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3.リバーサルフィルムを使う(Ⅰ) 露出を考える

 意識的に写真を撮影しようと思い立った時、まず始めに頭を悩ませるのが「露出」だろうと思います。単純に言えば、写真が明るいか暗いかだけの違いなんですが、たったこれだけでも、写真の見え方が決定的に違ったりします。それ以前に、黒いものが白っぽく写っていたり、白いものがグレーに写ってしまったという失敗経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?

 リバーサルフィルムでは、撮影時の露出の調整が結果に素直に反映されます。ですから、こうした露出について学ぶにはもってこいなのです。

露出をあらためて考える

 カメラは、撮影する人が写真について何も知らなくても、きれいな写真を撮影できるように発達してきました。とりわけ「露出」の自動化には目を見張る発展がありました。最新のカメラなら、DXコードがあるためにフィルムの感度をカメラにセットする必要もありませんし、絞りやシャッタースピードを直接調整することさえ必要ありません。もちろん、それでもそこそこ満足のいく結果を得られます。運がよければ、相当満足できる写真を撮影することもできるでしょう。

 しかし、全ての写真の善し悪しは機械が判定するのではなく、人が見て判断するのです。機械的に正しい結果の写真でも、人が見ると良くないと思えたりします。ここに、「露出」の難しさがあるといっていいでしょう。結局、カメラや露出計といった機械がどんなに完成度の高いものであろうと、それらに任せるだけでは、どうしようもないことがあるのです。ですから、よりよい露出の写真を得たいならば、人間的な補正が必ず必要なのです。

 さて、この人間的な補正とは何なのかを整理する前に、いったい露出を調整するとは何なのか、をしっかり理解することから始めたいと思います。

「絞り」と「シャッタースピード」

 カメラでは、フィルムに当たる光量を調整するために二つの方法があります。一つは、レンズの中にある「絞り」を調整する方法。もう一つは「シャッタースピード」を調整する方法です。

 絞りとはレンズに開いている穴のことで、開ければ開けるだけレンズを通過する光量が多くなります(水道の蛇口といっしょです)。カメラでは、この穴の大きさを示す数値にF値というものを使います。F値は大きければ大きい程、穴が小さくなり、通過する光の量は小さくなります。勘違いしやすいので注意してください。


 この数値は通常、1、1.4、2、2.8、4、5.6、8、11、16・・・という具合になっています。
 ややこしい数値ですが、数を一段増やす(絞る)ごとに、レンズの穴の面積が半分になり、通過する光量も半分になるようになっています。逆に、数を一段少なくする(開ける)ごとに、通過する光の量は倍になります。

 シャッタースピードとは、シャッター幕を開けてから閉じるまでの時間のことで、1、1/2、1/4・・・1/15、1/30・・・1/500、1/1000秒となっています。これは数値そのままで、シャッタースピードを一段遅くすればフィルムに届く光量が倍になり、逆にシャッタースピードを一段速くすればフィルムに届く光量が半分になります。

 つまり、絞りを一段操作するのと、シャッタースピードを一段操作するのとでは、露出に関しては同じ効果を得られるわけです。両方を逆方向に同じ段数だけ操作することで、露出を変えずに同じ明るさの写真を撮影することができます。こうした操作をすることで、被写界深度やブレの量を調整することができます。ですが、露出とはとにかく、写真の明るさや暗さを調整することだと思ってください。









露出を調整するには?

