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8.カラーネガフィルムを使う(Ⅱ)

カラープリントの色を考える。


 今回はカラープリントの色について整理します。前回紹介したように、プリント時の露出調整によって、カラープリントの濃さは自在に変化します。これと同じように、プリント時に色フィルターの操作を行うことで、カラープリントの色もまた自在に変わります。

 つまり、リバーサルフィルムのように撮影時に光源の色を考え、面倒なフィルター操作をしなくても、プリント時の調整で自由自在に写真の色を変化することができるのです。これがカラーネガプリント最大の特徴です。ですが、そうそう簡単でもないところに写真の、いや人生の醍醐味があったりします。
写真①A(ネガフィルム)


 まず、右のネガフィルム(写真①A)を見てください。

 パッと一目見ただけで、人物を写していることがわかります。人物ですから、肌は肌色をしているのは当然だというくらいは誰にでもわかるはずです。

 では、このネガフィルムからプリントした4枚の写真(B~E)を見比べてください。少しずつですが色調が異なっていることがわかるはずです。では、これらの4枚のどれが、もっとも被写体の色に忠実でしょうか? あるいは、撮影した私が本当に望んでいた色調はどれだと思いますか?

 もちろんですが、読者の皆さんは実物を見たこともありませんから、こういう具合に問われてもわかるはずがないですよね。また、撮影時の光源やフィルター操作などの条件もわかりませんから、どれが私が望んでいる色調なのかも、わかるはずがありません。

 ただ、どれが綺麗な肌色かと問われると、それぞれの人がそれぞれの思いで一枚を選ぶことができるはずです。

 大した問題じゃない、と言えばそれまでです。しかし、これら4枚の色調を比較すれば明らかに違うことはわかります。

 どうしたものでしょうか?
写真①色違いのプリントから最良のものを選ぶ
 同じネガAからプリントしたものですが、少しずつ色を調整したものです。お好みの「肌色」はどれでしょうか? どれも同じじゃないか、などとは言わず、じっくり見比べて一枚を選んでみてください。

 

カラープリントの難しさ。

 一般的にカラープリントの色はだいたい普通に目で見えているように仕上がってきます。しかし、実際にカラープリントと実物の色を直接見比べてみると、その違いにきっと驚くはずです。実物と全く同じ色は、全てのカラープリントには存在しません(!)。なんとなく似たような色か、まるでそっくりに見える色があるだけです。

 写真の色は実物そっくりだとなんとなく私たちは信じていますが、本当はそうではないのです。ぜひ、一度、実物と写真の色を直接比較してください。

 写真は3原色でできていますから、これら3原色に近い色(派手な色)は、わりあい簡単に再現することができます。しかし、これらの中間の色調(地味な色)を正しく再現するのは特に難しいのです。つまり、画面に写っている全ての色を正しく再現するのは、まず不可能です。以前、カラーネガフィルムには一般用と高品位タイプの2種類があることを紹介しましたが、高品位タイプのフィルムではこうした中間調の色再現が改善されているのが大きな特徴です。

 ただ、色再現が実物そっくりであれば綺麗な写真といえるかというと、そういうわけでもありません。実物とは異なる色であっても、写真として美しいと思えることがあります。だからといって、色など何でもいいというわけでもない。何が何だかわからない。

プリント時のフィルター操作

写真②(ネガフィルム)

 リバーサルフィルムでは、撮影時に色フィルターを使用することで、写真の色を変えることができました。これと同様に、カラーネガフィルムでは、プリントを作成する際に色フィルターを操作することで、プリントの色調を変化できます。もちろん、ネガフィルムですから、色の効果は逆(補色)になります。実際にカラープリントを自作する方は少ないと思いますので、詳細は無視します。また、撮影時のフィルター操作と同様に露出倍数がかかるのも同じですが、これは露出調整と同じですから、これも無視します。

 こうしたわけで、一枚のネガから、色フィルターを調整してできたプリントを写真②に示しました。どうですか? 一枚のネガから、さまざまな色調のプリントが作成できるのです。

 ちょっと意外でしょう?

