第12回目 摩訶不思議な写真の世界
いよいよ全12回(当初の予定)の最終回です。これまでに紹介できなかったいくつかを簡単にまとめてみます。
一つは、「フィルター」。色を調整するだけではない、さまざまなフィルターの特徴を整理します。
次に、「ステレオ写真(stereograph)」。立体写真とか 3D 写真として知られる技術(stereography)の一つですが、一眼レフ 1 台だけでも撮影できる方法を紹介します。
最後に、「写真撮影スタジオ」。スタジオで使われている照明機材とその役目を簡単にまとめます。
それぞれ特殊と思われがちな分野ですが、応用範囲は極めて広いものです。
1. さまざまなフィルターによる表現効果
前回(第11回目)、色温度調整フィルターと色調整フィルターについて簡単に紹介しました。これらは、光の中の必要な色だけを透過し、その補色成分を吸収(カット)するものです(レギュラーコーヒーを抽出する時に使う紙フィルターみたい)。
写真用フィルターには、こうした色フィルター以外にもさまざまなものがあります。全てを紹介できませんが、フィルターの「仕組み」と「作り」で大きく分類してみます。
一眼レフカメラでは、こうしたさまざまなフィルターの効果をファインダー像でかなり正確に把握できます。手作りフィルターも簡単に楽しめますので、気軽にチャレンジしてもらいたいとおもいます。
1.1.フィルターの仕組み
写真用フィルターをその仕組み(原理)で分類すると、
- 光を吸収するもの、
- 光を拡散するもの、
- 光を屈折するもの、
に大別できます。品種別の分類を、<表 1.>に示しました。
もちろん、ここに紹介する以外にもさまざまな効果を得られるフィルターがありますが、原理的には、光の吸収・拡散・屈折といった物理的性質を応用したものです。つまり光の物理的な性質を理解すれば、オリジナルのフィルターの自作も割合簡単です。
カメラメーカーやアクセサリーメーカーから販売されているフィルターは、精度的にも優れたものですが、大雑把(おおざっぱ)にこしらえた自作フィルターでも味わいある表現効果は得られます。アイデアを活かして、いろいろ遊んで頂きたいとおもいます。
<表 1.>フィルターの仕組みによる分類
1.1.1. 偏光(PL)、円偏光(C-PL)フィルター
ガラスや水面などの反射光(写り込み)をカットしたり、青空を暗く落としたり、風景撮影などで色彩をより鮮やかに写すために用いられます。
フィルター前枠を回転すると効果が変わります。一眼レフカメラであればファインダーを覗きながら微妙な調整ができます。
反射光の除去には、反射面との角度が 30 から 40 度の位置が最も効果的。青空を暗く落とす場合には、太陽から 90 度の方向が最も効果的。
濃いフィルターですから、露出やピント合わせには要注意です。
偏光を正しく理解するのはかなり困難ですが、簡単にいうと、光は波の性質を持っており、その振動方向に偏りのある光が偏光です。ガラスや水面での反射光や、青空の光にはこうした偏光成分が含まれています。
偏光フィルターは、こうした偏光成分をカットするもの。ですから、反射光を除去したり、青空を暗く落としたりできるわけです。
風景撮影などで色彩を鮮やかに写せるのは、空気中の水蒸気やゴミなどによる反射光を除去するからです。
AFカメラ、そしてMFカメラでも偏光性のハーフミラーをレフレックスミラーあるいはサブミラーに使用しているカメラに通常の偏光フィルターを装着すると、AF機能やAE機能が上手く作動しないことがあります。このようなカメラには、より高価な円偏光フィルターを使用します。
円偏光を正しく理解するのもこれまた厄介ですが、光の振動方向が回転するようなイメージを思い浮かべていただければ。使用方法は、通常の偏光フィルターと同じです。
<写真 1.>偏光フィルターでガラスの反射を除去した作例
<写真 1.a. >
偏光フィルターを使用しているが、
あえて効果が出ない向き(角度)にて撮影
<写真 1.b.>
偏光フィルターの効果が
最大になる向き(角度)にて撮影
1.1.2. ND フィルター
