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9.モノクロフィルムを使う・Ⅰ

色フィルターの効果と赤外フィルム


  写真①コニカパン100
 一般的なモノクロフィルムはパンクロマチックの特性を持っているので、「PAN」という名称がついています。
 モノクロフィルムというと、それだけで芸術的で前時代的な印象があります。ところが、昨今の若い人々はモノクロ写真を新鮮なお洒落として楽しんでいるようです。先入観を捨てて、モノクロ写真を気軽に楽しんでみませんか?

 さて今回は、色のないモノクロ写真に色はどのように写っているのか? を考えます。そして、モノクロ写真を撮影する際に使う色フィルターの効果を整理し、最後に赤外写真の撮り方をまとめます。  モノクロ写真の撮り方の基礎は、これで完全にマスターできるはずです。

 モノクロ写真を撮る際に使うフィルムをモノクロフィルムといいます。コニカからはコニカパン100、200、400の3種類の感度のものが発売されています。

 一昔前は、カラーフィルムよりも随分安価でしたが、最近ではその差はあまりありません。というよりも、モノクロよりも安価なカラープリントが出回るような時代になりました。面白いものですね。

 さて、モノクロフィルムの名称の「パン」の意味をご存じでしょうか? これはパンクロマチック(panchromatic/正式にはオルソパンクロマチック)の略で、目に見える全ての色光に対してほぼ均一に感光する特性をもっていることを意味しています。

 ですから、モノクロフィルムをカメラに装填しそのまま撮影するだけで、人の目に見えるような濃淡のモノクロプリントができるわけです。

モノクロプリントにも色は写る。

  写真②A~C 被写体とモノクロネガフィルムとモノクロプリント
 被写体の色や明るさが、ネガフィルムとプリントにどのように再現されるかを確認してください。 A/リバーサルフィルムで撮影。 B/モノクロネガフィルム。
 当たり前のことですが、モノクロプリントは純白から純黒までの階調(さまざまな濃度のグレー)で画像ができています。つまり、被写体の光の量(強さ)だけを記録しているわけです。

 ところが、写真②の彼女が手にしている色見本の色とモノクロプリントの同じ部分の濃さを見比べてみると、なんとなく変な気分になりませんか?

  写真② C/モノクロプリント。

 

 

 とりわけ緑の濃さを、赤や青の濃さと比べてみると、ちょと違うよなって感じがしないでしょうか?

 私には、モノクロプリントの緑は、少し濃いように見えます。シアンと同じ程度に明るくてもいいような気がします。

 もちろんこれは些細なことですし、もしかすると私の目が変なのかもしれません。しかし、こうした些細なことが、モノクロフィルムの撮影では大切になることがあるのです。
 でも、だからといって重箱の隅をつつくようなことを言っても仕方がありませんから、大雑把にモノクロ写真に写る「色」について考えていくことにしましょう。

色フィルターの効果


  写真③A~D、④A~D
モノクロ用色フィルターの効果
 三原色のフィルターを使った場合の、モノクロプリントの再現の変化を示したものです。③A~Dはリバーサルフィルムで撮影したもので、一眼レフでファインダーを覗いている時の様子と同じです。被写体の色の再現が色フィルターによって変化することを確認しましょう。

 

 話を分かりやすくするために、色分解をする際に使われる赤/緑/青フィルターを使用してみました。これらのフィルターは非常に濃い色で、原則としてそれぞれの色光だけを透過するようなものです(ここで用いたものは、一般に市販されているものです)。

 写真③A~Dにリバーサルフィルムを使って撮影したものを示しました。これがちょうど、ファインダーを覗いた時の様子だと思ってください。写真④A~Dがモノクロフィルムで撮影した結果です。どうですか?