写真②一枚のネガからできるさまざまな色調のカラープリント
 以前紹介した、二種類の三原色(Y/M/C・B/G/R)のフィルター操作を行い、カラープリントの色調を変化したものです。一枚のネガから、さまざまな色調のカラープリントができることを確認してください。それぞれの数値は、フィルターの色の濃さを示す目安です(実際のフィルター操作ではなく、プリントの色調で表示してあります)。
 このように、カラープリントの色は自在に調整できますから、望み通りのプリントを得るには、どのような色調に仕上げて欲しいかを明確に伝える必要があります。

 

標準的な色とヘンな色。

 さて、写真②のさまざまな色調の写真を見比べて、一番よいのはどれか? を考えてみてください。  当然ながら、というか、写真の並べ方からしても、中央部のSが一番いいように思えるかもしれません。しかし、これはもののたとえ。とりあえずこの色調を真ん中にしてみただけの話なんです。

 ですから、その一段回り+7を見比べてみると非常に些細な違いしかないにも関わらず、どれか好みに合う一枚があったりします。しかし、いつ、どこで、誰に見せるかによって、選ぶ一枚が違ってくるような気もします。また、逆に、「どれでもいいよね」って気分もあります。

 選ぶのに迷う。

 こうした迷いを「標準の迷い」と私は名付けています。

 それからもう一つ。周辺部の+30では、それぞれが個性的であって、ちょっと意外な路線として選んでもいいかな、とも思います。しかし、写真を見る人によっては、ヘンな色だとして嫌われるはずです。わかる人にしかわからない。そういったたぐいです。ただ、これら6枚のどの色調が最適かというと、これまた困る。もっと大幅に変化した色調や、これらの中間調の方がもっと良いかもしれない。迷います。

 私はこれを「個性の迷い」と呼んでいます。

現像する人の迷い。


 では、実際に実務的に現像をしている人が何をどのように考えて色を調整するのか? をここで考えてみましょう。あなた自身が現像を担当したつもりになっていっしょに考えてみてください。

 まず目の前に、誰が何を考えて撮影したか知れないネガがある。いくら現像のプロとはいっても、ネガを見ただけで、実物の色を確定することはできません。もし、非常に才能のある人がいて、ネガから実物の色を確実に把握できたとしても、写真を撮影した人の意図まではわからない。

 しかし、救いが一つあります。最近の現像機は非常に能力が高いのです。最近のカメラが非常に能力が高いのと同じです。ですから、単純にオートまかせでプリントすれば、だいたい標準的な仕上がりになります。何がどうなっているのかは、カメラと同じで皆目わからないのですが、なんとなくそんなものかなぁ、といった程度のカラープリントがオートまかせで仕上がります。すごいものです。

 そんなわけで、一枚のカラープリントが仕上がる。それが例えば、仮に写真②の+7Yだったとしてみましょう。いいじゃぁありませんか。これで。もちろん、もう一枚くらい別の可能性を試すことはできない話ではありませんが、それをやるのは面倒です。「やらないほうがいいね」。私なら必ず、こう考えるはずです。

 じゃぁ、例えばこれが、+30Mだったとしたらどうでしょう。これは、普通の人が見たら、ヘンな色だと思うに違いない。と、大抵の人が考えるでしょう。これではいけない。これをやっちゃぁお終いだ。と、私は考える。だから、最低限、+7クラスのプリントになるようにやりなおします。  かくして、どのようなネガからでも、おおむね標準的な仕上がりのカラープリントが仕上がることになるのです。

 本当は色の微妙さにこだわりたかったりしても、です。また、ヘンな色だって愉快だと思えたりしても、です。

 経済原則と、写真に対する一般常識がそうさせるのです。

写真③電球で撮影したネガから、正しい色を再現する
。  電球の照明で撮影すると橙色が強い写真に仕上がるのは、リバーサルフィルムと同じです。しかし、カラーネガフィルムでは、プリント時のフィルター調整で普通の色に補正することもできます。もちろん、少しだけ補正することもできます。

 

不満の理由と満足の理由。

 カラープリントの色調に満足できないと思った経験のある人は、相当、多いと思います。その理由を考えてみましょう。

 カラープリントに求める気持ち(色)のあり方は、人それぞれに違います。しかし、それを追い求めるには、手間・暇・金がかかるんです。もちろん、科学技術の発展により、それはかなり簡単にできるようになりました。しかし、科学技術だけでは決してたどり着けない場所というのがあります。そこが、人の気持ち(色)だと私は考えます。なぜなら、全ての人の感性が押し並べて標準的であってもらっては困るからです。

 結果的にこういうことがいえるんじゃないでしょうか?