ND とは "ニュートラル・デンシティ" の略で、無彩色の濃いフィルター。色には影響を与えずに光量を減少します。
晴天下、高感度フィルムを装填していて露出計の連動範囲をオーバーしてしまったときなどは勿論ですが、「より遅いシャッタースピードを」(第 5 回目参照)、「より開放値に近づけた絞り値を」(第 6 回目参照)と、思い通りの描写を追究するには不可欠なフィルターです。
濃い ND フィルターほど大きな数値が付されています。この数値は、シャッタースピードが何倍遅くなるかを指したもので、ND 2 なら 2 倍(-1 EV)、ND 4 なら 4 倍(-2 EV)、ND 8 は 8 倍(-3 EV)になります。
非常に濃いタイプには、ND 400(約 -9 EV)があり、これを使用すれば太陽を撮影することもできます(太陽を直視してはいけません)。
<写真 2. > ND フィルターの効果
<写真 2.a. >
ND フィルターなしで撮影
<写真 2.b.>
ND 8 を装着、
シャッター速度を 3 段分遅くして撮影
1.1.3. UV フィルター
UV は "ウルトラ・バイオレット" の略で紫外線の意。紫外線は肉眼には見えませんが、写真フィルムにはよく感光し、色彩の鮮やかさを低下させたりします。こうした紫外線の悪影響を抑えるために使用します。ほとんど透明に近いフィルターですから、レンズ表面の保護を目的として常用することもできます。
紫外線のみをシャープにカットし可視光にはまったく影響を与えないタイプや、紫外線だけでなく青緑光も少しカットするタイプ(L1BC)など、細かな種類があります。
1.1.4. 白黒用フィルター
<写真 3.>
クロスフィルターの効果
モノクロフィルムと併用する色フィルターです。モノクロフィルムには色は写りませんが、さまざまな色を適度な濃さに写すように、全ての可視光(色)に感光するように作られています。このため、白黒用の色フィルターを使うことで、モノクロ写真に写る色の濃さやコントラストを調整することができます。
●黄:紫外線や青光を除去し、自然なコントラストで写すためのフィルター。
●橙:橙は、●黄フィルターよりも強い効果を得られます。風景撮影では青空を暗く落とし、コントラストを強調するために使います。
●赤:赤は、●橙フィルターよりも強い効果を得られます。赤外フィルム撮影にも使います。
●緑:人の眼の見え方に近い描写のモノクロ撮影ができます。ポートレート撮影には特に有効。
1.1.5. クロスフィルター
透明フィルターの表面に、平行線状の傷を付けた(溝を刻んだ)ような作りで、光源などから光の筋(光条)が放射しているような描写が得られます。光条の角度や本数を違えて効果を変えたさまざまなタイプがあります。
また、光条が虹のように分光されるタイプもあります。
1.1.6. フォグフィルター
淡い曇りガラスのようなものと考えてよいでしょう。画面全体がぼんやり霧(fog)がかかったように写ります。ガラス(あるいはアクリル)の表面の加工には各社さまざま工夫を施し、ピントのシャープさは失われないものが主流です。
手軽に楽しむには、透明フィルター(例:UV フィルターなど)に息を吹きつけて、少し曇らせて撮影してみるといいでしょう。できるだけ早く撮影しないと、すぐに曇りがとれてしまいますが......。
1.1.7. ソフトフィルター
フィルター表面に特殊な加工をほどこし、ピントをソフトに写すものです。効果の強いもの弱いもの、ピントのシャープさをできるだけ残す(よく「ピントの芯を残す」といいます)ものなど、さまざまなタイプがあります。
手軽なところでは、透明フィルターにワセリンなどの透明油を塗ったり、台所用のラップ、女性用ナイロンストッキングなどをフィルター替わりにしても楽しめます。
<写真 4.> フォグフィルターとソフトフィルターの効果
<写真 4.a. >
フィルターなしで撮影
<写真 4.b.>
フォグフィルターをつけて撮影。
光が滲(にじ)んだような写りに
<写真 4.c.>
ソフトフィルターをつけて撮影。
ややピントがソフトな写りに
1.1.8. 多重効果フィルター
<写真 5.>
多重効果フィルターの作例