 モノクロ撮影時に色フィルターを使用するだけで、こんなに違いがでるのです。何が何だかわからないかもしれませんが、こうした違いは簡単なルールによって説明できます。覚えておくと便利です。

 使用するフィルターの色が明るくなり、その補色が暗く再現される。

 なぁ~んだと思えるくらい簡単です。しっかり写真④を見比べて確認してみてください。また、この連載の6回目に「色」の仕組みについて整理したことを思い出してもらえれば、より理解が深まるはずです。

写真⑤A~C
遠景における赤と青フィルターの効果
 画面中央部の遠景の描写を見比べてください。赤フィルターは赤光だけを透過するため、赤光の性質により遠景がシャープに描写されます。
A/赤フィルターを使用。
B/青フィルターを使用。
C/リバーサルフィルムで撮影。

 

赤い光の特徴を利用する。

 それからもう一つ覚えておいてもらいたいことがあります。風景写真や望遠レンズを使って遠景を撮影する際には、特に大切なことです。それは、赤い(長波長の)光は、空気によって散乱されにくいということです。赤い光は空気に邪魔されず真っ直ぐ進むことができます。このため、遠景を撮影する場合、赤い光だけを使って撮影することで、よりシャープな画像を得ることができます。風景写真や空中写真、航空写真をモノクロで撮影する場合には赤やオレンジのフィルターがたいへんよく使われます。

 逆に青い(短波長の)光は、空気によって強く散乱されます。このため、青フィルターをつけて撮影すると、遠景がなんとなくモヤがかかったように写ります。

 余談ですが、こうした光の性質は次のようなことともつながりがあります。例えば、空が青いのはなぜでしょうか? それは、地球に入射した光の内、紫~青光が空気によって多く散乱されるためです。また、夕焼けが赤いのはなぜでしょうか? それは、夕陽は地球に斜めに入射した光であり、この光は空気中をより長く通過するために青い光は散乱し続けて減少し、赤い光だけが届くようになるからです。

 面白いでしょ!

良く使われるモノクロ用色フィルター


①黄~橙~赤フィルター

 赤系のフィルターは、①被写体の青い部分(青空など)を暗く再現し、赤い部分を白く再現する、②遠景をシャープに描写するのが大きな特徴です。このため、モノクロの風景写真には大変よく使われます。その効果は赤フィルターが最大で、次に橙フィルター、黄フィルターの順です。黄フィルターは露出倍数も少ないために、モノクロ写真撮影時の常用フィルターとしても使えます。

 作例には橙フィルターを使用したものを示しました。黄フィルターはこれよりも弱い効果、赤フィルターはもう少し強い(写真⑥G参照)効果だと考えてください。

写真⑥A~C
橙フィルターの効果
 黄~橙~赤フィルターは、風景写真などで遠景をシャープに写したり、青空を暗く落とすなど、画面のコントラストを高めるためによく使われます。効果が大きいものから順に、赤>橙>黄となります。
A/リバーサルフィルムで撮影。 B/フィルターなしで撮影。 C/橙フィルターを使用して撮影。

 

②黄緑~緑フィルター

 人の目は、緑色を強く感じる性質を持っています。つまり、緑色は他の色に対して明るく見えるのです。このため、黄緑~緑フィルターを使用することで、より人の目の見え方に近いモノクロの描写を得ることができます。

 とりわけ、人物写真などで口紅の赤を際立たせたい場合、衣装のコントラストを目立たせたい場合などによく使われるようです。

写真⑦A~C
黄緑~緑フィルターの効果
 黄緑や緑のフィルターは人物を撮影する際に、肌や口紅を落ちついた感じで再現したり、衣装のコントラストを高くするために使用されます。効果の大きさは、緑>黄緑です。黄フィルターも弱い効果を得るために使われることがあります。
A/リバーサルフィルムで撮影。 B/フィルターなしで撮影。 C/緑フィルターを使用したもの。 

 

③注意しておくこと。

 モノクロ写真もカラーネガプリントと同じように、プリントする際に写真の濃度とコントラストを大幅に調整することができます(詳細は次回に整理します)。

 ですから、プリントだけを見て色フィルターの効果を正確に判断することは非常に難しいです。それが分かるのは、派手な色の被写体を、濃い色フィルターで撮影した時の場合くらいです。淡い色フィルターの効果は、直接比較してさえほとんどわかりません。

 モノクロ撮影時の色フィルターの効果を知るためには、標準反射板などを画面に写し込み、それを基準にしてプリントを作成してみるといいでしょう。

赤外フィルムを使う。


 国内のフィルムメーカーから唯一、赤外フィルムを一般販売しているのはコニカです。赤外フィルムなんて言われても何のことかさっぱり分からないかもしれませんが、ごく普通のカメラ(マニュアル機能付きに限る)で撮影することができます。

