透過率がどうしても等比級数的に悪くなったり、レンズ表面が反射した光が鏡筒の中をあっちこっちに内面反射して迷走し、変な角度から再入射してゴーストだのフレアが出て......といったような事実もありました。現在ではそんな問題は信頼できるメーカーの製品ではまずありません。
 また、ゴーストだのフレアだのは、光線状態に応じた適切なフードの選択・装着でかなりまで抑え込むことができます。

 問題はむしろ、「画質」の善し悪しを一般化することの難しさにあります。レンズ画質の評価にはさまざまな基準や尺度があります。収差の問題もそうですし、ピントのシャープネスだけでも、人の目で見た感じと、機械的に測定し計算した値とでは、ぴったり一致することは少ないようです。
 ですから、「○○を××の目的で△△のように写すためには、このようなレンズが好ましい」ということは可能であっても、一般論として「あるタイプのレンズがよい」とはなかなかいえないのが現実です。

 レンズ構成枚数の多寡に話に戻りますが、最近では、通常の光学ガラスを高屈折ガラスあるいは低屈折・低分散ガラス(どちらもおそろしく高価です)におきかえたり、非球面レンズ(材質と加工方法に応じておそろしく高価になっていきます)を使うことで、構成枚数を増やさないでも諸収差を抑え込むレンズ設計手法もあります。どちらにしてもお値段は嵩んでいきます。
 「一般的には、価格相応の画質のレンズが現実に販売されている」と私は感じています。少なくとも構成枚数だけでは画質の予測の目安にはなりません。

1.3. シャッターをチャージしたままで大丈夫 ?

Photo

Nikon F5 のシャッターユニット
シャッターを切るたびに作動をチェックして適切なシャッタースピードになるように自動補正したり、異常を検知するとレリーズをロックする機能などを備えた世界初の「シャッターモニター」を備えています。

 ビカス・K・K さんからは他にも、「フィルムの巻き上げ(シャッターのチャージ)は、(1.)撮影の直前に行うのがよいですか、それとも、(2.)撮影直後に巻き上げて、次に撮影する時までそのままにしておいても大丈夫ですか...... ?  と申しますのは、(2.)だとシャッター機構に負荷が掛かりっぱなしになって駆動バネがヘタってしまうのではないかと思うから」という意味の質問をいただきました。
 「6 ヶ月ほど撮影間隔が空いてしまったことがあるのだが」と心配されておられます。

 面白い質問だと思って採りあげたのは、ビカスさん愛用のニコン一眼レフカメラは手動巻き上げ機らしいのですが、現在では各社とも主流の自動巻き上げ式のカメラの場合、シャッターを切った直後にフィルム巻き上げとシャッターのコッキングが開始され、常にシャッターはチャージされた状態にあるからです。もしもビカスさんの心配が適中するとしたら、各メーカーはユーザーの利便を計るために、あまりうまくない設計をしているということになります......。

 識者によると、現在のシャッター機構を構成する部品・部材の性能・品質は着実に向上しており、さらに設計自体にもより工夫がなされており、6 ヶ月ほどで指摘のようなへタリが生じ、それが描写に影響するまでに至ることはまずないだろうと考えていいようです。
 とはいえ、ビカスさんの指摘は、冶金工学や電子工学が発達していなかった昔には常識であって(=クラシックカメラ愛好家にとってはいまなお問題でしょう)、いまなお俗耳に入りやすいことも確かです。

 あわせて、「使用説明書」に書いてあるように、「1〜2 年に 1 度は定期点検を、3〜 5 年に 1 度はオーバーホール」に出すことをお忘れなく。プロの写真家は、使用頻度にあわせて早め早めに点検・オーバーホールに出しているものです。

2. 「マン・マシン・インターフェイス」に関する質問

 カメラとユーザーの関係性(境界)で生じる問題がいくつかあります。
 カメラは正常でも、ユーザーが間違った操作をすれば、間違った答えがでることは当然です。また、カメラは正常に作動しているのに、ユーザーは別の結果を期待しているようなこともあります。もちろんカメラの故障ということもあるでしょうが、そちらのほうがかえって発見も修理も簡単だったりします。

2.1. 露出がうまく合っていないような気が ?

