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4.リバーサルフィルムを使う(Ⅱ) 光を考える

 日常生活で「光」について考えることはほとんどないといっていいでしょう。普通、人は「光」について考えるのではなく、光によって見える「対象」について考えるものだからです。しかし、写真は「光」によって写るものです。ですから、「光」の性質を学ぶことは、写真の仕組みそのものを理解したり、写真による表現の幅を広げることにもつながります。

 今回は一般的な光源である、太陽、ストロボ、電球、蛍光灯の「光」の性質を整理するとともに、写真表現への応用方法のいくつかを紹介します。

 リバーサルフィルムは人の目の見え方にできるだけ近く写るように設計されています。事実、太陽光で普通に撮影したリバーサルフィルムは、実物を目で見ているように写っています。

 しかし、ストロボで撮影したり、室内の光だけで撮影した場合、実際に目で見えていたような感じに写らないことをよく経験するはずです。ストロボの場合には、実物と同じような色あいに写りますが、なんとなく実際に見ているのとはニュアンスが違います。また、電球や蛍光灯の光で撮影すると実際に見ているような光の感じではありますが、色あいが全く見た目と違って写ります。不思議ですよね。

太陽光が写真の基本。


  写真①パトローネのDATLIGHT表示。一般的なカラーフィルムは全てこのタイプである。

 

 ここで、リバーサルフィルムのパッケージやパトローネを良く観察してみてください。小さな文字で、DAYLIGHT(デーライト)と記されています。英和辞典でこの文字を引くと、日光、昼間と出ています。また、写真用語として、DAYLIGHT TYPE(デーライトタイプ)は昼光用のカラーフィルムとなっています。

 つまり、これは昼光(昼間の太陽光)専用のフィルムなのです。ですからこれ以外の光源で撮影した場合には、上手く撮影できないことがあるのです。

  写真②昼光(晴天順光)での撮影例(森羅)。実物を見ているのと変わらない色あいで撮影できる。同じ太陽光でも、日陰や曇り空では少し青みがかって写り、夕方ではやや赤みが強く写る。こうした色の偏りを補正するには専用のフィルターを使用すればよい。もちろん、日陰や夕方の雰囲気を重視するなら、補正の必要はない。(森羅、1/250秒・F8)

 

ストロボは一瞬の光。

 太陽光以外によく使われる光源にストロボがあります。ピカッと一瞬だけ光り手軽に間違いのない写真が撮影できるため、今ではレンズ付きフィルムにまで使用されています。

 このストロボの光とはどういうものかというと、太陽光と同じ色あいの白色光ですが、数千分の一秒という非常に短い時間だけ、非常に強い光を発するものです。カメラ内蔵の小さなストロボでさえ、近くで直接この光を見たなら、しばらく目が見えなくなってしまうほどです。

 つまり、写真撮影に便利なことは確かなのですが、光の当たり方などを把握できにくいところに難しさがあります。

  写真③ストロボ(GN36)での撮影例。小型でも光量は十分あり、オート機能も発達しているため、非常に簡単に使える光源である。また、実物と変わらない色あいで写るのも大きな特徴。ただ、一瞬だけ光るために、何がどのように写っているのか判断がつきにくい。つまり、簡単に使えるけれども、上手く使うのはとても難しいものだと思ってもらいたい。(森羅、1/125秒・F8)

 

「偏光」という不思議な性質。


 釣りを趣味でやっている人なら、偏光眼鏡というものをご存じかもしれません。パッと見た目はサングラスなのですが、ただの眼鏡ではありません。不思議なことにこの眼鏡をかけて水面を見ると、水面の反射が面白いように消え、魚の姿がよりくっきり見えるのです。ですから、偏光眼鏡をかけるだけで誰でも太公望になれる、わけはありませんが、まあ、そんなものです。

 写真のフィルターにも、これと同じ素材を用いた偏光フィルターというのがあります。偏光を英語でいうとポラロイド(会社の名前にもなってますね)ですから、これを略してPLフィルターということもあります。

  写真④偏向フィルターの例。ただのグレーのガラスに見えるが、そうではない。レンズに装着して、回転枠を回して使う。露出が1~2段程度余分に必要なので、カメラブレなどに注意する。AF機能のついたカメラでは一般的な偏向フィルターが使えない場合がある。この場合には円偏向フィルターと呼ばれるタイプを使用する。

 

 この偏光フィルターは偏光眼鏡と同じように、水面やガラスの反射を消す目的で使用されます。作例を見てもらえば、その効果に驚くはずです。が、ちょっと待ってください。作例の違いは、偏光フィルターを用いたものと、用いないものではありません。実は、両方共に偏光フィルターを使っているんです。何が違うかというと、偏光フィルターを装着してはいるのですが、その向きを90度だけ回転しているのです。それでこういう違いがでる。もちろん、偏光フィルターの効果のないものは、普通に撮影したのと同じです。

不思議だと思いませんか?