ガラスをプリズム状にカットしたような作りで、画像をダブらせて撮影することができます。カットの仕方などで多重画像の出方に違いを出し、いろいろなタイプが市販されています。
さらに、フィルターを回転したり、絞りを調整することで、写りの変化を楽しめます。
1.1.9. 特殊効果フィルター
<写真 6.>
特殊フィルターのひとつの作例
画面中央部だけにピントを合わせ、周辺部をボカして写すもの。画面を縦方向や横方向に縮めて写すものなど、ありとあらゆるタイプがあります。
アクセサリーメーカーのカタログをご覧になるだけで楽しいですよ。
1.2.フィルターの作り
「フィルター」と一口に言っても、本当にさまざまな効果を得られる種類があることを述べました。
つぎに、フィルターの作りの違いによって分類してみます。それぞれに一長一短がありますので、必要に応じて選択してください。
1.2.1. ガラスタイプ(枠つきタイプ)
<写真 7.>
シートタイプフィルターの装着例。
専用のホルダーに挟んで使用します
レンズの前枠にネジ込む方式で、もっとも一般的なフィルターです。ガラス(多くは光学ガラス)かアクリルでできているため耐久性にも優れています。ただ、やや高価なことと、レンズ口径の異なるものにはすぐにはセットできないのが難点です。
特殊な効果を得られるフィルターなど、種類も豊富です。
フィルターをより小さなアタッチメント径のレンズにセットする際には、アダプターリング(ステップアップリング)を使用します。
小径のフィルターをより大アタッチメント径のレンズにセットするアダプターリング(ステップダウンリング)もありますが、画面周辺部がケラれることが多いものです。
1.2.2. シートタイプ
<写真 8.>
プラスチックタイプの例。
このホルダーはレンズフードを兼ねた一体型で、
システム化されたタイプ
光学特性のよいゼラチン(でも食べてはいけません)やアセテートなどに染料を混ぜて着色した薄いフィルム(シート)を、一般的には方形にカットしたタイプです。
3 インチ(約75mm)角、あるいは 4 インチ(約100mm)角サイズが主流で、それぞれ専用のフィルターホルダーにセットし、アダプターリングを介してより小径のレンズに装着して使います。
色温度調整フィルターや色調整フィルター(第11回目参照)、UVフィルター、NDフィルターなどが豊富にラインナップされています。
基本的にレンズの異なるアタッチメント径に対して融通が利き、単価も安いのですが、素材の性質上、耐久性に欠けるのが欠点です。
シートタイプには、特殊な効果を得られるフィルターはほとんどありません。
1.2.3. プラスチックタイプ
フィルターは数 mm 厚のプラスチック製で四角い形状をしており、専用のフィルターホルダーにセットするシステムです。
フィルターホルダーはアダプターリングを介することで、さまざまなレンズ口径に対応できます。ただし、システム化されているため、他のホルダーやフィルターとの組合せでは使えないこともあります。最初に購入する際に十分注意してください。
素材を活かしてさまざまな効果を得られるものが揃っています。
2. ステレオ写真の愉しみ
写真そのものは平面なのに、なぜかそこに立体が浮かび上がってみえる不思議な写真。「立体写真」とか「 3D(スリーディメンジョン)写真」を見たり聞いたことがあるはずです。
この技術(stereography)にはさまざまな種類があり、それぞれ奥が深いものですが、その一つが「ステレオ写真(stereograph)」と呼ばれるものです。
ステレオ写真の仕組みは、オーディオでいうステレオと同じです。つまり、右耳と左耳で聴こえる音の違いによって立体的な音場が脳の中に再現されるように、右眼で見る像と左眼で見る像の違いによって立体的なイメージを再現するのがステレオ写真です......。
ちょっと難しそうですが、じつは一台の一眼レフと普通のフィルムで、簡単に楽しむことができます。まずは、ステレオ写真の原理の理解から始めましょう。
2.1. ステレオ写真の原理
人の左右の眼は、個人差はありますがだいたい 6〜7cm ほど離れています(この巾というか長さを、眼基線幅=眼幅(がんぷく)といいます)。