 「主に撮影するのはサッカーです。「オートピクチャープログラム」で撮影していたのですが、望遠を使っているので、さすがに手ブレのせいで良い写真が撮れません。先日、日昼に「動体」モードにして撮影したところ、逆光のせいか顔などが黒くつぶれたように写りました。フィルムは ISO 400 です。カメラの性能や特性のせいでしょうか。このような時は、どうしたら良い写真が撮れるのでしょうか。また、ナイターなどの撮影に関しても(アドバイスを)お願いいたします」(芝田さん)。
 こうした露出の悩みは他にも、横井一也さん、高橋睦明さんなどよりいただきました。
 このような質問をする場合、多くの人はまず言葉で伝えようとするのですが、結局は要領を得ないことがほとんどです。なぜかというと、実物の写真がないと、撮影現場の細部および失敗の原因といったものが、さっぱり判らないのです。それどころか、他人の目から見たらそれは失敗でもなんでもなく、意外に面白い表現の可能性を秘めていることも稀ではありません(カメラのトラブルの場合も同じです。実物があるのとないのとでは説明するときに大違いですよね)。

 さて、芝田さんの逆光で撮られたという写真は彼のホームページにて拝見しましたが(=すみません。プロ選手が写っており、ニコンのホームページへの転載は見合わせました:担当)、カメラまたは人為的な露出ミスかどうか ?、というのは、なかなか難しい判断です。

 まず第一に、このような光の状況で、一般的なカメラなら、こういう具合に写るのが "基本" だからです。
 また、主要被写体があれだけ遠方に離れている場合には、芝田さんがご愛用の A 社製 AF 一眼レフの誇る「オートピクチャープログラム」(=撮影倍率と被写体の前後の動きなどの撮影状況に応じて、プログラム AE のモードをカメラが自動選択してくれるという初心者にも便利なモード)任せの撮影はあきらめて、最初から「動体モード」(=ニコンの AF 一眼レフのイメージプログラムでいえば「スポーツモード」のようなモード)をご自分で選んで、少しでも速いシャッターを切ろうとされたご判断も的確だとおもいます。

 次に、私の眼からすると「よく撮れている。いい作品ですね」といった感想を持てる写真だからです。でも、この現場を自分の眼で見ていた芝田さんからすると、「こんなに顔半分は黒くなかったはずだ」と思えるのでしょうね。きっと......。

 原因はただ一つ。逆光にあります。しかも影の強さから見て、かなり良い天気だったはずですから、光の当たっている部分と影のコントラストが見た目以上に強く写っています。この場合、露出をオーバー気味に補正して撮ったとすれば、陰になった顔の半分もより明るくなり、背景の芝生ももっと明るく描写されます。で、どちらが良いのか......?  これは芝田さんご自身が決めることです。
 カラーネガフィルム、リバーサルフィルムいずれの場合でも、再度プリントを作成し、全体的に明るくプリントしてもらったのと見比べてください。次の撮影に活かせるはずです。

 ナイター撮影については、私自身ほとんど経験がなく、良いアドバイスはできませんが、J1 レベルの試合がおこなわれるスタジアムなら、グラウンドは周囲全体からあまねく照明されているため、このような影は目立たないのではないでしょうか。ISO 800〜1,600 といった高感度フィルムを使うことからスタートするといいでしょう。
 
 それから昼夜を問わず、望遠レンズを使っての手ブレを抑えるために、手持ちで撮るよりは、一脚を活用しましょう。三脚よりも取り回しが楽で、周囲の方々にも少しでも迷惑をかけにくい一脚が便利です。雲台は自由雲台が使いやすいでしょう。多くのスポーツフォトグラファーたちも使っているのをスタジアムでご覧になったことがあるはずです。