  写真⑤ガラス越しに撮影したもの。偏向フィルターを用いないで撮影したり、偏向フィルターの向きが悪いとこのように写る。(森羅、1/8秒・F5.6)

 写真⑥偏向フィルターを回転し、ガラス面の反射が最も少なくなった位置で撮影したもの。反射が完全に消えたわけではないが、ほとんど気にならない。(森羅、1/8秒・F5.6)

 

 
風景写真にも応用される「偏光」。

 なんだ、反射を消すだけのフィルターなんて大した使い道がないじゃないか! などとお思いになる人もいるでしょう。が、偏光という光の性質は、反射を消す以外にも使い道があります。

  写真⑦青空を撮影したもの。偏向フィルターの効果が現れていない状態。(森羅、1/60秒・F5.6)

 写真⑧偏向フィルターで青空を暗くしたもの。人物やコートの濃さは⑦と同じであるが、青空がずいぶん濃い青になり、人物が引き立つように写っている。(森羅、1/60秒・F5.6)

 

 雄大な山脈や、青い空青い海といった風景写真で、空が本当に青く、よくよく見ると不自然なほど暗く写っている写真をご覧になったことがあると思います。実はこうした写真にも偏光フィルターが使われているのです。

 なぜって? 青空から発せられている光も、水面やガラスで反射した光と同じように偏光しているからなんです。もちろん、偏光フィルターの向きを回転することで、空の青さをより強調したり普通にしたりすることができます。

 ますます不思議ではありませんか?

偏光って何?

 では、こうした現象はなぜ起こるのでしょうか? 単純にいうなら、水面やガラスで反射した光や青空の光が目に見えない変化を起こしているからです。少し正確にいうと、光の振動の向きが偏っているのです。そして偏光フィルターは極めて微細なスダレのような作りになっていて、特定の向きに振動している光だけを通過させるのです。

 なんだかよくわからないかもしれませんが、実際に偏光フィルターを手に持ち、それを目の前やカメラのレンズに装着して、くるくる回しながらいろいろいな対象を見てみるだけでも十分に楽しめます。

 一眼レフカメラでは、だいたいファインダーを覗いているとおりに写真に写りますから、偏光フィルターをくるくる回して一番よいなぁと思ったところで撮影すればいいのです。

 ただ、どのような反射や青空でもうまく効果がでるかというと、必ずしもそういうわけではありません。

 水面やガラスの反射の場合には、できるだけ斜め方向から撮影するようにすると、反射がよく消えます。正面からだと、ほとんど効果がありません。また、強い反射では、期待するほど効果がでないこともあります。

 青空の場合には、太陽に対して直角方向の空を写す場合が最も効果が大きく、逆光や順光では効果はほとんどありません。また、空気が綺麗なところほど大きな効果が得られるようです。 フィルターは科学的な光の魔法。

 偏光フィルター以外にも、写真用のフィルターにはさまざまなタイプがあります。プリズムを使って画像を二重三重に写すもの、光の拡散を利用してソフトフォーカスにしたり光条を入れたりするもの、簡単なレンズのようなフィルターでより拡大して写せるもの、写真に色を付け加えたりするものなどなど、とにかく多彩です。しかし、これらは全て、光の科学的な性質を利用したものです。

謎めいてはいますが、理解不能なものではありません。興味のある方は、それぞれのフィルターの仕組みを科学的に理解してみるとよいでしょう。応用の幅がもっと広がるはずです。

目に見える光で撮影してみよう。


  写真⑨一般的な蛍光灯(白色)の例。

 

  写真⑩トルーライト(コニカ販売)。  蛍光灯には白色、昼光色、三波長型などといったさまざまなタイプがある。関東は白色、関西は昼光色が多いといわれるが、どうだろうか? それぞれ色あいに少し違いがあるが、だいたい緑色が強く写る傾向がある。これら以外にも太陽光と同じような色あいで撮影できるトルーライトと呼ばれる蛍光灯もある。かなり高価な蛍光灯だけど、健康にも良いという話もあるので利用してみてはいかが?

 

 家庭でも身近な人工光に、電球や蛍光灯があります。これらも太陽光と同様に目で見える光ですから、写真に撮影することができます。

 ただ問題は光量が少ないことと、色あいが変に写ることです。ですから、室内や夜間の人工光だけで撮影する人は意外に少ないのではないでしょうか?

 しかし、作例を見てください。それぞれ電球と蛍光灯の光だけで撮影したものです。光量が十分でないためシャッタースピードが遅くなりブレていますし、色あいも普通ではありません。電球による照明では全体的に橙色に偏っていますし、蛍光灯では緑色が強くなってしまってます。

 それでも、それぞれを一枚の写真として見たとき、ブレや色あいの偏りが、逆に現場の雰囲気を表しているようにも見えないでしょうか? 