 さて、露出を調整するには、絞りかシャッタースピードのいずれかを変化すればよいことがわかりました。実際、マニュアルカメラでは、これらを人が直接操作することで露出を調整します。しかし、現在お手持ちのカメラは、たいてい自動露出(AE)のはずです。こうしたカメラで露出を補正するには、露出補正ダイヤルや露出補正ボタンを操作します。露出補正機能のないカメラでは、フィルム感度の設定をずらせば調整できます。


 ここで、EV値というものを整理しておきましょう。EV値(エクスポージャー・バリュー)というのは目新しい言葉ですが、「段」と読み替えるだけでいいです。

 例えば、+1EVとは、絞りを一段開けるか、あるいはシャッタースピードを一段遅くして、フィルムに届く光量を倍にすることを意味します。露出補正ダイアルやボタンがあるカメラなら+1に合わせればOKです。露出補正機能がないカメラでは、フィルム感度を半分にセットします。例えば、ISO100のフィルムならISO50に合わせて撮影します。

 +方向に露出を調整すると写真は明るくなり、-方向に露出を調整すると写真は暗くなります。この方向を、しっかり頭にたたき込んでおいてください。

【写真画像の白と黒の差は5EV!】

 ここに、標準的な露出値(S)を基準にして、±3EV分だけ1EV毎に変化して(段階露出という)撮影したフィルムを用意しました。左は標準反射板を下地にしてカラーパッチとグレースケールを写したもの、右はグレーの背景で人物を撮影したものです。

 まず、話を単純にするために、標準反射板のグレーに注目してください。Sを基準にして、+方向の調整を行ったものはこのグレーが白っぽく再現され、逆に-方向の調整を行ったものは黒っぽく再現されることがわかります。面白いのは、+2EVと+3EVの白さにはほとんど違いがなく、また-2EVと-3EVの黒さも違いがないということです。つまり、これらがフィルム上に再現される白と黒の限界というわけなのです。

 つまり、こういう具合に覚えてください。

 フィルムに再現される白から黒までの階調の差は、+2.5~-2.5EVであり、総計すると5EVである。 厳密にいうなら、+3EVの白や-3EVの黒にもまだ階調がありますが、これについてはとりあえず無視して構いません。とにかく、大雑把に全体像を把握するのが肝心です。

カメラの自動露出とは?

 冒頭に、カメラの自動露出は、格段の進歩を遂げたということをお話しました。しかしながら、それでもカメラの自動露出には宿命ともいえるデメリットがあります。これは、おそらく永遠の課題でしょう。

 それは何か? というと、カメラは現場が明るい状態にあるのか、被写体が白い物なのかを区別できないのです。なぜかというと、カメラの露出計は被写体が反射している光量を測定しているに過ぎないからです。これは、原理的には人の目と同じですが、人には現場の状況と物の白黒を区別する能力があります。カメラにはこれがない。ここに、露出に関する多くの問題が潜んでいます。

 では、自動露出カメラは何を行っているかというと、画面全体がとにかく標準反射板のグレーに仕上がるように調整を行っているに過ぎません。このため、画面全体が白っぽい被写体の場合には露出アンダーになり、画面全体が黒っぽい被写体の場合には露出オーバーになります。

 もちろん、一般的な被写体には、黒いものや白いものが混在していますから、だいたいは自動露出でよい結果が得られます。しかし、どのような状況や被写体でもよい結果になるとは限らないのです。とりわけ、画面全体が白かったり黒かったりする場合には要注意と思ってください。

【画面の白さ黒さをよく見ること】

 では、真っ白な被写体や真っ黒な被写体を撮影する時にはどのようにすればよいのでしょうか?

 単純ですよね。真っ白な被写体を撮影する場合には、露出アンダーになりますから、+方向の補正を行えばいいわけです。逆に真っ黒な被写体を撮影する場合には、-方向の補正を行えばいいのです。どの程度補正するか?