2.2. 被写界深度をファインダースクリーン上で見極めたい

 前述のビカス・K・K さんはさらに、「レンズの最小絞りまでの被写界深度を、一眼レフカメラのファインダースクリーン上で確実に視認する方法」をお訊ねです。
 「被写界深度」とは、ピントを合わせた前後の被写体にもピントがあっていると見倣(みな)せる範囲のことです。レンズの焦点距離や絞り値、撮影距離に応じて変化します(第 4 回目の 1.1.、そして第 6 回目の2.2. 参照)。
 絞り込みボタンやレバー、あるいはプレビュー機能のついた一眼レフカメラなら、これらの機能を使用して、実際に絞りを絞り込んでいくことで、ファインダースクリーン上でこの被写界深度の変化を視認することができます。
 しかし、ビカスさんの指摘のように、絞りを絞り込めば絞るだけ、ファインダー像はどんどん暗くなってしまい、最小絞りに近づけるにつれて被写界深度を視認することはどんどん困難になっていきます。
 室内撮影であれば、どんどん照明をふやしていく作戦もありますが、あまり実用的ではありませんね。

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大判カメラの冠布(かぶり)

 実は、この悩みは大判カメラを使った撮影にはつきものなのです。大判カメラの世界では、f/64 まで絞ることがざらにあります。
 ですから、大判カメラなどの撮影で使う冠布(かぶり)のようなものを使ってファインダーと目の隙間から差し込む光を遮れば、絞りを絞り込んでもかなりの暗さまで見えるようになります。手軽にはアイピースをカップ型のものに交換したり、手で覆うようにするだけでもずいぶん効果があります。
 さらに、ファインダースクリーンが交換可能な一眼レフであれば、大判カメラのピントグラス(ファインダースクリーン)がそうであるように、全面マットのファインダースクリーンに交換するなどの工夫もしてみてください。

 なお、絞りを絞った時のファインダー像の見掛けの被写界深度と、実際にフィルムに写した像のそれは異なります。これは、主にピントグラス(ファインダースクリーン)の性質に依るものだそうで、ファインダー像の方がほんの少しだけ被写界深度が深く見えるケースが多いようです。
 特に、この原稿を書いた時点で調べてみたのですが、いくつかのメーカーの低価格帯(いわゆる "入門機" )の135判 AF 一眼レフには、いわゆるペンタ部に光学ガラス製プリズムのかわりにプラスチックミラーを使うことで軽量化とコストダウンを図っている商品が多いのです。
 また、ファインダースクリーン像を少しでも明るく見せかけたいからでしょうか、素通しに近いスクリーンを装備している商品が存在します。これではせっかくの一眼レフとはいえども被写界深度の視認はかなり困難です。
 やはり、被写界深度に厳密さと確実さを求めるなら、単焦点レンズの「使用説明書」にはよく載っている「被写界深度表」と巻尺を携帯するのが......。
 まあしかし、そこまで厳密になる必要があるのかないのか、いかがでしょう ?

2.3. レンズの選び方の基本を知りたい

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Nikkor Lenses

 レベック・ドミニクさん、田中 博さん、越智 隆弘さん、竹中 久美子さんは、レンズの選び方についてのあれこれを質問されています。
 レンズの焦点距離別の分類と特長は、第 2 回目でひととおり述べました。
 しかし、「同一焦点距離で開放 F 値が異なるレンズでは、どちらを選ぶか ?」、「同一焦点距離でしかも同一開放 F 値で、レンズ駆動方法が異なるレンズでは、どちらを選ぶか ?」といったご質問には、お答えに困ってしまうのが正直なところです。
 なぜかというと、カメラと同様、あまりにも多くの種類があり、価格も、大きさや重さの他、もちろん性能もさまざまなものばかりだからです。皆さんにも皆さんなりの、撮影対象、目的、ご予算、そして欲する画質があるでしょう ?