このため、立体物を両眼で観察するとき、左右の眼はそれぞれ、右からそして左からと少しづつズレた像を観察しています(両眼を交互に閉じて、対象物を観察してみると一目瞭然)。
しかし、私たちは普通、こうした両眼のズレ(視差=パララックスといいます)をズレとして意識するのではなくて、この両眼視差を脳内で総合して「この対象物は立体である」と認識しているのです(<図 1.>参照)。不思議ですよね。
ですから、両眼に代えて 6〜7cm ほど離した位置からカメラで撮影して焼いた 2 枚一組の写真(以下、ステレオペア (stereo pair) とよびます)を、左右両眼で同時に観察すれば、立体感を得ることができます(<図 2.>、<図 3.>参照)。
これがつまり、ステレオ写真の原理です。
<図 1.>
自然な立体視
<図 2.>
ステレオ写真撮影のしくみ
<図 3.>
ステレオペアを立体視(平行法)
<図 4.>
ステレオペアの裸眼立体視を
補助するためのマスク
ただ、ステレオ写真を撮影することは簡単なのですが、ステレオペアをそれぞれ左右の眼で観察して立体視すること(両眼立体視)は、すぐできる人と、そうでない人に分かれます。
裸眼では立体視ができない(=結構慣れが必要です)人は、<図 4.>のようなマスクを作成して、左右の写真の境界が交じらないようにして視るとよいでしょう。
それでも上手くいかない人で眼鏡の装用者は、眼鏡を変えてみることをお勧めします。近視の人は、眼鏡を外して観察してみてください。遠視の人は、少し度の強い眼鏡に変えてみるといいでしょう。
さらに、<図 4.>のマスクの覗き孔に焦点距離 100 mm 程度のルーペ(=凸レンズ)を貼りつけて本格的なビュアーを作れば、より容易に立体視ができるはずです。
2.2.ステレオ写真の撮影と観察の実際
<図 5.>
ステレオペア撮影時の
基線(ステレオベース)長
立体視の原理はいたって簡単ですね。
実際問題、かなりいい加減に撮影したステレオ写真でも、立体視に慣れてさえいれば、大抵のものに立体感を得ることができます。
例えば、左右を反対にしても割と大丈夫(!?)ですし(凸面が凹面に、凹面が凸面になるんですけど.....これをスードゥー ステレオ (psudu stereo) といいます)、似ている二人の人の写真を並べてもなんとなく立体に見えたりもします(!?)から、おかしなものです。
とにかくは気軽にチャレンジしてもらいたいと思います。
とはいえ、とりあえずは、ちゃんとした撮影法 & 観察法を理解しておくに越したことはありません。簡単に整理します。
2.2.1. 「基線長」の役目
人の両眼はだいたい 6 〜 7 cm 程度離れていると先に述べました。しかし、個人差がありますね。ですから、厳密に 何 mm でなければならないというものではありません。
しかし、この長さ(基線長あるいはステレオベース(長)といいます)が長くなればなるほど、左右の像のズレ(視差)が大きくなります。
つまり、立体視した時の立体感がより強調されていくわけです。
さて、「ステレオ写真は、基線長の50(〜100)倍前後の長さを撮影距離に設定したときに、もっとも自然な感じで立体視できる」と古来より言い伝えられています。
| 「基線長」のめやす |
|---|
|
<図 6.>
一台のカメラでステレオ写真を撮影
確かに撮影距離に対して基線長が短すぎては、自然な立体視は困難になります。
とはいえ、遠景、たとえば遠方の山々などといった、日常は「山って立体だなぁ」とは認識しないでいる対象物は、上記有力説でいう「基線長として撮影距離の 1 / 50(〜 1 / 100)の長さを確保」していなくても、それなりに立体視できることも確かです。
|