 というと、フィルムに写る白黒の範囲は±2.5EVですから、せいぜい±2EVまでと考えていいです。ですから、被写体が真っ白なら+2EV、真っ黒なら-2EVの補正を行うわけです。やや白いかなと思えば+1EV、やや黒いかなと思えば-1EVの補正をします。これでOK。ただし、画面の中に太陽などの光源が入っていたりする場合にはもっと補正が必要なこともあります。

 とにかく、次のように考えてください。

 仕上げたい写真の画面は、全体的に真っ白だろうか? それとも真っ黒だろうか? と。
 画面を真っ白にしたいなら+2EV、少し白くしたいなら+1EVの補正をします。
 逆に、真っ黒にしたいなら-2EV、少し黒くしたいなら-1EVの補正をすればよいのです。


意図的な露出表現

 ここまでは、実際に見えているように写すための標準的な露出補正について考えたわけですが、もう一歩進んで、写真写りの白さ黒さを表現効果として利用することを考えてみたいと思います。

 どういうことかというと、見えている以上に写真を白っぽくしたり、黒くしたりすることによって、撮影時の気分みたいなものを表現することができるということです。露出という見地ではあまり気にして見ることはないかもしれませんが、多くの雑誌の表紙を飾る女性ポートレートはだいたい+1~+2EV程度の露出オーバーで撮影されています。露出オーバーにすることによって、肌も白く写ります。これは多くの女性や男性の望むところでしょう。つまり、露出オーバーで撮影した結果の方が、より多くの人々の理想化した女性像に近くなるわけなんです。

 もちろん、逆に露出アンダーにして画面全体を黒くすることで、重厚感や暗い気分を演出したりすることもできます。

 いや、これは現実(リアル)≒写真でないという意見もあるでしょうが、写真は本質的に現実そのものではないのですから、躊躇する必要は全くありません。写真の白さ黒さ、つまり露出を調整することによって、写真の見え方が随分変わることをもっと積極的に利用してみましょう。

【白い写真と黒い写真、お望みは?】

 カメラの自動露出で撮影すると、画面全体の濃さが標準反射板の濃さに仕上がります。ですから、被写体が白くもなく黒くもない、中間のグレーのような濃さならば、問題なく標準的な明るさの写真になります。これはこれで良い結果ということができます。

 ですから、これをわざわざ+方向に露出補正すると、実際に見ている以上に白っぽく写ります。逆に-方向に露出補正すると、実際に見ている以上に黒っぽく写ります。こうして撮影したものを写真5に示しました。

 考えようによっては、わざわざ露出ミスをおかしているようなものです。ですが、どうでしょうか? 被写体の感じと画面の白さ黒さが、なんとなくマッチしているように見えませんか? ちょっとこじつけたような気がするかもしれませんが、それでも言いたいことはわかってもらえると思います。

 露出は単純に写真の明るさや暗さを調整するものですが、実をいうと気分的な明るさや暗さを表現することもできるのです。もちろんこれは、写真を見る人の主観に訴えるものであって、あくまで客観的にいうなら露出ミスということになるでしょう。しかし、こうした露出の性質を上手く利用しない手はないと思うのです。標準的な露出ばかりが正しいわけではありません。

写真の驚き

 露出が難しいという根源には、一枚の写真は必ず一つの露出値でしか撮影できないことがあります。標準的な露出値と露出補正したものを、一枚の写真に撮影しておくことはできません。だから、難しい。いや、難しいのではなくて、ちょっと面倒なだけ、そしてちょっとフィルムがもったいないだけなのです。なんたって、露出補正が不安なら、標準的な露出の一枚と、露出補正したもう一枚の写真を撮影しておきさえすればいいのですから。

 実際、プロの場合には+1~-1EV、あるいは+2~-2EVといった露出違いの写真を必ずといっていいほど撮影します。そして、仕上がってきた写真を見比べて選んでいるのです。ですから、必ず良い露出のものだけが撮影できているように見えるのです。

 しかし実をいうと、正しいと思っていたはずの露出値とは違う露出で撮影したほうが良い結果になっていたり、面白いイメージになっていたりすることも多かったりします。これは撮影結果を見て初めてわかることなんです。

 仕上がってきた写真が予想よりも白かったり黒かったりしても、それが失敗だとは思わずに、そのイメージから別の何かを発見してもらいたいと思います。そうすれば写真がもっと楽しくなるはずです。