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AI AF-S Zoom NikkorAI AF Zoom NikkorAI AF Zoom Nikkor
ED 80〜200mm F2.8D(IF)ED 80〜200mm F2.8D<New>80〜200mm F4〜5.6D

 こういう具合に考えてみるのもいかがでしょう ?
 写真コンテスト、写真雑誌のコンテストの入賞作品などにはたいてい撮影データが付記されています。自分が撮りたいような写真があれば、それがどのようなレンズで撮られているかをつぶさにチェックしてみるのです。これをしばらく繰り返せば、「だいたいこんなレンズでは、こんなシチュエーションでこのようなイメージの写真が撮れるのだ」ということがなんとなく理解できてくるはずです。

 それからもう一つ。例えば、「中望遠レンズはポートレート向き」というような「定説」というよりも「常識」がありますが、それらを逆手にとってみることによって、意外な発見があることを忘れないでほしいものです。第 1 回目に紹介したピンホールや、第 2 回目に紹介した虫眼鏡レンズでも、それなりの魅力があったはずですし。

3. 「ソフトウェア」に関する質問

 ここでいう「ソフトウェア」とは、写真を通した人と人の関係、あるいは、写真をどのように使うか、はたまた写真と私たちの関係はどうあるべきか、といった意味です。
 読者のみなさんの質問が期待されているものとは少し違った内容になるやもしれませんが、これらの質問に対して私の思うところを述べます。

3.1. 子供や家族をいい表情で撮りたい!

 佐藤 由佳さん、田中 直人さんからは、このような質問を受けました。もちろんテクニックもいろいろあるのですが、ここではあえて技術的な話は抜きに考えてみます。

 「写真は関係性の芸術である」だと言われることがあります。写真は撮る人と撮られる人の関係性によって、できあがる作品が違ってくるのです。たとえば、写真を撮る人が緊張していたらモデルの側も緊張してしまったり、あるいは写真を撮る人が怒ればモデルは萎縮したり逆に腹を立てたりして、それらが写真にダイレクトに反映するのです。
 ですから、写真を撮ったり撮られたりすることをお互いに楽しめるか楽しめないかで、仕上がる写真は大きく違ってきます。

 私は時折、一般の人が子供や家族を写す際、周りの人の眼を気にしすぎるあまり、写真撮影をあまり楽しんでいないのではないかと思うことがあります。それと同時に、写真を堅苦しく考えすぎているのではないかとも思うのです。「こうあるべきだ」、というのではなくて、「こんなんでもいいじゃないの」とちょっと開き直ってみるくらいでちょうどいい感じになるように思うのですが。

 ひとつだけアイデアを。フィルムを 1 本準備し、子供なら子供、家族なら家族とテーマを決めて、その一本丸ごとを使って撮影します( APS (アドバンスド・フォト・システム:IX240判)カメラで、撮影途中のフィルム交換=ミッドロールフィルムチェンジ(MRC)機能を搭載した機種だと、より好適です)。
 ただし、同じポーズはできるだけ撮らないようにするのがルール。少しずつポーズを変えたり、衣装を変えたりといろいろなアイデアを皆で出し合います。写真を撮るために、皆で演技を楽しむような感覚になれば楽しいですよ。友人に知人に参加してもらうと、観客がいるようでもっと楽しめるかもしれません(友人知人にはちょっと迷惑かもしれませんが......。でも、撮り終わった後で飲むビールやお茶は最高においしいはずです)。

3.2. 他人の作品はよく見えるのに、自分のはなんだか......