 満足できる色調のカラープリントが得られたとしたら、それは相当に運がいいことである、と。それは決して、撮影した本人の技術が高いということでもなく、現像した人の技術が高いということでもありません。単純に、お互いの意志疎通が上手くいったというだけのことなんです。

 しかし、これが一等難しい。これはある種、「愛」が成就するのに近い。

 ですから、何度やり直してもらっても、満足できるカラープリントができない原因は、単純に、お互いの気持ちが通じ合っていない、ということでしかないと思うのです。

 普通の男女関係でもそうですが、滅多やたらと理想の愛に出会える人は、そう多くありません。いや、そういう人がいたとしても、それはそれで愛の深さが目減りするだけのことなんです。あらゆる芸術の起点である愛のあり方は、複雑怪奇です。一枚のカラープリントにさえ、その複雑怪奇が見え隠れしていたりします。

 日本語で、カラーのことを色っていいますよね。「色気」とか「色事」の色と同じ文字です。これって、カラープリントの醍醐味そのものだという気がしませんか?  もちろんですが、写真は写真です。ですから、全部自分で操作すれば、満足のいくカラープリントを得る確率はさらに高くなるはずです。

 えっ? 一人でやるのも「色事」ですって? ううむ。(笑)
写真④蛍光灯で撮影したネガから、正しい色を再現する。  蛍光灯で撮影すると、緑色の強い写真になります。カラーネガフィルムでは、プリント時にフィルター操作を行うことで、これを補正することができます。蛍光灯で撮影したネガであることと、どの程度補正するかを指定しましょう。

 

それでもやはり満足を得たい!


写真⑤ミニラボでも見かけることのできる引伸機兼現像機です。35ミリフィルム専用で、トリミングなどもあまり自由がききませんが、90パーセント以上の確率でほぼ満足のいくサービスサイズのカラープリントができるそうです。「手焼きプリント」は、トリミングなども自在に変更できる引伸機で露光し、現像機で処理します。
 なんか、話が違っています。カラープリントの話です。これは。

 とにかく、いい色のカラープリントが欲しいのです。ですが、いい色といっても、それこそいろいろあるわけです。

 困りましたね。

 ですから、ここまで来て始めて「私」なり「あなた」が登場してこなければならないのです。「私」はどの色調をいいと思うのか?「あなた」はどの色調を美しいと感じるのか? ということです。

 写真的に良い色とか、誰が見ても綺麗な色など、あり得ません。「私」や「あなた」が綺麗だと思う写真の色があるだけなのです。ですから、こればかりは、お互いに自分の能味噌の中で考えるしかない。しかし、なんとなくでもそれが把握できたとしたら、それを現像所の人に正しく伝えなければなりません。自分は、もっと青いのがいい、もっと赤いのがいいってな具合です。ただ、忘れないで欲しいのは、ある色を強くすれば、その補色は弱くなるということだけです。

 ありゃりゃ。これまた、人の感情のあり方そのものだと思いませんか?
「手焼きプリント」について。

写真⑥ネガフィルムをセットしているところ。セットした後の作業は、ほとんどが自動的に行われます。
写真⑦主にプリント枚数をセットするキーボード。コマごとに枚数をセットすると後は自動的に処理されます。
写真⑧色や濃度を調整するキーボード。このボタン操作でプリントの色調や濃度を自在に調整できます。
 単純にいうと、安価なカラープリントも高価な「手焼きプリント」も、機械で現像処理されます。ですから字義上、「手焼き」は不自然です。煎餅を手焼きしているのとはぜんぜんワケが違いますから。

 じゃあ、何を「手」でやっているのかっていうと、機械のボタン操作を担当者の「手」で行っているという意味です。もちろん、どのように手を動かすかは、担当者の「能味噌=目」の問題です。

 つまり、担当者の人格が反映されているプリントを「手焼きプリント」というのです。

 金銭に替えることのできない「人格」が、一枚のプリントに反映されている。だから、「手焼きプリント」はとても高価なのです。同じようなカラープリントでも、価格が大幅に違う理由はここにあります。

  (プリント制作・取材協力/アロマカラー)