写真の技術というと、どうしてもカメラの使い方を考えてしまうのですが、こうした視点を少しずらしてフィルムの使い方といったところから写真の技術を学んでいきたいと思います。
面白いことに、フィルムの仕組みや性質を学ぶことで、露出やフィルター操作といったカメラの使い方、あるいは光の性質などについても、さらに理解が深まるのです。今回は、35ミリフィルムの基礎的な使い方と現像について整理します。
子供に「どうして写真は写るの?」なんて聞かれると、「それはね、お日様の光をコウノトリがフィルムに運んでくるからなんだよ」などと、なんとなくお茶を濁したい気分になるものです。とりわけ現像処理となると、何をどうやっているのかさっぱり見えないために、なんとなく魔法でもかけているような感じがします。
しかし、実際には写真というのはまったくもって科学的なシロモノです。フィルムは最新のハイテクノロジーの結晶のようなものですし、また現像処理というのは理科の実験のようなものです。呪術でも魔術でもありません。まず、このことをしっかり理解しておきたいものです。
35ミリフィルムの作り
まず、普通に使っている35ミリフィルムの中身がどうなっているか、をちょっと見てみましょう。写真1〜3がフィルムを分解していく様子です。もちろんですが、こんなことをすると、フィルムに光が当たってしまって使い物にならなくなります。が、実際にフィルムは目に見え触れるものだということがわかります。また、金属ケース(パトローネといいます)の中に、フィルムがくるくる巻きになっていることもわかります。
このフィルムには裏と表があります。くるくる巻きの外側は艶がありやや黒い感じに見え、内側は艶がなく茶色っぽい色になっています。この外側をベース面といい、内側を乳剤面といいます。光が当たることによって画像を記録するのは内側の乳剤面で、カメラに装填すると必ずこの面がレンズに向かうようになります。
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| 写真1/栓抜き(一般のもの)でパトローネの蓋を開ける。 | 写真2/中身を取り出す。 | 写真3/長いフィルムがくるくる巻きになっている。 |
フィルムは生モノです
フィルムのパッケージをよく見てみると、有効期限が書かれています。これは、一般的な保管条件で綺麗に撮影できる期限を意味します。もちろん、この期限を一日でも過ぎれば画像が写らなくなるというのではありません。また、保管条件が悪ければ、この期限よりも前でも画質が低下することもあります。このあたりの考え方はインスタント食品と同じです。画質(味)は、じわじわとゆっくり悪くなっていきますが、1年以上は持ちます。しかし、保管条件が悪ければ、画質(味)の劣化が早くなります。
もちろん最近のフィルムは、こうした保存能力にもたいへん優れていますから、あまり神経質になる必要はありません。ですが、とりわけ、次の二点には注意して下さい。
まず、高温になりすぎる場所での保管はさけること。特に、真夏の車の中などに置いておくと、数カ月で画質が大幅に悪くなります。直射日光が当たっているような店頭で販売されているフィルムも要注意でしょう。
そしてもう一つ。森羅やインプレッサなど、超高画質用のフィルムの保管には特に注意を払うことです。1か月以上使わないなら、必ず冷蔵庫で保管するようにしたいものです。
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写真4/フィルムの有効期限の表示この場合、1998年5月までとなっている。フィルム購入時にも注意したい。下の数字(505006)は乳剤番号と呼ばれるもので、同一番号のフィルムは乳剤の特性が完全に同じである。また、万一、フィルムにトラブルがあった場合の原因追求にも役に立つ。 |
巻き込んでしまったフィルムを取り出すには?