 赤外フィルムとは、目に見えない光である赤外線に感光するフィルムです。目に見えない光なんて想像もつきませんが、例えば赤外線コタツを思い出してください。赤外線コタツにもいろいろ種類がありますが、本当に真っ暗のままなのに暖かくなるタイプがあります。赤外線とはこの暖かさのモトである光のことです。別名は熱線などと呼ばれています。目には見えないけれど、肌では感じることのできる光なんです!変でしょう? でも、こういう光もあるのです。

「赤外効果」について。

  写真左 風景写真の赤外効果
 赤外フィルムを使って風景を撮影すると、青空が真っ黒になり、新緑が白く再現されます。
写真右 人物写真の赤外効果
 赤外フィルムを使って人物を撮影すると、肌が透き通ったように写ります。衣装などの色(赤外線の反射率で、見た目の色とは異なります)によっては、まったく予想もつかない再現になります。
 こうしたわけで、人の目に見えない光で撮影しているのですら、実際に目で見えているようには写りません。その違いを整理すると、①青空が真っ黒に写る、②新緑が白く写る、③遠景がシャープに写る、④肌が透き通ったように写るなどです。

 とにかく、目に見えない光で撮影しているのですから、想像のつかない写真の世界を楽しめます。また、学術的には航空写真などで植物のある場所を確定したり、植物の病気などを判定したりする際にも利用されているようです。

赤外フィルムの使い方

写真左上 コニカ赤外750
 国産で唯一の赤外フィルムです。750という数値は、このフィルムがよく感光する赤外線の波長(750ナノメートル)を示したものです。

写真右上 パッケージの裏側
 取り扱う際に必要な情報が簡単に示されています。難しいものではありませんが、よく読んでから使ってください。

写真左下 レンズに記された赤外用のピント補正位置
 この場合には、ファインダーで確認すると2メートルにピントが合っていますが、赤外フィルムを使用した場合には3メートルにピントが合っていることになります。注意してピントを補正しましょう。

写真右下 赤フィルターを必ず使う。
 赤外フィルムは赤外線だけでなく、青~緑光にも感光します。このため赤フィルターは必ず使用します。
 さて、その赤外フィルムの使い方を整理しましょう。普通に思う以上に簡単ですが、初めて使う場合には、晴天の明るい青空の下で撮影してみてください。もちろんいろいろなシーンで撮影することができますが、何せ人の目に見えない光で撮影するのですから、撮影条件(露出)のデータを自分で得る必要があります。

 まず、一番大切なことは、赤フィルターを使用するということです。赤外フィルムとはいっても、青~緑光に感光する性質も合わせ持っていますから、こうした光を除去する必要があるのです。もし赤フィルターを使用しないとすれば、普通のモノクロフィルムで撮影したのと変わらない写真になってしまいます(赤フィルターを使用しない場合の感度は、だいたいISO32です)。

 次に大切なこと。それはピントです。普通のカメラは人の目に見える青~赤光(可視光)でピントを合わせるように設計されています。ですが赤外線は赤光よりも屈折率が小さいために、ピント位置がズレるのです。単純に、ピンボケ(後ピン/合わせたい位置よりも後ろにピントが合う)になってしまいます。このため、レンズの距離目盛りなどに記された赤外マークに合わせなおす必要があります。しかし、風景写真の場合は、あまり神経質にならなくてもいいかと思います。

 最後に気になる露出値ですが、晴天の青空の下で撮影する場合には、F5.6、1/60秒が基準です。

 これ以外の場合には、赤フィルターを装着した状態でカメラ(一眼レフ)のISO感度をISO32にセットして測光した値を基準にするといいでしょう。ただ、これは経験的なものですので、必ず±2段程度の段階露出を行ってください。

 ストロボ撮影はだいたいこれでOK。夕焼けなどの写真写りが橙色になりがちな場合や電球などの熱をもつ光源の場合はマイナス方向に大幅に露出値を調整してください。また逆に、曇天や日陰といった写真写りが青っぽくなる場合や蛍光灯などあまり熱をもたない光源の場合には、プラス方向に大きく露出値を変化させてください。