「基線長として、撮影距離の 1 / 50(〜 1 / 100)の長さを確保すべし」という上記有力説に従えば、東京から約 100 キロ 先の富士山を撮るには、まず 1 コマ目を写して、横方向に約 1〜2 キロ ほど平行移動して(下の<図 6.>参照)、残る 1 コマを撮るのがよいことになります(実際には、前述したように日頃富士山を遠望しても「富士山って円錐状の山だなぁ」とは認識していないため、これほど基線長を確保して撮らなくても、かなりの立体感があるステレオペアが得られます)......。 ここで、ステレオ写真界ではかなり有名な応用問題をひとつ。 Q. 月(撮影距離は約38万キロ)のステレオペアを撮るには、1 コマ撮ってからどれだけ移動したらよいでしょうか ?。 A. まず 1 コマ写して、約 7,700〜3,800 キロ ほど移動して、残り 1 コマを撮るのもひとつの方法です.......。 |
2.2.2. ステレオ写真撮影の実際
カメラ店、どちらかというと中古に強いカメラ店などには、ステレオ写真撮影専用のステレオカメラや、アクセサリー類が販売されています。それらを利用すると、手軽にステレオ写真を楽しめます。機種も豊富で、さまざまに工夫されたものがあり、奥の深さを感じるはずです。
しかし、わざわざ購入しなくても、手元にある一眼レフカメラ一台で、十分に楽しむことができます。要するに、適切な基線長分だけカメラをずらして 2 枚一組のステレオペア写真を撮影すればよいのです。詳細は次項に述べます。
<図 7.>
左右の写真の見分け方。
緑の四角が手前、赤い丸が奥にあります
2.2.3. ステレオペアの左右の見分け方
何枚ものステレオペアを撮影した後で、ポジやプリントを見てもどれとどれがペアか判らなくなることがあります。こうした際には、プリントの像をじっくり観察してみると、写真の左右の写真を判別できます。<図 7.>を参照してください。
2.2.4. 立体視の二つの方法
先に紹介した立体視の方法は、左側の位置で撮影した写真を左眼で、右側の位置で撮影した写真を右眼で観察するものでした。視線を平行にしますので、「平行法」といいます。ステレオ写真の多くはこの方法で観察します。
「平行法」以外にも、ステレオペアを左右反対に並べて観察する方法もあります。寄り目にして視線を交差させるため、「交差法」と呼ばれます。
一枚の写真の幅が 6〜7cm 以上あるステレオペアの観察には有益です。
2.3.一眼レフカメラでステレオ写真を楽しむ方法
一眼レフカメラを 1 台だけ使ってステレオ写真を撮影するには、被写体までの撮影距離から計算した基線長分だけ離した位置で 2 枚一組撮影すればよいことは、もうお判りですよね。
撮ったステレオペアを手軽に観察するには、普通のカラーネガフィルムで撮影し、処理が早くて安いサービスサイズプリントにて仕上げます。
左右の 2 枚のプリントを重ね、ライトボックスやランプに透かして像の位置を揃えて、セロハンテープなどで軽く固定します。次に、プリントの横幅がだいたい 6 センチ程度になるように、ハサミやカッターナイフでカットします。
なぜ 6 センチにするかというと、「平行法」で観察しやすいからです(日本人の眼幅の平均は 62mm 程度だそうです)。
後は、ステレオペアの左右を間違えないように並べて、台紙などに貼りつければ完成です。糊付けする前に、仮止めして裸眼立体視できるかどうか確認しておきましょう。
<写真 9. >ステレオ写真のお手軽作成法
<写真 9.a. >
左右にズラして撮影した 2 枚一組の
サービスサイズプリントを準備します
<写真 9.b.>
像をだいたい重ねて固定し、
約 6 cm 幅にカットします
ただ、この方法では、動く被写体は上手く撮影できません。
でも、少し考えてもられば判るように、動く被写体を撮影するには、同じ焦点距離のレンズをつけた一眼レフカメラを 2 台並べて撮影すればいいですね。知人などにカメラを借りて、試してみてください。
二股に分かれたケーブルレリーズを使えば、より確実。専用のステレオカメラには、このようにカメラを 2 台並べたような作りをしたものがあります。それにしても大がかりですよね。
<写真 10.>
ペンタックス・ステレオアダプターセット
(ペンタックス株式会社)
希望小売価格 33,000 円(消費税別)
(1992年頃までは 8,000 円 でした)。
なにはともあれ、AF一眼レフ全盛の時代にも、MF用の楽しいアクセサリーセットが販売され続けてきたことは賞賛に値します !