フィルムピッカー(標準小売価格2200円)と呼ばれる道具を使えば、簡単にフィルムの先端を引き出すことができます。ほんの少しだけコツがいるけれども、使い方は極めて簡単。カメラバッグに忍ばせておけば、いざという時に役に立ちます。また、途中まで使ったフィルムをいったんカメラから取り出して、後で残りを使うなんて、ちょっと貧乏くさいこともできます。
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| フィルムピッカーを使って、フィルムの先端を取り出す。 | ||
3種類のフィルム
写真フィルムを大きく分けると、白黒フィルムとカラーネガフィルム、そしてリバーサルフィルムの三種類になります。それぞれの特徴を整理します。
白黒フィルム
最近、白黒フィルムの入ったレンズ付きフィルムが人気を呼んで、若い人の間でも再び白黒写真が注目を浴びています。
現像を終えたフィルムには白黒が反対に写っています。反対、つまりネガティブですから、ネガフィルムと呼びます。これはフィルムに光が当たった部分だけが、現像によって黒くなる性質をもっているためです。もちろん、このままでは何がどのように写っているのかよくわかりませんから、このフィルムと同じネガティブな性質をもつ印画紙にプリントすることで、ちゃんとした白黒プリントになるわけです。マイナスのマイナスがプラスになる勘定です。
カラーネガフィルム
最も一般的に使われているフィルムで、1時間処理や0円プリントなどもお馴染みでしょう。
白黒フィルムと同じネガフィルムで、白黒は反対に、色は補色になります。ですから、これを再びネガティブな性質を持つカラー印画紙にプリントすることで、綺麗なカラープリントが得られる仕組みです。なんとなく面倒な手続きを踏んでいるように思いますが、カラープリント時の操作によって、写真の明るさや暗さ、色調などを調整できるのが大きなメリットです。極端に言えば、撮影をいい加減にやっても、ちゃんとしたカラープリントが得られます。
しかし、こうしたメリットは逆に、意識的にフィルターを使ったり露出を調整したりする「写真表現」にとっては不都合なことにもなります。なぜかというと、一般的な機械処理のプリントでは、なんでもかんでも標準的な仕上がりになってしまうからです。また、画面全体が特定の色に偏っている場合などには、思いどおりの色が再現できにくいこともあります。
単純に言って、プリント作業というのは撮影と同じです。絞りや露光時間によって露出(写真の明るさ)を調整し、フィルターによって色調整を行っているにすぎません。しかも、現像所の人は被写体を見たこともないのです。ですから、ネガフィルムだけを見て、被写体の正しい色調や撮影した人の意図を再現するのは、まあ無理難題といっていいでしょう。綺麗なプリントが得られなかった経験のある人も多いでしょうが、こういうところにも原因があることを理解してください。
リバーサルフィルム
スライド上映や印刷原稿などとしてよく使われるフィルムで、被写体の明るさや色がそのままフィルム上に再現されます。一般に使うのが難しいとされ、敬遠されがちなフィルムですが、写真で何かを表現したいとか、写真を勉強したいという人は必ずこのフィルムから入門することをおすすめします。
なぜかというと、写真を仕上げるにあたって、プリントという手続きが入らないために、撮影時の調整がそのまま結果に反映されるからです。ですから、失敗も成功も正しく理解できます。というよりも、失敗と思える結果にこそ、次の撮影の楽しみがあるわけですし、意外にも失敗した写真に美しさや楽しさを発見することもあるのです。また、現在のカメラはとても優秀ですから、オートで撮影すれば極端な失敗はせずにすみます。安心して、使ってみてください。
もちろん、このフィルムからもカラープリントを作成できます(ダイレクトプリントという)。もちろん印画紙はリバーサルフィルムと同じような性質を持つものを使用します。ネガフィルムからのプリントに比べるとやや硬調に仕上がり、値段もいくぶん高いようです。
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白黒フィルム、カラーネガフィルム、リバーサルフィルムで、写真が仕上がるまでの基本的な過程を示した。それぞれの流れと特徴を理解してもらいたい。カメラのマークは、撮影やプリントをする人の意識的な判断が要求される箇所である。つまりこれらは誰がやっても同じ結果になるわけではない。要するに、ここにこそ写真作りの上手下手があるわけだ。 ここで示した以外にも、カラーネガから白黒プリントを作成したり、リバーサルフィルムをいったんネガフィルムで撮影し(インターネガという)一般のカラープリントで仕上げる方法などもある。これらに関しては、おいおい説明する。 |
写真ができるまで
光を当てるだけで画像が記録できる不思議な素材。これがフィルムです。しかし、実をいうと、光を当てただけでは人の目に見える画像にはなりません。フィルム上には人の目に見えない形で画像が記録されているのです。これを「潜像(せんぞう)」と呼びます。この潜像は、現像して初めて人の目で見える画像になります。
では、なぜ、光を当て現像するだけで画像が現れるのか? というと大変にややこしい問題で、未だ完全にわからないことも多いのが現状のようです。ただ、どのような感光材料にどのような光を当てれば、どのような画像ができるのかはわかります。ですから原理はさておき、フィルムがどのような性質のものかを理解すれば、思いどおりの写真を誰でも撮影できるのです。
ではまず、フィルムの仕組みをちょっと覗いてみましょう。イラストを見て下さい。フィルムの断面を大きく拡大したものです。それぞれ、プラスチックのようなベースに感光乳剤が極めて薄く塗布されている作りになっています。
白黒フィルムの場合には、光が当たった乳剤だけが、現像することによって黒くなります。カラーフィルムの場合には、青/緑/赤の3原色に感光する乳剤が層を成しています。それぞれの層が単独にそれぞれの光に対して感光し、現像することによってそれぞれの補色に発色します。青の補色は黄色、緑の補色はマゼンタ、赤の補色はシアンです。
さて、前述したように、印画紙もこれらと同様の作りになっています。ですから、フィルム上の画像を印画紙に投影(露光)し、現像することで、正しい明るさや色調のプリントを得ることができるのです。
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現像って何?