 堺 信夫さんからは、このような質問が届きました。この気持ちとてもよく分かります。私もそうなんです......。もしかすると、どれほど自信のある写真家でもこういう「他人が皆、われより偉くみゆる」気分に陥ることはあるんじゃないかとも思います。
 以前にも書きましたが、写真は基本的に四角く囲まれた平面の画像でしかありません(番外篇 2. の 3.参照)。匂いも空気感も、湿度も気温も、そのままでは写真に記録されません。しかし、私たちは写真の画像によってそれらを想起することができます。これは写真を見る私たちに想像力があるからです。特に、わけのわからないものを見たときに、私たちは想像力をフルに発揮するようになります。つまり、情報量の少ないもの、あるいはその反対に情報量が多すぎて何がなんだか判らなくなるような、そんな写真には、多くの謎、ミステリアスな魅力といったものを私たちは感じるものです。

 こうした視点から考えると、自分の作品に関しては、基本的に全てを自分自身で知り尽くしています。何をどんなカメラやレンズやフィルムで、どのようにしてどのような意図で撮影したかを全て理解しています。しかし、他人の作品に関しては、こうした情報はほとんどの場合、かなり都合よく隠されているのが普通ですから、結局、「他人の作品の方が自分のよりもどうしても良く見えてしまう」わけです。
 ですから、こうした時には、その作品に隠されたさまざまな情報を、自分なりに想像し、理解するよう努めることで相対化を図るのが一番です。自分の次の撮影にも役立てられるはずです。

3.3. プロになるには? 写真学校ってどんなところ ??

 岡部 敏明さんからの質問です。「税務署に提出する確定申告の用紙の職業欄に「写真家」と書けば、あなたもプロの写真家 !」という言い古された冗談もありますが、この職業は、一部を除き国家資格だのなんだのを必要とする職種ではありませんから、写真学校に通わなければなれないというものではありません。
 プロになりたいなら、とにかくその現場に飛び込むのが一番でしょう。

 私の知り合いによると、「入社 2 年目の男性が突然「やっぱり私は自衛隊でカメラマンになります」と言い残して退社。陸上自衛隊に入隊して10歳近く年下の隊員たちに囲まれての猛訓練をこなし、ついには初志貫徹して写真中隊に配属されたって報告のグリーティングカードが届いた」という夢のような話があったそうです。なんだか勇気づけられますね。それにしても「写真中隊」っていう部隊があったんですね。

 それはさておき、写真学校には、技術に重きをおいているところや、表現に重きを置いているところなどさまざまな個性があります。こうした個性は、卒業した後になって改めて回顧してみないことには何が何だか判らないものであったりもします。「どの学校を選ぶか」も、ひとつの冒険なのですね。
 写真学校で学ぶことのいいところは、教鞭をとる先生たち(=多くの場合プロとして活躍している人たちです)や意思を同じくする友人たちと多く出会えることです。
 それから、いきなりプロになるよりは余裕をもって「写真とは何か」を考えることができることにあると思います。
 
 さて、現在では、銀塩写真だけでなく画像処理といったデジタル技術をも含めた学科に変貌しているところも少なくないようです。私が講師をつとめているところでもそうです。これから何年か先には、もっと状況は変わっているものと思います。

 また、最近では、写真学校というのではなく、カルチャーセンターのようなものや、写真家の開催するワークショップ、日本カメラ博物館や美術館や公民館などで開催される写真講座なども非常に増えてきました。
 ニコンでも、「ニコン塾」(「写真講座」、「カメラ使い方教室」など)がありますね。
 こうしたさまざまなチャンネルを覗いてみるのも、一つのステップになるように思います。

4.0. 連載のおわりに

似顔絵 さあ、これでいよいよお別れです。実は前述したパソコンではじめて書いてみた原稿がこれなのです。やっと少し慣れてきたように思いますが、失敗とイライラの連続でした。誤操作で原稿が半分消えてしまったときには正直がっくりしました。ただ、なんとはなしに、カメラというマシンが一昔前に先人を驚愕させたことと、今現在、私たち(私だけ ?)がパソコンというマシンに驚いていることとが妙にシンクロしているような不思議な感慨にふけっています。
 では、皆さんご機嫌よう。どこかでお会いできたらいいですね。
 さようなら。