一方、一眼レフカメラに装着するのに適した、ミラー方式(ビームスプリッター方式)のステレオアダプター」も昔から市販されています。
写真の「ステレオアダプター」は、お手持ちの一眼レフカメラ一台で簡単にステレオ写真が楽しめる、実にすばらしいアクセサリーです。
35mm(135)判フィルムのフルサイズ(36×24mm)画面内に、縦長の約17×24mm(いわゆるハーフサイズないしはシネサイズ)のステレオペアを同時に写しこむ方式です。だから、動く被写体であってもばっちり撮影できます。
平行に配置したミラーを左右一組づつ内蔵し、基線長を 7 cm 近くまで稼いでおり、主要被写体との撮影距離は 1.5 〜 4 m を推奨しています。
このアダプターは、基本的に標準レンズ(焦点距離 50〜55mmクラス)の前枠にネジ込んで使用します。
ピント合わせはマニュアルで、フォーカシングスクリーンのマット面を利用しておこないます。
フォーカシング(そしてズーミング)に伴ってレンズ前枠が回転しないレンズに装着したほうが使いやすいことは勿論です。
|
ミラー方式のステレオアダプターの欠点のひとつは、ミラーが光量をかなりロスすることです。さらに、絞り値を f / 5.6 から f / 8 に絞り込んで使うこともあって、測光にはファインダーからの逆入射光がかなり影響しがちです。 スピードライト撮影時には、TTL 調光でないとおそろしく露出アンダーになります。 |
写真の「ステレオアダプターセット」には、ポジ(スライド)フィルム用の専用ステレオビュアー(やはり平行に配置したミラーを二組内蔵)がセットされています。 |
写真の「ステレオアダプターセット」には、「49mmセット」と「52mmセット」があります。 ニコンにも、かつてステレオ撮影専用レンズ「Stereo-Nikkor f=3.5cm 1:3.5」、その基線長を 80mm に拡張するためのプリズムを 2 組内蔵したステレオプリズム、ステレオビュアーなどのセットがあった(1956(昭和31)年:当時は日本光学工業株式会社)といいます。 |
3. 写真撮影スタジオって何だ ?
写真館やコマーシャルスタジオなどと聞くと、ただそれだけで、なんだか特殊な場所だとお思いになるはずです。確かに、決して一般的ではありませんが、しかし、写真を撮るための空間であることに違いはありません。
では、「普通の部屋とスタジオでは何が違うのか ?」というと、その大きさ広さ、そして調度品などを別にすれば、「写真撮影用の照明器具が揃っていること」に尽きると思います。
写真を趣味で楽しむ多くの人は、「カメラが良ければいい写真が撮れる」と信じていたりしますが、それ以外にも実は、良い照明器具も必要なのです。
屋外で潤沢な太陽光の下で撮影する場合ですら、レフ板やディフューザー(拡散板)などの補助的な照明器具を併用するのとしないのとでは、写真写りは全くといっていいほど変わるものです。
こうした意味で、「写真撮影スタジオとは、光を自在に操ることができる場所である」といっていいでしょう。
それでは写真撮影スタジオでは、いったいどんな照明器具が使われているのでしょう ?