撮影済みのフィルムは現像所にお願いすれば、ちゃんと処理され返ってきます。いったい何をやっているのでしょうか?
先にフィルムはインスタント食品に似ているという話をしました。現像も大雑把にいうと、インスタント食品の調理に似ています。単純に言えば、カップラーメンに熱湯を注ぎ3分待つ、といったような操作が現像なのです。
もちろん、カップラーメンほど簡単ではありませんが、何度の現像液に何分浸し、次の薬液に何度で何分浸すといっただけの作業です。別に難しいものではありません。薬液さえ入手すれば、フィルム専用の現像タンクを用いて、自宅で処理することも可能です。もちろん、何度で何分といったことを正確に行わないと、写真の明るさや色調などが大きく変化します。ミニラボなどで見ることのできる大きな現像機は、こうした作業をより正確に、より大量に処理するための機械です。中に魔法使いが入っているわけではありません。
さて、ページ下に白黒フィルム、カラーネガフィルム、リバーサルフィルムの現像工程を簡単に示しました。中にハロゲン化銀という名前がでていますが、これが全ての写真のおおもとです。名前に驚いて、難しいなんて思わないでください。ハロゲン化銀は銀の化合物で、光に当たると目に見えない変化を起こします。そしてこれを現像液に浸すと、面白いことに目に見える黒い粒に変化するのです。化学変化というやつです。
白黒フィルムの場合には、こうしてできた黒い粒によって画像ができます。光が当たらず現像されなかった銀は、定着液によって取り除かれます。カラー写真の場合には、ハロゲン化銀を黒くするために変化した現像液によって、色素(カプラーといいます)が発色することを利用しています。最終的に銀は全て取り除かれ、再利用されます。
とにかく現像というのは理科の実験のような化学変化です。ですから、温度や時間などを正確に処理すれば、誰がどのようにやっても同じ結果が得られます。現像所には上手下手があるといわれますが、現像処理そのものにはまったく違いはありません。特に、フィルム現像に上手下手はないといっていいでしょう。よほど手抜きをしていない限りは。
現像所の上手下手というのは、その多くがプリントの露光時の調整の問題です。前述しましたが、プリントの露光は撮影と同じ。撮影時の露出調整やフィルター操作が難しいのと同じように、プリント時の露出調整やフィルター操作も難しい。難しいというよりは、撮影者と同じでプリントする人の感性だけの問題なのです。良いプリンターとは良い写真家と同等の存在です。写真家は日の当たる場所にいますが、プリンターは闇の中にいます。少しでいいですから、彼らの仕事についても理解を深めたいものです。
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| 簡略化した現像の仕組み 3種類のフィルムの現像処理を簡単にしたものである。全ての工程は化学変化である。それぞれのフィルムと工程の共通点と相違点を見比べてもらいたい。 |
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| 撮影済みのフィルムには画像が現れていない。 | こうした現像タンクによって、自分で現像することもできる。 |