 もちろん、ブレがあるのは失敗とか、色合いは正しく再現しないとダメといった発想で見るなら、どちらも大失敗です。しかし、全ての写真がカタログ写真のようでなければならないわけではありません。いや、それどころか、ブレや色あいの偏りこそに、写真表現の多様性が隠されていると思うのです。

  写真⑪電球(300ワット電球を壁にバウンス)で照明した例。電球による橙色の発色は、温かみがあって違和感は感じない。雑誌などのポートレート撮影などでも多用されている。(森羅、1/15秒・F5.6)

 

  写真⑫蛍光灯(白色/40ワット×4本/天井付け)で照明した例。緑色が不自然といえばそうだが、露出オーバーで撮影してみると、案外感じがよい。ブレもひどいけれど、1/2秒というシャッタースピードを考えれば諦めもつくというもの。(森羅、1/2秒・F4)

 

 例えば、これら二つの作例を撮影した条件でカメラ内蔵のストロボを発光したとしてみましょう。露出は標準的でブレもなく、色あいも正しく再現された写真になるでしょう。しかし、それでは現場の明るさや照明の雰囲気の感じが全くなくなってしまうはずです。

非現実的な写真写りを楽しもう。


  写真⑬森羅のパッケージの裏にある使用説明書。電球、蛍光灯(白色、昼光色、三波長型)それぞれの補正フィルター番号が記されている。これ以外にも、細かな情報が記載されているのでしっかり読んでおきたい。

 

 こうしたわけですから、とにかくストロボを使わずに、自然に目に見える光だけで撮影してみることをおすすめしたいのです。露出が外れたり、ブレたり、色あいが変に写ったりするかもしれません。しかし、こうしたいわゆる失敗を表現効果として見るなら、写真はとても豊かな表情を見せてくれるはずです。

 写真のイメージに、この世とは全く違う別世界を見ることさえ可能だったりします。写真家の仕事とは、事実をありのままに写すことでもありますが、それとは逆に別世界を夢見させるような写真を撮影することもあるのです。こうした予想のつかない写真の楽しさを、皆さんにも体験してもらいたいと思います。

段階露出がポイント。

 さて、電球や蛍光灯などといった人工光では色あいが偏るために、仕上がる写真の感じがうまく把握できにくいのも事実です。ですが、単純に露出さえ適当であれば、必ず見栄えのする写真になります。ここでいう適当な露出というのは、通常の露出でいうなら極端な露出オーバーに相当することが多いでしょう。とりわけ人工光で照明された夜景や室内の撮影では、相当な露出オーバーでも綺麗な写真に見えることが多いものです。

 とにかくは仕上がりの予想がつきにくいですから、段階露出(オートブランケット)を心掛けてください。カメラや露出計の示す標準値から+方向に1~3段分、できるだけ大まかに段階露出をかけて撮影してみるとよいでしょう。

 このように、少しだけ手間をかけて撮影しておくだけで、仕上がってきた写真に今まで見たこともないようなイメージを発見することができるはずです。

ライティングを体験してみよう。

 電球や蛍光灯は少し特殊な光源と思われるかもしれませんが、ストロボと違って目で観察することができますし、また太陽と違って自在に位置を調整することができます。つまり、被写体がもっとも綺麗に見えるようなライティングが簡単にできる特徴があります。

 ライティングなどというと、なんだかそれだけで難しいような気がするかもしれませんが、もし、手元に卓上ランプなどがありましたら、机の上に時計や花などを置いて、それで照明してみてください。片目を閉じ、卓上ランプの位置を上にしたり横にしたり、遠ざけたり近づけたりしてみてください。

 同じ一つの時計や花が、さまざまな表情を見せてくれることがわかるはずです。どの位置がもっともよいか? は皆さんが自分で決めればよいのです。ライティングはこうでなければならない、といった普遍的なルールはありません。ファインダーごしに被写体を見て、綺麗だなぁ、と思える位置にすればよいのです。

電球や蛍光灯で正しい色を出す。

 写真⑭電球で撮影すると、橙色が強くなるため、(森羅、1/15秒・F5.6)

 写真⑮橙色の補色である、青系のフィルターを使用すると、

 写真⑯ほぼ正しい色が再現される。(森羅、1/15秒・F2.8)

 

 写真⑯蛍光灯で撮影すると、緑色が強くなるため、(森羅、1/2秒・F4)

 写真⑰緑の補色である、マゼンダ~赤系のフィルターを使用すると、

 写真⑱ほぼ正しい色が再現される。(森羅、1/2秒・F2.8)

 

 さて、こうしてせっかく自分でライティングしたなら、ちゃんとした正しい色あいの写真を撮影してみたくもなるでしょう。このための方法を最後に整理してみましょう。難しいようですが、実は簡単です。

 色眼鏡をご存じでしょう。赤や緑のサングラス。こうした色のついた眼鏡をかけると世界に色がついて見えます。写真でいうと、色フィルターになります。

 それからもう一つ。補色というのを聞いたことがあると思います。ある色の反対の色のことで、これらを混ぜ合わせると無彩色になるというものです。

 要するに、色あいが偏って写る光源の場合には、その色の補色のフィルターをつけて撮影すればよいだけなのです。単純でしょう?

 もちろん、厳密に正しく補正するのは厄介ですが、実用的には使用説明書に記されている番号のフィルターや、用品メーカーから販売されいる色補正用のフィルターを用いるだけでOKです。補色についての詳しい説明はカラーネガプリントの項で詳しく説明するつもりです。