3.1. 照明器具のいろいろ
<写真 11.>に写真用照明器具の基本的なものを並べてみました。それぞれ、簡単に紹介します。
中でもスタジオ用としては、D.、E.、F.、I.、J. が多く使われます。それぞれ見比べてもらえば判るように、光源の面積が大きいのが特徴です。なぜかというと、光源の面積を大きくし拡散することで、"柔らか" な光、影のきつくない光を得られるからです。
スピードライトの回に、バウンスライティングを紹介しました(第10回目の 3.1. 参照)が、これと同じような効果を得られるわけです。
「スタジオで撮影した写真は普通と違ってきれいに撮れている」と感じることが多いのは、こうした照明器具の違いによるのです。逆にいえば、これらの照明器具を使いこなせば、誰にでも、まるでプロのような写真が撮影できるようになります。ただ、いずれも非常に高価なのが難点ではありますが......。
<写真 11.>
- カメラにとりつけるクリップオンタイプのスピードライトです。お馴染みですね
- グリップタイプタイプのスピードライト。これもお馴染みのはず。一般的にクリップオンタイプよりも大容量のコンデンサーを内蔵し、光量が大きい特徴あり
- グリップタイプのスピードライトの電源部です。積層電池や乾電池を使います
- 家庭用電源を使う大型ストロボの電源部
- 大型ストロボの発光部にアンブレラをセットしたもの。テレビドラマなどではスタジオ撮影のシーンで登場
- 大型ストロボの発光部にライトボックス(バンクとかウィンドウライトなどということもあります)を取りつけたもの。現在の主流です
- デーライトタイプの写真用電球(通称:青玉)
- タングステンタイプの写真用電球
- ハロゲン電球を用いたライトボックス
- 同じくハロゲン電球を用いたライトボックス
3.2. 光を操る
さて、照明器具といえば、"ライティング" という言葉を思い浮かべるはずです。"ライティング" などというと、なんだかそれだけで難しそうな感じがしますが、日本語に直せば "照明" であって、何の事はない「光の当て方」の違いです。難しくも何ともありません。
とはいえ、「やはり写真の照明は難しい」と考える人は多いはずです。なぜかというと、光の当たり方で、写真写りの善し悪しが変わるからですね。
しかし、これは屋外での自然光の下の撮影においても同じはずです。屋外の風景は、基本的に太陽によってのみ照明されています。ですから、写真写りは「太陽の光がどのように当たっているか」に応じて大きく変わります。
つまるところ、「写真に撮りたい対象を見るだけではなく、対象に当たっている光を観察すること」が大切なのです。
スタジオだろうが、屋外だろうが、これは写真撮影の基本中の基本だと思って間違いはありません。
スタジオが便利なのは、先に紹介した人工の光で照明するために、時刻や天候などに関係なく自在に光を調整できる点にあります。
<写真 12.>は、石膏でできた胸像に、さまざまな角度から光を当てたものです。
これをもし太陽の光で撮影するとなると、大変にやっかいですよね......。こういう具合に、光を自在に操れるのがスタジオ最大のメリットです。
ともあれ、ここに紹介したような高価な機材などを使わなくても、窓から射し込む光を使ったり、クリップオンタイプのスピードライトや、卓上ランプや蛍光灯(適当な色補正をしてください)を使うだけでも、意外にきれいな写真が撮れます。
コツはただ一つ。「物をただ見るだけでなく、光の当たり方や影の出方に注意すること」です。
まずは、机の上で小さな静物を撮影することから始めるといいでしょう。少し慣れると、屋外の撮影にも大いに役立つ眼を養うことができると思います。
<写真 12.>
光源の向きによる写真写りの違い
かなり駆け足になってしまいましたが、第12回目はこれで終わり。フィルターについてはアクセサリーカタログなどを、ステレオ写真やスタジオ撮影については、それぞれの専門書を参考にしていただければ嬉しいです。

全12回の予定で一年を通して、一眼レフカメラの使い方の基本から、その周辺の知識を整理してきましたが、いかがでしたか ? 少しはお役に立ったでしょうか ?
一眼レフカメラは、その機能や性能はいうに及ばず、さまざまなアクセサリー類がシステム化されている点で、ほとんど万能カメラといっていいものです。ですから、カメラ本体の使い方だけでなく、カメラの周辺をよりよく理解して活用すれば、写真の楽しさは何倍にも膨れ上がります。カメラは一台でもいろいろな使い方ができるのが、一眼レフカメラ最大の魅力なのです。
久門 易(くもん やすし)



